#34.王のつがい
クラウスがダフネを袈裟懸けに斬り裂き、彼女は大の字で床に倒れて空を見上げた。
「あーあ、また負けちまったよ……くそっ……」
彼女は憑き物の取れたような顔で悪態ついた。
「なんでだろ、最後くらいは勝ちたかったのにな……私はまたマスターを置いて先に行かなくちゃいけないんだ。
もうこれがホントの最後、マスターとも一生のお別れなんだね……」
「なあ、ダフネ。お前達はなんで戦うんだ?」
「決まってんじゃん、マスターが戦うって決めたから私も付いてきただけ。ずっと昔からそうしてきた……ただ、それだけだよ。
好きな人の傍に居たいって気持ちに理由があると思う?」
「たくさんの人を殺してきてまでしたかったことなのか?」
「うっせぇよ、雑草……マスターを獣の王にしたのはお前達だ。マスターはなにも悪くない、分かったような口をきくんじゃねーよ……」
彼女の目が少しずつ閉じていく。
夕暮れの柔らかい光が少女のほほを優しく染める。
「ばいばい、マスター。
ごめんなさい……」
ダフネの体から力が抜けていくのが分かった。
だらんと転がった少女の体はそんなに間を置かず綿毛のような光の粒になり、風に乗って西へと運ばれていった。
「バカな子です、ほんと……だから私はあんな男と付き合うなと言ったのに……」
「リコ……」
「あーいう風にしか生きれないんですよ。
不器用で真っ直ぐな子だったから……お疲れ様です、ダフネ……ゆっくり休んでください……」
リコの悼むような表情は印象的に焼き付いた。
少しの時だけ目を伏せていた彼女は僕を見つめると、僕に問いかける。
「マスター、アナタはまだクラウスを振るうことが出来るのですか? 先ほど斬ることを躊躇していたでしょう?」
「ダフネの死に様を見て覚悟が決まったよ。
だからこそ……僕はもう、迷わない!!」
「でしたらけっこうです」
「ダフネにはダフネの正義があって驚いたし、それに気圧されたのも本当だよ。
それでも僕はみんなを守ることを選ぶよ!」
「でしたら、私もアナタを全力で支えます」
勝ったはずなのに実感が湧かない……むしろまた、ダフネに負けたような気さえする。
僕は西の空を見て、ぼんやりと思いふけた。
戦いの余韻が冷めた頃、ひび割れた桃色の石が綺麗な傷だらけの指輪に僕の指先が触れる。いつぞやの時のように記憶が溢れた。
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「マスター。私は貴方の剣となり、全てを討ち払ってみせましょう!」
「ああ、ダフネ。共に世界を導こう」
玉座に座る偉丈夫が鷹揚に返事をした。視界が不明瞭ではっきりとした姿は見えないが、恐らくククルカンだろう。
「王よ、我らも共に!!」
その場にいた男達もかしづき、そう言った。
「頼むぞ、我が友たちよ……ティアマトを討ったいま、残すは最初の原罪、真祖ラマンユのみよ!
この戦に終止符を打ち、我らの安息を取り戻そうではないかっ!!」
「はっっ!!!」
配下の男達が下がり、男は一人になる。
男の筋骨隆々な上半身に刻まれた紋様は厳しく、紋様の中心にある獅子をかたどった紋章が揺れるかがり火に照らされていた。
「マスター、よろしかったのですか?」
「なにがだ、ダフネ?」
「ティアマトを斬った時の貴方の手は震えていましたよ?」
「愚問だな……民衆と一人の女、天秤などにかけるのは凡愚のすることだ。俺は迷うことなく民を選ぶ。
情を持ってしまった俺の不手際よ、もう忘れたわ」
「そう、ですか……」
「不服そうだな? 余計な詮索はよせ!!
お前も斬るぞ、ダフネっ!!」
男に近づき、彼の頭をそっと胸に寄せる。打ち震える手は爪が食い込むほどに握られ、赤い色をした涙が床に落ちた。
「マスター、私は貴方の傍にいます……いつまでも……例え、世界の涯てが戦禍で焼ける荒野だとしても……」
「勝手にしろ、お前とはそういう運命だ」
ーー歯車はかりかりと音を立てて、時が進む。
「はぁ……はぁ……」
大男は金色の髪を血で染めて、肩でする息を押さえつけるように浅く間隔の速い息を吐き出している。
背中に拡がる刻印は先ほど見たものよりも禍々しく、まるで呪詛のように這っていた。
「愚か者どもめ……」
吐き捨てるように彼は空を仰いだ。
「マスター……」
足元に転がる死体の山中に、友と呼んでいた彼らの骸もあった。
「莫迦どもがっ……!!!!」
彼はそれ以上の言葉を出せず、言いかけの言葉を噛み砕いて飲み込む。
死体の山を躊躇なく踏み進めて彼は言った。
「なにをしている? お前はついてくるのだろう?」
「うん、マスターっ!!」
男に駆け寄り、その背を眺めて火の中を歩いた。
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僕は指輪を握りしめて懐にしまった。
「くそったれだな……毎度……」
この力が見せてくれるのはロクなもんじゃない。そう、心の中で毒を吐く。
「ククルカンを止められるのはマスター……アナタしかいません。理に選ばれた、因果を断ち切る力を持つアナタにしか出来ないことなのです」
リコは僕が見た記憶に残る最後の願いを言葉にするかのように言った。
ククルカンを煉獄から解放して欲しい……ダフネはソレを言いたくて、けれど選んだ道を彼と歩むと決めた彼女は自分の覚悟に揺らぐことなく逝った。
だから、指輪は見せた。
ケモノに落ちるククルカンを止められなかった後悔を僕に託したんだ。
「どいつもこいつも凄すぎるんだよ。覚悟の質が違いすぎる……きっと、ククルカンも強いんだろうなぁ……」
あの背中に戦慄した自分の気持ちを隠すことなく吐き出す。
「彼もまた歴史が生み落とした大英雄ですからね」
日が暮れかけた空は濃い青と汚い赤とが入り交じり、僕のぐちゃぐちゃになった心情を表すかのよう暮れていった。
ハジメマシテ な コンニチハฅ(*°ㅁ°*ฅ)
高原 律月です!
竜の魔女34話になります!
ククルカンとダフネの話、短すぎたようなそんなことないような……そんな感じですね(笑)
いちお、ロイ君はもっと長く記憶を見てます。←つまりたかーらに文字を書く気力がなかった()
ダフネちゃんロス……(´・ω・`)
そんなこんなで!どんな?
それでは、また次回〜 ノシ




