♠補給部隊の日記
-巣海-
帝国ギナス・第8番島ヴルム
この8番島ヴルムにはギナスの首都スパラガがある
スパラガの中心には築200年にもなる巨大な要塞、ペッパードが存在し、今日も朝日が要塞を光で照らしている
ペッパードは建てられてから随分と経つ古い建物だが、何度も改修を重ねており最新の兵器を備える難攻不落の要塞となっている
軍の総司令部といくつかの部隊の本部はここに存在している
さて話は少し変わるがギナスの軍を構成する部隊は全部で49、
情報収集や斥候、七つ道具などのオーパーツの探索を主な任務とする探索隊が10
他の国家や島に侵攻する実際に戦う実働部隊である侵略隊が20
侵略の際、その身を振り返ることなく先陣を切り突破することが目的の侵略隊の特殊部隊、特攻隊が3
巣海に存在するギナスの本土である群島そのものや皇帝を守るための護衛隊が10
ここに焼却、諜報、暗殺、計略などのこまごました部隊が加わる
そして軍の規定の上では各部隊の隊長に権力の差は存在しないのだが、現実はそううまくいかない
他国へと侵略していくスタンスのギナスは実際に襲撃を行う侵略隊や特攻隊が華であり、その次点に侵攻の折に重要となる敵国の情報を収集する探索隊、戦時中に敵国に入り込む諜報隊などが続く
戦後の処理を務める焼却隊、もともと軍部というよりは司令部寄りの計略隊も軽んじられてはいない
暗殺隊はその仕事の都合上存在があまり知れ渡っていない、しかし上層部には重要視されているため報酬などはしっかりしており、隊員の不安が溜まることは少ない
護衛隊は何かと恨みを買いやすいギナスの国風のため活躍の機会が多く、民衆からの支持も厚い
基本的に侵略隊は他の部隊を見下しているが、探索隊は冒険家気質の者が多くどこ吹く風、護衛隊や他の隊にも誇りがあり若い隊員は憤慨することもあるが隊長格は落ち着いたものである
このように互いを見下しつつも見かけは対等な権力を持っている各部隊であるが一つだけ、侵略隊や護衛隊などの多くの部隊に軽んじられ、こき使われている部隊が存在する
その部隊の名は補給部隊、ギナス軍部を支える縁の下の力持ちであり、例外的に副隊長が複数存在する部隊である
隊長ウタの日記―要塞スパラガ・地下一階補給部隊本部―
(´・ω・`)月 ㌶日 夜10時ごろ
今日、探索隊第二隊のアルム隊長から日記帳を貰った、早速今日からつけて行こうと思う、仕事に追われる日々だが何か趣味くらいは持った方がいいだろう、心が死ぬ
探索隊の人たちは比較的に優しい人が多い…と思いたい、人柄は良くても彼らは侵略隊その他と変わらない軍部の人間なのだ、仕事を容赦なく振ってくる
今日は法律上は休みのはずなのだが私たち補給部隊は朝からせっせと働いていた、さすがに無休は辛いので部隊を半分に分け、半分には休むように指示を出しているが何故か残って働いてくれる隊員たち…
…みんないい子すぎるよぉ…倒れる前にちゃんと休んで欲しい…
補給隊は人数だけの規模で言えば侵略隊3つくらいの大規模な部隊だ、それ故に例外的に通常は隊に一人しかいない副隊長が4人いる、いるのだが今実質機能している副隊長は3人だ
最古参の小人族、ウキョーさんは先日流行り風邪にやられて寝込んでいる、あの人はもう御年だし小人族自体、体の強い種族ではないからしっかり養生して、長くかかってもいいから元気で帰ってきてほしい
…嘘である、もう二度とこの部隊に帰ってきてほしくないし、できれば一刻も早く帰ってきてほしい
理由はウキョーさんはもう御年だからである、激務しかない補給隊では早死にしてしまう
あの人はこう、なんというか普段は仕事の任されない場所にいてのんびりと紅茶でも啜り、重要なときにあっという間に仕事を処理するようなそんなところが似合いそうだ、決して休日だろうが深夜だろうが仕事の絶えない此処は似合わない人だ
しかし部隊で一番仕事処理能力の高いウキョーさんが欠けた今、部隊はいつもよりも多くの仕事に追われている気がする
今こうして日記を書いてはいるが、魔法でペンを複数動かしているだけであり仕事は続けている
千里眼の魔法と物体操作の魔法で複数の書類を同時に処理するこの技は私が独自に生み出したものだ、魔力の消費に伴う精神的疲労も半端ないがこうでもしないと睡眠時間が取れないのだから仕方ない
「ウタ隊長!フローレ副隊長が倒れました!」
書類を書く手を止めずにトール副隊長が報告してきた、ああ、やっぱり無理が出たか…
一昨日、『珈琲狂い』がメーフルという島を新たな領土として持ち帰ってきたから仕事が普段の倍近くもあるのだ、ウキョーさんの欠けた今、処理しきれる仕事量ではない
「今すぐ病院に搬送して!ああもう倒れちゃダメだよ、あれだけ倒れる前に休んでねって言ったじゃないか!」
「しかしウタ隊長、ウキョー副隊長が欠けた今、無理をしなければこの仕事の量は捌ききれません…」
「っううううう!皆!無理だと思った人は今すぐ休んで!私が全部カバーするから!」
「隊長!?無茶です!」
「大丈夫、普段からもう無茶だから、それでも今まで何とかしてきたんだから!」
今回は特にヤバい、今まではウキョーさんがいたからこそどんな修羅場も乗り切ってこれたのだ、しかし今この場にウキョーさんはいない、…やるしかない
私はギナスの研究開発部が作ったらしい栄養ドリンクを飲んだ
みんな、だいじょうぶだよ、わたしがまもるからね…
朝日を拝まずに終われると良いなぁ…
(´・ω・`)月 ±3日
前回の日記から5日も経ってしまった、毎日書きたいが仕事は私の18本のペンを1本日記に回すことさえ許してくれないのだから仕方ない
ちなみに前回ヤバかった仕事は2本の手に18本のペン、9本の尻尾を駆使した結果、曙のころには仕事を終えることができた、ダメ元で無駄に生えてくる尻尾でペンを握ったら意外といけた
ちなみに補給部隊の出勤時間は朝8時、月曜には月曜の仕事があるので睡眠時間など無かった
相変わらずウキョーさんは療養中である、お願い、早く帰ってきて…
言うまでもないが今も残業中である、でももうすぐで仕事も終わる、明日は非常に珍しい土曜日が休みの日だ、何をしようかなぁ…最近できたらしいケーキ屋さんにでも行ってみようかな
なんて思っていたら悪魔が来た、『珈琲狂い』ラージナールからの仕事をコロナ副隊長が持ってきたのである
ちなみに副隊長には一人一人にちゃんと任されている仕事がある
コロナ副隊長は軍内部での連絡、トール副隊長が現場の指揮、フローレ副隊長が軍部以外への連絡だ
ウキョー副隊長は実は先代の隊長であり、実質私と同等の権限を持ち、補給部隊を統括する
とは言っても、仕事の量が多すぎるので基本的に全員で仕事に当たるのだが
さて、話がそれたがあの珈琲野郎が仕事を持ち込んできやがった、内容は?
「えっと、新しいコーヒー豆の受注ですね…」
ブチッ…
ひさびさに…キレちまったよ…
ギナスの気候はコーヒーの栽培には適しておらず、遠方からの貿易で入手するしかないためとても高いうえに入手が難しい
まあ、ここまでならまだ怒らなかっただろう、無理難題を押し付けられるのはいつものことだ
しかし『珈琲狂い』ラージナール、奴はコーヒー自体を好んでいるのではないのだ、いや好んではいるのだろう、でなければ注文などしない
だが奴はコーヒーを飲むたびに嫌そうに顔をしかめるのだ、おそらく奴はブラックコーヒー飲む俺カッコイイ、程度にしか思っていないのであろう
ふざけるな!それなら不眠不休で働く補給部隊のみんなによこせ!高級品なんだぞ!
一発殴ってやろうと思ったが、私は所詮補給部隊、ヒエラルキー最下層の補給部隊なのだ、奴を殴れば私だけでなく隊の皆にまで迷惑が掛かってしまう
つらい…
(^◇^)月 |д゜)日
ウキョーさんが帰ってきた、こんなに嬉しい日は拾われたあの日以来だ
ウキョーさんは仕事が早い、しかも采配まで上手い、彼は仕事を見ると隊員の誰がその仕事に向いているか判断し、指示を出す
ウキョーさんのこの技術は仕事が早く終わるだけでなく、隊員たちにかかる負担を減らすことができるのでぜひとも会得したい技能だ
私も同じことができるよう日々努力しているがなかなか身に着かない
目の前で川の流れの様に書類がはけていく、ウキョーさんは二本の腕しかないというのに私の18本のペンと近い量の仕事をこなしている
ふと、ウキョーさんの手が止まる
「おや、もうこんな時間ですか、皆さん昼食にしましょう、しっかり食べなければ体を壊します」
う、嘘だ!私たちが仕事をせず、食事の時間だけとれるなんて夢に違いない!
普段はこのウキョーさんがいるときでさえ、私たちの部隊は仕事に追われているのだ
「ウタ隊長?食べに行かないんですか?」
もしかしたら…もしかすると今日は定時で仕事を終えられるかもしれない、このまま仕事の追加さえ入らなければ…
ヒラ隊員のミーネちゃんが食事に誘ってくれた、自慢ではないが私は部隊の構成員350人の顔と名前をすべて暗記しているのだ
「行く!っああ~!久々にカロリーバー以外の食事だぁ~!」
補給部隊の隊員には安月給のくせにカロリーバーと水だけは欠かさず支給される、というか私が自腹切って配給している
そうでもしないと過労死する前に仕事で食事の時間が封殺され餓死者が出かねないからだ
仕事の最中でも片手で食べられるカロリーバーは美味しくはないが、栄養バランスがしっかり考えてあり、とりあえずこれを食べておけば栄養失調で死にはしない
「ミーネちゃんは何食べたい?私はナポリタンだよ!うわぁ~楽しみだなぁ…」
「隊長、ヨダレヨダレ、女の子がはしたないですよ。それと私は部下ですが隊長より年上です、ちゃん付けはやめてください」
ミーネちゃんは私より小さい、小さいが意外と肉体労働が得意な29歳独身である
しかし流石ウキョーさん、この残酷な世界にも神はいたようだ
この世界に神などいないッ!
ウキョーさんは現在、皇帝陛下直々に呼び出され別の仕事についている、基本皇帝陛下からの命令は司令部にしか来ないのだが…何者なんだ、ウキョーさん。
問題はウキョーさんが居なくなったことではない、彼は時たま今回の様に皇帝陛下に呼び出されることがある
前はウキョーさんが居ないときに修羅場が重なったために大惨事となったが、普段はウキョーさんが居なくても仕事は回るのだ、大抵残業が確定するけど…
それでも今回は昼食時間を取れるほど余裕があるのだ、残業は免れるだろう
などととってもお花畑な思考をしていた私が悪かったのだろう、此処は補給部隊、全ての者は生ける屍と化す地獄
幸せな夢から覚めるときが来たようだ、うう…浮かれていただけショックが大きい…
「ウタ隊長!地下東第2入り口にシュワン隊長が出現しました!」
「現在動かせる人員は?」
「今日はウキョー副隊長がいたので1班分くらいの人員なら動かせます!」
補給部隊は隊長の私から副隊長の時点で4つの班に分かれてある、別に仕事を分担するためとかではない、ここはありとあらゆる仕事が舞い込む補給部隊だ、仕事の選択権などない
上層部や他の部隊は考え無しに面倒くさい仕事を私たちに押し付け、私たちは隊員の向き不向きで仕事を振り分ける
この班は休日に仕事が入ったときなどに必ず出る班をローテーションで回すために作られたものだ
ちなみに私はどの班にも所属していないことになっているので仕事が入れば問答無用で即出勤、カーニバルの始まりだ
あと、うちの部隊はいい人というかお人よしが多い、休日出勤しなくていい班の人も余ほどのことが無い限り手伝いに来てくれる、その度に私の心は歓喜と申し訳なさで震えるのだ
さて、そろそろ現実に戻ろう、こうしている間にも奴は攻撃を仕掛けてくる
「いや、人員は動かさなくていいよ、奴の目的は嫌がらせだ、奴を止めようとした人から遊ばれて殺される、だから…」
「た、隊長…まさか…」
「ああ、そのまさかだ、幸いなことに東第2入り口は私の職場が一番近い、私が奴を引き付ける」
「そ、そんな…それじゃ隊長の命はどうなるって言うのですか!?」
「私は、助からないだろうね、奴の妨害がある以上、私は定時までに私のノルマを終わらせることはできないだろう…」
「そんな…」
「そんな暗い顔をしないでくれヒアナ隊員、最近弟が生まれたんだろう、会いに行ってあげなよ、じゃないと君の認識は見知らぬ他人になっちゃうよ、せっかくウキョーさんのおかげでみんな定時帰宅できそうなんだ、最高記録達成と行こうじゃないか」
「くっ、隊長、ちゃんと仕事は回してくださいね、私たち全員で隊長のノルマを、全部は無理でも引き受けますから…」
「うん、ありがとう、ごめんね、仕事増やしちゃって」
ヒアナ隊員は補給部隊で最年少の隊員だ、敬礼がやたらカッコいいから隊員と呼ばれて愛されている
ヒアナ隊員はまだ十代前半、労働基準法などというものはこの場所には通用しない、子供でも容赦なく残業が圧し掛かる
部隊全員で子供並みの年齢の隊員の仕事量は減らすように努めてるけどなかなか上手くいかない…頑張ってるのになぁ…
っといけない、奴が来る、侵略隊『蛇拳』のシュワン
奴は侵略隊の中でも特に補給部隊に嫌われている
いやまあ片手で数えるのに足りる人数を除いて侵略部隊の人は全員私たちに嫌われているんだけど…
話が逸れた、奴が嫌われる理由は差し入れと称し、私たちに嫌がらせをしてくることだ
奴は『蛇拳』の二つ名の通り蛇拳が得意な蛇の獣人で、私やウキョーさん以外の補給部隊隊員が奴に歯向かうことは文字通りに死を意味する
そして言葉をもって歯向かうにしても、ウキョーさん以外の補給部隊は無駄に口の回る奴に圧倒され、悪戯と嫌がらせの果てに仕事が終わらないまま死に至る
そして奴は必ずウキョーさんが居ないときに襲撃してくるのだ、卑怯極まりない
しかし、私は戦う、その戦いの果てに残るは自身の死だとしても、私はみんなを守るために、仕事の量からしても此処で死を迎えるだろう
ヒアナ隊員ほか、部隊の全員が私の仕事を手伝ってくれると言ってくれた、しかし隊長である私の仕事は多い、今から定時である午後7時まで部隊全員が私の仕事を行ってくれるにしても残る仕事は多い、終わらせるのに2時間はかかるだろう
そして奴の妨害がある以上、今日中に仕事を終わらせるのは不可能…嗚呼、家のふかふか布団で眠りたかったなぁ…
(^◇^)月 ▼◇日
翌日、なんとか仕事を終わらせそのままデスクで眠りについていた私にウキョーさんが紅茶と朝食を用意してくれていた、神はここにいた
さて今日も頑張ろう、今日こそは定時で帰るぞ!おー!
ウタ
狐の獣人、耳としっぽを持っている、もふもふ
残業時間が一時間経過するごとに尻尾が増えて行き、最終的に九尾となる
チャームポイントは目の下の(仕事のせいで)消えないクマ
ウキョー・コラスト
別に特命的な何かの肩書を持っているわけではない
紅茶紳士、小人族でちっちゃい
今日のアリス君は冒険に向けアップ中です




