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20/32

20,役者は全員揃った


 楽しく充実した週末が過ぎ去り、いつもと変わらない登校日。けれど今日は、馬車を降りた瞬間から視線が突き刺さった。

 

 セズデスが復帰したこと以上に、私がフィルミーノ様に庇われたことや、二人で外出していたことが広まったのだろう。

 

 前髪を分け、顔を出すようになったのも要因の一つかもしれない。もう包帯は取れたというのに、私は再び目立っていた。


「ちょっと、そこの貴女」


 校舎に入った途端、覚えのある甘ったるい臭いが漂った。私は聞かずとも、相手が誰かを理解する。

 

 ――声の主は、デリツィラ。


 フィルミーノ様の婚約者の座を射止めておきながら、セズデスと遊んでいた愚かな女。


 わざわざ取り巻きを連れ、私を待ち伏せていたらしい。


「はい、何か?」


 ゆっくりと瞼を開き、下から視線を据えた。

 

 これまで人形のように言いなりで、一切反論することなどなかったレイーラ。


 以前では想像出来ない声色と視線に驚いたらしい。デリツィラは目を見開いたまま、手にした扇をぎゅっと握り佇んでいる。

 

 あまりにも動かないデリツィラを見て首を傾げてみると、ようやく我に返ったらしい。忌々しそうにこちらを睨み付けてきた。


「あ、貴女、セズデス様から愛されず、いつも袖にされている令嬢でしょう?アルジェント様と噂になっているようだけれど、どういった関係なのかしら」


 デリツィラは私を見下すように、嘲った笑みを浮かべる。


「どういった関係……そうですね。助けていただいたご縁から、何かとお気遣いをいただいておりますわ」


 私がそう答えると、デリツィラは待っていましたと言わんばかりにバサリと手の扇を広げ、大きな声を張り上げた。


「まぁ、やっぱり!たかが肩が当たったなんて些細なことで、アルジェント様を休日まで連れ回したの?」

「やはり噂は本当でしたのね?アルジェント様と貴女のような令嬢が一緒に外出していたというのは」

「なんて図々しいのかしら!それにアルジェント様は、こちらのデリツィラ様の婚約者に決まられたのよ?」


 取り巻き達の声に後押しされたのか、勝ち誇った表情で口の端を上げる。

 

「そうですわ。わたくしの婚約者と二人きりで出かけるだなんて。貴女、どういうつもり?」


 取り巻き達が好き放題に語り、デリツィラも自らフィルミーノ様の婚約者だと明かした。大勢の目がある、こんな場所で。

 

(これは僥倖ね)


 私はニタリと笑みを浮かべた。予想外の表情に、デリツィラや取り巻き達が眉を(ひそ)める。


「そうなのですね。アッバティーニ侯爵令嬢は、フィルミーノ様の婚約者なのですね」

「なっ!?貴女、あの方を名前で!?」

「ご本人から許可をいただきましたので。許可なく名前で呼ぶような無礼はいたしませんよ」


 わざとゆっくりした口調で、丁寧に告げる。その場の空気は大きく変わっていく。


「そういえば、アッバティーニ侯爵令嬢は私の婚約者を“セズデス様”と名前で呼んでいらっしゃいましたよね?それなのに、フィルミーノ様のことは“アルジェント様”と家名でお呼びになるのですね」


 煽るように言うと、デリツィラの頬が真っ赤に染まった。パンッと扇を閉じ、強く握り締めて手を震わせている。

 

 取り巻き達も、私が『フィルミーノ様』と名前で呼ぶとは想定していなかったのだろう。途端に顔色を変え始めた。


「婚約者と二人きりで出かけるなんて……でしたっけ? 誤解を解いておきますと、侍女も連れておりましたので、厳密には二人きりではありません。それに、私の婚約者は私を放っておいて、他の方ばかり連れ歩いていらっしゃいましたけれど?」

「だからなんだと言うの!?」

「私を“愛されない令嬢”と笑っておいて、いざご自身がたった一度その立場になっただけで、そんなに目くじらを立てるなんて……ねぇ?」

「お前……っ!!」


 デリツィラの目が吊り上がる。我慢ならなかったのか、私に向かって扇を振り上げた。咄嗟に腕で顔を庇う。


 そこへ――


「何をしているんですか」


 いつもよりも低い声と共に、私の前に影が落ちる。フィルミーノ様が私を背に庇い、デリツィラの前に立ち塞がった。


「アルジェント様……っ!」

「アッバティーニ侯爵令嬢。今、それで彼女を叩こうとしたのですか?」

「こ、この者がわたくしに生意気なことを言ったのですわ!」

「だからといって手を上げようとするなんて」


 静かな声なのに、空気が冷えていく。フィルミーノ様は振り返り、私の顔を覗き込んだ。


「レイーラ嬢、大丈夫かい?」

「えぇ。フィルミーノ様が庇ってくださいましたから」


 差し出された手に、私は指先をそっと乗せる。

 

 当たり障りない話し方で距離を置かれるデリツィラと、親しげな様子でフィルミーノ様に守られる私。それはまるでヒーローが悪役からヒロインを救うワンシーンのよう。


 デリツィラは今、目の前で何が起こっているのか理解が追い付いていないだろう。


「アルジェント様!何故その女の手を取るのですか?婚約者はこのわたくしのはずですわ!」

「だから何です?婚約者がご令嬢に無体を働こうとしていたんです。それを諌め、その方を庇うのは当然でしょう」


 馬鹿馬鹿しいと首を横に振るフィルミーノ様。取り合ってもらえない雰囲気に癇癪を起こし、デリツィラは甲高い声で叫んだ。


「その女が!わたくしに向かって失礼なことを言ったのですよ!?」

「失礼?失礼も何も、彼女は事実を述べたまででしょう」


 話にならないと溜息を吐きながら、フィルミーノ様は私の方をちらりと見た。

 

「レイーラ嬢には名前で呼ぶことを許しました。それに、最初に彼女を侮辱して笑ったのは貴女でしょう。言い返されたくらいで手を上げるなど……なんて幼稚な」

 

 その言葉で、フィルミーノ様が最初から聞いていたことを察したデリツィラは、もう言葉も出ないのか口をはくはくさせている。


 元々注目を集めていた上に、ここは校舎に入ってすぐの広い廊下だ。多くの令息令嬢が立ち聞きし、ざわめきが膨らんでいく。

 

 そんな人の間を縫って、ついにセズデスが姿を現した。


「俺にも聞かせてくださいますよね?どうして俺の婚約者が、アルジェント様と並んでいるんです?」


 目の下に濃い隈を作り、苛立ちを隠しもせずにフィルミーノ様を睨むセズデス。それに対して、フィルミーノ様は静かに笑った。

 

「えぇ、構いませんよ。……と言いたいところですが、間もなく授業が始まりますから。昼食の時間、食堂でいかがです?今立ち聞きしている方々も、話の続きが気になるでしょう?」


 彼はパフォーマンスでもするように、オーディエンスに手を向けた。令息令嬢達は近い者同士で顔を見合わせている。


「このまま彼女を教室に放り込めば、昼休みになるまでに貴方達が好き勝手に呼び出して、悪さをしないとも限りませんね。私達は昼食まで職員室にいさせていただきましょうか」

「ちょっと!まだ話は終わっていませんわよ……!」

「聞いていなかったのですか?――速やかに、教室に向かいなさい」


 有無を言わせぬ威圧。デリツィラだけでなく、その場にいた誰もが言葉を失う。

 

 けれど次の瞬間には、フィルミーノ様はさっきとは別人のように柔らかく微笑んだ。


「行こうか」

「はい」


 優しい声色で、フィルミーノ様は私をエスコートして歩き出す。望んだ展開ではあるものの、思わずフィルミーノ様に見惚れてしまう。

 

 背を向けた私の髪には、昨日フィルミーノ様からプレゼントされた髪飾りが煌めいている。


(フィルミーノ様が隣にいてくださるのだもの。きっと大丈夫。必ずあの子の――レイーラの汚名を返上してみせるわ)


 私は少しだけ振り返り、その場に残された二人と、見ていた令息令嬢達へ視線を向けた。私の決意と覚悟を知らない彼らは、立ち去る私達の背中を息を呑んで見つめていた。





▶感想への返信について◀


初めてお読みくださった方も、いつもご覧くださっている方も、そしてこれまで感想をくださった皆様も、本当にありがとうございます( .ˬ.)"


プロフィールにも記載しておりますが、当方は

【感想への返信は控えておりますが、全て大切に読ませていただいております!】

「次も楽しみにしています」などのお言葉をいただいた日は、画面の向こうでぴょんぴょんしております(感涙)


感想や返信についての詳細は、活動報告『感想をありがとうございます!』に記載いたしましたので、気になる方はご覧いただけますと幸いです。


予定通り、本日18:10にもう一本更新いたします。

引き続き『入れ替わり令嬢は黙らない。』をお楽しみください!

今後とも宜しくお願いいたします( .ˬ.)"



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