042.
僅かの間に、魔導機キャンサーと魔導機ジェミニが撤退を余儀なくされたのである。共和国軍に残るのは、魔導機レオだけであり、王国軍と共和国軍は、それぞれに動揺していた。
試造星帆戦艦の艦橋では、セレスティアがレイディアントが無事であることの安堵を浮かべ、エリシアが想定以上の性能に歓喜となり、マイナンが全軍の動きが鈍くなったことに休息についた。
「レイディアント様は、魔導機レオがいるとはいえ、危機を脱したと考えて良いのでしょうか?」
「そうじゃろう。さすが、シリウス家の男子よ。追い詰められた時にこそ、しぶとく生き残るのがシリウス家の一族じゃ。」
「アリエスの出力は安定してるわ。戦闘継続は可能だし、大丈夫なんじゃない?それこそ、レオも奥の手を用意していなければだけどね。」
「奥の手、ですか?」
「レオの作成者はね、狂ってるのよ。あいつが作った魔導機にしては性能が大人しすぎるわ。今の魔導機レオは指揮官モードで、戦闘用モードが用意されていても、何ら不思議ではないわ。」
エリシアは、アリエスが最強だと信じている。
だが、天才科学者は同時代に何人もおり、その中でもレオを作成した科学者は、自身に発想が近しいとすら思っていた。だからこそ、辿り着く先が同じになる。
「レオの科学者は、どういう方なのですか?」
「あいつはね、ハーレムに憧れてるのよ。イケメンが、美女を侍らかす姿が好きで、ライオンの生態を気に入っていたわ。オスライオン一頭に対して、複数のメスライオンの集団が好きで、よく観察していたわね。たぶんだけど、周りに美女がいれば強くなる性能とかだわ。そうなると、魔導操縦士は、異世界行ったらハーレムチート野郎みたいな男が乗ってるに決まってる。」
変態は、変態を知る。
つまり、どっちも変態科学者であり、異常な程、欲に忠実ということなのだ。
「なら、第二形態になる前に、勝てるといいのですが。」
「そうね。まぁ、あの男がそんな簡単に終わるようには思えないわ。個人的には、第二形態をボコボコにしてアリエスが最強と証明して欲しいわね。」
共和国軍では、ギルベルトがマイナンと同様に共和国軍と王国軍がともに動きが鈍化していることに気付いていた。そのため、ガルガンチュア要塞の防衛施設復旧による艦隊と要塞の挟撃を行うため、捕虜とした王国軍の防衛施設に技術者に言う事を聞かせて復旧させるよう指示する。ギルベルトは、今の状況でも冷静であった。しかし、多くの共和国軍人は冷静でいられなかったのである。アリエスとレイディアントの魔力は、それだけ戦場を支配していたのだ。多くの一般兵は、初見で対応できるものではなかった。ギルベルトが状況を打開させるための策が、共和国軍を追い詰めることになる。王国軍の上層部は貴族だらけであり、腐敗していた。それでも共和国軍と渡り合えているのは何故かを、ギルベルトは思い知らされることになるのだった。
ファルコン傭兵団は、団長であるロジャーが負けたことに衝撃を受けることもなく、すぐに事実として受け入れ、次の行動に移っていた。
「まさか、団長が負けるとわね。」
「まっ、団長はしぶといから大丈夫だろ。こっちは、こっちでお宝をゲットしちまおうぜ。」
ファルコン傭兵団は、リーチェの魔導機タウロスに狙いを定めていた。共和国軍にタウロスを削らせ、疲弊したところをファルコン傭兵団が強襲し、タウロスを捕獲しようとしていたのである。
「この牛乳ちゃんは、俺がいただくぜ。」
「宝に、美女を狙う傭兵団がどこにいる?ただの盗賊じゃないのよ。」
「てめぇは、イケメンがいいだけだろ?」
「正解っ。イケメンいたら、捕獲しなさい。」
「ぜってぇ嫌だ。自分で捕獲しな。」
ファルコン傭兵団は、タウロスが鈍くなったところを強襲した。
「何!?ファルコン傭兵団!?今さら!?」
リーチェは、ファルコン傭兵団のデータを手元に出す。ダニエル、トーマス、メルルがファルコン傭兵団の中でも主要メンバーであり、ロジャーに次ぐ卓越した技能を持っていることが分かる。
「このタイミングでなんて、卑しすぎます!」
「はーはっはっ。美女というには物足りないが、俺様が可愛がってやるよ。」
「その機体、お宝の匂いしかしない。」
「イケメンの援軍、募集中よ。」
リーチェは、ファルコン傭兵団に囲まれる。しかし、味方の魔導機が現れた。
「イケメンと呼ばれて、私が来ないわけがない。不死身のイェーガー、助太刀にきたぞ!」
「不思議のイェーガーさん!」
「違うっ!不死身だっ!」
序盤でキャンサーにあっさりと倒されたイェーガーは、魔導機を復旧させ、戦線に復帰したのである。
「イケメンっ!んー、イケメン?五十点ね。」
「低すぎないか!?私ほどのイケメンは、なかなかいないぞ!」
「レイディアントのような男を連れてきて。ヤル気が出ないわ。」
「戦場に男を求めるなんて、拗らせすぎてるぞ!おひとり様か!」
「不気味のイェーガーだっけ?墜ちろ。」
リーチェとイェーガー、ファルコン傭兵団は戦場で一進一退の攻防を繰り返す。戦場で、異常に目立つ場所が2箇所も存在したことが、王国軍も共和国軍もそこに注意を向けてしまっていた。互いに予期せぬ場所で予期せぬことが起こるのに気付けなかった原因である。まもなく、攻勢の歴史家が、この戦いの勝敗がどちらになるのかを悩ませる出来事が待ち受けていた。
レイディアントは、撤退するキャンサーとジェミニへの追撃は諦め、目の前にいる魔導機レオへ集中する。レイディアントは、予感があったのである。キャンサーもジェミニにも、アリエスは勝てるが、レオにだけはどう転ぶか分からない結果になると感じていた。アレクシスからレイディアントに音声通信が入る。
「見事だな。まさか、そんな奥の手を隠していたとは、驚きしかない。」
「褒めていただき、光栄ですね。今、撤退するなら見逃してあげますよ?」
レイディアントは答えた。
アリエスの魔導翼六枚は、全て戻っており、いつでもアレクシスと戦える状態となっている。
「撤退する必要などないさ。勝つのは私だ。」
「自信があるのだけは認めますよ。アリエスの前に散ってもらいましょう。」
「新型魔導機アリエス。性能がいいのは認めよう。だが、性能が全てでないということを知るがいい。」
魔導機レオは、魔導剣を構えた。
銀色の光が魔導剣を包み込み、アレクシスの力が流れ込んでいくのが分かる。
アレクシスは、エース・オブ・エースである。
王国軍魔導機を100機以上破壊し、その中にいた何名もの王国軍のエース・オブ・エースや、エースを打ち倒してきた男である。優れた技量は、魔導機の性能を超えることができると知っていた。
「やはり、退きませんか。」
「当然だ。」
「ならば、狼の前に、獅子の骸を置くだけです。」
「食い殺されるのは、貴様だ。レイディアント・シリウス!」
王国軍の新型魔導機アリエスと、共和国軍の魔導機レオ。反発した科学者同士が製作した魔導機。レイディアントが、アリエスに搭乗してから続く因縁の相手であるアレクシスは、レイディアントが自身を超える力を見せていることに歓喜している。
だからこそ、アレクシスは強い。
弱い自分を認め、強敵を認める。そして、その強敵を上回る成長を戦場で求める。
(よもや、帝国のジークフリートと並ぶ程の敵と相まみえるとは!)
かつて、アレクシスが体験した帝国軍最強のジークフリートとの戦い。その経験があるからこそ、アレクシスは、どれほどレイディアントが強くなったとしても、怯まない。
(やはり、私は戦士なのだな。さぁ、楽しませてくれっ、レイディアント!)
レイディアントは、アレクシスの思考を読めており、呆れるしかない。まるで、新しい玩具を見つけた子供のように、アレクシスは、はしゃいでいるのである。
「行くぞ、レイディアント・シリウスっ!」
「では、遠慮なく。」
アリエスの魔導翼から光が溢れる。
そして、新型魔導機アリエスと魔導機レオは激突したのだった。




