037.要塞砲バニッシャー
ガルガンチュア要塞奪還戦。
共和国軍は、まさかと思いながらも、王国軍が要塞再奪取という愚行的な軍事作戦に踏み切ったことに驚愕しながらも、すぐに迎撃態勢を整えた。
王国軍および共和国軍は、それぞれおよそ千隻。戦力差は互角でありながらも、共和国軍の背には難攻不落のガルガンチュア要塞が、堂々と配備されており、王国軍が圧倒的不利な状況であった。
何より、共和国軍は王国軍が誇る難攻不落の要塞を奪取したばかりであり士気は高く、王国軍は難攻不落の要塞を奪取されたばかりで一部を除き士気は低い。王国軍は、ブラッドリー准将のような一部の将官のみが士気が高く、基本的には逃げ腰であり士気が低い。
だが、王国軍の動き出しが今までよりも早かったため、共和国軍は王国軍が士気を保つ、もしくは士気をあげてガルガンチュア要塞再奪取に向けて軍事作戦に踏み切ったと誤認した。
ガルガンチュア要塞は、王国軍が数百年かけて築いた巨大要塞であり、主砲の要塞砲バニッシャーは、多くの共和国軍人を飲み込んだ悪夢の兵器である。
さらには、ガルガンチュア要塞で指揮をとるのは、戦略の天才である名将ギルベルト元帥、戦術の天才であり銀河で5本の指に入る魔導操縦士である銀獅子アレクシス、銀河で5本の指に入る魔導操縦士でありファルコン傭兵団の団長ロジャー・ファルコン。共和国軍には、王国軍から奪取した新型魔導機レオ、キャンサー、ジェミニ。素人でも分かるほど、圧倒的に共和国軍が有利である。
だからこそ、名将ギルベルトは、違和感を覚えていた。長い戦歴の中で、一部の名将のみが気づき得る違和感。ガルガンチュア要塞の艦橋で、共和国軍首脳部は開戦準備を進めているが、ギルベルトだけは、王国軍陣形を何度と何度も見つめ、違和感を口に出す。
「妙だな…。」
ギルベルトの傍に控える副参謀は、ギルベルトが違和感を口に出すことに不思議に思いながらも、敬愛するギルベルトに理由を尋ねる。
「何が妙でしょう?」
「静かすぎるのだ。あのマイナンがいるのだ。いくら引退して元提督として参加しているかといっても、静かすぎる。あの男は、この状況でこそ何かをしでかす。試造星帆戦艦の居場所を速やかに特定してくれ。」
「承知しました。」
ギルベルトは、マイナンが静かすぎるのが不気味だった。今までのギルベルトとマイナンの戦いは、マイナンが艦隊を率いていたからこそ、集団での違和感となって現れていたが、今のマイナンは試造星帆戦艦に乗り込んでいるだけであり、単艦であるからこそ、ギルベルトは違和感の正体を見抜けない。
優秀な将ほど、敵の愚かさを信じない。そして、ギルベルトはマイナンが簡単に諦めるような男ではないことをよく知っていた。まさか、ギルベルトは王国軍が愚かすぎて、レイディアントが率いる試造星帆戦艦が先陣を切るなどと思いもしない。
最も強い者を先陣を切らせるのは、剣で斬り合っていた中世時代で終わっているのである。この時代に、そんな愚行が行われるなど、優秀な人材であればあるほど気づけない。
アレクシスも、違和感には気付いていた。
魔導機同士の戦いでレイディアントを逃してしまったアレクシスは、誰よりもレイディアントのことを意識している。もし、アレクシスがレイディアント自身であるならば、艦隊戦で乱戦になった隙に、魔導機を駆け強襲する作戦を取る。アレクシスは、レイディアントが自身と同じ水準にいると信じており、遊軍のどこかにレイディアントが配置されたと考えていた。アレクシスも優秀であるからこそ、レイディアントが先陣にいるなど気づけない。
一方、試造星帆戦艦の艦橋では、艦長であるセレスティアが、レイディアントに最後の確認を行っていた。
「レイディアント様。本当に行かれるのですね?」
「はい。私以外に適任はいません。」
レイディアントは迷いなく頷いた。
セレスティアは、レイディアントが作戦変更をすることなく、命を賭すことを理解しつつも、止められない。セレスティアからすれば、レイディアントの命が大事であり、このまま王国軍が敗北となっても構わないのだ。
さらにセレスティアは気付いている。
口に出さないが、セレスティアからすれば、ガルガンチュア要塞を経済的面から無効にさせ、共和国軍と交渉することで取り戻せる一手を。仮に、セレスティアが王妃であり国政に口を出すことができるのなら、セレスティアは間違いなく魔法のような一手でガルガンチュア要塞を奪還していた。ただ、莫大な資金がかかるため、セレスティアとしても悪手であることは理解しているため、恐らく実行することはないだろう。
「普通なら、不可能な作戦かもしれん。だが、レイディアントの言う通り、やる価値がある作戦じゃ。存分に暴れ回ってくるがよい。儂は、シリウス家の男子であるレイディアントを心から誇りに思うぞ。」
「お祖父様、ありがとうございます。」
レイディアントは、本当に多くのことに気付ける祖父であるのに、孫の性別だけ見抜けないマイナンに苦笑いする。もう、レイディアントの口からは言い出せないため、マイナンが気付くしかないのだが、このままではマイナンは永遠に気付かないだろうと思うのだった。
レイディアントの副官であり、新型魔導機タウロスの魔導操縦士であるリーチェが、レイディアントの前で泣きそうになりながら懇願する。
「やはり、私も連れていってください!」
「いいえ。この作戦は、アリエス単機だからこそ、上手くいく可能性があるのです。」
レイディアントは、即答した。
リーチェは、不満そうな顔をしたが、理解しているため、反論はしない。ただ、どうしても理解はできていても感情は別である。リーチェとしては、レイディアントの傍にいたいのだ。
レイディアントが立案した作戦は、大軍でもなく、少数でもなく、アリエス単機だからこそ成功する可能性がある。さらにいえば、レイディアントだからこそ、成功する可能性のある作戦である。失敗すれば、レイディアントの命はない。だが、セレスティアもマイナンも、そしてリーチェもレイディアントなら成功するだろうと強く信じた。
そして、両軍の艦隊が布陣する。
この時、共和国軍のギルベルトとアレクシスは、試造星帆戦艦が先陣にいることに驚愕する。
「バカな!」
「何を考えている!」
ギルベルトとアレクシスは、軍事的にありえない状況に陥り、思考の海に入る。二人は、間違いなく天才である。天才であるからこそ、ありえない作戦に信じることができない。だからこそ、考えてしまうのだ。この配置の意味に、この配置の理由を。まさか、王国軍が責任回避のために、レイディアントに先陣を務めさせ、レイディアントが負けたら、即撤退するなどと考えていることなど思えない。鈍足だった王国軍が、ここにきて速度が速くなったには、それなりの自信があると思い込んでしまった。
天才であるからこそ、凡才に負ける。
そんなありえない事態が、まさに起ころうとしていた。天才は、凡人のことを理解できない。凡人も天才のことが理解できない。その大きなギャップこそ、ギルベルトとアレクシスが止まってしまった。
そして、レイディアントは試造星帆戦艦から、新型魔導機アリエスで飛び出す。
「レイディアント・シリウス。魔導機アリエス、出るっ!」
試造星帆戦艦から飛び出したアリエスは、最大速度でガルガンチュア要塞へ飛び出す。
「バカな!」
「王国軍は、何を考えているんだ!」
「う、撃てっ!」
「アリエスは、魔導砲を吸収するんだぞ!」
「実弾を!」
共和国軍は、突然の出来事に、右往左往する。
「要塞砲バニッシャーを!」
「魔導機単機に放ってどうする!エネルギーチャージに時間を要するんだぞ!」
「ま、魔導機で迎撃を!」
「は、速すぎるっ!」
「落ち着けっ!こんな速度なら、すぐに魔力が尽きる。速度低下を集中砲火しろっ!」
レイディアントは、一気に共和国軍へ辿り着く。
「しまった!」
アレクシスは、気付いた。遅れて、ギルベルトも気付いた。魔導機の魔力を全開で放出した速度は、速いが長くは続かない。魔力が尽きてしまうからである。だが、アリエスは違った。レイディアントは銀河一の魔力を保有していることもあるが、アリエスの性能が長時間の最高速度を維持することを可能にさせる手段があった。
セレスティアは、試造星帆戦艦の艦橋から王国軍に向けて発信する。
「こちら、ヴァレンタイン公爵が娘、試造星帆戦艦館長セレスティア・ヴァレンタインです。全軍、アリエスの軌道に向けて、一斉射撃を!撃てっ!!」
試造星帆戦艦から、魔導砲がアリエスの進路に放たれる。距離が遠く、威力が弱回っているものの、魔力の残滓をコットン・アーマーで吸収することができた。公爵令嬢であるセレスティアの声に反応し、王国軍がさみだれにアリエスが進む方向へ魔導砲が放たれる。
まるで、ガルガンチュア要塞に向けて、アリエスのための光の道が出来上がっていた。
「問題ない!要塞砲付近で打ち止めになる!そこを叩けっ!」
アレクシスは、落ち着いて的確に指示する。すぐさま、自身も魔導機レオで発進し、アリエスを追いかける。
アレクシスは、戦術的な目でレイディアントを抑えようとした。そして、ギルベルトは戦略的な目で無意味な突撃が、無意味でない可能性に思い当たる。
「まさか…。」
ギルベルトの顔色が、一気に変わった。ギルベルトは、油断してきるつもりはなかった。王国軍の報告書や整備記録も回収し、中身を把握した上で、何も問題ないと知っていた。だが、もともと、ギルベルトは王国軍が全体的に勤勉とは言えないことを知っていた。勤勉でないからこそ、共和国軍によるガルガンチュア要塞の奪取が成功したのである。整備記録すら、適当であった可能性に思い至り、急いで要塞の防衛施設のデータを再確認する。だが、ギルベルトは、要塞砲バニッシャーは最も重要な施設であるため、さすがに王国軍はそこの設備はしっかりと整備しているだろうと思い込んでしまった。だからこそ、対応が遅れる。
「どこだ?どこに穴がある!」
ギルベルトは、ギルベルトが見つけていない要塞防衛施設に穴があることを理解した。そのため、要塞防衛施設に頼らない魔導機アリエスの迎撃を指示する。
「魔導機で、すぐに迎撃せよっ!」
アレクシスは防衛施設と連携したアリエスの迎撃を試み、ギルベルトは防衛施設と連携しないアリエスの迎撃を試みようとする。つまりは、戦場において、作戦に齟齬が出てしまったのである。
共和国軍の魔導機は混乱し、ここでも動きが遅れることになった。
「何をしている!」
「何をしておるのだ!」
レイディアントは、ガルガンチュア要塞の壁面近くまでたどり着く。ここにいたっては、要塞防衛施設と連携したアリエスの撃退以外はありえない。ギルベルトは、結果を分かりつつも、指示するしかない。
「防衛施設の全砲門を放てっ!」
ガルガンチュア要塞の防衛施設が起動するが、砲門の一部が動かない。動いても、照準とは別の方角へ向いてしまっていた。堕落した王国軍の毒は、共和国軍すらも蝕んだのである。
この事態になって、ギルベルトもアレクシスも、共和国軍全軍が予想外の事態に陥り、動きを止めた。
唯一、動けたのは、ファルコン傭兵団のロジャーであったが、ロジャーはもともとガルガンチュア要塞が嫌いであった。そのため、どうせなら壊れもよいと思っており、アリエスを見送ったのである。
「ぶはっ。これだから、ぼっちゃんなんだよ。壊れろ、壊しちまえ!こんなガラクタなぞ、銀河にいらねぇんだよ!」
ロジャーは、アリエスに追いつくことは可能であったが止まった。ロジャーが止まったことにより、周囲の共和国軍も動きが遅くなった。
空白の時間が生まれ、レイディアントにとって攻撃できる好機が生まれた。
「魔導砲起動!」
レイディアントは、ガルガンチュア要塞の防衛施設で、砲撃が来ないエリアでアリエス専用装備である魔導砲を起動させた。




