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(SHIBUSUTO’S EYES)
――これはまだ僕が、アンジュによって転生したころの話だ。
食事を終えた夜の遅い時間、僕はアンジュに呼ばれていた。
転生して間もないころは、僕はアンジュに従っていた。
それは真っ赤な部屋。赤系のソファーにベッド、棚も赤い。
流石は『焔の魔女』といったところだろうか。
真ん中の椅子に座るアンジュが、腕を組んでいた。
「来たわね、シブースト」
「アンジュ……お前の部屋か」
「あたしの趣味よ、いいかしら?」
「いい趣味じゃないな、ババア」
「口を慎め、シブースト!」
アンジュのそばには、アンゼリカがいた。
金ピカの鎧を見に纏い、アンジュのそばに立って僕を睨む。
「アンゼリカに……オランデーズ……あとは」
「ベイクドだ」
そのベイクドという男は、見覚えがなかった。
「今朝、転生させたのよ。今度の任務にはもっと仲間が必要だから」
「なんだ、野郎か。女でも出してくれれば……ねえ、アンゼリカちゃん」
「気持ち悪い男」
ソファーに座りながら、ベイクドを見ていた。
アンゼリカは、僕のことを怪訝な顔で睨んでいた。
このアンゼリカは、アンジュのことが特に大好きらしい。
理由はわからないが、キャラ設定を忠実に守っているようだ。
そういえば、アンジュのこの部屋も『アニーの工房』のアンジュの自室に似ているな。
「で、わざわざ夜に呼び出したのは?夜這いか?」
「違うに決まっているでしょ。実はね、あたしたちには共通点がある」
「転生者じゃないのか?転生者はこの世界の人間よりも強い力がある」
「だけど、竹千代は呼んでいない」
「あ、そか」
アンジュの転生者で、竹千代だけが姿はなかった。
そういえば、竹千代は夕方にこの城を出ていったな。
竹千代は、アンジュの呼び出した中でも二番目に転生した人間らしい。
「じゃあ、なんだ?竹千代ちゃんを仲間外れにして」
「あたしたち全員、『アニーの工房』の傭兵よね?」
「ああ、そうか」僕は周りを見回した。
アンジュ、アンゼリカ、ベイクドに僕。全員がアニーの工房の傭兵だ。
「だけど、肝心の主人公がいないのよ」
「アニーか」
「そう、アニー」
僕は、アニーの顔を思い出した。
短い栗色の髪の少女、かわいい女の子が錬金術を勉強して旅をするゲームだ。
主人公であるアニーは、やっぱりかわいいだろう。
「鼻の下が伸びているわ」アンゼリカが、冷たい目で僕を見下す。
「転生されていないとか、それとも転生されたけどもうすでに死んでいるとか……
そこで、あたしは考えたの」
「何をだ?」
「アニーを探すのよ」
「この世界でか?」
「ええ、この広い世界でアニーの痕跡を……探すわ」
「なぜ、そうするのだ?」
「あたし、ここに転生される前から夢を見たの」
アンジュは、淡々と語っていた。
「夢?」
「アニーは、旅をしながら何かこの世界でなそうとしていることがある」
「なそうとしていること?『世界の水瓶』とかいうんじゃないだろうな?」
「それはないと、この世界にあの水瓶はない」
否定したのはベイクドだ。
ゲームの『アニーの工房』では、『世界の水瓶』という水がなくなるという話だ。
世界に降り注ぐ水瓶の水が無くなる前に、大量の水をアニーが作り出す錬金術を行うのだ。
いくつものボスを倒して、アイテムを手に入れて合成する。
無限の水を作ったアニーは、天空の水瓶に向かい水瓶に水を入れるとエンディングという話だ。
だけど、そのエンディングはハッピーエンディングではないのだが。
「まさか、そのアニーに会いたいとか」
「既に探りは入れているわ。一つの痕跡が……あの場所にあったの」
「あの場所?」
「テスコンダル大陸……死の大陸にあるフロウフラの町よ」
それは、アンジュが真剣な顔でその言葉を告げていた。
僕は、その話を真剣に聞いていた。
(MATOI’S EYES)
スケルトンの群れは、俺たちを阻むように現れた。
数は全部で十三、武器は骨を棍棒替わりで持っていた。
骨格標本と同じスケルトンが、俺たちに向かってくる。
「いきなり大陸の洗礼か」
シブーストが、レイピアでスケルトンを突いた。
そのまま、スケルトンはレイピアの一撃で崩れていく。
「数は多いけど……」
俺は向かってくるスケルトンを、右手ではたいていた。
ユキもまた、向かってくるスケルトンを刀で切りつける。
あっという間に、三体がバラバラに崩れていく。
「やっぱりな」
しかし、崩れたスケルトンは再び体をくみ上げ始めた。
どうやら再生能力が、スケルトンにはあるようだ。
「また、起き上がってきますよ」
サラが、心配そうな顔で見ていた。
「そうらしい」
俺はサラを背に、スケルトンと向き合っていた。
このスケルトンの顔の向きは、こちらに向けられていた。
やはり狙いは、サラなのだろうか。
「にしても、倒せない敵は厳しいな」
「徹底的に、バラバラにするしかないだろう」
俺は、復活するスケルトンに向かって殴りに行く。
だけど、別のスケルトンが阻んでくるのだ。
「ちっ、邪魔をするな」
俺は、怪力でスケルトンを吹き飛ばした。
だけど、後ろにいたスケルトンは体の復元を続けていた。
「数が多い、バラバラにするのには時間がかかる」
ユキも一体のスケルトンに連続攻撃をしていたが、別のスケルトンが骨で殴ってくる。
「くっ、邪魔な……」
ユキは、骨の攻撃を受けながらもスケルトンを一体バラバラにしていた。
だけど疲れた表情で、背中に殴られた跡も見えた。
「ユキちゃん、こういう時は」
シブーストが、口元を動かす。
「回復魔法さ、『ヒーリング』っ!」
シブーストがレイピアを介して、魔法を使う。
彼は簡易的な回復魔法が、できるのだ。
かけた相手は、ユキがバラバラにしたスケルトン。
緑色の光が、スケルトンを包みこむ。
「シブースト」
だけど、スケルトンの再生が早い。
すぐにスケルトンは体の再生をして、シブーストを見ていた。
「何をしておる?」
ユキが、シブーストを睨んだ。
ダメージを受けてまでようやくバラバラにしたスケルトンが、元に戻っただけだった。
「あれぇ、スケルトンには回復魔法が……」
「聖職者がいないからな。神官とか司祭とか」
「確かに……シブーストは単なる回復役だ」
「そうか、僕は回復役サラちゃんだと思うけどね」
「私はただの医者です」
サラは、俺の後ろから言っていた。
確かに、直接戦闘能力がないと言えばサラがふさわしいのかもしれない。
「どうする?撤退するか?」
ユキが、疲れた顔で俺を見てきた。
「確かに、こいつは逃げた方が……」
「その必要はないわ」俺たちの後ろには、レティアが立っていた。
勇者の剣を高々と掲げて、両足を広げて立っていた。
「レティア」
「あたしは勇者よ!こんな魔物ぐらい……」
レティアの勇者の剣は、強い光を周囲にはなっていた。




