14-C -無垢と漆黒-
ルクスの村で一頭の黒豹に導かれて一軒の家に到着した蒼輝達。中には柩に入った少女。しかし少女は死んでいた訳ではなかった。驚かされた奈樹は失神してしまったが、しばらくして目を覚まして落ち着くことができた。
包帯の少女「一生懸命ビックリさせようと思ってたけど、ここまでビックリしちゃうって思わなかった!」
奈樹「うん…大丈夫…驚いただけだから」
包帯の少女「あーよかったー、これでポックリ逝れてたら取り返しつかないことになっちゃう」
蒼輝「それはそうと…この君は誰? なんで包帯? この黒豹は? ここに呼んだ用は?」
包帯の少女「質問多くない!? 多いよね!?」
奈樹「じゃあ名前から…教えてもらえる?」
包帯の少女「私の名前はディアナ。こっちの友達はブラック。ブラックの名前は私が勝手にそう呼んでるだけなんだけどね」
バサラ「ディアナの姫か、よろしくな。そっちの豹も…」
黒豹のブラックはディアナの隣で座ったまま、金色の瞳でバサラを視た。皆はディアナとブラックに自己紹介した。
蒼輝「えーっと…じゃあ次の質問。なんで包帯してんの?」
ディアナは包帯をせっせと解きながら言った。金髪の髪が徐々に露わ(あらわ)になっていく。
ディアナ「えっと…ミイラみたいな格好してみたかったから」
蒼輝はズッコケた。白い包帯を全て取り終えた中から出てきたのは醜く変貌したミイラでもなく、隠す必要性の無いようなレベルの美少女だった。年齢は10にもなっていないであろう幼さがあるものの、ただの人間とは思えない煌びやかさと神秘性を感じた。
奈樹「包帯して…怪我とかしてないの?」
ディアナ「ないよ? してないよ?」
「………」
その返答に、しばらく沈黙が続いた。静寂に耐え切れずディアナが立ち上がった。
ディアナ「色んな格好するのが好きなの。他にもいっぱい衣装あるんだから! 見る? 見てみる?」
返事を待たずに立ち上がり、棚においてあった収納札の一つから衣装を取り出す。中から出てきたのはバニー服に網タイツとウサギの耳のカチューシャ。
奈樹「……」
マテリア「か…過激です…」
奈樹とマテリアが顔を真っ赤にした。
ディアナ「着る? 着てみる? サイズ違うのあるよ?」
蒼輝とバサラはその姿を想像したのか、顔を赤くした。奈樹とマテリアは顔を赤くしたまま断った。
ディアナ「ザンネン。けど可愛いでしょ? でしょー? ウサギさんだよ!
カチューシャをはめて、バニー服を両手で持ち、自分の身体に重ねるようにして持つ。
ディアナ「ウサギさんはね、月に棲んでるんだって。ロマンチックだよね~。私も一生懸命ウサギさんの格好したら月に行けそうな気がする! だからこの服が一番好き!」
ディアナはニッコリ笑いながら、ふざけたことは一切言っていないといった感じで語った。風魔がこの場に居たなら『夢物語』と言ってしまうような話をしている。
蒼輝「じ…じゃあ次の質問…その黒豹は?」
ディアナ「友達! 友達だよ!」
蒼輝「友達?」
蒼輝は思わず復唱した。
ディアナ「私が生まれた時から、ずっ……………っと一緒にいる友達。イーバに居た時から一緒」
その思い掛けない『イーバ』という単語に一同は飛び上がりそうになる。
奈樹「イーバ…!?」
勾玉「居た時…とはどういうことだ?」
ディアナ「脱走してきたの。私はE生物のディアナ」
皆がゴクリと息を呑んだ。そんな心情も気に留めず、ディアナは言葉を続けた。
ディアナ「なんか知らないけど…私がイーバに居たくないっていつも言ってたら、ブラックが脱走させてくれたの。きっと私の望みを叶えてくれたんだと思う。それからこの村でずっと一緒」
奈樹「…ディアナさん…最後の質問をさせて下さい。ブラックを使って私達を招いたのは理由は?」
ディアナ「招いた?」
勾玉「俺達は確かにブラックに連れられて、この家へ来た。ディアナが頼んだのではないのか?」
ディアナ「知らないよ? 私は暇していてミイラの真似して遊んでたら、ブラックが皆を連れてきただけ。人を連れて中に来るなんて初めてで驚いちゃった。だからその分、こっちもビックリさせちゃおうと思って…エヘヘ」
そう言いつつ照れながら頭を掻いた。
奈樹「…!」
奈樹は狐につままれたような顔をして、訴えるように蒼輝を見て言った。
奈樹「ねぇ…これ…偶然…?」
蒼輝「えっ…?」
蒼輝は不思議そうな顔をして奈樹を見た。他の皆も奈樹を見ていた。ブラックは座ったまま、まるで守護者のようにディアナの隣にいる。
奈樹「私とマテリアの危機をブラックは救ってくれた。ブラックに連れられてここへ来た。ブラックは今まで家に人を入れたことはなかった。この家にはE生物のディアナさんがいた…。これは…偶然の出来事なのかしら…?」
マテリア「言われてみればおかしいです…。まるで私達がどういった者か判断した上で助けてくれて…」
バサラ「ピッタリとくっついて護るように居る黒豹が部外者を家に連れ込んだ…
」
勾玉「まるでディアナと俺達を出逢わせるかのように…」
蒼輝「運命…ってやつなのかな」
ディアナはポカーンと皆を見ている。ブラックはただ静かに蒼輝達を視ていた。
奈樹「……」
黙ったままブラックを見つめた。ブラックも奈樹の瞳を視た。まるで話をしているかのように、二人の世界に浸っていた。そして、奈樹が皆に提案した。
奈樹「ディアナさんも…ノスタルジアへ連れて行きませんか? きっとブラックが私達をここへ導いたのは、私達がどういった者かを見抜いて…ディアナさんをこの村から連れ出して欲しかったからだと思います」
皆はすぐには返事しなかった。しかし、すでに同じ想いを共有していたのかも知れない。他の物が奈樹に言葉を返す前に、ディアナが質問した。
ディアナ「ノスタルジア?」
勾玉「俺達はこの大陸の者ではない。ノスタルジアという遠くの島に住んでいる」
マテリア「自然がいっぱいの島です。少なくともこの村より住み心地がいいですよ」
奈樹「問題は…イーバ…」
ディアナを連れ帰ったとして…イーバがノスタルジアへ刺客を送り込んできたら、今以上に危険に晒してしまうかも知れない。それが気がかりだった。
ディアナ「行く!」
大きな声を出して、飛ぶようにして立ち上がった。
ディアナ「ずっと待ってた…! 私一人じゃダメだった…! ブラックに護ってもらうだけで一人じゃ何もできなくって…。けど誰かと一緒だったら…私も変われる気がする…! もうここで怯えてるだけなんて嫌なの!」
さっきまで明るい振る舞いだったディアナから想像できないほどの、悲痛と言える心からの訴え。よほど自身のことで悩んできたのか、その大きく幼い瞳には少し涙が溜まっており、泣きそうになっている。その様子を静かにブラックは視ている。
蒼輝「行こう」
蒼輝は立ち上がり、ディアナに手を差し伸べた。ディアナは蒼輝の顔を見上げて目を合わせた。
ディアナ「うん…!」
ディアナはニッコリ笑って手を繋いだ。ブラックはディアナに触れた蒼輝に対して警戒する素振りすら見せず、喜ぶディアナの後ろ姿を見守っていた。
マテリア「不安はいらないです。これで私達はお友達です」
勾玉「また暑苦しくなりそうだな…」
マテリアは柔らかく微笑み、勾玉はフッと笑った。
バサラ「ディアナの姫もオレと同じで新メンバーってことだな」
奈樹「イーバからの刺客は…私達が守る」
ディアナ「ありがとう! あっ! ブラックも連れて行ってもいい? いいよね?」
蒼輝「当然だろ? ディアナとブラックは二人で一人…、いや、一人と一匹で一人…? ん…?」
バサラ「頭だけ動物の、豹人間かな?」
蒼輝「じゃあ、一人と一匹で一匹!」
バサラ「それだと人面豹かな?」
奈樹「そこは気にしなくていいから…」
ディアナ「エヘヘ…。ミンナ、ありがとうね!」
皆にお礼を言い、しゃがみ込んだディアナは満面の笑みでブラックの背を撫でた。
蒼輝「ところで…ブラックって噛んだりするのか?」
ディアナ「ううん、私を護ってくれる時以外は絶対に人に攻撃しようとしないよ。だからダイジョーブ!」
蒼輝「おーい、ホレホレ」
奈樹「私も…」
蒼輝と奈樹は撫でようと手を出してみる。ブラックはその様子を見たが、ゆっくり歩いてディアナの後ろに回った。
勾玉「どうやら主人一筋のようだな」
ディアナ「一生懸命ブラックと仲良くなったら、きっと触らせてくれるよ! 多分!」
こうしてしばらくの間、小屋の中で談笑が続いた。
しばらくして村の外。皆が目指すはガラクタの街と呼ばれる『ユジーヌの街』。
皆は歩いて行く。蒼輝、奈樹、勾玉、マテリア、バサラ。そして私服へ着替えたディアナと黒豹のブラック。
ブラックはディアナの衣装の入った収納札の束をボロボロのポーチに入れて首に引っ下げている。
蒼輝「荷物それだけでいいのか?」
ディアナ「うん! ブラックが一緒に居てくれれば、後は衣装だけあればいい! あの家に他に何にもないから!」
ディアナは、まるでかつてノスタルジアで女神と呼ばれた『カノン』を彷彿とさせるような、無垢で煌びやかで魅力的な笑顔をしていた。
ブラックは、もしかしたらこの笑顔を守り続けたかったのかもしれない。笑顔を守る為に蒼輝達に助力を求めたのかもしれない。
答えはわからない。それでも一つだけ確かなことがあった。
ディアナ「ねぇ、ブラック。住む場所が変わっても」
歩きながら隣を歩く黒豹のブラックを見た。ブラックもディアナを視た。ディアナは幸せそうな笑顔を見せた。
ディアナ「私達…いつも一緒だからね」
第十三話 -無垢と漆黒- End




