#43.狂騒と輪舞曲
事の顛末はこうだ。
「お前さん、この毛皮の価値は知ってるのか?」
「いえ、まったく?」
「一枚だけでも億は越えるぞ! 固有数の少ないシルバーファングはエンカウントするだけで奇跡に近い上に出会えてもほぼ確実に返り討ちにあってしまうからな……流通してるとこに巡り会うのも一生に一度あるかどうかだというのに、そんなものが複数あるなど有り得ん!! お前さんは一体何者なんじゃ!」
「その辺の田舎村からやってきた村人です」
「お前さんなら世界に八匹いると言われてる固有名を持つ竜種すら倒せるかもしれんな……」
「そんな訳ないじゃないですかぁ、大げさだなぁ」
「とにかく、お前さんが持ち込んだこれらのほとんどが上級貴族や王族の宝物庫に保管される貴重品や調度品にあしらわれる高級品ばかりだぞ!
分かっているのか?」
「普通に出会ったモンスターを倒してただけで今いちピンと来ませんね」
「とにかく、ワシ一人では手に負えんからな。商売仲間や銀行の頭取、ギルド商会の会長も呼んだから彼らと話をして決めなくてはならん! それくらい大きな案件じゃ、ジーマーでバイヤーじゃよ!!
とりあえずお前さん、終わるまでここに残れ」
「えと、すみません。いったん、仲間のとこに事情を説明しに行ってもいいですか?」
「すぐに戻ってこないと、ワシらでみんな捌いちまうぞ! お前さんの取り分はガメちまうからな?」
「ちなみにざっと見積ってどれくらい?」
「この街の一等地に家を建てれるくらいじゃな」
「うへぇ……」
そして、僕とジルはみんなに報告するためにこの宿まで戻ってきたのだった。
「……ということなんだけど、どうする?」
「どうするって?」
「実感がまったく湧かなくてさ……一緒に来るかい?」
「そうですね。とりあえず、マスターからふんだくろうとするようなヤツが居たら片っ端からぶった斬りましょう!!」
「私も精神魔法で騙そうとしてないかチェックする必要があると思うなぁ〜」
「こういう大事の席にはバックに大物が必要でしょう? 私はいちおエルフ族の長ですので、ある意味では王族ですのよ?」
「ハレンチすぎて忘れてたけど確かにぃ!!」
「こんな下品な端女が王族……世も末ですね……」
「アナタ方お二人は時間が経つに連れ、どんどん失礼になっていきますね……」
「王族らしからぬ言動を反省なさっては?」
「ロイにベタベタするからよっ!!」
「ジル以外は似たり寄ったりだろ……」
「はぁあああ!?」
「マスター! なに言ってるんですか!?」
「…………にこっ」
リコとアナが全力否定するとクリスが心なしか悲しそうな顔をする。
「まあ、そんなこと話してる場合じゃなかった。取引屋に戻ろう!!」
おじいさんのとこに戻ると店の前はお祭り騒ぎ状態で人波を掻き分けて何とか店の中に入る。
「やっと戻ってきたか、小僧!」
「とんでもないことになってるじゃないですかっ!」
「とんでもないのはお前さん達じゃよ!!」
「なんなんですか、この人だかりは?」
「珍しい出物を買い求めにきた商人や国宝級の逸品を拝みに来た市民、騒ぎを聞きつけた役人などじゃな〜」
「なんで、そんな冷静なんですか」
「いやぁ、これだけのアイテムが揃えば当然じゃろ? お前さん達も覚悟しといた方が良いぞ?」
「なにを?」
「こんな物を持ち込んだからには、取り調べや事情聴取だけで何日箱詰めにされるか……解放されても今度は金品狙いの強盗紛いのチンピラに付け回されて、ギルドからの勧誘・軍からの要請も来るじゃろうなぁ〜」
「えぇ……めんどくさいなぁ、それは……」
「もしかしたら国王陛下様からの呼び出しすらあるかもしれんぞ?」
「あの、一つ聞きたいことが……」
「なんじゃい?」
僕はおじいさんを手招きして耳打ちをする。
「ここから北にちょっと行った所に幽霊屋敷あったじゃないですか?」
「おー、あるな……何百年も昔から恐ろしい魔物が住み着いてて未だに討伐されてないというヤツじゃな……」
「あそこの主、ゼルリッチっていうんですけど知ってます?」
「この街じゃ有名じゃからな、もちろん知っとるよ。懸賞金までかかってて討伐出来たらここの軍司令すら担保されるとまで言われておるな……まあ、討伐に向かって生きてる帰って来れた者はほとんど居らんと言われておるのぅ……」
「アレ、倒しちゃったんですけどまずかったですかね?」
「……は?」
「サクッと倒せたからそんな大したヤツじゃないかと思ったんですが、いちお聞いてみようかと……」
「お前さん、ホントに何者なんじゃ!!?」
「肩書きは村人です、ホントに……」
「ゼルリッチの件だけは伏せておけ。口外は命取りになるぞ。
入隊拒否をすれば危険分子と見なされて国中から追い回されちまうぞ!」
「そーします。教えてくれてありがとうございます」
どうやら、相当な大事になってしまったらしい。あんなふざけた魔物がそんな大それたヤツだったとは……ーー。
狂騒の中で僕達一行は呆然とそれを眺め、落ち着いた頃にとんでもない金額が書かれた証書を渡された。
「金額があまりにも大きすぎるため、いったんわたくし共の方でお預かりさせていただきます。明日、我が銀行にお越しください」
「はい……」
「その件についてですが、私からお話があります。役人の方や軍部の方、ギルドからの勧誘もこちらを通していただけますでしょうか?」
クリスがそう言うとカッチリとした軍服を身にまとった男性が首を傾げた。
「アナタは?」
「エルフ族が長、クリスティーナ・フォンブラウン=バーミンガムと申します。証左はこちらに」
入口で見た光景の焼き増しみたいなやり取りが行われる。こういう姿を見ると頼りになるのに普段の言動が本当に残念である。
「分かりました。そのような事情であるならば我々も客人としてお迎えさせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「承知しました。
それと、里に早馬を出してください。正式に使者を派遣させていただきます」
「不用意に騒ぎ立てしまい、申し訳ありません。バーミンガム陛下」
「いえ、事の次第を大きくしてしまったのは我々の落ち度です。なにせエルフは世俗に疎いものですから、どうぞご容赦を……」
「滅相もございません! 我々としては、急に降って湧いた話よりもアナタ様が表に出て下さる方が事態の収拾がつくというものです」
「一切の事情、全てをお話いたします」
「護送させていただきます。どうぞこちらへ……お連れの方々は申し訳ありませんが徒歩にてお願いいたします」
クリスを乗せた馬車が走り出すと僕達は兵士に囲まれて街の中を歩き、一際大きな建物に案内された。
「なんか、護送っていうより凶悪犯の連行みたいだね……」
「シーッ!! 聞こえたらどーすんのよぉ!!」
「この程度で何とか出来ると思ってるなら舐められたものですけどね?」
「リコさん、大人しくしといてくださいね?」
「脳筋夫婦はのんきでいいわね! ホント!!」
通された部屋でそんなやり取りをしていると、貫禄のある中年男性が僕達のところへやって来た。
「ロイ・オックスフォード一行、諸君らの身元を明らかにせよ」
「はい、僕とアナスタシア・サウスポートはここより北東に向かったオルガ村より来ました。こっちのジル・ブライトンは同じ北東にあるアルド村の出身です」
「アナスタシア・サウスポート……どこかで聞いたことあるような?」
「私のお師匠様はキース・ラトクリフです」
「オルガ村のラトクリフっ!?
あの"救国の大賢者"キース・ラトクリフか!」
「たぶん、そのラトクリフですね〜」
「その弟子ということは、キミが"神童"……」
「その言われ方は好きではないですね〜。私は素質に恵まれたかもしれませんが、その素質を殺さない為の努力をしてきた自負はあります」
「そうだな、人はそうやって生きているのだな」
「まぁ、お師匠様のご威光ありきなのは認めるとこなんですけどねっ!」
「大賢者がその才能に魅入られ表舞台から姿を消したほどの逸材とあれば、名前が付き纏うのは致し方ないことであろうな」
「え、アナって有名人なの?」
「神聖道教会内でアナさんの存在を知らない人は居ないレベルですよ、マスター」
「神父様がすごい人だってことすら知らなかったくらいだしなぁー」
「私達の村に危ない魔物が一切近寄らない時点でちょーすごい人確定でしょうに!」
「うん、ジルの村を見てびっくりしたくらいだよ」
「さすがロイね……」
僕とアナがやいやい騒いでると中年男性が咳払いをする。
「コホンッ……」
「あ、すみません……」
「君達が年相応な少年少女ということは分かったよ。後は君だね、青い髪の少女……いや、恐らく……」
「お察しの通りです」
「本教会を飛び出して行方不明になり、隣国の公国より捜索依頼が出されてる聖女リコリス・ベルファスト様でよろしいかな?」
僕達は目を丸くしてリコを見やった。
「……はい?!」
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原 律月です。
竜の魔女第43話になります!
ロイ君達がとうとうぶっ飛びパーティだということが発覚してしまいました(笑)
今までTUEEEEを出す機会が無かったので、ちょっと楽しいです。
楽しすぎてセリフだらけです((´∀`*))ヶラヶラ
それでは、また次回〜 ノシ




