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最終作戦 ~満開の花で送りましょう~

「今日はありがとうございました、姉上」

「ううん、あまり役に立たなかったし……迷惑もかけちゃって……」

「そんなことありませんよ」


 あれからもう少しだけ勉強をしてから、時間も時間になったので解散しようとしていた。


 うまくいったのは最初の作戦だけ。アリスの中ではそう感じていた。もうすでにバレてしまったあとだが、この最後くらいはうまく決めたい。

 タイミングを見計らいながらも、別れが近いことに悲しさを覚えていた。


「もうすぐに別邸に行っちゃうわね……」

「姉上……」


 アリスの言うとおり、ルークはもうすぐ別邸に移る。そうなるとしばらくは会えない。今回帰ってこれたのもたまたまなのだから。

 そうしているうちに、嫁ぐ時期がやってくる。それは待ち遠しく、不安でもあり楽しみでもある時ではあったのだが、弟と会う時間が少ない中でその時を迎えるのは、彼女には寂しく心残りだった。


 それはルークも同じだったのか、ぽつりと寂しそうに言った。


「来年には婚姻を結ばれるのでしたね……」

「ルーク……」


 アリスに寂寥感が募っていく。彼女はまたしても泣きそうになった。


「姉上」

「なぁに?」


 ぐすっとして聞き返す。


「リチャード様のことは……お好きでしょうか?」

「えっ!?」


 涙は唐突に引っ込んだ。

 あわあわして、指をからめては離したり、両手をばたばたさせたり、しばらくは泡を食ったような感じでいた彼女だったが、やがて深呼吸をして、


「ええ」


 はにかみながらも、そう断言した。


「そうですか」


 ルークも笑顔になる。少しばかり、寂しそうな笑顔で。


「る、ルーク?」

「きっと幸せにしてくださるのでしょうね」

「そ、そんなこと……」

「……姉さまを取られるのは少し悔しいですが」


 嬉しそうに頬を染めるアリスとは対象的に、ルークは少し沈んだ想いを口にした。勝手に口から出てしまった。


「ルーク!?」

「えっ──あ、いえ! 今のは!」

「ルークぅ!」

「ね──姉上!?」


 がばっと抱きついたアリスをなんとか押しやろうとするルークだったが、感情が高まった彼女は無意識に魔力を込めていたため、どうやっても引き剥がせない。

 最後はやっぱりこうなるのだった。


「姉上! ちょ、やめてください!」

「今! 今、姉さまって!」

「気のせいです!」

「もっかい! もっかいだけ!」

「ですから気のせいです! な、なんて力だっ!」


 むぎゅむぎゅと抱きつくアリスが、そのままの姿勢で魔法を唱え始める。


「姉上!?」

「あのね! ルークにお花をね! 贈る!」

「えっ!」

「行っちゃうから! 最後にね! お花をね!」


 またもや子供みたいに、途切れ途切れな単語を言うだけになった彼女が光り輝いていく。

 ルークの表情が強張り、ミシェルが慌てた様子で止めようとした。


「待ってくださいお嬢様。予定ではもっと下位の──」

「うんとね! お花をね! いっぱい!」

「お嬢様!」

「『神の花祭り』!」


 猛烈な花吹雪が部屋に舞った。本来なら野外、しかも大掛かりな祭りや儀式で使うレベルの魔法を、屋内どころか屋敷の一室で行使されたそれは──


「ぶおおおお!」

「お嬢様! どうするんですかこれ!」

「溺れるう……」

「あはははは!」


 あっという間に空間を埋め尽くし、綺麗で色とりどりな花びらが、皆を巻き込んで天井近くまで埋もれたのだった。




 ■結果報告



「アリス」

「はい、お母様……」


 花に埋もれた皆を外に転移させたあと、ドアを開けたら雪崩のように花が滑り落ちてくる弟の部屋の前で、アリスは正座をさせられていた。


「消しなさい」

「え……! でも、これはルークのために──」

「消しなさい」

「はい……」


 しょんぼりした様子で、己が顕現させた花びらを消していく。


「母上……その、姉上もよかれと思って──」

「ルーク」

「は、はい! 母上!」


 弁護しようとしたルークだったが、母であるリエンナからぎろりとにらまれ、慌てて直立不動の姿勢を取った。


「……はぁ。甘いのも大概にしなさい」

「……はい」

「いいじゃないか、綺麗だよ。ね、アリス」


 よしておけばいいのに、父であるジークが花びらを一枚手にとって、くるくると回しながら脳天気な声を出す。


「お父様!」


 そんなジークに、アリスは詠唱を止めて抱きついた。


「あなた」

「しばらくこのままでもいいよ。ね、アリス」

「はい! お父様!」

「これどうするのよ」


 リエンナが鋭い目つきを叩きつけるが、


「ルークは家を出るまで別の部屋を使えばいいよ。ね、アリス」

「はい! お父様!」


 効果なく、アリスとジークは笑顔で抱き合う。

 リエンナはため息を吐いた。


「……ああはなりたくないでしょう」

「……そうですね」

「ブロッサムフレーバーとかに使えるんじゃないかな? ミシェル」

「え!」


 まさか話を振られるとは思ってなかったミシェルが驚く。


「そうね、ミシェル!」

「ええ!」


 アリスまでもがにこにことした顔で見てきたので、さらに驚く。


「えっと……その……りょ、量が」

「答えなくていいわよ」

「お、奥様……」

「ジャムもいいんじゃないかな?」

「だ、旦那様……」

「そうね、ミシェル!」

「お嬢様!」


 あいだに挟まれたミシェルは『ゆうげがー』と棒読みして、その場を無理に離れていった。


「で、仲直りはできたのかい?」

「はい! それはもう!」


 ジークから離れたアリスは、今度はルークにくっついた。


「ああああ姉上!」

「なにも変わっていないじゃない……」

「やだ! さっきのもういっかい!」

「なにを!?」

「さっきの?」

「姉さまって言ってくれたの!」

「言ってません!」

「言った! 言ったの!」

「あらあら」

「おやおや」

「母上! 父上も!」

「母さまは?」

「……パパは?」

「なにを!?」

「ルークぅ!」

「ああああ姉上!?」


 けっきょく作戦は成功だったのか失敗だったのか。

 それはわからないが、スチュアート侯爵家は騒がしくも楽しげにその日を終えた。


 そのあと、ルークが家を出る日がやってきて、またも感情を爆発させたアリスがちょっとした騒動を起こすのだが──


 それはまた別の話である。


<弟仲良し大作戦 おわり>

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