039.金狼レイディアント・シリウス
ガルガンチュア要塞の主砲である要塞砲バニッシャーが破壊され、要塞防衛施設も連鎖爆発したことにより、ガルガンチュア要塞奪還作戦は全く開戦当初とは異なる状況となった。
共和国軍は、どれだけ精強だとしても、開戦と同時に要塞の主砲が破壊されたのである。動揺しないはずがなかった。それが、どれだけ戦艦を規律正しく運用していても心の中の動揺は消えない。
試造星帆戦艦にアドバイザーとして、顧問として、戦況を見守っていた引退した元提督であるマイナンは、戦いの潮目が変わる瞬間に無意識に動いた。
「全艦、要塞B34ブロックへ向け突撃せよっ!」
王国軍の画面に突然現れたマイナン元提督。まだ現役だった頃のマイナンの姿を知っている者は多く、思わずマイナンの指示に従う。マイナンは、共和国軍に完全敗北しかけた状況から、反撃してきた唯一の将官だったのである。
王国軍の要塞駐留艦隊は、ブラッドリー准将の指揮下にあるはずだが、そのブラッドリー准将ですら、思わずマイナンに従ってしまう。
「この攻撃位置…、何の意図が…、まさかっ!くそっ、貴様なのか、マイナン!」
共和国軍のギルベルト元帥は、思わず王国軍の攻勢の位置取りに意味を見いだせなかった。しかし、すぐにギルベルト元帥は理解する。共和国軍は、規模が大きい。だからこそ、次世代に繋いでいかなければならず、経験の浅い部隊も存在していた。経験の浅い部隊は、要塞主砲が破壊されたことに動揺していたのである。艦隊の動きでは分からないはずであり、心でも見えない限り分からないはずの情報を、マイナンはその嗅覚のみで見極めた。経験の浅い部隊は、王国軍の強襲を受け、大打撃を受ける。
「B34ブロック方面へ援護を!」
能力の低い王国軍が、艦隊数で共和国軍を上回り、戦場は互角の事態となる。
(ギルベルト、出てくるなら出てこいっ!今度こそ、決着をつけようではないか!)
(この老いぼれがっ!)
マイナンとギルベルトは、互いに内心で会話できるほどの長い戦歴を重ねていた。その二人にとっても、読めない戦場が新型魔導機同士の戦場であった。
最も激しい戦場は、絶望の中に突如として開いた突破口に雪崩込む王国軍艦隊と、占領したばかりの要塞主砲を失うという屈辱を刻まれた共和国軍艦隊でもなく、新型魔導機同士の戦場である。
レイディアントは、崩壊した要塞主砲付近で自身の魔力を最大限にまで高める。この戦場を選んだのは、破壊した要塞砲の破片が多く宇宙空間に散らばっており、複数に囲まれた場合の死角にできると判断したからである。
レイディアントは、銀河一の魔力量で魔力探知を行う。レイディアントは理解している。どれだけ多くの魔力量を保有していたとしても、魔導機同士の戦いでは意味がない。魔導機は人間の魔力では動かないのである。魔導機のコアとなる魔石があって始めて魔導機は動くものであり、人間は魔石から魔導機への変換装置でしかない。レイディアントは、魔石から溢れる魔力を多く変換することができるのだが、それでも限度があった。
アレクシスとロジャーには、銀河一の魔力量など意味がない。純粋に、魔導操縦士としての技量が勝敗を分けることになるため、レイディアントは覚悟を決めるしかない。
(新型魔導機三機が相手か。そのうち、銀河で五本の指に入る二人が操縦している。絶体絶命というやつだな。)
レイディアントは、アリエスの操縦槽の中で、三方向から迫る魔力反応を確認した。銀獅子アレクシス・アークライト、ファルコン傭兵団団長ロジャー・ファルコン、アレクシスの副官であるリュカ・フェリオ。遠くでは、リーチェがこの戦場に向かおうとしているのが分かるが、共和国軍に阻まれ入ることができない。もはや、レイディアントが逃げるには遅く、共和国軍の陣営を突破するには敵が強すぎた。
レイディアントは、絶体絶命だというのに、焦らなかった。戦場全体の状況を見るならば、戦況を変える可能性のある新型魔導機三機の全てがレイディアントへと向かってくるのである。レイディアントが、新型魔導機三機を倒せないまでも、引き続けることが出来れば、王国軍艦隊対共和国軍艦隊は、新型魔導機タウロスが王国軍艦隊に参戦していることから王国軍艦隊が有利になるはずである。だが、問題はレイディアントに新型魔導機三機を引きつけることが続けられるかどうかである。あっという間に堕ちてしまえば、共和国軍が有利であり、王国軍が負ける未来が想像できた。
レイディアントが戦場の天才たる所以は、ただしく戦況を読めることが起因している。だからこそ、レイディアントはこの場から脱出などしない。
試造星帆戦艦から、レイディアントに通信がはいる。
「レイディアント様、包囲されます。早く、お逃げ下さいっ!!」
通信画面に映ったのは、セレスティアである。セレスティアは悲鳴に近い声で、レイディアントに早く逃げるよう懇願した。
「セレスティア様、ご心配ありがとうございます。ですが、まだ撤退はできません。」
「素人の私でも分かります。このままでは、レイディアント様が危ないです。私は、王国軍よりもレイディアント様が大事なのです。早く逃げて下さいっ!」
「大丈夫ですよ。私は、負けませんから。」
「レイディアント様っ!」
レイディアントは、通信を終わらせる。
そして、目の前の敵に集中した。正面には、アレクシスが操縦する新型魔導機レオ。右側には、リュカが操縦する新型魔導機キャンサー。そして、瓦礫の破片に隠れながら最も厄介な位置に配置しているロジャーが操縦する新型魔導機ジェミニ。
ロジャーは、レイディアントが逃げ出す可能性のある進路に配置しており、絶対にレイディアントを逃さないという配置にいた。
さらには、アレクシスは自身の部隊を二つに分け、さらにレイディアントが脱出できないよう取り囲むように配置するとともに、王国軍がレイディアントの援護に来れないよう防衛線をひく。アレクシスが戦術の天才と言われる所以は、局地的な戦闘において、目的のために部隊配備を適切に迅速に行い、相手が最も困る動きをすることにある。アレクシスは、個の動きだけでなく、集の動きでも優秀であった。
「追い詰めたぞ、レイディアント・シリウス。」
「准将、時間がありません。すぐにアリエスを堕とし、王国軍艦隊に強襲をかけなくてはなりません。」
レイディアントは、大胆不敵に笑いながら、相手を見据える。
「追い詰められたのではありませんよ。ここでなら全力を出せる。倒されるのは、貴方がただ。」
「その言やよし。だが、新型魔導機三機に囲まれているのだ。今なら、降伏もうけいれる。」
「馬鹿なことを。仮に残りの新型魔導機10機に囲まれたとしても答えは変わりませんよ。」
「勝てると思っているのか?それとも時間稼ぎできるとでも思っているのか?」
「まさか。貴方がたを倒すつもりですよ。」
その通信は、ロジャーを震わせた。
ロジャーが待ち望んだ獣のような魔導操縦士が、現れたのである。野性味溢れるレイディアントに、ロジャーは心の底から楽しみだった。
「ごちゃごちゃ言ってないで、始めようぜ。貴様は俺様がぶっ倒す。」
「先に言っておく。私は貴様のような不衛生そうな野蛮な男は嫌いだ。」
「奇遇だなぁ。気が合うじゃねぇか。」
「いいや、全くもって、これっぽちも。」
「つれねぇじゃねぇか。まぁ、いいさ!始めようぜっ!」
時間稼ぎをしたいレイディアント。時間を浪費したくないアレクシス。会話による時間稼ぎは、これで限界であることをレイディアントは悟った。
共和国軍の有能な人材の豊富さに、嫌気が差しつつも、レイディアントは覚悟は決まっており、かつてないほどの集中力を発揮していた。
「逃げ出すつもりがねぇなら、もうこんな位置にいる必要はねぇ!いくぜっ!」
ロジャーが操縦する新型魔導機ジェミニが突進した。ジェミニは、左右に魔導剣を持っており、二本の刃が異なる軌道で迫る。
レイディアントは、ジェミニの能力である敵の心を読む力を気にすることなく、ジェミニの動きに反応する。もはや、考えて行動するのではなく、ただ超反応で動いていた。
「何にも考えてねぇだと!?」
「貴様程度には、思考すら必要ない。」
「ざっけんな!」
ロジャーは、銀河に五本の指に入る魔導操縦士である。いくらレイディアントが超反応を見せ続けたとしても、ロジャーはレイディアントの反応に慣れ動きを合わせる。しだいに、アリエスのコットン・アーマーは傷つき始めた。
「どうやら、避けるだけで精一杯じゃねぇか。」
「どうやら、貴様は老眼でピントが合ってないようだな。余裕で避けられるさ。」
レイディアントの虚勢である。
ロジャーほどの魔導操縦士に攻められ続けては、ひたすら避けるだけで精一杯だった。余力があれば、とうに反撃しているのだが、反撃する際には別の魔導機に隙を見せてしまうことになり、攻撃に入れないのである。
「最高だぜ。いつまでその余裕ぶった顔が続くのか見ものだ!」
「ロジャー、邪魔だ!」
「あぁん?」
ジェミニの死角から、アリエスを襲ってきたのはら、アレクシスの副官であるリュカが操縦する新型魔導機キャンサーである。キャンサーの両腕は、既に分離しており、左右同時に分離した腕が直接襲ってくる。
レイディアントは、キャンサーの攻撃を避けようとしたが、避ける方向にジェミニが配置し、思わず無理な避け方をする。だが、無理な避け方がたたっのか、避けた先にキャンサーがおり、泡のような数の爆弾をアリエスに向かって放出した。
「墜ちろっ!」
「ちっ!」
リュカは、魔導砲で爆弾を爆発させる。
レイディアントは、魔導障壁を張るしかなく、アリエスを守った。だが、背中を切りつけるようにジェミニがアリエスを襲い、コットン・アーマーは更に傷ついていく。
レイディアントは、たまらず距離をとろうとするが、爆風の中から銀獅子であるアレクシスがアリエスに踏み込む。その動きは速くて美しくもあり、動作に無駄がない攻撃であり、レイディアントは避けることもできず、魔導障壁を強固にしようと力を込める。アレクシスのレオと、レイディアントの魔導障壁がぶつかり、魔力が視覚化されるほどの衝撃が発生する。
「くっ……!」
「隙ありだせっ!」
「隙ありっ!」
レイディアントは、迫ってくるジェミニとキャンサーに対応するため、全方向に魔導障壁を張る。魔導障壁は魔力を多く使うため、レイディアントは確実に消耗していった。
「どうした、レイディアント!」
「早く墜ちろっ!」
レイディアントは、仕方なくコットン・アーマーに補充していた魔力を使う。
「魔導砲っ!」
レイディアントは、無理矢理、三機から距離を取り、専用魔導砲を放つ。しかし、ジェミニを操縦するロジャーは、レイディアントの思考を読んだ。
「読めてんだよっ!」
ロジャーは、アリエスの魔導砲を双剣で破壊する。
「っ!」
「ははっ!焦ってやがるな!どうした、その程度かっ!」
ロジャーの追撃に、レイディアントは防戦一方である。残る武器である魔導剣を片手に、ロジャーをいなしつつ、打開策を見つけようとする。
「そこっ!」
リュカの操るキャンサーの両腕が、魔導剣を掴み、破壊する。レイディアントは、内心でしまったと思いつつも、武器がなくなったため、ジェミニの武器を奪おうとする。
「ばぁか、させるかよっ!」
ロジャーは、ジェミニでアリエスを蹴飛ばし、距離を取らせた。そして、レオが魔導剣でアリエスを襲う。レイディアントは、瞬時に魔導障壁を張るが、レオに押し負けて、魔導障壁ごとアリエスに叩きつけた。アリエスの内部で警告音が鳴り、何か致命的なダメージを受けたことをレイディアントは察した。
「敵の盾とやらも、こちらの武器にすることができる。」
「なんて、野蛮な戦い方だ。」
「褒め言葉として受け取ろう。」
アレクシスとロジャーは気付く。アリエスのコットン・アーマーが、剥がれ始めていたのだ。ロジャーは、思わず魔導砲を放った。
「何をっ!」
「っ!?」
リュカは、ロジャーが魔導砲を放とうとすることに対して止めようとしたが、魔導砲が当たったアリエスを見て、ロジャーの意図を理解した。
「そういうことか。」
「アリエスの限界点とやらがきたんだろうさ。」
本来であれば、ジェミニの魔導砲を吸収するはずのコットン・アーマーは、度重なるダメージにより吸収しきれない。さらには、吸収したとしても放出するための武器がない。リュカもすかさず、魔導砲でアリエスを攻撃する。
「随分と、私に近づくのが怖いとみえる。」
「ははっ。まだ虚勢を張ってやがるよ。って、おいっ!」
レイディアントは、キャンサーから放たれた魔導砲に対して、魔導障壁を張る。その魔導障壁は、湾曲しており、魔導砲の方角を変え、ジェミニを狙ったのである。
「おしい。」
「確かにおしかった。」
「てめぇら、意味のわかんねーことしやがって。上等だっ!」
「どうやら、ロジャーは嫌われているようだな。」
「そのとおりです。」
「てめぇら、許さねぇからな。」
アリエスに対して、ロジャーは再び接近戦を選択する。リュカも、ロジャーにならって接近戦を選択した。
この時、すでにレイディアントは撤退しかないと理解しており、撤退できる隙を伺っていた。だが、隙など全く見せない。レイディアントは内心で舌打ちをしながら、打開策を練る。
だが、無情にも、アリエスの防御の要であるコットン・アーマーは削られていく。幾度となくレイディアントを助けてきた魔導砲を吸収できる外装は、すでにボロボロとなっていた。
レイディアントは、もはや王国軍が共和国軍を押しのけるための時間稼ぎしかできない。この状態から魔導機戦でアリエスが勝つのは、あまりにも条件が厳しかった。
「守ってばかりで、つまんねぇな!俺様の頭の中じゃ、てめぇは、もっと面白く暴れる男だったんだがな!」
(ふざけるな…。)
ロジャーのテンションはあがっていき、ジェミニの動きがどんどんの荒くなる。いや、荒くなるだけでなく、鋭さを増していた。守るだけのレイディアントに対して、苛立ちを募らせ、鋭さを増していく。
レイディアントは、魔力探知を行い、王国軍と共和国軍の動向を見る。リーチェが共和国軍を切り崩し、わずかではあるが王国軍が優勢であった。この状態で、アレクシス達が共和国軍の艦隊戦二参戦すれば、共和国軍が盛り返すことは目に見えているため、アレクシス達をこの場で引き留めることの意義は大きい。
アレクシスもその状況を理解しており、一撃でレイディアントを仕留めようと主に牽制を重ね、ロジャーとリュカの攻撃で隙を晒した瞬間に、重い一撃を放とうとしていた。
アリエスは、見るからに装甲に傷が刻まれ、限界に近い状況が見て取れる。レイディアントの操縦席には、警告アラートが鳴り響き、危険領域にまできてしまっているのは明らかだった。
(まだだ…。もう少しだけ、引きつける。)




