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#32.戴冠


「出なさい、ロイ・オックスフォード……」


 扉の開く音がして僕は反射的に首を動かす。久しぶりに見たクリスティーナさんの顔は見て分かるほどにやつれていた。


「久しぶりですね、クリスティーナさん……」


 僕が笑いかけると、彼女は僕の言葉に返事をすることもなく、ただ立っていた。少し間を置いて彼女が事務的な口調でこう言った。


「アナタの審議が終わりました」

「そうですか……それで答えは?」

「みなで出した結論です、アナタを釈放します。この数日間の拷問に耐え、理性を保つことが出来たということは暴走することはないだろう……というのがわたくし達の見解です」

「納得してもらえたならよかったです……」

「いまだ、疑う者もおります。あの力を解放した時に聞こえた渦巻く怨嗟の声はそれほどまでに畏れを抱くものだったということです」

「自覚はしてます。だからこそ甘んじてこの拷問を受けたんですから……僕も本当に乗り越えられるか、そこは賭けでした」

「……恨みはしないのですか?」

「途中、ちょっと恨みましたよ。やり過ぎだろと思いました……まあ……途中っていうか、初日から酷かったですけどね」


 クリスティーナさんは途端に顔を崩すと、ポロポロと涙を落として僕を抱き締めた。


「よくぞ、よくぞ耐えて下さいました。アナタが作ってくださった時間のおかげでみなを説得することが出来ました。アナタは本当に立派な英雄です」

「い、痛いです……体中がヒリヒリするんです……」

「ごめんなさい!」


 彼女は慌てて僕から離れた。


「私がアナタを抱きしめていい立場じゃないことは重々承知しております。本当に申し訳ありませんでした」

「クリスティーナさんならなんとかしてくれるって思ってましたよ、ホントです」

「ロイ様……」

「分かってますよ。説得するのは大変だったでしょう?」


 長として、彼女には守らねばならぬ義務があり、またそれに苛まれることがどれほど辛いことかは当人にしか推し量る術はないのだろう。


「どっちが辛かったかなんて、比べられるものじゃないでしょう?」

「ありがとう、ございます……」

「ははっ……胸を揉む元気も出ないや……せっかく抱き着かれたのになぁ……」

「くすっ……」


 彼女は慎ましく笑い、涙を拭った。


「これからは、いつでもいくらでも揉んでください」

「そうさせてください」


 部屋を出て枷を外してもらい、クリスティーナさんに連れられて大広間に案内される。


「すぐにでも休んでいただきたいのですが、いましばらくお付き合いください」


 そこにいた仲間達もやっぱりやつれた顔だった。


「ロイ、待ってましたよ!」

「ロイ〜! うわーん!!」

「ロイさん、おかえりなさい……」


 僕はアナに神聖魔法で治癒してもらう。


「こんなん、やり過ぎだよ! ロイがなにをしたって言うのさっ!!」

「申し訳ありません……」

「加減ってものをしなさいよっ! まったく!!」


 むくれた幼なじみがクリスティーナさんを睨みながら、恨み言をぶつける。


「ロイさん、お身体は大丈夫ですか?」

「ああ、アナのおかげで今はピンピンしてるよ!」

「ご無事でなによりでした」


 ジルは辿たどしく僕の体に触れて労わっていると、いても立ってもいられないといった様子で僕に抱きついた。


「……ロイっ!!」

「リコ、苦しい……強く締めすぎ……」

「私は……私は……」

「また心配させちゃったね、ごめん」

「もう離したくありません!」

「ああ、僕も離れたくない」


 リコが僕を思いっきりに抱きしめると、僕も応えるように強く抱き返した。自然と彼女の口元に僕の口元を重ねる。


「かぁー、まーたやってるよ!」

「まあまあ。今回ばかりは仕方ないでしょう?」

「やはり胸で攻めるしかなさそうですわね……」


 ボロボロになった衣服を新調してもらい外に出ると、大勢の精霊種が僕達を見上げる。緑の戦乙女とその隣に立つ美しい女性が僕の姿を認めると膝をついて頭を下げた。


「はじめまして、英雄ロイ。わたくしはティアマトでございます。

 アナタが英雄として目覚める日を心待ちにしておりました」

「はじめまして、ティアマトさん」

「我が子達を一同に集めました。正式にアナタ様の戴冠式を執り行いたいと思います。

 見事、ファフニールの力を受け継ぎましたね。彼の力を暴走させることもなく、数日に及ぶ拷問を乗り越えたアナタならばきっと私の力も使いこなせるはずです」

「本当にいいんですか、僕なんかで?」

「アナタしか居ませんよ、我らが王よ……次は私がアナタに託す番です……」


 ティアマトさんが立ち上がりクリスティーナさんに目配せをする。彼女は深く頷いて一歩前に出る。


「聞きなさい、皆の者!! これより、我らが王ロイ様の戴冠式を執り行います! 賛同する者は拍手をっ!!」


 クリスティーナさんの声が響き渡り、少し遅れて万雷の拍手が僕達の耳をつんざいた。彼女が手を上げると拍手が止む。


「皆々様が周知の通り、この世界はいま危機に瀕しております! 原罪達が旗を掲げ、魑魅魍魎が跋扈し、幾数の同胞達は散りました。

 我らの母ティアマト様は嘆き、私達もまた……家族の死に……別れに、枯れるほどの涙を流しました。

 この争いになんの意味があるのか、この世界で私達は手を取り合って笑うことが再び出来るのだろうか、子供達に未来はあるのか……それぞれが哀しみを糧に己を奮い立たせてきたことでしょう。

 この暗く塞がれた世界で絶望する日々はもう終わりにしましょう!!

 私達は今日、今をもって神殺しの英雄! 最後の原罪ロイ・オックスフォード様を王として、立ち上がる時が来たのですっ!!!!!」


 静まり返る広場にとつとつと拍手が鳴り始めると、やがてそれは大きな喝采となって吹き上げる熱が僕達を煽った。


「訝しがる者がいることは分かります。

 所詮は人間、所詮は他種族……私達、各種族長もそう思います。同胞の屍を踏み台にして他種族の者を王に据えるなど誇りを踏みにじるのではないか……この数日間、我々は寝食を惜しんで議論を重ねました。

 私達が議論を重ねる中、彼は歯を食いしばり拷問に耐え、あまつさえ笑ってみせたのです!

 そんな彼を見て、私達は思いました。

 子供達の未来を託すのに種族の誇りや他種族との諍いなど持ち出している場合ではないのではないか?

 自分達のカビ臭い矜恃の為に子供達を犠牲にしてよいのか?

 先日の強く禍々しい魔力は彼から溢れ出たものです。感じた人は多いでしょう、世界に渦巻く恨み・恐れ・欲望・怒り……彼はその声を背負い、戦っているのです!!

 常にそれらと向き合い、平常心を保ち続ける戦士を英雄と言わず、なんと呼ぶのでしょうか?

 他種族だからと排斥するのは、戦士のすることなのですか! 我々は戦士です!! 日々を生きる戦士として彼を認めるべきなのですっ!!」


 彼女の叫びにある者は涙を零し、ある者は家族と抱き合い、みなが一様に彼女の言葉に耳を傾ける。


 彼女は大きく息を吸い込んで大音声を発した。


「エルフ族一同、貴方様に心臓を捧げますっ!!」


 クリスティーナさんはこちらに向き直り、膝をついてかしづく。他の種族がそれに続いた。


「我ら、バンシィ! 貴方様の元に!!」

「我ら、ウンディーネ!! ロイ様の身許に!」

「我ら、ノーム! 貴方様と共に!」

「我ら、シルフ! ロイ様の足となりましょう!」

「我ら、セイレーン! 身命を賭し戦います!」

「我ら、アルラウネ! 御旗のもとに!!」


 数十もの種族達の宣誓が僕の肚に響き、その重さに足が竦み体が震える。仲間達を見やると彼女達は深く頷いて僕を見据えた。

 そんな眼差しに背中を押された僕は自然と背筋を伸ばす。最後にティアマトさんが僕の頭に冠を載せると後ろを向いて祈るように座した。


「大聖母ティアマト、ロイ様と共にこの世界の行く末を見守りましょう……」


 フリージアが固く口を結ぶとティアマトが声をかけた。


「フリージア、アナタとの長い年月はとても愉しかったですよ。今までわたくしをたくさん楽しませてくれてありがとう……」

「ティ、ティアマト様ぁ……私のマスター……」


 その言葉を聞いた彼女はボロボロと泣き崩れて声を上げた。ティアマトさんはただ黙って、組んだ指を強く握りしめた。


「さあ、ロイ……わたくしを断ち切りなさい……」


 なぜこんなことをしなくてはいけないのか、分かってはいても体が動かない。


「なにをしているのですか、王は二人もいりません!」

「ですが……」

「情など必要ないのです、その為にわたくしはアナタに会うのを避けていたのだから……」

「どうしても、ですか?」

「世界を救うのでしょう? 我が子達を導くのでしょう? さあ、早く! お切りなさい!!」

「わかりました」

「それでよいのです。ククルカンを止めてあげてくださいね、英雄……」


 僕はカタカタと震えるクラウスを振り上げた。


「私はアナタの中に還ります。

 先に向こう側でお待ちしておりますね……英雄ロイ・オックスフォード……」


 神剣が彼女の背中を斬り裂いて、ティアマトは糸の切れた人形のようにその場に伏せる。ほどなくして彼女の体が解けていくと光は僕の中に混ざっていった。


「我らが王! 英雄ロイ・オックスフォード!! ティアマト様の御子よ!!!!」


 クリスティーナさんをはじめ、精霊達が泣き崩れながら僕を祝福した。

ハジメマシテ な コンニチハっ!!

高原 律月です。


竜の魔女32話になります。

原罪の一人、ティアマト姉さんの登場です!

そして退場です(´;ω;`)

こういう物語にはあるあるですね、意味深で出演を引っ張ったと思ったら出演して即退場みたいな(笑)


色々な部分でまだ絡んできますが、ギャラ(出すと引っ込めるのが困難になるのと話の筋を作るのが大変)が高いので出演はNGですε-(`・ω・´)フンッ


次話もハードに展開していきますよ!

ここからククルカン戦が終わるまでノンストップですよ!!⟵ククルカン戦に突入するまでかなり先です(笑)


それでは、また次回〜 ノシ





ネタバレしたくて仕方ない!そんな高原律月でしたー!!



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