第9話 最強の……?
「終わった、ようね?」
ぴくぴくと痙攣して泡を吹いているグィンを見て、アリスが戦闘終了を告げた。戦闘というものですらなかったが、まぁとにかく戦いは終わった。
「アリスお姉ちゃん、やっぱり女神様?」
「もう、だから違うってば……でも、どうしましょ? このまま放っておくわけにもいかないけれど……」
縛ってから浮かび上がらせて持ち運ぼうか?
そう考えたアリスがグィンに近寄ろうとして──
ゲートがすぐそばに出現した。
「アリー!」
「リック様?」
なぜか慌てた様子でリチャードが出てきた。
アリスに駆けより、グィンとの間をさえぎるように立つ。リチャードを見たセリアは『はぅっ』と声を出して、アリスにしがみついた。
「ま、間に合ったか……」
「あの、なにか? 想定外でもありましたか?」
「い、いや……な、なんだ……」
リチャードはきょろきょろと、アリスと倒れているグィンを交互に見る。それからあさっての方向を見て、もごもごと口を動かした。
「その、だな……たとえなんであろうと、別の男には触れてほしく、なくてだな……」
「……あぇ」
変な声を出したアリスが真っ赤に染まっていく。もじもじもじと指を這わせ、うつむいてからセリアのほっぺたをむにむにむにと触り出した。
『あぶあぶ』と声を出すセリアだったが、アリスとリチャード二人の様子をじっくり観察し、何かを悟ったかのようにそっと離れて見守ることにする。ちらりちらりと目を合わせては背けている二人より、明らかに大人な対応だった。
「セリア!」
「あ、オスカーお兄ちゃん!」
リチャードと一緒に出てきたオスカーが、セリアを見つけて走り寄る。セリアもその胸に飛び込んだ。
「セリア……よかった……!」
「お兄ちゃんごめん……ごめんなさい、ごめんなさい!」
膝を突いて抱きしめあう。アリスとリチャードが温かい目で見つめていた。
「よく無事だったな」
「あのお姉ちゃんに助けてもらったの。すごかったんだよ! ふわーって! びゃーって!」
セリアが興奮した様子で、いかに凄かったかを身振り手振りで話し始めた。腕と足をぶんぶん振って、なんだかそれらしいポーズを誰もいない場所に向けて取る。
「こっちのおじさんもすげえんだぞ! こう……どがーんってさ!」
オスカーも負けじと両腕を上げてリチャードの活躍をアピールするが、活躍した本人は『くわっ』と目を見開いた。
「待て! さっきも言ったではないか! 俺はまだ──」
「ぷふっ」
「あ、アリー!」
顔を背けて吹き出したアリスに、リチャードがこの世の終わりのような顔をする。『まさか彼女にまで笑われるとは思ってもいなかった』という表情である。
おじさんが──おじさんが──おじさんが──
何度も聞こえてくる嬉しくない武勇伝と、うつむいて必死にこらえているアリスに歯噛みした彼は、『ぐぉほん!』とでかい咳払いをした。
「と、とにかくだな……奴の拘束だ」
気絶するグィンに光が集まり、するすると帯のように手首と足に絡みついていく。そのままぐるぐると何重か巻かれ、解かれないように後手縛りを作っていき、最後には足と手首が結ばれる形となった。なかなかに厳重である。向きが逆なら、豚やイノシシの丸焼き風景に似ていたかもしれない。
それを見たアリスはぱちんと手を打った。そうか、そういう使い方もあるのか、と己の婚約者を称賛する。
同じように結ばれた二人の男が、ふよふよとゲートの方から出てきた。浮かび上がったグィンと合流する。なかよし三人組だった。
「ここでやることは終わった。あとは教会だな」
「そ、そうだ! 教会は! 孤児院のみんなは!」
「アンナお姉ちゃんが!」
リチャードの言葉に、セリアとオスカーが慌てて駆け寄ってきた。話していた時の盛り上がりも静まって、不安そうな表情をする。
アリスが教会の方に目を向ける。それと同時に、地響きのような衝撃が四人に伝わってきた。鳥が一斉に飛び立っていく。
「わわわっ……!」
「な、なんだこれっ!」
王国では地震は珍しい。一度も経験したことがない子供二人は、とりわけ慌てた様子を見せる。
アリスが頬に手を当て首を傾けた。ここから教会はかなり距離がある。にもかかわらず、この揺れっぷり。どうやらかなり頭に来ているようだ。
「大丈夫かしら……」
ぽつりと言ったアリスの言葉に、『ふぇっ』とセリアが泣き出しそうになる。
「あんな、おね、ちゃ……」
「あ、そ、そうじゃないの……ごめんなさいね」
急いでその身を抱きしめる。セリアは顔を押し付け、アリスの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫よ。あっちにいる人も、同じくらい強いから」
「ほんと?」
「ええ」
溢れそうになっていた涙を指で拭ってやる。セリアはもう一度、むぎゅっと抱きついた。
「大丈夫は大丈夫なんだけど、ね……」
ぽんぽんと小さな背中を叩くアリスが、遠い目をして空を見上げた。先ほどの地響き。どちらかというと相手の身の方が心配である。
「向こうにはアレフもいる。大事にはいたるまい」
「はい、リック様」
引っ付くセリアを立ち上がらせ、四人は教会を目指すことにした。
「ふむ……ゲートを出してもいいのだが……」
「リック様?」
顎に指を当ててリチャードが考え込む。少しばかりの後、オスカーの頭に手を乗せ、顔を上げて言った。
「巻き添えもごめん被るゆえ、邪魔にならないよう空から行くとしよう。それにせっかくだしな」




