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27,二つの魂が出会ったもの


「蓮弥は最初『言いがかりだ』とか『証拠はあるのか!』って喚いていたようなんだけど、警察官が映像を見せたら顔を真っ青にして黙ったらしいの」

「ザマァないわね」

「本当よね。それで……何日か経ってから、弁護士を通して面会の打診があったの」

「はぁ!?あの男、どの面下げて……っ!」


 私は怒りのあまり立ち上がり、優里を見つめる。蓮弥の対応を今の優里にさせるなんてと、申し訳なさが募った。


「面会なんて断ったんでしょう?」

「……ううん、一回だけ会うことにしたの」

「えっ!?」


 蓮弥と会うことにしたと聞いて、私は再び驚いた。

 

「私自身は蓮弥に思い入れもないから。洗いざらい全部言ってやろうと思ったの」

 

 優里の記憶を得たからか、それとも本来の彼女はこれくらい行動的だったのか分からないが、彼女はとてもイキイキしていた。


 蓮弥と面会した優里は、途端に縋るような言葉を浴びせられたそうだ。謝罪や反省ではなく、自分が助かることばかりを考えた蓮弥に、優里は「ふざけないで」と静かな怒りを向けたという。


「私はね、あの時死んだのよ。あの日までの私は、川底に沈んでしまったわ。死ぬ前の私に悪いところなんてなかった。貴方に色々言われて、優しい人になりたいなんて思っていたけれど、気に病む必要なんて一切なかった。そんなの優しさなんかじゃない。貴方は私を、都合よく見て見ぬフリをしてくれる人間にしたかっただけよ」


 優里は蓮弥を前に、入れ替わる前の彼女の日々を思い、怒りで握り締めた拳を震わせた。

 

 その上、かつて彼女がレイーラだった頃、セズデスに従わされていた時の許し難い感情も込み上げてきたのだろう。

 

 優里は、魂が入れ替わったことに対して『死んだ』という言葉を使ったようだった。そう言われて初めて、蓮弥も自分が何をしたのか実感したらしい。


「貴方はあの日、私を殺したの。助けてもらえたから生きているだけで、誰も周りにいなかったら貴方は人殺しだったのよ」

「でも……!」

「それに、私があの日から学校を休んでいても、連絡も謝罪もしてこなかったじゃない。こうして捕まるまで平然と生きていたんでしょう?」


 そうだそうだと私は何度も頷いた。蓮弥はぐうの音も出なかったのか、唇を震わせて黙り込んだという。


「殺人未遂でも傷害罪でも関係ない。貴方は人を殺して、他人の人生と人格を狂わせたの。――絶対に許さないから」


 そうして優里は、淡々とした声色で蓮弥を突き放したそうだ。



 彼の親達も、まさか息子が人を殺しかけたなど信じたくなかったのだろうが、事情聴取の際に、謝罪よりも先に「子供同士の喧嘩か何かでしょう?」と言ったらしい。

 

 現実を突き付けるように、その日間違いなく二人が下校していたという証言やドライブレコーダーの映像があると伝えられた。更に、川の監視のための公的な映像に、押される形で川へと落ちていく優里と、そこから逃げ去る蓮弥が記録された映像を警察官は見せた。

 

 慢性的に浮気をし、それを優里の性格に問題があるからなどと、モラハラめいた言葉で更に傷付けていたことも、全て明かしてもらった。


 蓮弥の両親は全てを聞き終えた後、今後を憂いて泣いたり憤ったりしていたらしい。

 

 それを見た警察官は、「被害者やその家族への謝罪ではなく、保身ばかりだなんて……」と呆れていた。

 

 ランディーニ侯爵夫人と同様に、この親にしてあのクズ男あり――そう言いたくなるような両親だったようだ。


 これから蓮弥とその家族がどうなるのか知ったことではないが、きっと彼らの将来は苦しいものになるだろう。


 蓮弥と浮気をしていた女達や、彼を擁護していた友人達は、手のひらを返したように蓮弥を悪し様に語り、優里を窺うような目で擦り寄ってきた。

 

 しかし優里には、貴族社会という上下関係の厳しい環境で生きてきたレイーラの頃の記憶があるのだ。

 

 家柄で比べられることもなく、従う必要もない同年代の男女が彼女に敵うはずもなく「どうして仲良くしてあげなければいけないの?散々人のことを悪く言っておいて?」と笑顔で言い放ったそうだ。

 

 荒々しく怒っていた昔と比べ、背筋が凍るような冷静かつ冷徹な怒りを向けるようになった優里に、それ以上誰も何も言えなかったらしい。今では静かに学校生活を送れているようだ。




「私の話はこれでおしまい。次は貴女の番よ」

「そうね……。私も実は、クズデスを追い詰めたの」

「……クズデス?」

「あぁ、セズデスのことよ。あんなクズ、クズデスでいいと思って、心の中ではそう呼んでいたの。ぴったりなあだ名でしょ?」


 私がにやりと笑うと、優里は「クズデス……、クズデス……!」と、何度も復唱しながら肩を震わせていた。どうやらお気に召したらしい。

 

「クズデス有責で婚約破棄もしてやったし、これから侯爵様が対処してくださることになっているけれど、廃嫡は免れないでしょうね」

「婚約破棄!?解消でもなく?す、凄いわ……。詳しく聞かせて」


 優里は目を輝かせて聞いてくる。今度は私が入れ替わってから何があったのか伝えることになった。

 

 私が語るたび、優里はセズデスの所業に顔を歪めた。けれど、私の行動力や公爵令息であるフィルミーノ様と縁が出来たあたりからは、ワクワクが隠せていない表情で話を聞き入っていた。


 それが面白くて、つい話が弾んでしまった。

 

(きっとさっきまで、私も同じような顔で話を聞いていたんでしょうね)


「ということは、今日婚約破棄が出来たばかりということ?」

「そうなの。ようやくあの男の鼻っ柱を折ってやったわ!でも……」


 私は言葉を濁し、スッと目を伏せた。何か傷付けられたのかと、優里は「何か言われたの?大丈夫?」と私を案じている。

 

 私は優里の言葉に、ふるふると首を横に振った。


「私、本当は優里でしょ?貴女だって本当はレイーラなのに……。いつまでこうして魂が入れ替わったままなのか、いつ戻されてしまうのか……急に怖くなってしまって」

「なるほど、そういうことね」


 優里は、思いの外あっけらかんとした返事をした。私は同じように悩んでもらえると思っていたせいか、驚いて顔を上げる。


「あの時の私達、どちらも意識を失うような状況だったでしょう?パートナーとの関係が似たような状況で、でも全然違う性格の私達を見た神様が、入れ替えた方が幸せになれるんじゃないかって思って、魂を交換してくださったのかなと解釈していたの」

「……そんな都合のいい話、ある?」

「そうでなければ、こんなこと普通は起きないでしょう?」


 優里にそう言われ、私は渋々頷いた。


「私達の世界に魔法はない。けれど、こうして二つの世界があったということは、漫画やアニメのように他の世界が存在していてもおかしくないと思うの」

「なる、ほど……?」

「そう考えたら、今流行っている漫画やアニメのような異世界転生や異世界転移の物語だって、もしかしたら一部は実話なのかもしれないじゃない?」

「そ、それはそうかも。実際、私達はこうして入れ替わっているものね」


 私は優里の言葉に「確かに」と頷いた。世界がこの二つだけとは限らないし、同じように入れ替わったり転生したりしている人がいるのかもしれない。


「……私もね、もしレイーラに戻されたらどうしようって不安になったこともあったわ。諒一さんとも離れ離れになってしまうし……。けれど、また同じタイミングで意識を失うようなことなんて早々ないでしょうし、それに、今の私は自分を少し好きになれたから、今度はきっと体にしがみついてでも離れたくないって、魂が言うと思うのよ」


 そう言って優里は笑った。過去の彼女からは、こんなにもパワフルな言葉は出てこなかっただろう。

 

 きっとそれを引き出してくれたのは――


「……貴女は、諒一さんが好きなのね」


 私がそう言うと、優里は頬を少し赤らめて満面の笑みを浮かべた。かつての自分だった顔が、見たことのないほど幸せそうに輝いている。

 

 それがどこか感慨深く、私の胸はじんわりと温かくなった。




真っ暗な世界で再会をはたした二人。

かつての自分の姿で、けれどまるで別人のように様変わりした相手と、互いの苦しみや悲しみを分かち合い、見事に断罪してみせた成果を報告し合う。

そんな二人の選ぶ未来は……?


鏡合わせの彼女達の物語が、いよいよ終着点へ向かっていきます!

来週もお楽しみに!


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