035.再始動
ブラッドリー准将は、頭を抱えていた。
ガルガンチュア要塞は、自身が要塞駐留艦隊を率いている間に、共和国軍に奪取されてしまったのである。
もう難攻不落を誇ったガルガンチュア要塞を共和国軍から取り戻せないのは、ブラッドリー准将も理解していた。だが、このまま王国に戻れば、当然ながら、ガルガンチュア要塞陥落の敗戦の責を取らされるのは目に見えていた。
ブラッドリー准将は、文字面だけでいえば、共和国軍がガルガンチュア要塞を強襲している間、共和国軍から逃げていただけである。
王国へ逃げ帰るにしても、共和国軍に一泡吹かせない限り、ただ敗戦の責を取らされる、官職にまわされるだけである。
ブラッドリー准将は、准佐以上の階級の部下をウェブ通信で召集した。ブラッドリー准将の中では、共和国軍に勝てないまでも、一戦を交えることは決まっていた。勝てなくても、一泡吹かせれば良いと割り切っていたのである。一泡吹かせることさえできれば、その行動を誇大に主張し、ガルガンチュア要塞陥落の責と相殺するつもりだったのである。
「さて、諸君。愚かにも、グランデール准将はガルガンチュア要塞を奪取されてしまった。我々は、その尻拭いをしてやらねばならん。」
「やれやれですな。」
「これだから、現場を出たことのない者は困るのです。」
「諸君らの言いたいことは分かる。だが、やらねばならん。作戦案の意見を求める。」
この時になって、ブラッドリー准将の部下達は気付いた。ブラッドリー准将の作戦に適当に乗るつもりだったのである。だが、ブラッドリー准将は部下に意見を求めた。つまり、部下にも失敗した責任を押し付けるための方便を探していたのである。
王国に戻った後、ガルガンチュア要塞陥落に伴う軍事法廷が開かれる可能性は高く、グランデール准将にしつつ、追及された時に、部下の名前を出しながらブラッドリー准将は逃げ切るつもりなのだ。その事実に部下が気付いた年、会議参加者の面々は、顔面蒼白になった。
この場にレイディアントがいれば、遠慮なく作戦を提示していたであろ。たが、レイディアントは大尉であり、准佐以上の会議に参加することはできない。
要塞駐留艦隊としては、共和国軍にガルガンチュア要塞を奪取されてしまったため、選択肢は撤退するか奪還するかである。要塞駐留艦隊だけで奪還など不可能であることは、誰でも理解できる。しかし、ブラッドリー准将は、戦うことを決意している。つまりは、ガルガンチュア要塞の奪還のための作戦を提案しなければならない。
まさか、ブラッドリー准将が、軽く共和国軍と戦い、軍事的に無意味な勝利を収めて良しとすると部下達は考えていなかった。ブラッドリー准将は、普段から軍事的な会話をしてこなかったため、ブラッドリー准将の考えを部下は理解できなかったのである。
「お、おそれいりますが、要塞駐留艦隊の損失を防ぐために、撤退の選択肢もあるかと。」
「もう一度、言ってみたまえ?」
「い、いえ。失礼しました。共和国軍と戦うべきかと思います。」
「そうであろう。それで、良い作戦は思いついたか?」
全員が下を向いてしまう。
立体星図には、ガルガンチュア要塞が映し出されており、共和国軍の色に染まっていた。この要塞を奪還することなど、現場を知らない人間には思いつかない。下手に発言して採用され、敗北すれば責任だけ取らされてしまうのだ。
この時、ブラッドリー准将はガルガンチュア要塞を失陥したことの責任を取らされたくなかった。ブラッドリー准将の部下は、要塞奪取作戦の失敗の責任を取らされたくなかった。
誰もが責任を取りたくなかったという共通の思いが、一人の人物を思い出させる。
「新型魔導機アリエスを戦闘にガルガンチュア要塞奪還を進めるのはいかがでしょうか?」
新型魔導機アリエス。
王国軍が誇る最新鋭の魔導機であり、この作戦が失敗しても、生意気なレイディアント・シリウスに責任を取らせればいい。そのことに気付いた瞬間、レイディアントを矢面に立たせることを思いつき、ブラッドリー准将の部下は、その案に追従した。
「良い作戦かと。」
「誠に。」
「新型魔導機アリエスで突破口をたたな開くべきです。」
「なるほど。我々は、後方に控え、突破口が開きしだい進軍するのですな。」
誰を生贄とするかを決めてからは、動きは早くなる。生贄が、余計な行動を起こさせないために迅速に動くことが責任逃れのために重要であると知っていたのである。
ここまで王国軍の動きは遅かった。
ガルガンチュア要塞から要塞駐留艦隊が出撃する時間も遅かった。迎撃態勢も遅かった。何もかも遅かった。だが、突然、行動が早くなる。
野球で言えば、スローカーブ、スローカーブ、スローカーブ、からの高速ナックルのような動きであり、王国軍と共和国軍のテンポにずれが生じさせる。
「ガルガンチュア要塞、奪還すべき!」
「ガルガンチュアは、共和国ではなく王国の象徴!」
作戦会議で、レイディアントが先頭に立ち、共和国軍に突撃することが決まった。
「ガルガンチュア要塞に突撃する!」
レイディアントが負ければ、即座に作戦放棄し撤退することを暗黙の了解とした。しかし、複雑なのはブラッドリー准将である。
ブラッドリー准将は、軽く共和国軍と戦い勝利すれば撤退するつもりなのである。新型魔導機アリエスとタウロスを失うことになれば、ガルガンチュア要塞の失陥と合わせ、二重で責任を追及される可能性があるのだ。そして、順当に勝ったとすれば、レイディアントが評価されるのは目に見えていた。ブラッドリー准将としては、レイディアントに手柄を立てさせることに内心では嫌であった。
ブラッドリー准将が、もし有能であればレイディアントを前に立たせなかった。軍事的にも価値ある新型魔導機を捨て駒のように使うことなどありえない。だが、無能であるからこそ、しぶしぶ新型魔導機を矢面に立たせることを了承してしまう。
いくら何でも王国軍が馬鹿すぎることが、周りに回って、共和国軍の裏をかくことができるなどと、誰も想像がつかない。
戦略の天才ギルベルトは、戦略的価値を見いだせない王国軍の強襲を見抜けなかった。戦術の天才アレクシスは、貴重な新型魔導機を矢面に立たせる意味を見抜けなかった。
第二次ガルガンチュア要塞戦は、まさに混迷となる。天才や秀才が入り乱れる中で、普通よりも劣る愚才の戦術が戦場を掻き乱し、無意味な戦略的戦争を意味ある戦争に切り替えてしまう。
何にせよ、レイディアントが先頭に立った突撃作戦は、正式に決まったのだった。




