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(??? EYES)
我は求めていたものがあった。
それは、この城の中にある。新たなる『獣の子』。
城のテラスからは、街の方から上がる煙が見えていた。
夕焼けの空に、上がる煙と喧騒の声。
(全ては『獣の子』のため。我らの悲願のために、『獣の子』は欠かせぬ)
テラスから我は城の中に入っていく。
そのまま、地下を目指す。兵士らしきものが、慌ただしく走っていた。
だが、その兵士も我の姿に気づかない。
我は、普段の姿ではない。別の人間にもなれるのだ。
(『獣の子』は地下か)
我は、地下に降りる階段を見つけていた。
そのまま長い階段を下りていく。螺旋状に続く階段が、ずっと続いていた。
長い階段をずっと降りながら、やがて我は下にたどり着いた。
下には大きなドアがあり、そこには鎧をまとった兵士が二人立っていた。
(やはりいるか、ここには)
だが、今の我はこの国の一人の貴族。その姿に変えていた。
長い髪も、こけた頬も、高い背も完全に貴族そのものだ。
おどおどしないで、堂々と兵士の前に向かっていく。
「やっ、クーゼル卿!このようなところで何を?」
「ああ、ちと散歩をしていてな」
「ここは、宝物庫ですよ。今は反乱軍も暴れている故、お戻りくださいませ」
「ああ、それなのだが……反乱軍が宝物庫を狙っている。我の宝がその中に入っておるので……」
「そうでしょうか?でもいけませんよ」二人いる兵士のうち年老いた兵士が、我を疑っていた。
思いのほか、この兵士は頭がキレるようだ。
「しかし、ここは立ち入り禁止ですのでお戻りください」
「いえ、そういうわけにはいかないので」
「クーゼル卿ならば、貴族の証明する剣があるはず。
その剣を、ちゃんと見せてはいただけないでしょうか?」
「なるほど」我は観念した顔を見せた。
それと同時に、我は後ろに下がりながら口を動かす。
「カンが鋭いはいいことばかりではないぞ、しばらく眠っていて」
「敵が、こんなところに侵入したのか!」
兵士が同時に身構えるも、我の方が動きは早かった。
魔法が完成すると、我の前に黒いモヤモヤした霧が浮かび上がる。
そして、その霧を吸い込んだ二人の兵士が倒れていった。いや二人共寝かせていた。
(ふう、わずらわせおって……この体は魔力が少ないのに)
眠っている兵士をよそ目に、ドアを触れる。どうやらドアは鍵がかかっていない。
大きなドアを開けると、そこには宝が見えた。宝物庫を、ゆっくりと歩く。
(さて、アレはあるだろうか)
我は宝物庫の中を、ゆっくりと歩く。
宝物庫の中は、静かで人もいない。我の足跡だけがコツコツと響く
そんな我の中には、ひとつの大きな鏡が見えた。
(これだ、この鏡……)
そして、我は目的の鏡を見つけていた。
(我の求めし、『獣の子』。その鏡より、解き放ってやろう!)
そういいながら我は口である魔法の詠唱を始めていた。
(MATOI’S EYES)
城の中ある部屋で、彼女は眠っていた。
客間として用意された部屋は、やはり豪華だ。
白いドレスを着たままのサラは、目を閉じていた。夜が明けて朝になっても彼女は起きない。
まるで死んだように、ずっと眠り続けていた。
「どうして起きないのよ、サラ!」ベッドのそばで、ドレス姿のレティアが何度も声をかける。
「サラさん、朝っすよ。起きるっすよ!」タキシード姿のノニールも声をかけた。
頬を叩いたり、抱きしめたり、いろんなことをしたが、サラは長い眠りについていた。
突然ベランダで倒れたサラを心配して、集まっていた。
昨夜のことを俺は話して、集めていた。
パーティに呼ばれていたマリアとルデースも、表情は一様に暗い。
そばでは、国立病院から派遣された医者がサラの様子を見ていた。
「別に、現状は体に異常はありませんね」
「じゃあ、どうしてサラは起きないのよ!」
「わかりませんが、昨日のあの件が関わっているでしょう」
「見ればわかるわよ」レティアが、医師にやり場のない怒りをぶつけていた。
そんな時、客間のドアが開いた。そのドアからは、王冠をかぶった四十代の太った男がいた。
男のそばには、一人の兵士も伴って出てきた。
「あっ、アスカンテ王っ!」敬礼をしたのはルデースだ。
慌ててそばにいたマリアや、医師も敬礼する。
王冠をかぶっているが、それ以外はあまり派手ではない男。緑色の上下スーツのようなものを着ていた。
周りに流されるように、俺も敬礼をしていた。
「かの者か、我が城で倒れたのは本当か?」
「はい、王様」頭を下げて、返事をしたのはルデース。
「聞く所によると、黒い幽霊を見たそうだな?」
「それを見たのは彼です」勇者ルデースが、大きな熊のノケモンである俺を指した。
「お主か、獣化の者か?うーん……」
「俺は現在ステージ3です」一応、かしこまって返事をしていた。
「しかし、初対面の者に言うのもちとアレなのだが……珍しい格好をしておるな」
「よく言われます」俺は起こることなく冷静に対応した。
「して、黒い幽霊を見たのだな。ヤツは、どのような姿をしていた?」
険しい顔で王様は、俺に訪ねてきた。取り乱した王様の顔を見て、俺は一瞬だけ考えた。
(ここの世界は、ノケモンをよく知らない世界だ。
昨日の幽霊は、間違いなく俺と同じノケモン。
だとすれば、これを完全に話していいのだろうか?)
俺が少し迷っていると、王様が口を開いた。
「黒い角が二本、短い手足、あとは大きな顔。そういう姿を、していないだろうか?」
「はい、おっしゃるとおりです」驚いた、ゴンラーの姿形と一致したことを王様は言っていた。
どうやら、この王様はゴンラーを知っているのだろう。
「ふむ……やはりな。隊長よ」王様は、すぐにそばにいる兵士の男を呼びつけた。
そのまま、耳打ちをして兵士の男が頷いた。さらに、兵士の男が離れて部屋の外に急いで出ていく。
「どういうことですか?」
「この国は海に面していて、世界各地の貿易で成り立っている。
特にアスカンテは大きな港が有り、世界各地とも交易を行っている。
だから、彼も入ってきたのだ。五年ほど前だろうか」
「何があったのですか?」レティアが聞いていた。
「一人の商人が、この国に売りつけたものがある。
それは大きな鏡だ。サスマラ地方の大鏡で、未来を示す鏡とも言われた魔法の品だ。
我が国は、それを商人から買ったのだ。
だが、その後この城で奇妙なことが起こるようになった。
鏡に人が無意識のうちに集まるようになっていた。
そこで、実際に魔術師ギルドに頼んで鑑定をしてもらった」
「してもらったら?」
「それは呪いの鏡だった。何かを封じ込めてあった鏡だ。
怖くなった我らは、それを宝物庫の奥にしまっていた」
王様が話をする中、先ほどの兵士が急いで戻っています。
「た、大変です。鏡が……割られていました!」
「そうか」兵士の言葉に、その場が凍りついていた。
「すぐに行こう、お主たちもついてきてくれるな」王様は、まるで俺たちを誘うように声をかけてきた。




