18-B -氷牙の殺し屋-
そうして歓迎パーティーで盛り上がり、すっかり夜になって暗くなり解散となった。バサラ、レイ、ディアナ、ブラック、ムト、サツキは蒼の館へ戻った。ディアナは花の屋敷に泊まりたいという提案をしたが、朝起こされるのが早いと聞いて蒼の館に戻ることにした。
颯紗「本当にいいの…?」
奈樹「えぇ、颯紗が一人で住みたいって思うまで私の家に泊まっていって」
颯紗「ありがとう…」
家が同じ方向の蒼輝と奈樹、奈樹の家に泊まることになった颯紗。そして見送りで後ろから一緒に歩く刹那と月花。
刹那「月花様も刹那のお家来る?」
月花「さ…流石に女の子の家に泊めてもらうのは…。それにもう少し島を見て回りたいから」
刹那「そっかぁ…刹那は眠たいから奈樹様を見送ったら帰るね。いつでもお家来ていいよお!」
話をしていると奈樹の家に到着した。奈樹と、小さく欠伸をして眠そうにしている颯紗が振り返った。
奈樹「それでは、おやすみなさい」
颯紗「おやすみなさい…」
蒼輝「俺も帰るかな。そんじゃ、おやすみー」
そうしてそれぞれが家へ帰っていった。刹那とも別れて月花は一人、夜空にぼんやりと浮かぶ月を眺めながら丘を登っていく。丘の上に一本ある木へと歩いて行く。
月花「………」
木の前で立ち止まる。見渡しても他に誰も居ない。
月花「何か用ですか?」
気配のする木の上に向かって話しかける。少し待つと、声を掛けた相手が姿を見せた。
風魔「よく気付くね。移動した直後じゃなきゃ結構バレないんだけどなぁ」
木の上で座っている状態で風魔が姿を現した。
月花「昼間から俺を監視していたのは貴方ですか?」
風魔「それもお見通しかい? まぁ余所者が来たら警戒もするってものさ」
座っていた状態から木の枝を軸に後ろにクルリと回ってから着地する。
風魔「それがイーバからだってんなら尚更ね」
月花「……」
風魔「目的次第では放っておけないんだよね」
月花「俺は…なにもする気はありませんよ」
風魔「金雀児 奈樹を殺すつもりで来たのに?」
月花はビクッとした。思わずポケットの封筒が落ちていないかを手で確認する。ある。常にコートの中に入れていた。抜き取られれば気付くはずだった。
風魔「図星だったみたいだね。適当なこと言えば当たるもんだね。イーバから来たなら、ほぼほぼそれが目的だろうと思ったけど」
月花「っ…」
してやられた。こんな古典的な手に引っかかってしまった。しかし焦ってはいなかった。なぜなら…。
月花「俺はギルドでイーバに雇われてこの島にやってきました。ここに来るまで指定された対象を知らなかった。その何も知らない状態で接したからこそ、今の俺にはわかります。
奈樹ちゃんは殺されるべきではないと」
風魔「それはどうかな?」
月花「えっ…?」
風魔「彼女が本当に生きていていい存在か…それは本人も解っていないはずさ。イーバが金雀児 奈樹を殺して回収しようとしているのが、再び兵器として扱うためか…それともこの世界に存在していてはならないからなのか…」
月花「もしイーバの考えが正しいのだとしても…俺はイーバに刃向かうつもりですよ。この島に居て理解したんです。この島を守るべきだって。それは…貴方も同じ考えなんじゃないですか?」
風魔「……」
マフラーの先端をコネコネしている。その様子は、まるで短時間で何百、何千通りものパターンを想定、思考しているかのように見えた。
風魔「わかった。月花、君のことは信じるとしますかね。もう監視する真似はしない」
月花「俺は…貴方のことはあまり信用できてませんよ」
風魔「結構結構。俺もそう簡単に自身の正体を明かすつもりはないんでね」
月花はやりにくさを感じていた。しかしそれは風魔の思惑通りにしか過ぎなかった。
風魔「それじゃね。近々イーバからの侵攻があると思うから。その時に判断させてもらうよ」
月花「…侵攻…? どういうことです?」
風魔「簡単さ。ギルドから派遣してまで月花を送り込んできた。それはつまり、まだ準備ができていないということ。いずれ時が満ちればE兵器を使ってでも侵攻してくるさ」
月花「……」
風魔「頑張ってね。戦いに参加するであろう刹那ちゃんをしっかり守ってあげないとね」
立ち去ろうと歩き出す風魔。月花はその背中に向かって話しかけた。
月花「どうしてそんな他人事のように言うんですか? この島の危機なのにまるで自分には関係無いかのように…」
風魔「……それは…いずれわかるかもね」
強い一陣の風が吹くと、風魔は姿を消していた。月花は空に浮かぶ月を見た。
月花「全ては…月と花の導きのままに…」
イーバ内部
薄暗くディスプレイの明かりしか灯っていない部屋。そこへイーバ幹部のエビルが血相を変えて入って来た。
エビル「おい…ダーク! どういうことだ!」
ダーク「吾輩のことはD.D、もしくはDr.ダークと…」
エビル「そんなことはどうでもいい! 何故、次回の侵攻役が僕じゃない!?」
ダーク「それは仕方ないこと…それは彼の要望カナ…」
エビル「彼…?」
部屋をよく見ると二人の男と一人の少年が居た。その中の紅い仮面に紅いマントをした男がエビルの前に立つ。
エビル「マッド…!」
ダーク「彼はしばらく前にイーバ幹部になったばかり…その力の調整と、実力を示す意味でもいい機会カナ…」
マッド「悪いが…ここは我に任せてもらおう…」
仮面から発せられた声は僅かに機械音となっており、肉声ではないことが判別できた。
エビル「チッ…そういうことなら今回は譲ってやる…。その後ろの二人はなんだ?」
ダーク「彼はギルドの雇われの身。先日雇った者が失敗した場合の保険。または…寝返っていた場合の殺し屋」
スペースサングラスをした男が歯を見せて笑いながら座っている。隣にはバンダナをした少年が立っていた。
ダーク「彼の名は刃塚 氷牙。生まれ持って氷の咎力を使用でき、地上ではギャングとして様々な悪行を果たした。そして今回はギルドに雇われた殺し屋として…ノスタルジアへ送り込む」
氷牙「ヘヘッ…そういう依頼なら俺っちに任せときな。ガッツリと仕留めてやるぜ。だろ? シアン」
そう言われて隣の少年が言った。
シアン「おうともよ! 自分はいつでも親分の力になるともよ!」
エビル「…大丈夫なのか? コイツら…」
ダーク「彼らの役目は以前雇った者が寝返っていた場合の対処…。そうでなければ適度に戦ってもらう程度でいいカナ…ククク…」
氷牙「ソイツだけじゃなく、どいつも片付けてやってもいいぜ。だろ? シアン」
シアン「おうともよ! 親分!」
ダーク「出発は二日後…それまでゆっくり休むといいカナ…」
氷牙とシアンは部屋の外へ出ていく。エビルは睨むようにマッドを見ている。
マッド「……」
エビル「チッ…」
マッドから漂う並々ならぬ力強さを感じ取っていたエビル。イライラした様子を見せながら部屋を出て歩いて行った。
そして…瞬く間に、二日が経過した…。




