第1話 ???
「えー! グラちゃん、やられちゃったの!?」
青紫色の空間に、少女の声が響き渡った。
周りには崩れた遺跡のような建造物がそびえ立つ。足元からは光の粒が途切れることなく舞い上がり、空へと上っていく。
頭上には広大な星々。銀河のようなものも見え、そこに光の粒が舞うことで、幻想的な光景を作り上げていた。
おおよそこの世のものとは思えないような場所で、遺跡の柱のてっぺんであぐらをかいていた少女が、何もない場所に向かって声を張り上げていた。
「ニンゲンがどうこうできる子じゃ、ないと思うのよ」
『…………』
「えー! ママの子!? そんなニンゲンいたの!?」
『…………』
「黙るのよ。あなたこそうるさいのよ」
びっくりしたり不機嫌になったり。
子供のように表情を変えるその人物は、まぎれもなく少女だった。
肩まで伸びた桃色のミディアムショートヘア。服は黒が多めで白のフリルがたくさんついた、いわゆるゴシックドレス。肌は白く、少女らしく滑らかで瑞々しい。これだけなら、あぐらをかいた美少女……と言える装いだったが、他の部分でそうとは言えなかった。
頭には角二本がにょきっと生えていて、黒く光沢を放っている。お尻のちょっと上、腰の下部分からは尻尾が出ていて、少女が何か言うたびにふりふりと可愛らしく動いていた。
「ママったら、黙ってないしょにしていたのだわ。意地悪いのだわ」
『…………』
「えー! あたし以外、みんな知ってるの!?」
『…………』
何もないところから、たしかにため息のようなものが聞こえた気がした。少女の抜けっぷりに、呆れたような気配が漂う。
「なによ。言いたいことがあるなら言えばいいのだわ」
ぷくっと頬を膨らませた少女の尻尾が、ばしばしと柱を叩く。力が強かったのか、叩かれるたびに破片が舞い、柱にヒビが入って──
がらぁん、と音を立てて地面に崩れ落ちていった。
少女の姿はない。遠くに立っていた別の柱の上に、すでに移動していた。
『…………』
「ふん、なのよ。脆いほうが悪いのだわ」
『…………』
「えー! 怒られるの!? それはいや! なのよ!」
少女が焦ったようにわきわきと腕を上下させた。
崩れた柱が逆再生のように戻っていく。すぐに元通りの形となり、何事もなかったかのように復元された。
「はぁ……こないだも怒られたばかりなのよ……こりごりなのよ……」
『…………』
「だからうるさいのよ。そうやっていつもあんたは──」
『…………』
「……ふ、ふん。そこまでいうのなら、聞いてあげてもいいの、よ」
頬をほんのり染めてつーんとそっぽを向く。尻尾もぶるんぶるんと回っている。
呆れた気配がさらに色濃く漂った。
「で、ママはなんでそのニンゲンを選んだのよ?」
『…………』
「はぁー、使えないのだわ」
『…………!』
「なによ! そっちこそ棚上げ! 棚上げなくせに! 遺憾なのよ!」
強大な力が場に満ちていく。空間が捻じ曲がり、崩れた遺跡の破片が弾け飛んだ。足元から上がる光が逃げるように離れていく。
しばらく前方をにらんでいた少女だったが──
「はぁ……ここでやり合うのはおバカさんなのよ……怒られたくないのよ……」
がっくし肩を落とすのと同時に、満ちていた力が霧散する。光はおそるおそるといった感じで、ふよふよと元の位置に戻ろうとしていた。
『…………』
「わかっているのよ。こっちも、悪かったのよ」
『…………』
「……でも、そのニンゲンを見たくなってしまったのよ」
『…………!?』
焦ったような気配が伝わってくる。だが、少女は指を顎に当て、楽しそうに何かを想像していた。
「ちょっと見てみるだけなら、別に問題ないのだわ」
『…………!』
「そんなわけだから、あとはよろしくなのよ!」
『…………!』
「わかっているのだわ。角と尻尾を隠すことくらい、朝飯前なのよ」
『……! ……! …………!』
「うるさいのよ。話は終わりなのよ」
少女が立ち上がるのと同時に、気配が消えた。
手が振られる。前方に真っ黒な穴が出現した。
「このあたし、時空神様が直属の時帰神パティちゃんが、面接してあげるのよ」
少女は目の前の穴に飛び込んだ。




