14-B -無垢と漆黒-
ルクスの村に到着した一同。村の家裏で男に絡まれたマテリア。奈樹が助けに入るが、そこへ割って入った一つの大きな影。それは動物。漆黒の毛を持つ黒豹だった。
男達は一目散にとんずらした。黒豹の存在は男達を追い払うには十分すぎる重圧だった。
マテリアは黒豹に怯えている。奈樹も迂闊に動けなかった。何故、こんな村に猛獣が現れて、意図的か偶然か判別できないが、男達を追い払った。しかし、その訳も理解できなかった。そして次は自分達に襲いかかるのではないかという不安が頭を過っている。
マテリア「な…奈樹…」
目で助けを求めている。黒豹は奈樹に背を向け、マテリアを見たまま動かない。そこへ蒼輝、勾玉、バサラが家の影から現れて合流した。
蒼輝「奈樹、こんな所に…って、えぇ!?」
蒼輝は黒豹を見て驚愕して後ずさりをした。勾玉もバサラもその威圧的な風貌を見て硬直した。黒豹は駆けつけた蒼輝達を見た。
勾玉「黒豹…!? マテリア…無事か…?」
マテリア「な…なんとか…」
漆黒の毛並み。金色をしたネコ科の瞳。体長は180cmほどあり、恐らく雄だろう。
言葉が通じない猛獣を前に動けない一同だったが、その感情を察したかのように黒豹は落ち着いて、マテリアと奈樹から距離を離して歩いていく。そして、チラリと振り返る。
奈樹「なに…?」
奈樹は黒豹の瞳を見て、意思疎通を図った。心を通じ合わせるように、じっと見つめる。黒豹は尻尾をクルリと一回転させると、何処かへ歩いて行く。
奈樹「ついてこいって…言ってる気がする…」
蒼輝「本当か…? まぁ罠ってこともないだろうけど…」
バサラ「奈樹の姫は動物の声が聞こえるのかい?」
奈樹「声が聞こえなくても会話はできますよ。私達だって、話をしなくても相手の考えを理解できることがあります…それを試みたんです」
誰にだって目を見ているだけで、動物の感情を理解したつもりになることがある。目は口ほどに物を言うように、目で会話することもできる。奈樹は黒豹の意思を理解したつもりでいた。
緊張が解れてへたり込むマテリアに勾玉は肩を貸し、皆で黒豹の後を歩く。黒豹は時々チラリと振り返り、蒼輝達がついてきているか確認していた。
そして村の端に大きくはぐれた一件の家に到着した。黒豹は首と肩で半開きの扉を押して中へ入っていく。誘われるように中へ入った。中はボロボロの木造の家。天井は所々穴が空いていて、屋根の役割を成していない。窓はヒビが入ったり割れていたり、ボロボロのガムテープで何とか持ちこたえているといった状態。電気は電球が一つ吊るされているだけ。地面の木は剥がれ、土が散乱している。
蒼輝「ここは…」
勾玉「ここに何か見せたい物があるというのか…?」
黒豹は部屋の一室に置かれた古い棺の前に座った。
バサラ「棺…? まさか…お前の主人は…楼黤のように…」
マテリア「けど…私達をここへ呼んでどうするつもりだったです…?」
奈樹「…わからない…けど…確かに私達をここへ連れてきたかったように見える…」
黒豹は棺の頭の方へ回り込み、蒼輝を見る。
蒼輝「まさか…開けろって言うのか?」
黒豹は『正解』と言わんばかりにジッと見つめている。蒼輝は恐る恐る棺を開いた。
中にはボロ布の服。包帯がグルグル巻かれていて顔の見えない遺体。包帯の間からツインテールにしてアップにしている金髪とが見えている。
マテリア「女の人…女の子です…?」
身長はおおよそ130cm前後。恐らく10歳くらいの少女。黒豹は棺の中を見つめている。奈樹も棺の横に座った。
奈樹「ご主人様だったのね…貴方の…。私にもわかる…大切な人を失った気持ち…」
棺の中を見て悲しそうな顔をする。
蒼輝「奈樹…」
蒼輝はそんな様子の奈樹を見て思った。自分は奈樹の過去に何があったのか知らない。今まで何をしてきたのか、何故イーバに追われているのか、なぜ多数の属性の咎力を扱えるのか…。自分が何も知らない奈樹が、どうしてここまで自分を信用してくれるのか…蒼輝は何も知らない。奈樹の過去を。
バサラ「それで…ここへ呼んだ意味はなんなんだ?」
奈樹が振り返ってバサラを見る。
奈樹「それはわかりません…ただこの様子から考えて、黒豹さんがここへ呼んだことは確かです」
そう言っている内に蒼輝達は後ずさりしている。奈樹はなぜそんなリアクションを取られているのかわからなかった。奈樹は皆の視線の先である自分の後ろを見た。
「バァー!」
包帯グルグル巻きの少女が棺の中で起き上がっており、奈樹に向かって大声を上げた!
バタン
奈樹は倒れて失神した。
蒼輝「あぁ…奈樹!」
バサラ「こりゃホラー耐性無いって確信したなぁ…。手弱女だな奈樹の姫…その様子を体現していて素晴らしい」
「うわわわ! だ、ダイジョーブ!?」
包帯巻きの少女は柩から飛び出てきて、起こすように奈樹の肩を揺らした。
蒼輝「えっと…死んでたんじゃ…?」
マテリア「もしくは重傷とか…」
勾玉「怪我をしている様子ではないな…」
バサラ「奈樹の姫、大丈夫か!?」
奈樹の目が覚めるまで少女は蒼輝達にずっと謝っていた。奈樹が目を覚ました後、全員は布を敷いただけの床で囲うように集まって、とりあえず話をすることにした。




