11
エイラは、カイルと共に太陽の国へ向かっていた。
隣国の大国。
氷の国と違うのは、気候だ。夏が長く、冬は短い。太陽の神の恩恵だ。
地続きなので馬車でも行ける。
国境を越えると、そこはもう太陽の国である。
隣の国でも不思議と雪はなく、風が春のように暖かい。これが太陽の神の恩恵なのであろう。
視察という名の顔合わせだ。
一体どんな相手なのだろうか……
エイラは不安しかない。馬車が停まる。到着したようだ。
そこは王子が住む城である。
大きなヤシの木、南国の葉が揺れている。
大きな噴水は高く水を吹いている。
馬車を降りると、城までの道に兵が並列していた。歓迎してくれているようだ。
「私がご案内いたします」
背の高い兵が案内を申し出た。
「はい。宜しくお願いします」
エイラはお辞儀し、彼に付いていく。
太陽の国、国王と対面する。
日差しが強い気候のおかげか、健康的な肌色で黒髪。たくましい国王がそこにいた。
隣には王妃もいる。こちらも健康的な肌色、髪は銀色だ。目鼻立ちがはっきりした美人である。
「エイラ姫、今回は視察という事。しっかりとこの国を見て行って下さい」
「はい! ありがとうございます」
「馬車の移動は疲れるでしょう? お部屋を用意しております。少し休まれてください」
では、お言葉に甘えて……
「そうさせていただきます。お心遣い、感謝致します」
カイルはドアの外に待機。
「カイルも一緒にお茶しましょ?」
「それはいけません。学園ではないのですから、私は大丈夫です!」
「そう?」
エイラはソファに座ると、大きく息を吐く。
一人でお茶してもつまらないわ……
あ! 今度オーレリアを誘ってお茶会なんてどうかしら? 彼女食べるの好きだし!
一人妄想して楽しんでいると、ノックの音が聞こえた。
「エイラ様、使者の方がおいでです。入ってもよろしいでしょうか?」
カイルの声だ。
「どうぞ」
「失礼します」
カイルと共に入ってきたのは、先程案内してくれた兵だ。
「エイラ様、失礼致します。主人がまだ仕事中でこちらに来ることができず、申し訳ございません」
「いいえ、気になさらないでください。あの、時間があるならお庭を見てもいいでしょうか?」
眼下に広がる庭園は、とても美しく手入れされている。迷路のような物もある。
氷の国はまだ雪が積もっていたのに、ここはポカポカしていて気持ちがいい。外に出たくなった。
「もちろんです。もしよければ、私がお庭をご案内いたします」
兵が顔をあげた。赤い瞳がキラリと光る。
「ありがとうございます。貴方のお名前は?」
兵は少し驚いた顔をした。
「名乗る程のものではございません。さぁ、参りましょう」
エイラと兵、カイルも庭へ出る。
「ちょっといいか?」
カイルが城の従者に呼ばれている。
「姫は私がお守りしますので」
案内の兵がカイルに一礼する。
「ありがとうございます!」
カイルは一礼し、呼ばれた方へ去っていった。
エイラは庭の花を見ている。
「……エイラ様はお花が好きなんですか?」
「えぇ、というか、私のお友達が植物を好きだから、これを見たら喜ぶだろうなって思っていました」
「それはいいですね! よければこの国の花をお土産に持って帰りますか?」
兵が提案する。
「いいんですか? 可能であれば、ぜひ、お願い致します」
エイラの顔が輝く。
「主人に確認してみます。ちょっと荷物が増えますが」
「種があればそれでもいいですよ」
「それならば嵩張らないですね! 種から育てるのは気が長い話ですが?」
「お友達は妖精の国の姫なので、種からすぐに育てられるのですよ」
「それはそれは!」
エイラは誇らしげである。
そんな彼女を見て、兵は微笑んでいた。
城に戻ると、カイルが待っていた。
「帰りですが、馬車ではなく空を飛ぶ船で帰る事になりそうです」
「空を飛ぶ船?」
エイラは聞き直す。
空を飛ぶといえば、龍くらいしか思いつかない。
「はい。最近出来たばかりの船だそうで、他国への移動手段として、これから勧めていくそうです。手始めに隣国へとの事で……」
技術力を見せつける意味もあるのだろう。王族が乗れば宣伝効果もある。
「面白そうね、承知したわ」
エイラは頷く。高い所は得意ではないが、断れるものでもない。
その日は婚約者は結局現れなかった。
国王と王妃と会食し、部屋に戻る。
私がこの国に来たって事実が必要だったのかしら? 顔見せして話が進むのを避けてるのか?
エイラは疑問に思いながら歩いていると、ドアの外に兵が一人立っていた。庭を案内してくれた兵だ。
エイラを待っていたようで、一礼する。
「花の種をご用意しましたので、お持ちしました」
種が入った箱は、綺麗にリボンが付けられている。プレゼントみたいだ。
「まぁ、こんなに可愛く用意してくれたんですね、ありがとうございます」
エイラは受け取るとニッコリ笑った。
「……エイラ様は素直な方ですね」
兵も微笑む。精悍な顔が一気に優しくなる。
と、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃が、エイラを襲う。
「そっ! そうでしょうか……」
「明日は船に乗られるのですよね? 私も同行させていただきます。では、おやすみなさい」
兵は一礼すると去っていく。
「おやすみなさい……」
エイラも一礼して部屋に入る。
心臓を抑える。
どうしたのかしら? 何かの病気じゃないわよね?
なんだか鼓動がおかしい。きっと慣れない土地で疲れたんだわ。早く寝よう。
種を渡した兵は、兵達の宿舎には行かずに、城の上階へと歩いていく。
「ふぅ」
一つの部屋へ入ると、兜を脱いだのだった。
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