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銀河魔導機戦記 〜断罪された悪役令嬢とともに、最強魔導機で銀河を統一する物語〜  作者: 蒼井 halu
第一章 金狼と魔導機アリエス

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029.共和国軍名将ギルベルト

共和国軍統合作戦本部の会議室には、共和国軍の軍上層部が集まっていた。壁面を覆う巨大な戦術スクリーンには、王国と共和国の国境宙域が映し出されている。その中心に浮かぶのは、王国軍最大の防衛拠点、王国が誇る難攻不落のガルガンチュア要塞だった。


共和国軍としては、既に王国軍が誇る難攻不落のガルガンチュア攻略を決定している。だが、その攻略方法を巡って議論が行われていた。最も有効的と思われる策を提示ひたのは、テレビ通信で将官として参加しているアレクシスの作戦案である。何名もの将官が参加しており、様々な作戦が提案されるが、アレクシスの作戦は群を抜いて有力候補であった。


アレクシスが提案したロジャー・ファルコンが構築した買収網を利用し、要塞内部から防衛機構を無効化する。その隙に《ジェミニ》《レオ》《キャンサー》を投入し、一気にガルガンチュアを陥落させる。軍事的損失も少なく、極めて有効な作戦だった。アレクシスの作戦であれば、ガルガンチュア要塞は無力化され、防衛機能を失うことになる。アレクシスの作戦は、軍事的にも有効な作戦であった。


だが、会議室最上席に座る男は、静かに首を横へ振った。共和国軍最高司令官であるギルベルト元帥である。ギルベルト元帥は、共和国建国以来の最高の名将と称される男であった。


ギルベルトは、王国軍との戦いに何度も参戦しており、そのたびに王国軍に勝利してきた名将である。王国軍を何度も壊滅に追いやり、ギルベルトさえいなければ、王国と共和国との国境は大きく変わっていた可能性すら囁かれた男である。


共和国軍戦艦100対王国軍戦艦5000。

若い頃のギルベルトは、圧倒的な戦力差にもかかわらずら奇襲による撹乱を繰り返し、粘り強く耐え、王国軍が苛立ちながら一気に攻勢をしかけたところで本営へ強襲し勝ったこともある。


何度も何度も価値続けてきたからこそ、ギルベルト元帥の言葉は重い。ギルベルト元帥こそ、共和国軍の意思決定なのである。そのギルベルト元帥は、アレクシスの作戦案を却下した。


「却下だ。」


静かな声である。

アレクシスの作戦案よりも代案がないにもかかわらず、却下したことに対する異論を誰一人として挟めない。アレクシスも、ギルベルト元帥の指示には従うものの、理由だけは知りたかった。


「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


ギルベルトは頷いた。

すでに別の作戦案がギルベルト元帥の中で出来上がっていたのである。


「アレクシス准将の提案した作戦案は見事だった。だが、ガルガンチュア要塞を陥落することはできても、奪取することはできん。私は、ガルガンチュア要塞を共和国軍の要塞としたいのだよ。」


アレクシスだけでなく、多くの将校が、さすがにそれは不可能だと思う。いや、出来なくはないが、あまりにも犠牲が大きくなると考えたのだ。


ギルベルトはゆっくり立ち上がった。

年齢は五十を超えている。だが、その存在感は会議室全体を支配していた。


「難攻不落のガルガンチュア要塞の価値は計り知れない。この要塞を共和国のものとすれば、戦略的価値は計り知れない。ゆえに、再度、諸君に作戦案を考える時間を取らせる。」


ギルベルト元帥は、一時的に会議室から席を外した。

元帥として、共和国軍を導く者として、後進を鍛えることも必要なのである。部下達に様々な議論をさせ、ガルガンチュア要塞奪取の作戦案を考えさせる。


アレクシスは、戦術の天才である。

ガルガンチュア要塞の奪取案は、思いつくものの、共和国軍の多大な犠牲を必要としていた。だが、それでは駄目なのだ。難攻不落のガルガンチュア要塞を共和国軍の損害を少なくして奪取するという神業。その方法をアレクシスは導き出す。アレクシスは、すぐさま作戦案を作り直し、ギルベルト元帥が戻ってくるまでに作戦案を提示する。


「さて、ガルガンチュア要塞奪取を前提とした作戦案は、まとまったかね?」

「議論はまとまっていませんが、作戦案を考えました。お聞き下さい。」


アレクシスが提案した作戦案は、多くの将校を唸らせた。アレクシスの作戦案であれば、ガルガンチュア要塞の奪取が可能に思えたのである。


「見事だ、アレクシス准将。」

「ありがとうございます。」

「だが、その作戦案を捕捉させてもらおう。」


アレクシスが戦術の天才ならば、ギルベルトは戦略の天才なのだろう。局地的な力は、間違いなくアレクシスが強いが、壮大な宙域においてはギルベルトが上である。


ギルベルトは、宙域図を拡大し、新たな航路が表示される。王国軍の哨戒宙域の隙間を縫うように無数の赤い線が伸びていた。艦隊として移動するのではなく、無数に分かれた艦隊が一カ所に合流するのだ。


アレクシスは、ギルベルトが何を考えているのきを察した。アレクシスが考える以上に大規模な攻勢をギルベルトは考えていることを。ギルベルト元帥の立場だからこそできる戦略を考えていたのだ。


「まさか……。」

「共和国軍主力を秘匿したまま…。」

「そうだ。主力艦隊を数週間に分けて、分散移動させる。民間や補給艦隊に偽装するのも良いだろう。最後に集結させる。だが、それだけではない。」


宙域図には、ゆっくりと堂々とガルガンチュア要塞に向かう赤い線がある。


「王国軍を釣り出すのですね。」

「それだけではない。共和国軍の狙いは、別の場所にあることを宣伝する。すると、姿が見えない共和国軍を相手にするため、ガルガンチュア要塞への援軍の位置を変えなければならない。ガルガンチュア要塞内部も、外部も、王国軍を減らす。そこからの共和国軍による強襲により、ガルガンチュア要塞を奪取する。」


ギルベルトが名将たる所以。

戦略の天才と呼ばれる所以を、部下達は目の前で見た。ギルベルトの視点は局地的ではなく、大きな盤面で物事を見る。


ギルベルトは、戦術で負けたとしても、戦略で勝つタイプである。小さな敗北よりも、大きな勝利を目指す。恐らく、釣りに出す部隊は、わざと敗走する役目を負うのだろう。大艦隊を率いるのも、すぐさまガルガンチュア要塞を拠点化し、王国へ攻めるための橋頭堡にするつもりなのである。


長きにわたる共和国と王国の戦いは、ギルベルト元帥が終止符を打つかもしれないとまで思わせる電撃的な作戦だった。


この時、ギルベルトは独自の情報網により、他の誰よりも王国軍内部のことを理解していた。ロジャーの王国軍人の買収計画もあるのだが、ガルガンチュア要塞には、貴族間の出世争いがあったのである。ガルガンチュア要塞の内部と外部で争っており、どちらも我の強い貴族がトップであることを知っていたのである。


ギルベルト元帥は、王国軍が出世のために、簡単に釣り出せることに気付いていた。だからこそ、ギルベルト元帥の作戦により、ガルガンチュア要塞を奪取することを思いついたののである。


作戦案が決まりかけたところで、アレクシスが発言した。


「一人だけ、この作戦に気付く可能性がある男がいます。」


アレクシスが名前をあげようとしたのは、レイディアント・シリウス。アレクシスの発言であるため、誰もがその名前を思い浮かべる。だが、ギルベルトは首を振った。


「アレクシス准将が言いたいのは、レイディアント・シリウスかな?」

「おっしゃるとおりです。私は、あの男と対峙したからこそ、分かります。あの男は、こちらの行動を読み動いていました。今回の作戦も気づかれる可能性があります。」

「実はだな、アレクシス准将。その男だけではないのだよ。もう一人、この作戦に気付くものがいる。」

「マイナン・シリウス。」


会議室が静まる。

ギルベルトとマイナンの因縁は、多くの者が知っていた。


「たしか、引退されたはずでは?」

「マイナンはな、レイディアント・シリウスの祖父であり、試造星帆戦艦ルミナス・ヴェールに顧問として派遣されているのだよ。」

「なんと…」


ギルベルトは、静かに頷き、遠い目をした。

つい昔のことを思い出してしまったのだ。そして、自責の念を込めて、若いアレクシスに語らずにはいられなかった。


「私は過去に三度、王国を大敗させてきた。だがな、完勝という直前で、いつも王国軍を逃がしてしまった。」


歴史的事実であり、誰もが知っていることだった。共和国軍は何度も王国を大敗させ、そのたびに、王国は完全には負けなかった。


「何故だと思う?」


誰も答えない。

その理由は、周知の事実であるからである。ギルベルトは、自ら答え、アレクシスに聞かせた。


「マイナン・シリウスだ。あの男が、いつもいつも、完勝する私の前に立ち塞がるのだよ。マイナンは、奇策も少なく、華やかさもない。だが、確かな目で戦場を見る力がある。最初に気付いてなくても、必ず気付く。戦略と戦術を、土壇場でひっくり返す力をあの男は持っているのだ。粘り強く、何度も敗北しても諦めず、何度も敗北しても立て直し、最後まで食らいつく。私は、マイナンを何度も何度も倒したと思ったが、幾度も生き抜いた。そのマイナンの孫であるレイディアントのことは知らぬが、その血を継いでいると見るべきだろう。だからこそ、分かるのだよ。」


ギルベルト元帥は、まるで王国軍内部を見てきたかのように断言した。


「レイディアント・シリウス、マイナン・シリウスは、こちらの作戦に気付いたとしても、その優秀さゆえに王国軍上官から嫉妬され、その力を発揮できないだろう。奴らが本領発揮するのは、終盤だ。アレクシス、その時は戦術的な力が鍵となる。存分に、その知略、武力を振るえ!」


アレクシスは、無言でギルベルト元帥に敬礼した。

敵に対する想いも全て飲み込み、共和国にとって最善の策を練ったギルベルトに対して心から敬礼をしたのである。


アレクシスがレイディアントに執着しているように、ギルベルトはマイナンに執着していたのだ。引退した因縁の相手が、再び戦場にいる。ギルベルトは、今度こそ完勝したいのである。


アレクシスは、ガルガンチュア要塞の奪取に拘っていなかったが、ギルベルトの話しを聞いてガルガンチュア要塞を奪取するために死力を尽くすことを決めた。


ギルベルト元帥の作戦案で共和国は動き出す。

共和国の大統領へ、すぐさま作戦許可のために承認を得る。その作戦案は、さらにブラッシュアップされ、王国軍のスパイは悩むことになる。


共和国軍は、別の星域へと軍を進めるために準備をしていたのである。王国軍のスパイとしては、ガルガンチュア要塞への攻勢の可能性、別の星域への攻勢の可能性をそれぞれ伝えることになる。王国軍は、ガルガンチュア要塞の守りを固めるつもりであったが、兵を分散せざるを得ない。


ギルベルト元帥、アレクシス、共和国軍の面々は、王国軍の動きを見て、作戦どおりに進んでいることを確信したのだった。


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