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仮面をつけたその男は、医者に全く見えない。
タダの怪しい変質者にしか見えない。
『影医者マウン』、彼はそう名乗っていた。
黒いマントは、ラオルにも似ていないいことはない。
もしかしてこいつは、ラオルじゃないのだろうか。などと適当に邪推していた。
そして、そいつは二枚の紙を持っていた。
「それは、レシピですか?」サラが聞く。
「そう、ソーリック側が作ろうとしたレシピ。国に押収される前に、奪ってきたわけですよ」
「あんた、本当に医者かよ」
「それに関しては、いいじゃないか。これは君に渡すよ」
影医者はサラに、二枚のレシピを渡していた。サラがそのままレシピを見ていた。
「なぜ私に?」
「私に、全く必要ないからですよ。難しくて理解できないし」
「このレシピは、多分私の考えと違いますね」
「そうなのか?」俺にサラが見せてくるが、無論理解はできない。
「でも、この薬は驚いた。まさかレシピもない中でこんな薬を作るとは。
こんな能力のある君を、国は絶対放っておかないだろうね」
「私は軍人でも、毒薬を作る化学者でもありません」
だが言い放ったサラはジーッと、仮面の男を見ていた。
「君の力はそれ以上だ、まさに優秀だよ。サラは君の思っている以上に……」
「もしかして、お兄ちゃん?」
その言葉で、影医者が反応を示した。ビクンと動いて、怪しい。
「いや君の兄の、ハトではない」
「私、ハトなんか言っていませんよ」
その言葉で、固まってしまった影医者。
観念したのか、ゆっくり仮面を外した。仮面の中から爽やかな金髪の青年の顔が出てきた。
「やっぱり、お兄ちゃんだ」サラはじーっとハトを見ていた。
「いや、その……ホントびっくりしたよ」
「なんでお兄ちゃん、そんな格好しているの?」
「いろいろあるんだ。というか、どこで分かった?」
「アルバート病院で会った時からです」
サラがそう言うと、ハトは慌てて仮面をかぶった。
どうやら最初からなんとなく知っていたのか、サラは。
「いや、言っておくが、それは違って……」
「まあ、いいよ。お兄ちゃんが無事なら」サラの表情が明るくなった。
仮面をかぶったまま、影医者になった兄が頭をかいていた。
「サラ、いい仲間に恵まれたな」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
「違うぞ、私は影医者マウンだ!
サラ、やっぱりテスコンダルを目指すのか?」
「もちろん目指します、それは私の夢ですから」
「そうか、むっ!」そう言いながら黒いマントの男が、背中を向けた。
すると、国の兵士らしき男が影医者を見つけた。こちらに向かってくる。
「悪い、私はこれで失礼する。さらば」
黒い仮面の男は、小走りに走っていった。それから数秒後、兵士が俺とサラに声をかけてきた。
「ここに、黒い仮面の男はいなかったか?」と。




