034.
レイディアントは、後方に下がりながら、アレクシスの魔導剣を、アリエス専用魔導剣で受ける。だが、後方に下がったところの限界点をロジャーが攻めてきたため、さらに下がらざるを得ない。
レイディアントに直感が走り、思わずリーチェに向けて叫ぶ。
「リーチェ!右へ!」
レイディアントが叫び、リーチェが思わず右に動いた瞬間、新型魔導機タウロスの左側へ青白い閃光が通過した。
「避けられたか。」
「どこからの攻撃!?」
レイディアントもリーチェも、キャンサーの姿を見ると、いつの間にか腕がなかった。
「そういうことか。カタログスペックにない性能だぞ。」
「また、科学者達が秘密裏に開発していたんですね。」
レイディアントもリーチェも、見たからこそ理解できる。キャンサーの両腕は分離可能であり、分離した腕自体が遠隔兵器となる。現在も二本の巨大な腕は、独立して飛翔しながら砲撃を続けていた。
「王国軍は、自ら開発した魔導機の性能すら知らないとは、情報網に大きな穴があるようだな。」
アレクシスによるレイディアントが共和国軍に放った言葉の意趣返しである。
「随分と器の小さい男のようだ。」
「だーはっはっはっ。もっと言ってやれ。この坊っちゃんは、器も度量も小せぇんだよ。」
「黙れ、ロジャー。貴様のやっていることは、私には許容できん。」
「今なら誤射しても秘密にしておきますよ?」
「それはいい。だか、てめぇの魔導機を奪ってからだなぁ。」
「なら、永遠に無理ですね。」
「あぁ?どうやら、俺様に嫌われてぇみたいだな。」
「どうやら、私も貴殿のことが嫌いだ。」
「「「気が合うものだ」」」
レイディアントは、雑談をしながらも、活路を見出そうと動いていた。だが、全く隙のない状態にレイディアントは活路を見いだせない。レイディアントの想像以上に、アレクシスとロジャーの連携攻撃は、まとまっていた。
「あたれーっ!」
リーチェは、何とかこの局面を打開しようと咆哮をあげながらキャンサーに突進した。だが、キャンサーの腕の一つからリーチェの進路方向に大量の機雷が撒かれる。リーチェは思わず方向展開せざるを得ない。
「させないよ。」
キャンサーの分離腕から放たれた魔導砲は、リーチェが方向展開する直後に機雷へ放たれ、機雷が爆発する。リーチェは、その爆風により、制御が甘くなる。
「隙ありだね。」
キャンサーから放たれた魔導砲は、タウロスに直撃した。
「きゃあっ!」
リーチェの悲鳴が通信に響き、レイディアントは即座に撤退を決断した。だが、撤退するためにも、今のままでは不可能である。
レイディアントは、タウロスとキャンサーの間に魔導障壁を展開しながら割り込み、キャンサーの追撃を食い止める。
「リーチェ!」
「レイディアント様、申し訳ありません!」
「謝る暇はないっ!」
「はいっ!」
リーチェは、再び奮起し、タウロスが再び加速する。しかし、リーチェの動きは荒くなっており、どちらかといえば、暴走寸前のような動きだった。
リーチェは、キャンサーに突っ込むが、キャンサーの両腕による攻撃に翻弄され、反撃を受ける。その繰り返しであるものの、反撃を受けることが分かっているため、魔導障壁を上手く展開しながら耐えていた。
「まだ堕ちないなんて、なんて硬さだ。」
タウロスとキャンサーの戦いは、圧倒的にキャンサー有利となっている。そして、本当にタウロスがピンチになると、レイディアントが割って入ってタウロスを守っていた。
レイディアントは、銀河五指に入るアレクシスとロジャーを前にして、タウロスを守りながら戦っていた。それだけでも、どれだけレイディアントが異常であるかを理解できる。
「こりゃ、化け物だな。」
「あぁ、認めざるを得ない。レイディアントは、間違いなく強者だ。」
ロジャーは内心で笑っていた。
レイディアントがアレクシス並に強いことは、戦っている中ですぐに気付いたのである。
新型魔導機ジェミニは、敵の思考を読む。だからこそ、敵が何を考え、どのように動くかが分かる。しかし、アレクシスとレイディアントの思考は、他の魔導操縦士と比べても、心を読みづらかった。
だが、読みづらかったとはいえ、敵の思考を読めることに変わりはない。ロジャーは、レイディアントが何を考え、どこへ動こうと考えているのか、凄まじい速度で考え続けていることを読み取っている。
敵の心を読んでいるのなら、ロジャーの技量からすれば、すぐに終わるはずだった。たった一発の魔導砲の一撃で、致命傷を与えることは可能であり、すぐに終わるはずである。だが、ロジャーの技量を持ってしても、レイディアントは超反応で避け続ける。
レイディアントは、魔力を広げ、知覚できる範囲を広げているのである。ロジャーも、同じことをやっているものの、レイディアントの反応は、ロジャーの技量を上回っていた。
「随分と勘のいいやつだ。」
「それはどうも。」
レイディアントは、ロジャーの攻撃を避け続ける。ロジャーは、思考を読ながらレイディアントの動きを追っていくが、その都度、高速回転する思考にロジャーは惑わされ、レイディアントに攻撃を避けられていた。そのことに気付いたロジャーは、思わず笑う。レイディアントの思考を読めるということが、かえって足かせになってしまう事態に陥っているのである。
「馬鹿げてるなぁ!だが、てめぇは、最高のヤローだぜ!」
ロジャーは、こんな楽しい相手は久しぶりだと心から楽しむ。相手が強ければ強いほど、ロジャーの本性が現れになっていく。
「もっとだ。もっと、俺様を楽しませやがれっ!!」
ロジャーは、魔導操縦士として銀河で五指に入るほどの腕前だからこそ、敵に物足りなさを感じていたのである。今までの敵は、簡単に壊れ、簡単に奪うことができた。レイディアントの腕前は、ロジャーを喜ばせた。
レイディアントは、しばらくの間、アレクシスが牽制程度の動きにとどめていることに気付いていた。アレクシスが、レイディアントの隙を狙っていることを理解しているからこそ、レイディアントはロジャーに対して強気の攻撃ができない。攻撃する時こそ、最大の隙を晒すことになるのだ。
互いに命のやりとりをしている戦場において、均衡が崩れるのは、一瞬である。
アレクシスは、新型魔導機レオの操縦席で、ずっと冷静にレイディアントの動きを追っていた。レイディアントが想像以上に強かったとしても、人であるからには限界点が存在する。アレクシスは、レイディアントの隙を見つけた。
キャンサーに乗るリュカが、タウロスに乗るリーチェに対して、攻勢に出る。リーチェは、追い詰められ、魔導砲の直撃を受けそうだった。だが、当然のように、レイディアントはリーチェを守るために、キャンサーから放たれた魔導砲を止めようと隙を見せたタウロスの前に入り、魔導障壁を張る。魔導障壁は、攻撃を受けた際は、攻撃側に厚みが出る。
アレクシスは、すぐさま別方向からレイディアントに向かって攻撃を仕掛けた。
「そこだっ!」
アレクシスの声に呼応するかのように、新型魔導機レオの魔導炉が咆哮し、膨大な魔力が集まる。魔導機レオから放たれるのは、共和国軍技術陣がレオを見て最も恐れた兵装であった。。
「レオ・ハウリング」
新型魔導機レオに備わった広域殲滅用超高出力魔導砲レオ・ハウリング。恒星の一部を切り取ったかのような銀色の奔流の一撃。
レイディアントは、アレクシスの動きを見ていた。そして、その攻撃を待っていた。レイディアントは、キャンサーからの攻撃を守るために張っていた魔導障壁を解除する。
「何を?」
「しまったっ!」
キャンサーの魔導砲は、アリエスのコットン・アーマーに吸収される。アリエスのコットン・アーマーは、敵の魔導砲を吸収し、自身の攻撃へ変えることができる兵装である。
「専用魔導砲!」
コットン・アーマーでキャンサーの魔導砲を吸収し、自身の魔力を上乗せさせた一撃。その一撃は、強力な一撃であった。だが、その一撃すらも新型魔導機レオの一撃は上回る。
「くっ!」
「どうやら、こちらの力の方が上のようだ。墜ちろっ!」
アリエスの専用魔導砲から放たれた魔導砲は、レオから放たれたレオ・ハウリングに飲み込まれて、アリエスへ直撃する。
「レイディアント様っー!!」
リーチェが叫ぶ。
レイディアントは、迫ってくる一撃がスローモーションで見えた。追い詰められた時にこそ、本性は出る。
(私は負けるのか?こんな男達に…?ふざけるな!私は、こんな男達に負けるわけにいかないんだ!)
レイディアントは、男装した女性である。
だからこそ、男に対する敵対心が心の中に湧いてでる。
アリエスにレオの攻撃が直撃し、爆発が起こる。アリエスの姿が、爆発の中へ消えると、共和国軍側に歓声が上がった。しかし、アレクシスもロジャーも、眉をひそめた。レイディアントの威圧感は、全く消えていないのである。爆発が収まると、そこには無傷のアリエスが存在していた。
「馬鹿な…。」
「マジかよ…。」
「怪物…。」
「ご無事で!」
戦場にいたアレクシス・ロジャー・リュカ・リーチェは、誰もが今の一撃で落ちなかったアリエスの力に驚く。いや、アリエスの力ではなく、レイディアントの力に驚いた。
アリエスの周囲には、巨大な魔導壁が展開されていたのである。レイディアントの銀河一の魔力量は、常識外れであり、レイディアントが全力で魔導障壁を張ったことで、耐えたのである。もちろん、専用魔導砲の一撃で、レオ・ハウリングが弱まわったことも耐えることができた要因ではあるが、それでも、凄まじい力をレイディアントは発揮したのだった。
そのレイディアントは、操縦席で荒い息を吐いていた。レイディアントは、文字通り限界まで魔導障壁に自身の魔力を注いだのである。もはや、レイディアントに魔力は、ほぼ残されていなかった。
(男なんかに負けてたまるか…)
レイディアントは、自身でも意識していなかったが、追い詰められて始めて自身が男性に負けたくないと感情を強く感じ自嘲した。
(そうか、私はそう思っていたんだな。)
新型魔導機同士の戦況は、試造星帆戦艦の艦橋でも見られており、セレスティアもマイナンも、レイディアント達があまりにも分が悪すぎることを理解した。
「このままでは、レイディアント様とリーチェ様の命が危ないです。」
セレスティアの言葉は、マイナンも否定できない。それほどまでに、周りから見ても厳しい状況であった。共和国軍新型魔導機3機に対して、王国軍新型魔導機2機は不利であると改めて理解したのである。
序盤早々に退場してしまった不死身笑のイェーガーが残っていたとしても、数的不利を覆したとしても、新型魔導機の数の差は大きかったことを痛感する。
マイナンは、ブラッドリー准将の再編状況を見ると、無事に後退しつつも、要塞駐留艦隊の再集結に成功させていた。共和国軍の強襲艦隊は、試造星帆戦艦が足止めをして防げており、要塞駐留艦隊は立て直すことができたのである。
共和国軍を防ぐ試造星帆戦艦は、岩石地帯を活用しながら共和国軍の艦隊を足止めしており、単艦で共和国軍艦隊を足止めできる性能は、予想し得ないレベルであった。だが、いくらなんでも試造星帆戦艦にも限界は近づいている。マイナンは、セレスティアに進言した。
「潮時じゃな。撤退すべきじゃ。」
「レイディアント様達が、まだ闘っております。」
「このままではレイディアントの命も危ないも。余力のあるうちに、レイディアントを回収して、撤退すべきじゃ。」
セレスティアにとって、今は王国軍の敗北よりも、レイディアントの命が大事である。
マイナンから見て、レイディアントが命が危ないのであれば、セレスティアが撤退しないことの理由など何もない。
「撤退します。マイナン様、レイディアント様達を回収する作戦を提示して下さい。」
「最大船足でアリエス付近を突っ切れば良い。」
「分かりました。その作戦に行きます。試造星帆戦艦、最大出力!共和国軍を突き抜けます!」
セレスティアは、マイナンからすれば、随分と思い切りの良い人間である。決断すべきときに、すぐさま決断できる人間。さらには、威厳に満ち、まさに他者を従わせ、他者を導く存在として、セレスティアのことを評価する。
セレスティアだけでなく、レイディアントも同じように、他者を導いていく姿勢を自然と打ち出していく。マイナンは、もう老人であり、若者達の姿を眩しく感じた。
試造星帆戦艦の星帆に、光が溢れ出す。最大加速の予兆であり、瞬時にレイディアントはマイナンの意図に気付いた。
レイディアントは、魔導機同士の戦いの中で、戦場全体を見渡してもいた。レイディアントが怪物である所以であり、後から気付いたアレクシスが脱帽する能力である。
「逃さない!」
「逃がすかよっ!」
「させるかー!」
レイディアントは、残り少ない魔力で魔導障壁を張りながら進む。
「私を置いていって下さい。タウロスは、短距離加速は速いですが、長距離はアリエスに数段、遅くなります。」
「リーチェ、いいから私に黙って着いてこいっ!」
「は、はいっ。一生、着いていきます。」
リーチェは、逃走中であるものの、レイディアントの言葉に目を蕩けている。そのため、素直にレイディアントの動きに身を委ねていた。
直後に、試造星帆戦艦が戦場を横切り、アリエスは取っ手を掴む。最大船足の試造星帆戦艦は、新型魔導機よりも動きが速いため、あっという間に戦場から離脱した。
「ブラッドリー!今じゃ、一斉斉射せよっ!」
「げぇ、マイナン様!?」
「早くせいっ!」
「い、一斉斉射っ!」
ブラッドリー准将は、若い頃、マイナンにこっぴどく叱られた過去があり、条件反射でマイナンの指示に従ってしまった。だからこそ、共和国軍の動きは止まり、レイディアント達は悠々と脱出できたのである。
共和国軍は、レイディアント達を見送ることしかできない。あと少しで、アリエスとタウロスを撃破もしくは拿捕できたというところで、ギリギリで逃げられたため、悔しい気持ちになるも、作戦は成功である。
共和国軍は、ガルガンチュア要塞を奪取し、要塞駐留艦隊をガルガンチュア要塞の宙域から追い払ったのだ。
「あの優男、やりやがるな。」
「あぁ、私は三度も取り逃している。戦闘時の魔力量を測定したが、私は貴様を大きく上回っていた。銀河一だろうな。」
「ちっ。帝国のジークフリートあたりが聞いたら、喜んでこの戦場にやってきそうだな。」
「皇帝が許可しないだろう。あの男は強いが、こういった戦場には致命的に向かないからな。」
「ちげぇねぇ。」
アレクシスの副官であるリュカは、アレクシスとロジャーの会話を聞いているだけである。そして、毎回、喧嘩ばかりする二人の息が合うやりとりに、共和国軍の人事に感心するのだが、リュカは心の中に留めるのだった。
戦場から遠ざかるレイディアントは、レオ、ジェミニ、キャンサーの魔導機を最後まで見続けていた。3機が追ってこないのは分かっているものの、事実上、敗北を喫した相手であり、レイディアントは悔しがったのである。
(次は、負けない。あんな男達に負けてなるものか。)
レイディアントは、もうはっきりと意識している。心の中にあった、男に負けたくないという感情をレイディアントは認識しており、男達の中でもアレクシスとロジャーにだけは負けたくなかった。
その感情に引きづられるように、アリエスの魔導核は淡く輝くのだが、レイディアントは気付かない。
いずれにせよ、レイディアントは生き残ったものの、共和国軍に負けた。銀河に金狼が誕生するまで、あと僅かの時間の出来事だった。




