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第14話 理由

「応援が到着するのは夜。念のため、しばらくは夜通し警備する予定だよ」


 並べられた族どもを見下ろしてウィルが言った。ぴくぴくと痙攣したりうなされたりしている者らに、ほんの少し同情の気持ちが湧く。


「はい。怖がられなければようございますね」


 にっこり笑顔でアリスが言った。ウィルの目から光が消える。


「はは、そうだね……本当にそうだね……」

(……今のは皮肉か?)

(いえ、純粋な思いやりかと)

(そ、そっか)


 後ろではミシェルとアレフがこそこそ話していた。アリスが放った痛烈なセリフに、アレフが腕を擦って少し身震いする。


「とにかくよくやってくれたよ。護衛の件も含めて褒賞があると思うから、いずれ王宮へ──」

「必要ありませんわ」

「うむ」


 即時の辞退にウィルが苦笑いをした。予想していたのか、『そう来るだろうな』という表情だった。


「そういうわけにもね。こちらの立場や面目も考えてくれると助かるよ」

「お礼なら、もういただいております」


 アリスが教会の方を見た。笑い声と涙声が聞こえてくる。

 直筆の手紙、手彫りの人形、拙い刺繍が入ったハンカチ。これまで隠していた数々のプレゼントを、笑顔で渡す子供たち。それを大事そうに、涙を拭いながら一つ一つ受け取るアンナ。ケヴィンとおそろいのおもちゃの指輪なんかも渡され、赤くなった目と顔で戸惑いの声を上げていた。


 自然と皆も笑顔になる。護りたかった、見たかったものはすでに届けられていた。


「なるほどね」

「強いて言うなら……今後の政策で応えていただければと」

「それはまた大変な要求だ……だが、努力するよ」


 ウィルが困ったように眉を下げ、しかし決心した表情で腰に手を当てる。


「しかし……どうしてここが狙われたのでしょうね」


 アレフが疑問を口にした。皆の視線が集まる。朗らかな空気は一転、真剣な雰囲気に変わっていく。


「ふむ……言い方は悪いが、わざわざ狙うような価値はないと思える」

「はい、リック様。子供を人質に取ったようでしたが、あまりに乱暴な手口かと」


 リチャードとアリスも、顎に手を当て考え込む。


 人質という手を取るなら教会を占領するか、人目がない夜間にでもこっそり攫えばいい。そもそも大多数に手をかける必要がない。状況にもよるが、人質は多ければ多いほうがいいのだから。

 だが教会は奇襲され、セリアは殺されかけ、残った人質はオスカーくらいだった。これでは何か目的があったとしても、交渉材料には心もとない。

 では快楽殺人なら。それも納得にはほど遠かった。もしそうなら、あんな一瞬で燃やしつくそうとはしないだろう。時間をかけていたぶるはずだ。


「私が相手にした者は、『失敗』と口にしておりました」


 ミシェルがブラムを見て、読み取っていた言葉を皆に伝える。


「失敗、か」

「まるで教会そのものが目標だったみたいな言い方ですね」


 言葉を反芻して意図を掴もうとするが、漠然とした形にしかならなかった。判断するには材料が足りない。


「それなんだけどね……狙いは私だと、スチュアート嬢には言ったね」

「はい、ウィルフィード様」

「本来なら、私はその時間ここにいた。だが、急遽予定を変更して──」

「街にいた、と」

「そう。私が狙いなら、人質や交渉は不要。始末してさっさと切り上げる。ただし、いざという時のために一人二人は攫っておく……そう考えると辻褄があう。『失敗』という言葉にもね」

「根拠は……当然、おありですか」

「この立場だとそれなりにね。その相手もおおよそ見当はついている」

「ふむ」


 リチャードが腕を組んで、何か集中するように目を閉じ、やがて開けた。


「ではこの鬱陶しい視線の主に──いや、お待ちを」

「どうした?」

「なにかが近づいてきますわ」




「ぐっ……まだ着かんの、か」


 尻を突き上げるような振動を忌々しく思いながら、レオナルドが腰を踏ん張り前のめりになって声を出す。


「もうすぐです、殿下」


 前に座る運転士が答えた。慣れた手付きで手元にある操縦桿──ステアリングをちょいちょいと動かして、進路を細かく修正する。途中で馬車ともすれ違ったが、器用に回避していた。


「もっと出せるはずだろう。走行試験では今よりも速かった」

「仰るとおりです、殿下。ただ、あれはきちんと舗装された道の上、なおかつ人払いがされたテストコース上での話です」

「む……」

「このような一般道では、これが限界ですよ」


 二人を乗せた魔導車は孤児院への道──野に作られた未舗装の道を進んでいた。窓からは豊かな自然が見え、夕日と言っても差し支えないくらいに色づいた陽光が差し込んでくる。


 レオナルドが言ったとおり、この魔導車の性能限界はもう少し上。王都北部に設けられたオーバルトラックでは、信じられないくらいの速度を記録した。唯一輝いていた瞬間だ。


 だが、あくまで整備された実験場での話である。砂利も障害物もなく、車の性能を測るためだけに用意された実験施設。王都周辺は着実に舗装が進んでいるが、少し離れるとまだまだ昔名残の──馬車時代の道が目立つ。そう、この道のように。


 そんな道で速度は出せない。出せる条件が整わない。人や馬車はもちろん、野生の動物もいるし魔物だっている。それもまた、運転士の言うとおりだった。ついでに伝わる振動からも。


 レオナルドはそれ以上の反論ができず、むっつりと押し黙った。


「そうそう、ここだけの話ですが……なにやら、これを使った事業計画があるそうですよ」

「なに?」

「弟君様──ウィルフィード第二王子殿下がぽろりと漏らしておりました」

「ウィルがこれを? ……なにに使うんだ?」

「さぁ……そこまではわかりかねます」


 どすん、と背もたれに体重を預けて、レオナルドが腕を組み考え込む。

 これを……こんなものを何に使うというのだろうか? 少し速度を出そうものならがたがたと揺れ、燃費も悪けりゃコストもかかる。車内は狭く、要人の送迎や輸送にも向かない。いくら考えても思いつかなかった。


(いや……)


 そもそも、もうそれが実現することはない。あの炎の威力は桁違いだった。ただでは済まないだろう。ウィルは死に、その計画は頓挫する。立案者本人がいなくなるのだから。

 そして自分も、もう政策に関わるようなことはこの先ない。失敗作は失敗作のまま終わる。この魔導車のように。

 気がかりなのは国のこと。このままではデイモンの言葉通り、本当に初の女王になってしまうのかもしれない。両親ももう歳だ。新たな生命は期待できなかった。


「見えてきましたよ殿下」


 暗澹たる気持ちに沈みそうになったが、その声で面を上げた。

 それでも今はまだ、第一王子という身分である。無様な姿を見せることはできなかった。


「そうか。ではここまででいい。俺が一人で行く」


 『止めろ』と言われた運転士が困った表情になる。


「そういうわけには……せめて護衛の到着を──」

「急ぎなんだ。 ……なにもお前にまで見せる必要はない」

「それはどういう──」

「いいから止めてくれないか……」


 運転士は迷ったが、普段のレオナルドからは想像できないような弱々しい声に、それ以上は何も言わず大人しく魔導車を減速させた。

 道と草原ぎりぎりのところに寄せてから停止。計器類をチェックしてドアを開ける。本来は先に降りてエスコート──つまりドアマンの役割も果たすべきだったが、レオナルドから『不要だ』と言われ、運転席からの操作で後部ドアを開く。


「突然ですまなかったな」


 降りる直前、レオナルドが声をかけた。このような関係も今日で最後と思うと、声をかけずにはいられなかった。

 前部と後部とを隔てる仕切りを下ろし、運転士が振り向いてにこやかな表情をする。


「いえ、お気になさらず。 ……しかしなにやら子供たちが集まって、楽しそうな雰囲気ですね」

「……は?」


 彼が何を言っているのか、レオナルドには理解できなかった。




 アリスらの前に、一台の魔導車がゆっくりと走ってくる。今日も含め、アリスもこれまで何度か乗ってきたが、その形には目を白黒させた。

 子供たちは驚いたのか、ケヴィンやアンナの背後に隠れてしまったが、誰もがその目をきらきらと輝かせて覗いていた。初めて目にする物体に興味津々な様子である。


「どうしてあれが……いや、まさか」

「ウィルフィード様?」


 ウィルが魔導車をにらんでぶつぶつと独り言を漏らす。アリスの問いかけにも返答がない。


 そうこうする内に、全員の目の前で停車した。ドアが開き、人影が姿を現す。

 すでに探査魔法によって確認は済んでいたこと、車体に付いた王家の紋章もあって悪い印象はなかったが、それでもアリスやミシェルは少し身構え──

 出てきた人物を見てすぐに拝跪の姿勢を取った。ケヴィンやアンナも同様である。

 周りの大人の反応に、子供たちも慌ててべちゃっとその場に身体を伏せた。腕を伸ばしたりごろ寝のようになったりと、姿勢は少々おかしかったが、準備時間もなかったので仕方ない。


「ウィル!」


 魔導車から降りたレオナルドは、一目散にウィルのもとに駆け寄った。膝に手を付き、肩を落として安堵の息を吐く。


「やはり兄上でしたか」

「はぁ……無事だったんだな……心配したんだぞ……」

「……みんな楽にしていいよ」


 レオナルドの言葉には答えず、跪いたままの周囲に合図を出す。兄の態度と言葉に、優秀な弟は全てを察していた。


「……やはり、同行した令嬢というのは彼女のことだったんだな」


 レオナルドが納得したような視線をアリスに向ける。姿勢を戻したアリスは黙って頭を下げた。

 次に、レオナルドは転がされている男どもを見て、


「その者らが、ここを襲った族か」

「はい、王子殿下」

「……そうか」


 今度はレオナルドが頭を下げた。


「すまなかった……弟を、皆を守ってくれたことに感謝する」


 軽く、ではなく腰を曲げ深々と。数秒経っても戻そうとせず、そのまま地面を見続けていた。

 アリスが戸惑う。隣を見るが、見られたリチャードも首を捻った。いきなり現れていきなり謝罪する。行動原理がよくわからなかった。


「頭をお上げくださいませ、殿下」


 とりあえずこのままなのは良くないことだけはわかる。まだ頭を下げているレオナルドに、気まずくなったアリスが声をかけた。ウィルからも助け舟が出る。


「それで、兄上はどうしてここへ」

「……すまない、全て俺の責任だ。宰相が──いや、言い訳だな」


 せっかく頭を上げたというのに、口に出た言葉はまた謝罪。

 勘弁してほしかったが、ここに来てなんとなくアリスらも理解し始めた。ピンポイントに狙い撃ってきた敵の動きと、『責任』『宰相』『言い訳』という言葉が繋がっていく。


「兄上、話はあとで──」

「ウィル」

「……わかりました」


 止めようとしたウィルだったが、レオナルドの目を見て引き下がった。決意が込められた瞳。全てをここで話すつもりだ。説得はできそうにない。


 再びレオナルドが周りへ頭を下げた。


「皆、すまない。全てはこの俺が招いたことだ」




 頭を下げたまま告白していく。数日前に宰相と部屋で話したこと、そこで許可を出してしまったこと、普段から抱いていた弟への劣等感、王位に対する執着心。そして今日、襲撃の様子を目にしたこと、それから婚約者からの叱咤、その後この場へ急行したこと。それら一切合切を。

 話している間、突き刺さるような視線が辛かった。特にコンプレックスについては非常に話しにくかった。当然だ、誰だって心の内を吐露するには勇気がいる。


 それでもレオナルドは全てを話した。そうすることでしか償えないと思ったからだ。


「謝罪だけで済まないことはわかっている。無辜の民と、肉親を陥れようとしたのだからな」

「兄上……」

「だがこれは俺の……俺だけの罪だ。弟や国は関係ない。だから恨むなら俺だけで、どうか頼む」


 レオナルドが三度、頭を下げ直した。それしきり黙って、皆の反応を待つ。


 ケヴィンやアンナは戸惑ったように顔を見合わせていた。もちろん、怒りはあるだろう。『孤児の命と引換え』という言葉には、腸が煮えくり返っていてもおかしくない。

 だが、レオナルドの真摯な態度に、どう出ればいいかがわからない様子だった。『人殺し』と罵るのは簡単だが、それをしたところで何が変わるわけでもない。それに立場が違いすぎる。王家からの謝罪など、普通は経験がない。

 子供らはよくわかっていないのか、それとも話に飽きてしまったのか。魔導車をじぃっと眺めていた。駆け寄りたくてうずうずしているようだ。


 アンナらが返答に迷っていると、今度はウィルも頭を下げた。レオナルドの隣に並び、兄弟王子が揃って腰を折る。


「私からも、謝罪するよ……そして勝手かも知れないが、どうか兄を許してやってほしい」

「ウィル!?」


 弟からの言葉に驚愕したレオナルドが、目を見開いて隣を見た。


「もちろん、両親──王や王妃を交えて処遇は決める。これは国の体制問題だからね。でも、兄の悩みや迷いも、少しだけでも理解してくれると助かるよ」

「ウィル……」


 レオナルドはしばらくウィルを眩しそうに見たが、最後にもう一度、皆に向かって頭を下げた。


 その姿に、ケヴィンとアンナが息を吐いて、声を出そうとした時。

 セリアがとことこと王子たちに歩み寄っていった。


「セリア?」

「せ、セリア……待って、待ってください」


 二人が止めようとするが、かまわず近づいていく。そしてレオナルドの前で止まった。

 レオナルドがセリアを見た。血の付いた服に息が詰まりそうになる。こんな小さな子供を。そう思うと、とてつもない後悔の念が彼を襲った。


「……痛かったか」


 振り絞るように言った。


「うん、すっごい痛かった」

「そうか……本当にすまない──」

「だから」


 セリアがぴっと指さして、


「あれに乗せてくれたら、許してあげる!」

「……なに?」


 小さな指の方向を見るのと同時に、『わー』と声を出したセリアが魔導車に向かって走っていった。


「あぁ! セリア、ずるい!」

「私も!」

「お、俺も……!」


 子供たちも全員走り出した。年長者のオスカーまでも一緒だ。我慢の限界だったのか我先にと魔導車に押しかけて、ぺたぺたぺたぺたと車体を触りだした。運転士が慌てて止めようとするが、パワフルな子供たちは手に負えない。

 そのままやりたい放題である。ドアをがちゃがちゃ開けたり、前部にある補器室の上に乗っかったり、内部に入り込んでいろいろな装置を触ったり。その勢いは、魔導車が飛んで跳ねたように見えるくらいだった。


「これなーに?」

「あー! そこダメ! ダメだから!」

「ここはー?」

「そこはもっとダメー!」


 子供たちの歓声と運転士の悲鳴が轟く。アクセラレータであるフットペダルをぐいぐいと押し込まれ、両頬に手を当て青ざめ叫んだ。

 司祭やシスターも手を貸そうとするが、魔導車は技術の結晶である。適材適所、整備士でもない彼らはそのあたり詳しくない。乗る専門だ。もし変な所でも触ってしまったら。

 そう考えると、誰もなかなか強く出れなかった。加えてちょこまか縦横無尽に駆け回る子供たちである。これを追いかけ回さないといけない。予想される疲労に足踏みをしてしまっていた。


「……ウィル」

「こうなるから避けていたんですよ……」

「……すまない」


 それを遠い目で二人が見つめていた。どうしてウィルが魔導車を途中で停めたのか。その答えが眼前に展開されていた。

 ぼやっとする二人にケヴィンとアンナが近づく。まずは子供らの粗相を謝罪してから、真剣な表情になって口を開く。


「子供たちが許すということであれば、私どもからはなにも言いません。ただ──」

「もう二度とこんなことがないように……孤児の待遇についても、どうか……」


 アンナが拳を握りしめ、震える声で言った。まだ完全に許すことはできなさそうだったが、ただのシスターの一存でどうこうできる話でもない。それに王家は王家で様々な苦悩があるのだ。それは十分すぎるほどに伝わっていた。


「必ず約束するよ。ですよね、兄上」

「いや、俺はもう──」

「兄上」

「あ、ああ……」

「君たちも、いいかな」


 ウィルがアリスやリチャードの方を向いて言った。解決してくれたのは彼女たちだ。当事者の意見は確認しておく必要があった。


「王家で話を付けるということで、私からは特に言うことはございません」


 リチャードが腰を折って言った。アレフも同じようにする。


「彼に同じです。……ミシェルも、それでいいわね」

「はい」


 アリスの言葉に、固く目を閉じたミシェルが頷いた。納得にはほど遠そうだったが、王家と主の言葉に黙って従う。

 そんなミシェルに、アリスが腕を取ってくっついた。


「今度一緒にお花摘みしましょ?」

「お嬢様……」

「コリーナを誘ってもいいかしら」

「はい、そうですね」


 まだ少し硬いものの、笑みを見せてくれたことにアリスがほっとする。


「一緒にお花摘み……ってことは──ぐほっ!」


 余計なことを言ったアレフの鳩尾に、ミシェルの肘がめり込まれた。結構な力だったのか、アレフの背中から一歩遅れて衝撃音が飛び出す。


「……今のは貴様が悪い」

「げほっ……ば、場を和ませようとしただけなのに……」


 腕を組んで哀れみの視線を向けるリチャードと、腹を押さえてうめくアレフ。自分たちの世界に浸るアリスとミシェル。人外の力を振るうはずの、少なくともあの炎を防ぐ力を持つ四人のあまりな仕草に、レオナルドは目を丸くした。


「なぁ……だいたいこんな感じなのか?」

「そうですね、兄上」

「なんだかイメージが……」


 もっと人の身から離れた、悟りを開いたような神に近い存在だとレオナルドは思っていたが、目の前の四人はごくごく普通だった。一般人とそう変わらない。レオナルドは認識を改めることにした。


「げぇほ……それで、族とは彼らで全てなのでしょうか」


 咳き込むアレフが問いかける。

 その言葉に、レオナルドが顎に手をやった。

 デイモンは『任せる』と言っていた。捉えた族は四人。あの慎重なデイモンが、こんな少人数で構成された組織を選ぶだろうか? それに『彼奴ら』とも言っていた。そう呼ぶには人数が少なすぎる。


「わからない。だが、これだけではないだろう」


 顔を上げたレオナルドが言った。


「できれば根絶やしにしたいですね」

「そうだなウィル。宰相ならばなにか知っているかもしれんが……」


 可能なら潰しておきたい。今後の憂いもある。報復など、忘れた頃に再び襲ってくる可能性もあった。警備体制は築く予定だが、いつまでもとはいかない。

 場所を移すことも有効ではあるが、住み慣れた地を離れるのも負担が大きい。人間関係の構築はどこでものしかかってくる問題である。それに手続きも時間がかかる。ならばここで叩き潰すのが望ましいのだが……どれくらいの構成か、拠点がどことかはまるでわからなかった。


 頭を悩ませる二人に、リチャードが空を見上げてから、他の三人に目配せをする。

 皆、黙って頷いた。感じる視線にもいい加減うんざりしていたところだ。


「では、その宰相とやらに聞いてみるとしましょう」

「は?」


 レオナルドが間抜けな声を出す。そして目を見開いた。中空、何もないところにぽっかりとできた黒い穴に、リチャードが腕を突っ込んでいたからである。


「そんなとこで高みの見物か?」


 言うのと同時に、リチャードが引っこ抜くように腕を動かした。

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