#35.開戦前夜
僕達はエルフの里を出て西に進軍を開始した。
「クリス。ククルカンの居城までどれくらい?」
「早ければ三日とかからないでしょう。
ですが、ダフネを討ち取ったいまククルカンも進軍している可能性が高いです。
陣形を整えながら向かうが最善と考えます。どこでヤツらとかち合うか分かりません」
「そうだね。よし、行軍を止めよう。
まだ日は落ち切ってないが、早めにみんなの体を休めよう。
僕達はどの辺でかち合うか、軍議したい。各長に通達してくれ!」
「仰せのままに……」
「それと、斥候に長けた者を何人か呼び寄せてくれ。ククルカンの進軍を確認したら策がある。
ヤツらは進軍するなら待ち受けるのではなく行軍を選ぶだろうから、僕達は逆に待ち受けて仕掛けるぞ」
「根拠は?」
「獣を統率して進軍するのは難しいだろう……それにヤツらはダフネを失っている。
数に利がある向こうは勇み足になっているはずだ、仇を取らんと一気呵成に仕掛けてくる!!
僕ならそうする。それが根拠さ」
「では、そのように」
進軍を止めるとほどなくして、野営の準備をする音が忙しなく聞こえる。
「よく来てくれた、みんな」
薄暗い平原に一際大きな陣営地を作ると数十人の配下が集まる。パチパチと爆ぜる火種の音はかがり火から聴こえ、光魔法でその明かりを増幅させて煌々とさせた。
「諸君らの所感を聞く前に俺から考えた意見を述べさせてくれ」
先ほどクリスティーナと話した内容を再度伝える。
「我々も王の意見に賛同します」
皆は一様にうなづいた。
「クリス、こちらの兵力は?」
「およそ五千……向こうは十倍はいるとみて、まず間違えないでしょう……」
「そうか……厳しい戦いになるな……」
「今さら分かり切ったことです。臆する者などおりません!」
「覚悟しなくちゃな。この中に夜目の効く種族はいるか?」
「はっ!!」
バンシィの長が受け答える。
「ここから北北東よりヤツらの奇襲部隊が仕掛けてくるハズだ、迎撃しろ! 君達の力を存分に見せつけてやってくれ!!
ジル、炎魔神の加護があるお前なら視力ブーストで夜目が利くだろ? 暴れてこい!!!!」
「ロイさん、根拠は?」
「キミの村だよ。アイツらは北西地点から君達の村を襲ってきていた。大掛かりな拠点がその方角にあるとみて間違えないだろう……正確に算出してる時間はない! 指揮は頼んだぞ、ジル!!」
「すぐに向かいます!!」
ジルは踵を返してバンシィと共に闇夜に紛れていった。
「アナ。君の知恵が必要だ、協力してくれ!」
「いいけど〜……なにするの?」
僕がクリスティーナに目配せをすると、彼女はこの近辺の地図を僕達が囲む中心に広げた。
「まず、進軍前から話はしていたが……ククルカンの居城はこの方角で間違えないかな?」
僕が鞘に収まるクラウスで線を引くと、クリスティーナは黙って首を縦に振る。
「ここに門を閉じるように丘が二つある。その手前は岩山だ……ここを決戦地に据えたいと考えている」
「ふむふむ?」
「前線部隊を丘の近郊に配置して、まずは両側の丘の上を制圧する……ククルカンが丘の上を構わず進軍したらここは囲まれて全滅だろうね。
だが、ヤツらは獣だ。通りやすい真ん中を突っ切ってくる! 僕はそう睨んでる……どうかな、アナ?」
「ん〜、筋は外してないんじゃないかな? けど、敵の数を考えると丘の幅を遥かに超える規模で横列になって進軍してきそうだけど?」
「なるほどな……なら、ヤツらは真ん中を突っ切ってこない。二部隊に別れて左右から挟撃してくると僕は考えるけど、そっちはどう?」
「そうだね、そう思う。ククルカン本隊は真ん中を悠々と来そうだけどね……力の差を見せつけるように……罠などがあっても真正面から押し潰すつもりで来るんじゃないかな?」
「なるほど。聞いているククルカン本人の戦闘能力とククルカン本隊の強さを考えれば、有り得るな」
「そこは武人としては見せつけたいところだろうねぇ〜。俺はお前らより遙か上の強者だ〜的な?
実際問題さ、こっちはいつも力押しの武力突破で最終的に壊滅させられているんでしょー?」
アナがクリスティーナをチラ見すると、彼女は申し訳なさそうに頷いた。
「ええ……情けない話ですが、我々が幾ら策を講じようとククルカン本隊の圧倒的な武力の前に我々は敗走してきました。
敵に背を向け、命からがら逃げ果せるのがやっと……というのが現実ですね」
「だってさ、どーすんの? ロイ?」
「ククルカンという男が見えた気がするよ」
僕は確認を取るように精霊達に尋ねた。
「今まで待ち伏せや伏兵による奇襲などを仕掛けたことは?」
「幾度となく試してみましたが、いっこうに歯が立ちませんでした。
ククルカン自体も弓矢でハリネズミにしようがお構い無しで進軍し続けますし、本隊の戦闘力は群を抜いております。
孤立した部隊が全滅するまで彼らは止まりません!
奇襲隊を見殺しにするだけです!!」
「そうか、ならやっぱり丘の上に兵を配置しよう」
「同胞をヤツらのエサにするというのですか?」
「いや、丘の上の隊は彼らを素通りさせてくれればいい!」
「それはどういう……?」
一同は次の言葉を待つように身を乗り出して僕を見た。
「前提条件が二つある。
一つはキミたちが本当に僕達を信頼出来るか。
二つ目は朝早くか夕暮れ時、太陽に角度がある時間……なおかつ、それなりに湿度が高く無風かどうかが生命線だ。雨や曇り、風があればこの戦に勝ち目はない。
そんな神頼みに同胞の命を賭けられるかどうかの覚悟を聞きたい!!」
僕が睥睨するように眼差し達を見返すと、彼らは固い唾を飲み込んで小さく首を縦に振った。
「作戦の概要を説明する。よく聞いてくれ!
別働隊である丘の上の部隊は敵が進軍してきても、味方が押されても絶対に動かないでくれ。時が来るまでひたすら耐え忍ぶ必要がある。
僕達、本隊は足場が悪く死角の多い岩山で敵を撹乱しながら引き付ける!」
「そこまでは普通の作戦ですね……」
「岩落とし、影からの袋叩き、崖からの弓矢の掃射……魔法攻めのなんでもござれで岩山地帯を死守しよう!!」
「あ〜、なるほどね〜」
「さすがアナ。分かったか」
「それ、ロイの体もつの?」
「もたせるさ。リコから加護の権能は印さえ付ければ指定してポイントで展開できるって聞いた。後は僕が根性入れて加護をもたせればいいだけさ」
「敵味方を混戦させて物理防御を敷いてからの、別働隊の一斉掃射による殲滅作戦ってことね……しんどそ……アハハハハ!!」
「これは二、三日間による電撃作戦だっ!! この好機を逃したら僕達に勝ち目はないぞ! 団結力の強さをヤツらに見せつけてやれ!!
敵が知らない手札をありったけ切るんだ!!!!」
僕が号令をかけると陣内は騒然とする。
「フリージアは前線や負傷兵を神聖魔法で流動的に補助する部隊の指揮官に任命する。部隊編成もキミに任せた。
残りの兵は戦闘担当・サポート・牽制の体制で一つの単位として部隊を作ってくれ。そっちも君達同士の方がよくお互いを分かってるだろう、小隊ごとの人数もバランスを取りながら決めてくれ!」
「はい、すぐに取り掛かります!」
フリージアが各種族長達を引き連れて部隊編成に取り掛かる。
「リコ! キミは一番忙しいぞ!!
今から各人を回って加護を付与してくれ!」
「承知しました、マスターッ!!」
リコは力強く返事をすると、ノームやエルフなどの魔法式に詳しい種族に声をかけて回る。
「ロイ、私は?」
アナが不安げに問いかけた。
「アナ、キミは下がっててくれ。危険だ、巻き込むワケにはいかない……」
「イヤよ! 私だって戦える!!」
「キミはただの女の子だろう。もう二度と危険な目に遭わせたくないんだ!」
彼女の目がカッと開くと、細くて薄い白磁のような手が勢いよく僕のほほを引っぱたいた。
ーーベシンッッ!!
僕が彼女を見やると、アナは目尻に涙を滲ませながら僕を見据えた。
「バカにしてっ!! アンタ、なんも分かってないのよ!
私はアンタと一緒に行くって決めた時から女なんてとっくにやめてんのよ!! 私の覚悟を勝手に踏みにじるな、このエセ優男!!!!」
「死ぬかもしれないんだぞ? 勝てる可能性すらほとんどない戦いなんだぞ?」
「ダフネの言葉をアンタはなにも分かっちゃいない! 死ぬより大事なものだってあるのよ!!」
彼女の耳飾りが静かに振れる。青い瞳に映るかがり火が力強く揺らいでいた。
「アナ……」
「私は!!!! アナタと共についていく!!」
「ごめん、そうだね。そうだったよ、アナは僕よりずっと色々を考えてるもんな。
アナがこうって決めて出来なかったことなんてなかったもんな!」
「そうよ!! 勝てるかどうか分からないなんて言わせないわ、私がアンタを勝たせる!
もう負けないって言ったのはアンタじゃないっ!!」
「弱気になってたみたいだ。覚悟は出来てるか、アナ?」
「しつこいのよ! スットコドッコイ!!」
「キミには敵わないな、ホント……」
僕が彼女を見つめると彼女は黙って頷いた。
「アナ、キミは僕の近くにいて欲しい。僕が勝てるように僕を支えてくれ」
「最初からそうしなさいよ! そこが一番大事でしょーがッ!!」
「一人でククルカンに勝とうと思ったのが間違いだったな、ありがとう」
最後になったクリスティーナに僕は言った。
「キミがこの軍の副官だ。なんなら本当の総大将はキミだよ、クリス」
「なにをおっしゃいますか! 王はアナタです!!」
「人を動かしたのはキミだろ? 僕は担がれただけさ、分かってる」
「それでも私の心臓はアナタの為にあるのです」
クリスティーナはかしづき、膝を立てて頭を伏す。
「これで最後だ、クリス。キミはまた仲間を見殺しにしてくれ、どんなに戦況が傾いても耐えてくれ」
「アナタが望むのなら……」
「弓に長けた者で部隊を編成してくれ。数はあまり割けない、言いたいことは分かってるね」
「この神霊弓アメノワカコユミに誓って、必ずや成し遂げてみせます!!」
「星を堕とす矢はキミの手の中に委ねよう……」
ダフネの記憶が見せてくれた力の受け渡しを再現するように、僕は彼女のバングルに銀の指輪を当てがった。
「この力はティアマト様の……?」
「ああ! キミじゃなきゃ扱えない!
やって見せろよ、空を裂く流星!!」
雨過天晴の万鐘は鳴り響いた――……。
ハジメマシテなコンニチハ!
高原律月です!
竜の魔女35話です。
いよいよ、ククルカン戦に突入しました!
基本的な視点がロイ君メインなのでちょっと不足気味なとこもあるかもしれませんが、次話からノンストップでバトルしまくりです。
執筆は戦闘終了まで行ったのですが、ただいま燃え尽き症候群なうであります(*>ᴗ・*)ゞよーそろー
それでは、また次回〜 ノシ




