70『大丈夫だ、問題ない』(チームを作る)
「母は、私のことが大事で大事でたまらないんだ」
ハンナが手配してくれた社用車の中で、ブンがぽつりぽつりと語りはじめた。
「ごめん、キトン。少し、手を温めてくれるかい」
キトンはブンの手に触れて、その冷たさに驚いた。
「けれどそれは別に、私のことが好きだからじゃないんだ」
自身を客観視するとき、ブンは一人称が『私』になる。
そのことに、キトンは気づいていた。
そして彼女が自分を客観視するとき、決まって手指を冷たくさせるのだ。
「私は、父の顔にそっくりだからね」
「ま、まさか……ブン先輩のお父さんって」
「生きているよ。離婚したのさ」
「?」
「私は父にもそっくりだけど、父方の叔母にもそっくりなのさ」
(え? それってまさか……)
「やめよう。私の家のドロドロとした内情は、本作『SAVE THE CAT!』の趣旨とは関係ない。ノイズさ、こんなのは」
(ノイズだなんて)
いや、そうなのかもしれない。
作家として売れたくて売れたくて仕方がないブンにとって、家庭内のゴタゴタはノイズにすぎないのだ。
そう考えることで、彼女は自分を維持しているのだろう。
(それなら私は、先輩のその考え方を尊重しよう)
「着いたっスよ」
車が止まった。
「ブン先生、お母君と対決するための準備はオーケーですか?」
「キトン」
ブンがキトンを見た。
キトンは、自分が何を求められているのか分かった。
二人同時に口を開く。
「「『大丈夫だ、問題ない!』」」




