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#40.ジル、お前ってやつは……


「ロイ様、戦死者の数が分かりました」


 戦いを終えたクリスは戦死者の数を確認するため、数日を掛けて各部隊の点呼をとっていた。


「3427名の誇り高き戦士達の名です……」


 クリスが差し出した名簿に目を通しながら僕は深いため息を吐いた。


「おおよそ三分の二か……そんなにも……クソッ!」

「そうやって目を通して惜しんで下さるだけでも浮かばれるでしょう。

 みな、分かっていたことです……生きた者と死んでしまった者の差など天運以外はありませんよ」

「欺瞞だよ。死んでしまえば、どんなに綺麗に取り繕っても帰ってきやしないんだから……」

「それは違います。死なせてしまったことを後悔なさるくらいなら、生きてる私達が意味を持たせてあげられる努力をすることこそが肝要です。

 ……それこそ欺瞞ですよ、ロイ様?」

「クリス、君の言ってる意味が分からないな。

 そいつは合理的すぎるよ」

「アナタはその手を汚すことを選んだ。仲間を死地に向かわせた。その眼はもう、曇ってはいないのでしょう?」

「それでもやっぱり決断には後悔するさ。

 やりようは他にもあったんじゃないか? 被害を減らせたんじゃないか?

 そういう後悔は尽きることなかったよ……」

「のどかな村で暮らしていた少年ロイと大局を見てしまった英雄ロイ、その狭間が今のアナタです。

 これからもその原点を忘れてはいけませんよ?

 後悔に飲まれてしまえば押し潰されますよ。

 アナタに咎められてしまった私のように……」

「今の僕だったらキミのことは何も責められないな」

「ですから、後悔ではなく次の未来のために歩いてください。

 死んでしまった彼らの名を刻むべきはアナタではありません、残された我々です。

 私の言いたいことは今のアナタならば理解出来るハズです」

「いや……分からないよ、クリス。

 アナタの言うことは僕には難しすぎる……」


 僕は彼女が何を言わんとしてるか、半分は分かっても半分は分かりたくなかった。

 深く腰掛けて重い息を吐き出しながら空を見た。


「どうか、優しさを誤らないでください」

「甘いかい?」

「いいえ。むしろ、合理的なのは私よりアナタかもしれませんね……」

「そんなの、僕自身が一番痛感してるよ……」

「その優しさを自身にもっと分け与えてもよいのではないでしょうか?」

「そんなことが出来たら今悩んでると思うかい?」

「そうですね……」


 そんな答えの出ない会話をしていると、リコがやって来る。


「ククルカンを討ち倒し、精霊種は過去から開放された。結果、アナタは他の誰にも出来ない偉業を成し遂げた。

 それでいいじゃないですか、マスター?」

「そんな簡単な話じゃないだろ」

「罪を背負えば、行く先は煉獄ですよ?」

「そう言われたって……」

「それがアナタの良さではありますが……今回は省みるべきことではありません」

「そうだね、そうするよ」

「ロイ様、そちらの紙は写しになります」


 クリスは何を言わけでもなく、唐突にそれだけを言った。僕はその言葉を聞いて名簿を青い炎で焼いた。

 焦げ臭い煙の匂いにインクの焼ける匂いが混じって、何故だか無性に泣きたくなる。

 その涙を堪え、目を伏せて黙祷した。


「ふぅ……」


 灰が風に流れていく。

 見えなくなるまで見送って僕は詰まった息を出した。


「ロイ様、これからどうなさるのです?」

「目的は決まってないけど、当初予定してた南の街コーネリアに向かおうと思ってる」

「なるほど。あそこは海に面しており、海産物が美味しいと聞き及んでおります。

 楽しみですねぇ〜……じゅるり……」


 クリスはヨダレを垂らしながら相槌を打つ。


「え? キミもついてくるのかい!?」

「もちのろんですよ! ロイ様に悪い虫が付かないよう私がお守りしますっ!!

 アナタを誑かそうとしてる女狐がおります! 私は絶対についていきますよっ! ふんすっ!!」


 クリスが僕の腕に抱き着くと、横からすごい殺気が流れてくる。僕はその殺気の出処から顔を逸らすように受け答えた。


「はは……それは誰のことだろう……?」

「邪悪な女狐でございます。ロイ様に悪影響を及ぼします!! お守りすることはもはや責務です!」

「それはアナタでしょう? このハレンチエルフがっ……!!

 その無駄に大きくて下品な乳を私のロイから離してください。彼が迷惑してるでしょう?」

「あら? アナタもやれば良いのでは?

 意気地がないのを品がないという言葉で誤魔化すのは負け犬の遠吠えでしてよ?

 まあ、アナタがやっても無意味な気はしますけどね……無個性な大きさですし?」

「負け犬はアナタでしょうが? 能もなくデカいのぶら下げてるだけのクセして……品性下劣なドスケベエルフ!」

「アナタみたいなのを下品というのですよ、竜の魔女。根は粗暴なクセしてお上品を気取り殿方を誑かすような行いは悪女のすることです!

 私は真正面から正々堂々です! 自分の武器を使って真っ向から勝負しているのですっ!!」

「クリスティーナ、アナタは早死にしたいようですね? 今すぐ離れるか、首と胴体が離れるか……どちらか選びなさい……」

「化けの皮が剥がれましたね! そのように暴力で訴えかけるなど育ちを疑いますわ!」

「人の男にちょっかいをかけておいて言うセリフじゃないでしょう!」

「私は妾でも二番手でも構いませんもの! 成り上がるだけです!!」

「遺言はそれでいいんですね……?」


 リコがレーヴァテインに手を掛けると、黄色い影が風のような速さでリコの横を通り過ぎた。


「……えいっ!」


 ーーむにっ……。


 僕達が呆気に取られていると、影が顔を真っ赤にしてキッとこちらを見た。


「ど……どうよ? ろろ、ロイっ!!

 私だって大きさにはそこそこの自信があるのよっ!」

「アナ、落ち着け。どうと聞かれても困るんだよ」

「わ、私は最初から一番手狙いよっ! ロイの横は私しか有り得ないんだから!!」

「お前はなにと張り合ってるんだ……」

「私が1番なの! 天才神聖魔法師は一番なのよ!」

「まったく意味が分からない」

「とにかく、私が負けるワケにはいかないわ!!」


 アナは変なとこでムキになる節があるから会話を聞いて、また暴走をしてしまったのだろうか……ややこしいのが増えて僕は頭を抱えた。


「大きさはクリスさんの方が上かもしれないわ! だけどハリと弾力は私の方が上でしょ? ……でしょ!」

「アナ、キミはいったい何と戦っているんだ?」

「この戦いは負けられないのよっ!!」

「ちなみに意図せずしてクリスの心を抉ってる自覚はあるのかい?」


 ハリと弾力というワードを聞いてクリスが絶句したまま、固まってしまった。「若さという武器を使うなど禁じ手ですわ……」などと謎の言葉を口にする。

 すると、どこからか現れたジルも無言で僕の頭に抱き着いてきた。


「む……」


 お前に至っては、ないだろ……なんのアピールだよ……と思いながらリコを見やった。


「……ロイ、アナタは何を考えているのですか?」

「え、これ僕が悪いのっ!?」

「元凶はアナタでしょう!!」

「僕は何もしてないけどぉ!!?」

「無自覚で口説いて歩いてるんですか、アナタは!」

「口説いたことなんてないわぁ!!」

「まとめて叩き斬ります……もう堪忍袋の緒が切れましたよ……」


 リコが涙目でレーヴァテインを振り上げると、僕に張り付く三人が言葉で応戦する。


「野蛮ですー! 粗暴ですぅー!」

「斬るなら斬りなさいよ! 死なば諸共よっ!!」

「ぬくぬく……」


 一人は別に応戦もしてなかった。ジル、お前ってやつは……。


「私だって……私だって! 素直に抱きつけるならとっくにやってるんですよっ!!

 それをホイホイとアナタ達は! 許せませんっ!」


 リコが肩を震わせ、フーフーと荒い息を吐きながら踏み込んだ。


「……へ?」


 僕は三人を引き剥がして荒ぶるリコを抱きとめる。


「リコ、ハグしたいなら言ってくれればいいのに……」

「へぁ!? こ、これはなんか違いますっ!!

 私からしたいんです!!」


 バタバタと僕の体の中で暴れる彼女の目を見ながら僕は首を傾げた。


「そういうものなの?」

「そうです! これは違いますっ!!

 反則ですよ、こういうのは!」

「どっちからでもいい気がするんだけど?」

「この朴念仁!! 鈍感ゴリラっ!」


 彼女は僕を振りほどき、訳の分からない言葉を発しながら闇に消えた。


「あーあ、これはロイが悪いね。なんで無自覚にそーゆーことしちゃうかなぁ〜?」

「ですね。女タラシも無自覚だと災害ですね」

「さすがロイ様。一筋縄ではいきませんね……はぁ……」


 何故か僕が責められる。


「……なにがいけなかったんですかね?」


 三人が怪訝な目をして僕を睨んだ。


「一から百、全部よ……」

「三つ子の魂百まで……」

「天然由来のタラシ……」


「そんなにひどいの!?」


 三人は声を揃えて頷く。


「「いいからさっさと追いかけなさいっ!!」」


 僕は闇夜に消えた恥ずかしがり屋の魔女さんを追いかけて走った。


ハジメマシテ な コンニチハ!

高原律月です。


竜の魔女40話が出来ました。

これにて、第一部は完結です。そのまま、第二部突入ですけど(笑)

30話からノンストップで書き続けて1週間ちょいでここまでは形にしてました。

そこから続きの執筆と見直しやら誤字チェックやらセリフ回しの確認やらで体力ガリガリ減りますね((´∀`*))ヶラヶラ


なろう連載にするとシームレスに発表されるので、文章校正が一番大変かもしれないです。アラが多いのはお目こぼしをお願いします!


ここまでで補足を付け足しますと、原罪化するのは英雄として生を終えて人々に祀られることで原罪化するという設定があります。

負の側面のみが取り残される形になるので大体は倫理とかぶっ壊れてたりします(笑)

負の側面が残る理由としては、強大すぎる力に対する畏れなどが原因になること・人の習性として本能的に忌避すべき事象の方が脳にインプットされやすく人々の願いや祈りを依り代にして再構築される際にマイナスの象徴化します。

ククルカンの場合だと、圧倒的武力を持っていたがゆえにピンチの際は英雄視されていたけれど脅威が去ることでククルカン自体が人類にとって危険分子と見なされた成れの果て……といった感じですね。

元々が王だった為、よりその面が強調されております。歴史を少し紐解く形になるのですが、歴史上の指導者は強大であればあるほど、一部の例外を除いて基本的には悪者扱いされるのに近いですね〜。

負の側面が強くなる方がその後の流れを正当化しやすくなることや都合がいいという部分と人として欠陥がある方が自分達にとって心安らげるからではないかと推測しています。この辺を物語上に散りばめてたりしますね、あくまで個人的な観点として(前作でも発揮されてます)

次に原罪はそのまま原罪です。ここについては、いわゆる七つの大罪的なイメージの方が分かりやすいかと思います。人の欲望は人類の進化におけるマストアイテムであると同時に、本来の核の部分は純真な願いによって生まれると私個人としては考えています。

利己的なものが絡んで黒ずみのような層が形成されていくと欲になっていくのであり、本来は悪ではないのではないかな?と、たかーらは思います。


この物語はそんな視点を内包してたりもするので、見る場面や視点で見え方が変わる部分もあると思います。これを言及するとちょっと宜しくないのでしませんが(笑)


ロイ君は特殊事情により、英雄としての側面と原罪としての側面を同時に持ち合わせた存在として8番目の原罪「慈愛」を持ち合わせております←物語上でそゆ話を出せよ(笑)ってやつですね


今の所でメインストーリーに絡んでる原罪は察しが付くと思いますが、ファフニールは「怒り」ククルカンは「強欲」ティアマトは「色欲」の象徴という設定があります。


あと、説明必須なことは"ミスラの福音"がありますね!

神話系が好きな人はピンと来たかもですが、ミスラは英雄神であり「契約」という意味です。

紐解くと、英雄が眷属として認めた者に自身の力を行使する権限を与える契約になります。祝福された対象は英雄並みの力を行使出来るようになりますが、必要なものとして金属・宝石・英雄の体の一部・契約者の血になります。

リコさんはそれを知ってて、イザという時の保険で耳飾りを作成してアナに持たせたということですね。ロイ君と契約して同期させることでアナさんも一時的に概念化するので死を回避させることが出来たって感じです。

概念化してるロイ君だからこそ成り立ったって感じですね!

立証させるのにアラがないか心配でしたが、伏線はチラホラ入れといたのでここは破綻はないと思います。ククルカン側の人語を話すケモノ達はククルカンの眷属ということですね。

会話無し戦闘はひたすら辛いので、こっちは逃げ口上的な部分で使わせてもらってます。最終盤まではククルカンさんはキメラちっくなガルルしか言わない魔物で行くつもりだったんですが、一話終了の可能性となんで敵対するのか?とかを掘り下げるのが不可能だったので獣の中にポツンとククルカンさんとダフネちゃん二人だけが混じってるとかいう不可不思議な状態になってしまいました(笑)

名も忘れられた古の英雄が獣達の王として現世に降臨!的な勢いデス……。


最後に原罪の討伐仕様ですが、英雄の炎で焼き切って穢れを浄化するかロイ君専用スーパー大切断ブレードのクラウスでぶった斬ると死にます(笑)

クラウスは仕様上、ぶん回してるとチート武器すぎるので苦肉の策としてアグニールがメイン武器になりました。何でも切れるってホント全部解決しちゃうから困る(笑)

アグニール+炎はどうなん?については、炎は指定を対象して効果を発揮するのが基本なのでロイ君みたいにぶん回してる最中に炎で焼き切るぜ!みたいなのは、あくまでアグニールの剣先で焼き切る目的なので延焼させて無敵ヒャッハー!!は回避しております。させたら、こっちもタダのチート野郎ですね((´∀`*))ヶラヶラ

ちなみに、原罪で使う炎と英雄として使う炎は仕様が微妙に違うという設定も盛り込まれてたりします。

ファフニールの炎は憎悪や怒り(マイナス面の怒り)で勢いが増すとなってますが英雄仕様だと義憤で燃え上がる仕様です。

ククルカンは対象から憎まれるほど燃えさかる仕様ですが英雄仕様だと対象がククルカンを脅威と認定して排除しようとすればするほど強力になる仕様ですね。

ティアマトは原罪化しながら精神力で英雄の側面を自力で保ってたので炎の仕様は変わらず、対象は因果や事象・物質問わず焼く炎になります。傷とか燃やして治癒するみたいな使い方も出来ますし、普通に攻撃手段としても使えます。天羽羽矢は矢に炎を込めてうち放ち、空中で炎を拡散させて殲滅させる技になります。針状に降り注ぐのは炎として捉えるより、英雄の力として降り注いでいると考えてもらえたら……これはちょっと苦しいかもしれない(笑)


ここまで設定の深掘りは終わりにしたいと思います。


それでは、また次回〜 ノシ

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