111
実験の授業が終わる。
私の通っているサスマラ大学、医学部での授業だ。
グループごとに終了は、バラけるが私たちのグループは一番早い。
大きな教科書がいくつも入ったリュックサックを背負い、小さな体で私は教室を出ようとした。
教壇前にいる老教授に呼び止められた。
「うむ、実験は終わったようじゃな」
「はい、アットニー先生」老教授は、見るからに白いヒゲを蓄えた男だ。
アットニーと言われた教授は、この授業の監督をしていた。
「論文読ませてもらったよ、獣化病の考察がよく書けている」
「ありがとうございます」
「さすがは、学内最年少の天才少女サラ君だな」
「アットニー教授や、講師陣のみなさんの教育の賜物ですよ」
「そうそう。うちの妹は両親の血をしっかり引き継いだ、優秀だから」私の後ろには、ハトがいた。
ハトを見ると、アットニーの顔は険しくなる。
「ハト、それに比べて君は……ギリギリじゃないか」
「単位ですね、大丈夫ですよ。計算して取っていますから」
「そういうわけではない、君はもっとできるはずだ。
本来、君にもサラ君と同じ医師ダムレイの血が流れている。
おまけに獣化病の抗病薬の権威、薬剤師ナーリーの血も流れた医学会のサラブレットとしてだな……」
「知能的遺伝は、約50%というデータが出ています。
つまりこれは、サラにその50%の知能的遺伝子が受け継がれていて優等生の妹ができた。
その反面、私は劣等生ということになるわけでして……」
「相変わらず言い訳の多い男だ」
呆れた表情のアットニー博士だ。
「だが、一応ハト君も合学するわけだが。どうするつもりかな?」
「私は……そうですね、のんびり暮らしますよ。
父や母のように優秀でもないし、どこか田舎の医者でもやって」
「田舎の医者のほうが忙しいぞ、辺境は人手不足だからな」
「それは困りましたね」苦笑いをしているハト。
「サラ君は、卒業したらどうするつもりだ?研究機関にでも入るのか?
わしがなんなら紹介状を書いてやろう、君のような若くて才能ある子なら欲しい医者はたくさんあるだろうし」
「私は、もう決まっています」
「じゃあ、どこだ?」
「旅に出ます」その言葉を聞いて、アットニー博士は驚いた顔を見せた。
「た、旅?なぜじゃ?旅医者は収入も安定しないし、第一どこに?」
「私は父ダムレイも、母ナーリーも尊敬しています。
そんな二人に会いたいし、二人のたどった世界も見てみたい」
「まさかテルコンダルに?それはいけない!」
「この本も返さないといけないですから」それは『ナーリーレシピ』という分厚い本。
そんな私の顔を見て、アットニー博士は頭を抱えていた。
「信じられぬ、あそこは地獄だ。今や行く手段すらない、あの死んだ大地にいくのはおよしなさい……」
「ママやパパが私を呼んでいる、そんな気が……」
「それはダメだ、やめたほうがいい。ましてやサラはまだ未成年じゃし」
「行くのはサラだ、サラが決めたんだし。教授はそれを後押しするんじゃないのか?」
ハトが、あたしの代わりに言い返した。
「そうか……もったいない。君ほどの才能が」崩れるアットニー博士。
「ごめんなさい、でも私は……」
「もう一度言っておくが、旅医者は収入も不安定。厳しい生活が待っているぞ」
「覚悟しています。旅医者として、あの大地を目指します」そう、私の決意は硬かった。




