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銀河魔導機戦記 〜断罪された悪役令嬢とともに、最強魔導機で銀河を統一する物語〜  作者: 蒼井 halu
第一章 金狼と魔導機アリエス

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017.星帆の救出作戦

共和国との国境付近に位置する惑星リムベルは、軍事的価値の低い星とされていた。

大規模な魔導鉱脈があるわけでもなく、主要航路の中継点でもない。農業用の居住区と小規模な工業都市が点在するだけの、王国辺境にありふれた植民星である。


だからこそ、そこに暮らす者たちは戦争から半歩だけ離れて生きている。だが戦争とは、価値の有無を問わず、唐突に人の生活を踏みにじる。


共和国軍はリムベル方面へ威力偵察を仕掛け、偶発的な戦いが発生した。王国軍守備隊は予想以上の圧力を受け、後退した。軍事的価値のない惑星であるため、共和国軍は見向きもしないはずだった。だが、功績を欲しがった共和国軍の将校は、その惑星を占拠しようとする。王国軍は後退したが、その後退は軍事用語で言えば撤退であり、民間人にとっては置き去りであった。


王国軍第九軍事拠点へ救援要請が届いたのは、王国軍撤退開始から六時間後だった。

守備隊の一部は既に軌道上へ上がり、残された民間船団は港湾区で発進許可を待っていた。だが、共和国軍前衛艦隊が軌道を押さえつつあり、民間船だけでの脱出は困難となっている。


かといって、時間をかければ、避難民は共和国軍占領区域へ取り残される。王国軍司令部は、試造星帆戦艦ルミナス・ヴェールへ出撃命令を出した。


「民間船を引っ張る、ですか?」


艦橋でセレスティア・ヴァレンタインが静かに確認した。

セレスティアは、正式な軍人ではないが、ルミナス・ヴェールに艦長登録されてしまった以上、軍は彼女を少佐待遇として扱うしかなかった。


セレスティアとしては、その事実を受け入れきれていないが、艦長席へ座る姿は妙に板についている。王妃教育で叩き込まれた姿勢と判断力が、なぜか、艦橋勤務に応用されていた。


「はい。民間船団は自力で包囲を抜けられません。ルミナス・ヴェールの星帆航行なら、複数船を牽引して一気に国境内側まで引き込める可能性があります。」


レイディアントが答えた。金色の髪を軍帽の下へ収め、エメラルドグリーンの瞳で戦術図を見つめている。


レイディアントは王国軍中尉であり、シリウス男爵家の現当主であり、黄金羊型魔導機アリエス唯一の搭乗者である。だがこの艦橋では、さらに一つの肩書きが加わっていた。マイナン・シリウス元提督の孫、である。


艦橋上段の顧問席には、白髪の老軍人が座っていた。マイナン・シリウス。かつて王国軍で名を馳せた老提督であり、レイディアントの祖父である。厳格な顔立ち、鋭い目、無駄のない姿勢。年齢を重ねてもなお、艦橋にいるだけで空気が締まる人物だった。マイナンは戦術図を見つめ、低い声で言った。


「常識的に考えるなら、まず護衛艦隊を先行させ、共和国軍前衛を牽制する。その隙にルミナス・ヴェールが民間船を接続し、段階的に離脱する。アリエスとタウロスは、艦の近傍防御に徹するのが常道でしょうな。」


それは堅実な作戦だった。

救出作戦において最も重要なのは、民間船団を守ることである。無理に敵を攻撃する必要はない。艦の周辺に防衛線を築き、敵を近づけず、時間を稼ぐ。教本に載せてもよいほど、妥当な判断だった。だが、レイディアントは静かに首を振った。


「それでは間に合いません。共和国軍は既にリムベル軌道の外縁に散開しています。艦隊による牽制には時間がかかります。今回の作戦は、速度を重視しなければなりません。」

「では、どうする?」


レイディアントは戦術図に二つの矢印を描いた。一つは黄金色。もう一つは深紅。アリエスとタウロスを示す表示だった。


「二機で別方向から共和国軍を攻撃します。アリエスは正面の魔導砲部隊を引き受け、コットンアーマーで砲撃を吸収しながら敵艦隊を一時的に後退させます。タウロスは反対側から突進。敵が密集している今なら、多少方向がずれても必ず敵に当たります。」

「なるほどの。言い方は雑だが、タウロス運用としては極めて正しいのかもしれないの。」


セレスティアも戦術図を見つめる。


「共和国軍を欺くため、守るのではなく、両側から攻めるのですね。共和国軍は、マイナン元提督の考えた作戦をとるだろうと予測するはず。その逆手をとるのですね。」

「はい。共和国軍に、こちらが民間船牽引の準備をしていると悟らせないためにも、こちらが攻勢に出たと見せる必要があります。敵が二機への対処で一時的に距離を取れば、ルミナス・ヴェールが民間船団を引っ張り、安全圏まで誘導できるでしょう。」


マイナンの目が戦術図をなぞる。艦艇配置、敵機動予測、民間船団の位置、星帆展開までの時間。そのすべてを頭の中で組み合わせている。


マイナンは常識的な作戦を提示した。それは無能だからではない。救出作戦では、無茶を避けるのが基本だからだ。だが、レイディアントの策は無茶ではなかった。大胆ではあるが、アリエスとタウロスという非常識な戦力を前提にすれば、合理性がある。やがてマイナンは小さく笑った。


「敵に守る姿勢を見せず、攻撃姿勢のみを見せるか。しかも、タウロスの欠点まで戦場条件で消す。面白いのぅ。」


マイナンは立ち上がり、艦長であるセレスティアに向かって話す。


「採用してはどうかな?アリエスとタウロスは別方向より共和国軍前衛を攪乱。ルミナス・ヴェールは民間船団との接続準備。護衛艦は敵主力と民間船の間へ展開でどうだろうか?」

「この艦のトップは、レイディアント様です。ですので、レイディアント様の指示に従います。」


レイディアントは、肩を竦める。

セレスティアは、少佐待遇なのである。レイディアントは、中尉のため、階級はセレスティアが上だ。だが、セレスティアには軍事知識はない。率いるのは、次に階級の高いレイディアントになるべきだった。


「この作戦で行きます。星帆展開の準備!」

「かしこまりました。星帆展開!」


セレスティアは凛とした声で答えた。

マイナンはレイディアントへ視線を戻す。その目には、厳格さと誇りがあった。


「さすがシリウス家の男子よ。戦場を盤面として見る目があるのぅ。」


レイディアントは一瞬だけ言葉を失った。

胸の奥が複雑に揺れる。祖父は自分を男子だと信じている。誇らしげに褒められるたび、嬉しさと痛みが同時に走る。訂正する機会は、いつも遠ざかる。今もそうだった。戦場へ向かう直前に、言えるはずもない。


「ありがとうございます、お祖父様。」


そう答えるしかなかった。

マイナンはわずかに目を細めた。ふと、彼はレイディアントの指先が一瞬だけ震えたことに気づいていた。普通なら見落とすほど小さな変化である。だが彼は、若い士官の呼吸の乱れ、艦橋員の視線の揺れ、部下が隠す疲労まで見抜いてきた男だった。


「レイディアントよ。」

「はい?」

「無理をするなよ。」


その一言は、軍令ではなく祖父の声だった。

レイディアントは少しだけ微笑んだ。


「努力します。」

「その返答は、信用ならんの。」


艦橋に小さな笑いが広がった。

緊張がわずかに解ける。マイナンはそれも見逃さなかった。戦場へ向かう兵士たちには、ほんの少しの笑いが必要だ。恐怖を消すことはできない。だが、恐怖だけで満たされた艦橋は判断を誤る。


数十分後、ルミナス・ヴェールは星帆を折り畳んだままリムベル宙域へ突入した。前方には、共和国軍前衛艦隊。下方には、脱出できずに港湾軌道で待つ民間船団。背後には、追いつきつつある王国軍護衛艦。時間はなかった。


アリエスが出撃する。

黄金の機体は専用魔導剣ゴールデンフリース専用魔導砲ラムレイを装備し、静かに宇宙へ滑り出た。反対側では、タウロスが深紅の推進光を噴かせている。リーチェの通信が入った。


『レイディアント中尉、私、頑張ります!』

「突進方向に注意してください」

『はい! 敵がいっぱいなので大丈夫です!』


確かに、今回はそうだった。レイディアントは思わず苦笑した。タウロスにとって、初めて理想的な戦場がそこにあったのである。


共和国軍前衛艦隊は、当初、王国軍の動きを防御的な救出作戦と判断していた。

民間船団を抱えた敵は大胆な動きが取れない。そう考えるのは自然だった。守るべきものがある軍は鈍るのは、戦争の常識である。共和国軍指揮官は王国軍護衛艦の配置とルミナス・ヴェールの進路を見て、民間船団への接続を阻止するため、包囲を狭める命令を出した。


その瞬間、アリエス黄が正面から飛び出した。共和国軍魔導機部隊が即座に反応する。


『黄金羊を確認!』

『アリエスだ!』

『魔導砲撃は注意しろ! 吸収されるぞ!』


共和国軍は既にコットンアーマーの情報を共有していた。

魔導砲を撃てば吸収され、場合によってはその魔力が反撃に使われる。前回の戦闘で巡洋艦が一撃で沈んだ記憶は、共和国軍に深く刻まれていた。だが、撃たなければ接近を許す。接近すれば、専用魔導剣がある。どちらも危険だった。


レイディアントはその心理を利用した。

アリエスが真正面から敵陣へ向かう。魔導砲が数発、ためらいがちに放たれた。アリエスは避けない。白い綿毛のような魔力層、コットンアーマーが装甲表面に広がり、砲撃を包み込む。青白い魔力が柔らかな光に吸い込まれ、黄金の機体内部へ変換され、アリエスが輝きを増す。


「吸収確認。魔導砲ラムレイへ蓄積魔力を回します。」


レイディアントは冷静に呟いた。

前回とは違い、今は専用魔導砲がある。吸収した魔力を暴発させるのではなく、制御して放つことができる。レイディアントは魔導砲ラムレイを構え、敵艦隊の前方空間へ向けて低出力射撃を行った。黄金の光が共和国軍魔導機部隊の進路を横切り、空間に残留魔力の帯を作る。


『直撃ではない!』

『進路妨害だ!』

『距離を取れ!近づくな!』


共和国軍部隊が散開す。

アリエスの目的は撃墜ではなく、敵を後退させること。民間船団から距離を取らせるため、レイディアントはあえて敵の中央ではなく、進路と通信中継点を狙った。魔導砲ラムレイの威力を見せつけながら、敵に「近づけば撃たれる」と思わせる。

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