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その黒いものは、体長は一メートルほど。
全身が黒い、人型。といっても姿がデフォルメされていて、短い手足と腹の辺りに顔がある。
大きな目と、大きな口、黒い角が二本生えていた。
だけど、俺はこれがなんなのかすぐにわかった。
「な、なんですか?」
「ゴンラー」
「え?」俺が発した聞き覚えのない単語に、驚いたサラ。
「お前、よくわかったな。そう、俺はお前と同じ」
ゴンラー、それはノケモンの一種で幽霊タイプのノケモンだ。
《ナイトメアイート》という特殊能力を持ち、更にいくつかの魔法のような技を持つ。
ついでに、物理攻撃が効かない大変厄介なノケモンだ。
「なぜ、こんなところにゴンラーが?」
「君がボクを呼び寄せたんだよ、グリゴン」
「えっ?グリゴン?」サラはゴンラーの言葉にキョトンとしていた。
「俺の、この姿のことだ」
「君は散々、好き放題に暴れてくれたそうじゃないか。この世界に影響を与えた。
変わらない歴史さえも、君は変えてしまった」
「お前は、何言っているんだ?」
「ボクはね、歴史を戻そうと思う。君の」
ゴンラーは、そう言いながらサラを指さした。
「何を言っている?ゴンラー?」
「君はここに来るべきじゃない」ゴンラーはそう言いながら、空を飛んで向かってきた。
向かってくる相手は俺じゃない、サラだ。無論俺は《たたく》をコマンドで選択した。
「お前に何かを、させるわけにはいかないっ!」
だけど俺の腕は、ゴンラーの闇の体をすり抜けた。そのゴンラーはサラの背後にそのまま近づく。
俺はノケモンでも知っていたが、やつは幽霊。物理攻撃は効かない。
「これもゲーム通りか」
「まあ、そういうこと。ただし一つ、ルールがあるのだとすれば?」
黒い幽霊のゴンラーがサラの方にユラユラ近づく。
俺は、直ぐにわかった。
「マズイっ!サラ、逃げろ!」
「えっ、でも……」
「君の体を、いただこう」
そう言いながら、ゴンラーはサラの背後からサラの体の中に同化していった。
同化した瞬間、サラが意識を失ってドレス姿で倒れ込んだ。
「サラっ!」
俺はゴンラーが何をやったのか知っていた。
すぐに、サラは目を開けた。ムクリと起き上がったサラ。
だが、全身真っ黒なオーラを放つサラは巨体の俺を突き飛ばす。
「これでいい、これから歴史は元に戻るっ!」
ドレス姿で、サラは浮かび上がっていく。三メートルほど上がって、黒いオーラを放つ。
だが、数秒後。再び意識がなくなり、目を閉じた。
そして、サラは自由落下で落ちてきた。
俺は両手で、サラの小さな体を受け止めた。
それでも表情は険しい。腕が震えていた。
「くそっ、あいつめ。《のっとり》をしてきたな」
ゴンラーは《のっとり》という特殊能力がある。
文字通り、相手の体を乗っ取ることができる特殊能力だった。




