6『100万文字本編を15万文字に圧縮する方法』(きっかけ)
自宅に戻ったキトンは、パソコンの前で頭を抱えた。
キトンの『デビライズ・ダンジョンズ』は、いわゆる『現代ダンジョンモノ』だ。
近現代または近未来の地球になーろっぱ異世界モノのようなダンジョンが発生し、主人公たちがそれに挑むというジャンル。
現代なのに魔物あり、剣と魔法ありのロマンあふれるジャンルだ。
(どうしよう……どうすればいいですか、猫又先生?)
キトンは自室の『祭壇』からラノベの文庫本を手に取り、抱きしめる。
猫又ブン著『悪魔祓師物語』。
図らずもキトンが目指すことになった『ライトノベル大賞』において、三年前に金賞を受賞した作品だ。
キトンがラノベにハマるきっかけとなった作品であり、彼女が自ら執筆しはじめるに至った理由でもある。
控えめに言って、人生のバイブルだ。
三年経っても続巻は出ていないが、きっと出てくれるものとキトンは信じている。
『悪魔祓師物語』は『ソロモン七十二柱の大悪魔』や『七つの大罪』のまつわる魔王など、神学や悪魔学で語られる有名な悪魔が多数登場するダークファンタジーだ。
文明開化期の明治日本が舞台で、黒船の勢いに紛れて侵攻してきた海外の悪魔たちを、日本のエクソシストたちが討伐するという内容。
古めかしい因習の残る明治日本を舞台に、ロザリオや洋装、海外由来の拳銃などで武装した日本人エクソシストたちが聖書の句を詠唱しながら戦うという、匂い立つような和洋折衷の世界観。
たまらない、とキトンは思う。
キトンの作品は、同著をパク……リスペクトして書いた。
登場する悪魔の種類や魔術体系などは同じだが、同著が明治時代を舞台にしているのに対し、キトンの作品は近未来の日本を舞台にしているため、万が一指摘されても、
『ちょっと世界観が似ちゃっただけですよ』
で逃げきれるレベルだとキトンは考えている。
多分、いや、きっと。
万が一怒られても、作者に全力で謝れば許してもらえるはずだ。
というのも、キトンはSNSで同著の作者とFFの関係にあるからだ。
ラノベ作家が乱立する昨今、どの作家先生もSNSアカウントを持ち、活動報告や日常の共有をするのが一般的になっている。
読者・ファンとFFになるのも宣伝活動の一環ということなのか、こちらがフォローしたらフォローし返してくれる作家先生も多いのだ。
猫又ブン先生もそうだった。
キトンが本を買い、大ファンだとポストしたところ、たちまちフォローし返してくれた。
キトンが『デビライズ・ダンジョンズ』を投稿しはじめ、それを宣伝しはじめると、そのポストにいいねを付けてくれたりもした。
先生がキトンの小説に目をとおしてくれたのかまでは、分からない。
なにしろ自分は先生にとって、数千人のうちの一人にすぎないのだから。
DMで『読んでください感想ください』と押しかけることも、できなくはない。
が、キトンにはその度胸がなかったし、いくらFFとはいえプロ先生に『読んで』と迫るのは非常識な行為だろう、という思いがあった。
それでも本当は、猫又ブン先生にこそ、『デビライズ・ダンジョンズ』を読んでもらいたかったのだ。
(そういえば、文子先輩――ブン先輩も、『ブン』って名乗ってたな。文庫のブン子、略してブンってことなんだろうけど)
十五万文字にまで削減できたら、ブン先輩が『デビライズ・ダンジョンズ』を読んでくれる。
猫又ブン先生には一段劣るとはいえ、ブン先輩も読み手として素晴らしい存在だ。
いや、劣るとか考えるのは、失礼がすぎるというものだろう。
初手から『ライトノベル大賞』という単語が飛び出してきたり、『拾い上げには運が必要』という言葉がさらりと出てくるあたり、ブン先輩は間違いなく執筆家だ。
少なくとも一作以上の長編を書き上げた経験の持ち主で、公募に出した経験もあるのだろう。
ことによると、最終選考に残った経験があるのかもしれない。
でなければ、『実力さえあれば受賞できる』なんて豪語できないはずだ。
恐らく先輩は最終選考落選経験者で、いずれ自分は必ず受賞する、と確信しているのだろう。
そんな底知れない強者感が、あの人にはある。
「ふへ、ふへへへ……」
キトンはだらしなく微笑んだ。
友達が一人もおらず、活字アレルギーの両親を持つキトンにとって、顔の見える読者というのはブンが初めての存在なのだ。
さて、問題は本作が百万文字もあることだ。
対して、ライトノベル大賞の投稿上限文字数はたったの十五万文字。
この百万文字から実に八十五万文字をやっつけないことには、自分はブン先輩に読んでもらえない。
本作の概略は、『突如として現れた七十二個のダンジョンを、主人公とヒロインが次々と踏破していく』というものだ。
いずれのダンジョンも最奥でソロモン七十二柱の各大悪魔が待ち構えており、それらを倒すことで大悪魔の奥義『グランドシジル』を入手できる。
グランドシジルとは強大な魔力を秘めた魔法陣のことであり、要は異能だ。
ダンジョンは日本各地に散らばっているため、ダンジョン探索パート以外にも遊園地デートパートや温泉・海水浴パートなど緩急に富んだ構成となっている。
さすがに七十二個のダンジョンすべてが本編中に登場するわけではないが、それでも実に十三のダンジョンを作中で踏破する。
ダンジョン一つあたり五万~十万文字。
十五万文字に収めようとすると、二つ目のダンジョンに挑んでいる最中にぶつ切られる形となってしまう。
そんな中途半端なものを大賞に出すわけにはいかないし、ブン先輩に読ませるわけにもいかない。
ならば、上手いことつぎはぎしてつじつまを合わせるしかない。
さて、どこを選べばよいだろう。
まず、導入は欠かせない。
バトルファンタジーである以上、ラスボスとの決戦も必須。
となると、
(中盤をごっそり抜くしか……)
苦悩しながらも、キトンはワクワクが止まらない。
母親の「キトンちゃん、ごはんよ~」という声にもまるで気づかず、目の前のドキュメントファイルにかじりつくのだった。




