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第13話 お買い物タイム

 馬車に揺られることうん十分、四人は街に着いた。規模はそれほどではないものの、活気に溢れた威勢のよい売り買いの声が聞こえてくる。


「ここでいつもお買い物をしていますが、定期的に届けにも来てくれます」

「けっこう離れているね。不便じゃないかな?」

「そうですね。でも、もう慣れました」


 なんともなさそうに言うアンナが守衛に声をかけて、馬車を預けると同時に入門の許可を取る。

 ウィルを見た門衛は驚いた様子を見せたあと、びしっと気合の入った構えを取った。なんだかぷるぷると震えている。


「ご苦労さん」

「いえ! ……!?」


 ウィルの労いの言葉に大きく返事をしてから、後ろについて歩くアリスの姿を見て、息を呑むような仕草をする。四人が門を通り過ぎるあいだ、門衛は手綱を握ったまま、ずっとアリスのことを目で追っていた。


「はは、さすがだね」

「? なにがでしょう?」

「え、あ、いや……まぁいいや……」


 出鼻をくじかれたようなウィルと、どやぁと胸を張るミシェルに、アリスが不思議そうに首をかしげる。


「なんだか気になるのですが……」

「いや、なんでもないから……それと、今日はありがとう。ここで最後だから」

「あら……なにごともなくて、ようございました」

「まぁ護衛と言っても、だいたいはこんなもんだからね」


 三人を連れたアンナは、街のなかほどにある雑貨屋で足を止めた。

 なかなかに大きくて立派な、三階建ての煉瓦造りの建物だ。一階部分が丸ごとお店のようになっており、食料品のほかに日用品、織物、装飾品まで並んでいるのが見える。


「ここが仕入れに利用させてもらっているお店です」

「ありがとう。店主はいるかな?」

「少し待っていてもらえますか」


 アンナがお店に入っていった。

 ほどなくして、店の奥のほうから女性の大きな声が聞こえてくる。


『まぁアンナちゃん! 今日はどうしたの? いつもの日はまだ──』

『えっと、今日は違うんです。その、エドさんはいますか?』

『あのバカなら二日酔いで寝てるわよ! 叩き起こす?』

『ええ!? ちょ、ちょっと待ってくださいね!』


 会話が止んで、申し訳無さそうにアンナが戻ってきた。


「ええと、その……」

「聞こえていたよ」


 ウィルがくつくつと喉を鳴らす。


「い、いつもじゃないんですよ……」

「別にいいけどね。申し訳ないけど、起きてもらうしかないかな」


 今度はウィルとアンナ、二人いっしょにお店に入っていった。

 少しのあいだ静まり返ったあと、悲鳴にも似た叫び声がとどろき、どたばたと階段を駆け上がるような音がして、


『起きろおおおっ!』


 三階部分から怒号が聞こえてきた。




 店主が頭を押さえながら起き、眠そうな目をこすりながら、妻と思しき女性から冷水をざばぁとかけられたあと、土下座に近い拝跪でウィルを困らせ、仕入れ先の聞き取りが始まった。

 その間、アリスとミシェルは特にやることがなく、お店に並んでいる品々を物色する。ついでに買い物をしてくると言ったアンナはどこかに行ってしまった。


「みんなにお土産、買っていこうかしら?」


 チャームの類が並ぶ棚の前で、アリスが一つの品を手に取った。


「装飾品ですと、量もそれなりになりますし、難しいですね」

「そうよね……」


 棚にしまって『むむ』と考え込む。

 侯爵家に仕える使用人は多い。広い広い屋敷を管理してもらうのだから、人数もそれなりになる。一人ひとりに渡すとなると、かなりの量になってしまう。


「やはりお菓子では?」


 その点、菓子類は簡単だ。みんなで分け合って食べてもらえればいいため、ケーキならホール二つ程度で済む。理想は個包装タイプの物だが、魔導車も普及し始めた今、古来よりあった鮮度問題も気にならなくなってきている。なんなら受け取りに行ってもいい。


「ううん……ありきたりというか……」


 両手を後ろに回して、うろうろとお店の中を徘徊する。


「というより」

「ん?」

「リチャード様へは不要ですか?」

「へぇ!?」


 クリスタルの置物を手に持っていたアリスが、つるっとその手から滑り落とす。二人とも慌てて拾い上げた。


「お嬢様……」

「い、いきなりなミシェルが悪いの!」


 そっと置き直したアリスが、顔を赤くしてにらむ。

 ミシェルはため息を吐いた。


「これまでも何度か贈られていたでしょう?」

「そ、そうだけど……自分で選ぶって、そんな、無理難題……」

「無理難題?」


 これまでのリチャードへの贈り物は、全てオーダーメイドである。侯爵家に商人とデザイナーを呼び寄せて、おおまかな色とデザインを伝え、相談し、あとはプロに任せる。つまりアリスはプロデュースするだけ。

 それでも緊張に緊張を重ねたというのに、まさかの既製品を自分で選べときた。そんなこと言われたら、どれもこれも正解であり、間違いであるように思えてしまう。目の前にある品物がぐるぐると回った。


「み、ミシェルぅ……」

「男性への贈り物なんて、私にもわかりません──」

「がんばって! 年上でしょう!」

「そう言われましても……お嬢様がご自身でお選びなさった物であれば、喜びもより増すかと」

「なんでプレッシャーだけ大きくするのよ貴女は!」


 店先で激しく言い合う二人に、店員らしき女性がはわはわと口元に手を当てていた。


「では、王子殿下にご意見を伺ってみては?」

「あ、そ、そうね! ミシェル賢い!」

「え、あ、ちょっとお嬢様──」


 アリスがお店の奥、事務室になっていた部屋に急ぎ足で駆け込む。

 そのまま仕事中のウィルの腕を可愛らしく引っ張って、店の方まで連れてきた。かなり強引である。リチャードにもそのくらい強気になれたらいいのだが、そんなこと彼女の思考にはこれっぽっちもなかった。


「な、なんだい?」

「えっと、その、ウィルフィード様、なにが欲しいでしょうか?」


 なんだか微妙な問いかけである。


「ん? なにかくれるのかい?」

「え? 違いますよ?」


 やっぱり台無しになった。


「なら呼ばないでくれるかな!?」


 『そうじゃなくて』と叫ぶアリスの声も虚しく、ウィルは怒った様子で部屋に戻ってしまった。

 八方塞がりになってしまい、しょんぼりとうつむく。


「あ、あの……男性へのプレゼントでしょうか?」


 不憫に思った店員が声をかけた。


「え? えっと、あのね」

「愛がこもっていればどんなのでも大丈夫ですよ~」

「ああああ愛!? 違うの! そんなのじゃないの!」

「違うのですか!?」


 木彫りの人形の頭部分を無駄に高速で撫でながら否定したアリスに、店員が驚きの表情をする。今までの騒ぎはなんだったんだ。そんな顔をしていた。


「別に違いません。うんと愛をこめられそうなものを、見せてもらえませんか」

「ミシェルぅ!」


 真っ赤になったアリスがミシェルの腕に抱きつく。その背に隠れてから、店員の方を向いた。

 子供のような姿に、誰もが徐々に嗜虐心が湧いてくる。


「かしこまりました、うんと愛ですね」

「ええ、うんと愛です」

「ではうんと愛のこちらへ」

「愛愛愛愛言わないで!」

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