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クラーの盗賊ギルドの中に、いい匂いがする。
それは台所から香ってくる香ばしい匂い。
やがて狭い部屋に、トレイで運んでくるのはサラ。
エプロン姿で運んできたのは、キノコのソテーか。
香ばしく焼けたキノコの香りが、部屋全体に広がった。
「おおっ、これは……」部屋に居たクラーは感動した顔を見せる。
「サラの手料理か、久しぶりだな」俺も、座ったまま料理が運ばれてくるのを待っていた。
「はい、できましたよ」サラが料理を運んできた。
キノコのソテーに、スープ、あとはサラダ。随分健康的なものが並ぶな。
「こんなに、作れるの、お姉ちゃん?」
「ええ、いっぱい作りましたよ」穏やかな顔を見せているサラ。
クラーは、子供っぽく(実際子供なのだが)スプーンでスープを飲んでみた。
「んんんっ、うまい。うまいよお姉ちゃん」
「ありがとう、クラーちゃん」
「く、クラーちゃん?」
サラが言っても反応をしないが、俺が口にすると睨んでくる小さな盗賊クラー。
「だって、クラーちゃん、かわいいんですから」
小さなサラがさらに小さなクラーを抱きしめた。
とろけた顔になったサラは、クラーの頭を撫でられた。
なんだか、小学生の女の子が二人ベタベタしているようにしか見えない。
さながらサラが、お姉ちゃんということだろうか。
「マトイさんも、いっぱい食べてくださいね」
「ああ、じゃあ遠慮なく」俺もソテーを食べていた。
絶妙の塩加減で、普通に美味しい。
「ああ、うまいよ」
「ありがとうございます」しゃがんで、サラ自身も食事をとっていた。
「しかし、アレだな。レジスタンス戦も終わったのに、人が少ないな」
「仕方ないじゃない、レティアはレジスタンスの捕虜の話。
まあ、無事みたいだから夜遅くには戻るでしょうけど。
マリア様はシアラ様……じゃなくてルデース様の代わりに勇者の勤めがあるし」
「ノニールは?」
「貴族の議会と交渉も順調みたい。
議会の会長が魔術師ギルドの人間で、ノニールも魔術師ギルドの関係者で。
クラーたち勇者の家系もあるけど、ノニール自体にも知り合いがいたみたいよ」
「そうか」みんな、この世界で生き残るための術を持っているんだ。
俺みたいに、単純に殴るのと頑丈なのが取り柄なのではないんだな。
「どうしました、マトイさん?」
「いや、何でもない」
「にしても、広場のあれはすごかったわね」クラーはスープを飲み干して、サラを見ていた。
「マトイさんもすごかったですね」
「いやいや、お姉ちゃんもよ」クラーは、スプーンでサラを指した。
「あの薬、ギルドでも欲しいわ。だって上から放ったあの霧で獣を無力化できるんでしょ」
「違いますよ、あれは元々間違った薬の使い方に副作用が絡んで、その効果を打ち消すことで、反応を起こして」
「原理言われてもわからないけど……でもすごい」
クラーの意見に俺も同意だ。
サラは本当にすごい、あんな薬をたった三時間の間で作り上げた。
正しいレシピもない中、想像と予想だけで作り上げた薬。
「ねえ、クラーの盗賊ギルドに入らない?」
「盗賊ギルド?」
「優秀な薬剤師が欲しいのよ。もちろん、お金は弾むわよ。
契約金に金貨二千枚で、他にも……」
「いえ、断ります」サラは笑顔で断った。
「どうして?」
「私は医者です、医者として人を救うのが仕事です」
サラは胸を張って言っていた。なるほど、引き抜きか。
「ただいまっす」そんな手狭な部屋に、一人の男が戻ってきた。
そこには、アロハシャツの魔法使いノニールが戻ってきていた。
「ノニールのことを、すっかり忘れていた」
「そ、そりゃないっすよ」
相変わらずヘラヘラした様子で、ノニールが照れていた。




