#42.交易都市コーネリア
それから数日、僕達は南下すると城壁らしきものが見えてきた。
「この距離からでも分かるほど大きいな……」
「見えましたね、あれがコーネリアです」
門前で僕達は衛兵に止められる。
「君達は何者かな? 見たところ、年端もいかない子供だらけじゃないか」
「あら? わたくしもそんなに若く見えますぅ〜? キャハッ!」
「失礼、アナタは相応の年齢のようですね。保護者の方ですか?」
「がびーんっ!?」
「あ、いや……これまた失礼いたしました。お若いはお若いですよ、ええ……」
「腑に落ちない言い方ですわねぇ〜……」
「コホンッ……北から来られたということはエルフの方ですか? ごくたまにエルフの方もこの街に立ち寄りますので」
「じとー……まあ、ここで歳の話をしても意味ないので流しましょう。
私はエルフ一族の長、クリスティーナ・フォンブラウン=バーミンガムと申します。彼らは私と共に外の世界を見て学びたいとついてきたのです。
私の身分を明かす証左はこちらになります」
彼女は紙切れを取り出すと衛兵に手渡す。
「これは大変な失礼しました。なにぶん、お若い方と子供達だけで北からやって来るなど思いもしませんでしたので少しばかり疑ってしまいました」
「疑う?」
「ええ、最近はモンスターが活発化している影響か治安が悪化しておりまして。
野盗の引き込み役なども警戒しているのですよ」
「なるほど……確かに北から来るとなると野盗かエルフしかいませんものね。得心いたしました」
「どうぞ、お通りください」
僕達は分厚い壁の門を潜り抜けて街に入った。
無機質で傷だらけな威圧感のある壁の内側に広がる街は想像に反して華やかで賑わいに溢れていた。行き交う人達はみんな笑顔で陽気だ。
不意に聞こえた空を切り裂くような大きな音の出処を仰ぎ見ると、けたたましい音を立てて飛行艇が空の向こうに駆けていった。
「凄い賑わいだね」
「ここはこの国の最重要貿易拠点ですからねー」
「へぇ……」
「海に面しており海運貿易が盛んだったのですが、飛行艇が開発されたことで空輸による貿易で更に発展したんです」
僕はクリスや仲間達にあることを尋ねる。
「そういえば、宿代とか誰か持ってる人はいるの?」
「あっ……」
「やっぱ、持ってないか……ヤバいな……」
僕を含めてみんな持ち合わせがないことに気が付いた。
「いちお、少しの持ち合わせくらいならありますが……この人数で宿泊するとなると一晩くらいしか……」
クリスが申し訳なさそうな表情でコイン数枚を手に取って見せる。考えてみたら村を出る時も村を出てからもお金に絡むようなやり取りが無かったからすっかり失念してしまっていた。
「クリスのおかげでなんとか一晩はやり過ごせそうだな……」
「私達って考えてみたら、そーとー無謀な冒険の仕方してたんだね」
「まあ、普通は野宿なんてしないでしょうし……」
「野垂れ死にしてなくてよかったですね」
「とりあえず、宿を取ろう! なるべく安いとこを探すんだ!」
僕達は雑踏を掻き分けながら宿という宿を歩いて交渉してみる。数時間かけてなんとか持ち合わせのお金で2泊3日させてくれる宿を見つけた。
「これでとりあえず、明日いっぱいまでは何とかなったな……」
条件に少し不安があったがこの際は仕方ない。
「なあ、みんな。一部屋に全員で泊まることになったけど本当に大丈夫だったの?」
「私は問題ありません」
「わ、私もないわよ! ないったらない!」
「私は部屋の隅さえ確保出来れば特には……」
「ロイ様と同じ部屋……うへへ……じゅるり……」
「アナタは何をする気ですっ! ハレンチエルフ!」
「そーよ!! このドスケベエルフ!!」
「きゃああああっ!!?」
やはり一人だけ危険人物が混じっている。危険分子をリコとアナがすかさず袋叩きにした。
「まーたやってら……仲がいいなぁ……」
「同意です。あの人達の仲の良さは異常です……」
夏も終わりに近づき、夕空を鳥達が横切っていく。僕はそれを宿の窓から眺めた。
「ジルは参加しなくていいのか?」
「なんでです?」
「んー、なんとなく?」
「アナタは鋭いのか、鈍感なのか……」
「なんの話?」
「なんでもないです」
バタバタ暴れる女性陣を焦点の合わない目で見ながらため息ひとつ。
「こーいう時って女の子はハシャげていいよな……」
「アナタも混ざってくればよいのでは?」
「冗談はよしてくれよ。僕は明日からのことで頭がいっぱいだよ……どうしたものか……」
「なら、私と二人でドロップアイテムでも換金しに行きます?」
「ああ、少しでも足しになるかもな。行こうか」
僕がそう答えるとジルは後ろを向いて小さく拳を握る。それに気が付いた僕が首を傾げるとジルは慌てて手を振った。
「……ん?」
「あ、いや……なんでもありませんっ!!」
「キャピキャピしてる三人に言ってくるから先に外で待ってて」
「こくこく……」
外に出ると海運都市なだけあって夕方の風は涼しく、あちこちから漂ってくる海鮮の焼ける匂いと潮の香りにどこか異国情緒を感じた。
先に出てたジルの姿が見当たらず、辺りをキョロキョロと見回していると彼は少し遠くからいつもと違う肌を出した涼しそうな服装でやって来る。
「ど、どうでしょうか……?」
「ジル、お前どうしたんだ。その格好……」
「あ、いえ……現地に馴染んだような格好をすれば、ぼったくられたりしないかな?……と……」
「頭いいな! さすがジル!!」
「それで……問題なさそうでしょうか?」
「よく似合ってるじゃないか! 誰がどこから見ても立派な女の子に見えるぞ!!」
「カァァァ……」
「目を引いちゃうな、これは。
もし、ナンパでもされたら僕が撃退してやるよ!」
ずっと女装したかったんだろうな。と思いながら、僕は彼の服装を暖かい目で見やった。
彼は顔を真っ赤にして俯くと体をモジモジとさせる。飾り気のない耳飾りがチリンッと鳴いた。
「あれ? そんな耳飾りしてたっけ?」
「あ、これは……母の形見です。私には似合わないと思って付けたことなかったんですけど、たまには気分を変えて付けてみようかと」
「お母さんも美人だったんだろうな。ジルによく似合ってるよ、その耳飾り」
「はわっ……はわわっ……」
褒められなれてない彼は限界を超えてしまったのか、目を見開いたまま体を硬直させて押し黙ってしまう。白くて滑らかな肩すら赤くして汗をダラダラと流し、どこを見てるのか分からない目線のまま言った。
「デ、デハ……イキマショウカ……」
ジルはぎこちなく歩き出すと慣れない履き物で足を取られてバランスを崩す。
「きゃあっ!?」
「おっと、危ない!」
僕はとっさに彼の腕を掴んで抱きかかえる。
「ひゃああっ!!??」
「大げさだなっ」
「ろろろ、ロイさんっ! はやっ、早く離れて!」
「ん? ああ、ごめん……」
「ごめんなさい、慣れてなくて……ごめんなさい……」
「そんな謝ることないだろ〜」
「うぅ、汗臭くはなかったですか……?」
「全然? そんなの気にするタイプなのか、お前」
僕達はドロップアイテムを引き取ってくれそうな場所を探して聞き込みする。
「おじさん、ここら辺にモンスターのドロップアイテムを買い取ってくれる場所はないかい?」
「お? 兄ちゃん、どエライかわい子ちゃん連れてるねぇ〜……悪いがこの街じゃそんなしみったれた稼業をするより船に乗る方が儲かるからな、知らないね〜」
「かわっ!? かわっ!?」
「そっか、ありがとう!」
「お兄さん、ドロップアイテムを引き取ってくれるようなところ知りませんか?」
「んー、確か西の方にそんなような場所があったような? 交易品を扱う方がお金になるからそういうのを引き取ってくれる場所はあまりないんだよねぇ……その美人なお姉さんと遊ぶのに入り用かい?」
「あぅ……あぅ……」
「まあ、そんなとこですね。西の方に行ってみますよ」
「高く売れるといいね」
「ありがとう、お兄さん」
西の方へ行く道すがら、雑踏の喧騒に紛れて横からブツブツと声が聞こえる。
よくよく耳を済まして聞いてみると、「私が聞き込みをしなくては……」とか「これでは役立たずではありませんか……」とか「少しでも高く売れるようにもっと正々堂々と胸を張って……」とか涙ぐましいことを言っていた。
「ジル、そんなに張り切らなくてもいいんじゃないかなぁ?」
「ダメですっ! 何のために全財産をはたいてこの服装にしたと思ってるんですか!?」
「もっと気楽に考えなよ、大丈夫さ」
「私はアナタのお役に立ちたいのですっ!!」
彼はフンッと鼻を鳴らし、ツカツカと歩き出した。
「あ、あの……すみません〜……ああっ!」
「そこの方、少しお話を……行ってしまいました……」
「お尋ねしたいのですが……うぅ、また……」
ジルは張り切って声を掛けに行ったが、誰にも相手にされず次第にがっくりとうなだれる。
「なぜでしょうか……」
「距離が遠すぎて話しかけられてると思われてないんじゃない? 声も小さいし」
「あれ以上は……しかしっ!!」
「不得意なことはあるさ。無理するなよ、ジル?」
「もう少し頑張ってみます!」
「わかった、見てるから頑張れ!!」
「はいっ!!」
本人のヤル気に反比例して成果が一向に上がらず、見てて本当に辛いがもう少し我慢してみよう。などと、考えながら見ていたら男達がジルに話しかけていた。
「お姉さん、どうしたの〜?」
「あ、あの……お尋ねしたいことがありまして……その……」
「さっきからずっとウロウロしてたけど何か探してるの〜?」
「そ、そうなんですっ! 実はですね!!」
ちょっと怪しげな風体だが、僕はもう少し様子を見ることにした。
「あ〜、なるほどね〜」
「お分かりになるのですか! 助かります!!」
「うんうん、俺達が案内してあげるよ〜」
と言いながら、さりげなく彼の腰に手を回して反対方向の東に向かい始めたところで止めようかどうか悩むと、ジルが僕に目配せをして嬉しそうな顔をするもんだから思わず足が止まる。
「まあ、まだ分からないしな……ホントはあっち方面なのかもしれないし……」
僕が付かず離れずで彼らの後を追いかけてくと、チンピラ達はジルを連れて人通りの少ない路地に入り込む。
「あの〜……」
「ん?」
「ほ、ホントにこっちの方にあるんですか……?」
ジルがそう尋ねると、彼らは足を止めて路地裏の奥にジルを突き飛ばした。
「あ、もうバレたの? まあ、この辺でいっか」
「きゃあっ!? な、なにをするんですか!!?」
「お姉さん、俺達みたいなの信用しちゃ駄目でしょ〜……社会勉強した方がいいよ〜?」
「……だ、騙したのですねっ?」
「お姉さん、チョロすぎぃ〜」
「いやっ……いやぁ……こないでぇえ…………」
これが女の子が襲われてると考えたらとんでもなく危ない状況なんだが、ジルは男だから大丈夫か。とか考えてたらホントに危ない状況になってしまい、僕は慌ててジルに抱きつこうとしたチンピラの襟首を持ち上げて投げ捨てた。
「ごめん、ジル! 大丈夫か!?」
ーーポイッ!
「えっ……?」
「ロイさん〜〜!!」
「悪いな、様子見しすぎたよ」
「いや、いま人が飛んだよな……?」
「ゴミを投げるみたいに軽く投げてたぞ、コイツ……」
「や、やべぇって……」
「もっと早く助けてくださいよぉ〜……」
「ごめん、ジルなら撃退できるなと思ってさ」
「怖かったです、うぅ……ぐすっ……」
「お兄さんのツレだと思わなくて、すみませんでしたっ!!」
男達は投げ飛ばされたチンピラを抱えながら、そそくさと逃げて行った。
「ジル、あんな見るからに怪しいヤツらを信用したらダメだろ?」
「で、でも……悪い人か分からないですし……」
「人気のないところに引き込まれそうになった時点で叫ぶなりしないと」
「気にかけてもらえたのが嬉しくて、つい……」
「純真すぎるぅう!! 天使か、お前は!?」
「それに……」
「ん?」
彼はおずおずと僕の顔を見上げた。
「人を見かけで判断するとしたらロイさんもケダモノですよ?」
「おいコラ!なんで僕だけそういう扱いなんだよ!」
「ふふっ、冗談ですよ。ロイさんが見てくれていたので安心してしまったんですよ」
「それ、理由になってないんじゃないか?」
「ロイさん、守ってくれるって言ってくれたじゃないですか」
彼はくすくす笑いながら僕の手を引いた。
「さあ、デートの続きをしましょう!」
「……ん?」
「あっ……」
「いや、そうだな……ゆっくり探そうか……」
「ごめんなさい、変なこと言ってしまって……」
「まあ、そう考えた方が精神衛生的にはむしろ穏やかになれそうだからね。
気を使ってそう言ってくれたんだろ?」
「ロイさんはホントにズルい人です……むぅ……」
僕達はしばらくして話に聞いていたような雰囲気の店を見つけた。
「ここっぽいな……」
「ええ、ここでしょうね」
街の景観とは不釣り合いな無骨な門構えから中に入ると無愛想そうなおじいさんが座っていた。
「いらっしゃい! なにか用かね?」
「ここってモンスターのドロップアイテムを取り扱ってるって聞いたんですけど、合ってます?」
「ああ、買取りも販売もしてるよ」
「幾つか売りたい物がありまして……」
僕はポーチから皮袋を取り出して机に置く。中身を確認したおじいさんが驚いたように目を見開いた。
「お前さんがこれを……?」
「ええ、仲間と旅をしながら倒したモンスターのドロップアイテムを拾ってたんで。
全部は持ち切れませんでしたが……」
「レオパルドの牙やレオパードの爪まであるじゃないか!? 大人ですら討伐隊を組んで狩るようなレベルの魔物だぞ?!」
「シルバーファングの毛皮もありますけど……」
僕は一際大きなバッグを下ろして中身を取り出す。おじいさんは腰を抜かしながら従業員を呼び付けると仲間を集めて忙しなく鑑定を始めた。
その夜、仲間達の所に戻った僕達は引きつった笑顔で報告をした。
「ロイ、帰ってくるのおそーい!!」
「ジル様と青少年にあるまじきことをなさってたのでは!?」
「アンタは黙りなさいよ、ドスケベエルフ!!」
「てへっ!」
「みんな、落ち着いて聞いてくれ……」
「マスター、どうしたんですか?」
「この街の一等地に家が建てれるくらいお金持ちになっちまった…………」
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原律月ですっっ!!
竜の魔女42話になります!
短編を少しやったら整理する時間が出来て何とか筆が進むようになりました。
ここからしばらく、状況整理などでセリフによるやり取りなどが多めになりますが、いちお喋り方とかでどのキャラが喋ってるかは分かるようにしたつもりです!
分からなかったらごめんなさい!!
それでは、また次回〜 ノシ




