#41.幽霊屋敷の主
戦場に散った仲間達の弔いを済ませ、精霊種のことはフリージアに任せて僕達は南へと歩いた。
「本当にクリスは里に残らなくて良かったの?」
「フリージア様がいらっしゃいます。それにいつかは見聞を広める為に少しの間、里は出るつもりでいましたからね。
ロイ様の護衛というのは半分くらい方便ですよ」
「なるほどね」
「それに……」
「ん?」
「兄達に外を見ておけと言われておりましたし」
彼女は憂い気味に目を伏せながら、そう言った。
道中はなんの不便もなく、快適そのものだった。
魔物に出くわしても射程に入る前にクリスが処理してしまうし、射程に入ってもジルが即座に細切れにしてくれるので僕とリコはほとんどただ歩いてるだけだ。
「ジルとクリス、張り切りすぎじゃない?」
「楽なのはいいことです」
「アナも頑張ってるのに楽していいのかな?」
「まあ、格下相手だと近接物理系とパワーファイターってやることないですからねぇ……」
なんて他愛のない会話をしていると、前方にうっすらと建物らしきものが見える。
「ん? なんだあれ?」
「あの建物が見えたということは私達もだいぶ歩いてきましたね〜」
「クリスはなにか知ってるのかい?」
「あれはかつてこの辺一帯を統治してた領主の館ですよ。一族郎党まとめてモンスターに皆殺しにされて廃墟となったらしいですが……今でも主人の一族や従者達があの館の中をさまよってるとかさまよってないとか?」
「え、それって……」
「平たく言って、幽霊屋敷ですねっ!」
クリスが恐ろしいことをニコニコと笑いながら教えてくれる。
「よし、近付くのはやめておこう!」
「神剣クラウスの出番ではありませんか!!」
「いやです、むり……絶対に断る!!」
「ロイ様? もしかして幽霊とか怖いひと?」
「悪いかよっ!! 怖いもんは怖いんだぁ!!」
「原罪と戦乙女だって似たようなものでしょう?」
「アイツらは昼間もウロウロしてるからいいんだよ! ユーレイはな! 夜中に歩き回るんだぞっ!!」
僕が涙目で仲間達に訴えかけると、冷めた目で見られる。
「どーゆー理屈なの? それ?」
「アナ! 夜中にぼんやり光りながら歩くリッチとか見えない暗闇の中でズルズルと引きずる音を立てるリビングデッドとか平気なのか!? 正気じゃないぞ!」
「うん、割と……というか、ロイがビビりすぎじゃない?」
「あんなのトラウマだろ!! 子供の時は一緒にビビってたじゃないかぁ!!!!」
「まあ、お師匠様の話し方は確かに怖かったけどぉー……この歳になってモンスターって分かれば別に?」
「常軌を逸してる……呪われてるぞ、お前……」
「わたし、神聖魔法師なんですがっ!!」
僕は引きずられるようにリコとジルに両脇から抱えられて館に引き込まれる。
「や〜め〜ろ〜、この人でなしぃ〜!!」
「迷える魂を解放できるのはマスターだけですよ!」
「多数決で決まったので、悪しからず……」
コイツら、僕が嫌がる姿を見て喜んでやがる。
「知らないからな! 呪われても知らないぞ!!」
「いい年こいて夜更かしさせたくない大人の話を真に受けてるアンタが変よ、ロイ」
「ああ、それでいつも早寝なんですね。健全で健康的かと思ったらそんな理由があったんですね、マスター」
「神父様も言ってたぞ! 死者を冒涜すると神罰が下るって!!」
「半べそかいてターニャちゃんに泣きついてたもんね、アンタ」
「いやだー、絶対にいやだぁぁあああ!!!!」
「そうこう言ってるうちに門を潜り抜けてしまいましたよ、ロイ様」
「人でなし! 悪魔!! 人の所業じゃない!!」
「んー、特に廃墟ってこと以外は別段なにもありませんね?」
「ひぃ!! ガタガタ……」
「ロイさん、うるさいです……」
「お前達はなにも聞こえないのか!!? めっちゃボソボソ聞こえるぞっ!!」
四人がぎこちなく首をこちらに向けて僕を見る。
「……は?」
すると、みるみるうちに四人の顔が青ざめていった。
「きゃあああああああああああ!!!!??」
「マスター、ごめんなさい! さようならっ!!」
「私はなにも見てない! 見てませんからっ!!」
「ロイ様! どうかご無事でっっ!!!!」
脱兎のごとく逃げ出した鬼畜共に置いていかれた僕は訳が分からずパニックに陥る。
「なんだよ!? 一体なにが見えたんだ!!??」
僕の近くを見えない何かが這いずる音がする。
「ズリ……ズリ……」
音の出処を見ると、真っ赤なインクを浸したモップで撫で回したような跡だけがあった。
「おいおいおい……ウソだろ……」
さっきまで昼間だったはずなのに辺りが薄暗くなり、意味もなく館の窓がカタカタと揺れる。
「アイツら……ほんと……ひでぇえ……」
ーーベチャぁ……。
僕は腰が抜けてその場に座り込むと粘っこい感覚が手に触れ、思わず手のひらを見た。
「ひギャアアアアアああああっ?!?。??」
手には赤黒い何かがべったりと付着しており、もう何がなんだか訳が分からない。
ーーバンッッ!!!!!
館の扉が突然にけたたましく開いた。
「にぎゃあああああああああ!!!!!????」
黒い何かがものすごい速度で走りまわり、幼女のような笑い声が響き渡った。
「キャハハハハハハハハハハハハハ!!」
「なんなんだ……なんなんだよ! これ!!」
「キャキャキャキャキャ……」
「さーて、私は誰でしょう?」
「わぁぁああああああああっっ!!?」
「ぎゃああああああああああ!!!!」
幼女の笑い声に混じって陽気なおじさんの声が聞こえ、思わず絶叫しながら声の方向を振り返る。僕が振り返ると声の主も悲鳴を上げた。
「あっ……あっ……」
僕が声にならない音を漏らすとおじさんは笑った。
「久しぶりのお客様で張り切ってしまいまシたァ!! アナタ、最高のオーディエンスでスネェエ!!」
「な、何者なんだ!! お前はっ!?」
「わたくスぃ、この館のあるずぃっ! 半狂乱のゼルリッチと申しまァすッッ!!!! オホホホホホホホ!!」
「確かに狂ってる……半分てか全部狂ってるよ! アンタ!!!!」
紳士風の衣装に身を包み、道化師風のメイクに目や口から赤い何かを垂らしたゼルリッチは踊り狂いながら人では有り得ない角度のポージングをして自己紹介した。
「では、狂乱のゼルリッチに改名シマァスゥスゥ!! にょほほほほほほほほぉぉおおっ!!?」
「なんだ、このイカレオバケは……」
「オバケではありますぃん! わたしィはリッチの中でも高位の存在ッッ!! プリンス・オブ・リッチぃぃいいいい!!!!」
「もうわかったから! その動きだけはやめてくれぇぇぇえ……!!」
「オホッ! にょほほほほほほぉぉおおっ!!?」
「とにかく幽霊ではないんだな?」
「私は正当なリッチ種! 高貴ぬぁ! 真祖ラマンユ様の配下でありますぬえッッ!!」
「じゃあ、怖くないや……アンタは……」
「がびぃいいいんんっ!!?」
ゼルリッチは目玉を落とすくらい驚きながら倒れ込み、砕けた腰をピクピクとさせた。
「それに、今は昼間だったしなっ!! 幽霊の出る時間じゃないもんなぁ!」
「ゼルっち、大しょおぉっっくぅ!!」
「危うく勢いに騙されるとこだった……」
「アナタ、感覚が変でスゥぬぇ!」
「アンタだけには言われたくない!! サクッと成仏しろぉおおおお!!!!」
「ぎょええええええええええ〜〜〜!!」
僕がクラウスでゼルリッチをたたっ斬ると、ヤツは無念そうに顔をしかめた。
「ああ……最後の相手がこんなのなんてぇ……えぇ……」
ゼルリッチが光の粒子になって空に還ると薄暗かった辺りは明るくなる。
「はぁ……はぁ……騙しやがって! アンデッド種め!!」
僕は毒を吐きながらバクバクする心臓を落ち着かせるように深く呼吸をした。
様子が落ち着くと、仲間達が戻ってくる。
「お前らぁああ!! よくも置き去りにしたなぁ!」
「ごめんなさいっっ!!!!」
四人が声を揃えて謝り、僕はそんな酷薄なヤツらを横目でジロっと睨む。
「ホントに幽霊だったらどうするんだよ!?」
「え? むしろ、幽霊より怖くなかったです?」
「ただのアンデッド種でホントよかった……」
「あんなおぞましい姿をしたモンスターをサクッと成仏させるなんて……ビビりなのか、強心臓なのか……」
「いや、よくよく考えたらまだ昼だからな。
幽霊じゃなかったら怖くないっ!!」
「ロイ、どゆ感覚してるのよ……」
「幽霊は怖いだろ? モンスターは怖くない、普通だろ?」
「さすがですわぁ……」
僕はゼルリッチが落としたピカピカの宝石類をポーチにしまう。
「よし!戦利品も手に入れたし、旅に戻ろう!」
しばらく歩いて不意に振り返ると、その館は跡形もなく無くなっていてポツポツと立つ石のようなものだけが見えた。
ハジメマシテ な コンニチハ。
高原律月です。
竜の魔女41話です!
新章開幕です、変なの出して勢いで逃げ切りました(笑)
それでは、また次回〜 ノシ
追記:執筆に追われててここに記載するのを失念していたのですが、夏ということで怪談っぽいものをやりたかったんです。ホラーが苦手なのでただのコメディになってしまいました(笑)




