114
サラが獣を止められる、それがこの作戦の要でもあった。
そして、完成こそが全て。前回戦った時、狼頭の数は三、四十。
今日の処刑の時も、確実に何匹か現れるだろう。
流石に全部を相手にするわけにはいかないし、今度はずつきだけではどうにもならないだろう。
俺はサラと外に出ていた。クラーから、一人の人間を紹介されていた。
外の通路を走りながら、移動していた。
「リーピ博士か」
「聞いた話だとサスマラ大学卒業、つまり私の大学の先輩ですね」
「そっか」昨日の夜、俺はサラの身の上話を初めて聞いた。
ナーリーレシピのこと、渡した薬『ノクセント』のこと。
話す必要もあったから、聞いたサラの大学時代の話。
「作戦は、聞いているよな」
「『ペノトン-型』を作り、霧として巻く。そのあとに突撃をさせます」
「薬を撒いて効果があるのか?」
「この薬は、元々軟膏ですので皮膚に付着すれば効果があります。
獣化病は、頭に発症する場合が多いので、頭で受ければ反応する理論です」
「ちゃんとできるのか?」
「実験はしていないですが、頭で何度も考えました」
サラの頭の中は、きっと俺とは違う。薬の知識を詰め込んで、医者としての仕組みも詳しい。
プロの医師として尊敬できる部分が、俺なんかよりもずっと多いのだ。
「成功するといいな」
「はい、私が成功させないと。みなさんに迷惑かかりますから」
サラの顔が、緊張でこわばっている。
無理もない、今回の獣の鎮静はサラの薬の生成の成否が大きく関わる。
失敗すれば、死ぬのは戦うみんなだ。
それは医者である彼女にとって、最も辛い結果になるのだから。
「成功したら、ソーリックの戦力も大きく落ちるしこの戦争も大きく変わっていくだろう」
「そうですよね、自信……ないですが」
「どうしてだ?」
「私は、新しく薬を作ったことがないのですよ」
走りながら、サラは落ち込んだ顔を見せた。
その表情には、いつもの明るさがない。
「今までの薬は?」
「使用したのは、レシピや薬剤製本に書かれたものばかりで……全て既製品です。
でも、今回の作戦は科学的に立証こそされた現象とは言え、新しいものの生成は初めてです。
しかも私一人で、全部やらないといけない」
「向こうには、クラーの紹介してくれた人もいるだろ」
「いいえ、おそらく今の国立病院は、凄く忙しいはずです。戦争中なので」
あっ、そうだった。
現実問題、レジスタンスとの交戦で多くの負傷者を出している。
治療できる医師は全て、施術に回るだろう。レジスタンスでさえ、サラに施術を頼むぐらいだ。
「まあ、俺がしっかり見ていてやるよ」
「マトイさん?」
「医者の知識もないし、薬も詳しくない。だからサラをちゃんと手伝えないが、見届けてやる。
失敗したら俺も一緒に怒られてやるし、だからのびのびとやれよ」
「あっ、はい」
俺の言葉の後、サラはクスリと笑顔を見せた。
「まあ、サラはやれば出来る子なんだからな」
「マトイさん、ありがとうございます。じゃあマトイさんを、たくさん頼らせてもらいますね」
「お、おう」
明るい表情を見せたサラ、彼女の懸念材料もひとつなくなったようだ。
サラと俺の前に立つのが、大きな病院。アルカンテの国立病院だ。
「ここか」
「ええ、行きましょう」
俺とサラは、こうして国立病院の中に入っていった。




