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隣の席の猫  作者: 卯侑
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秘密の約束


「まぁコレは、これまでの応用だから、公式の1を使えばいいんだ。つまり……」


今日も数学の授業は分からない。日に日に分からなくなっていく。


それに比例するように、猫の髪の毛にこっそりと触れる時間が増えていった。

あれ、比例じゃなくて、反比例だったっけ……?

まぁ、いいか。

訳が分からない内容だが、内申のためにノートをとる。


のろのろと書き上げ、シャーペンを置いた。


因みに、猫というのは八坂亜輝の渾名。当然、私がつけたもの。

名付けただけで、一度も呼んだことはない。だって話さないもん。


あぁ、内申と言えば、猫が数学の授業でノートをとっているところをみたことがない。


「……ずっと寝てるもんね」


手の甲で髪に触れながら、他の男子よりやや可愛らしい寝顔を見つめる。

そういえば、隣の席になった事をサヤカちゃんに報告した時に


「結構モテるらしいよ?女子に嫌み言われなければいいけど……。

鈴ちゃん、気をつけてね?」


とか言ってたっけ。

あの頃は全く興味がなかったから、すっかり忘れていたけど。


まぁ、この席なら誰も気がつかないだろう。

一番後ろの席は便利だと思う。

全く授業とは関係ない事をしていてもバレないのだから。

先生にも、クラスメート達にも。


偶に、わしゃわしゃと髪をなでて、ぐしゃぐしゃにしてやりたい衝動に駆られたことがあった。

でも、本人にバレるとかやばいので、泣く泣く我慢した。


ということで、私のささやかな趣味は、誰にもバレていないと思っていた。




バレてない……ハズだった。


家庭科の授業が終わり、教室に戻った。今日は、家庭科室で裁縫をしていたからだ。

次の授業は私の好きな理科なので、ミシンの片付けに悪戦苦闘していた友達を置いて、早々と帰ってきた。

でも、早く着きすぎて、暇になってしまった。前にもこんなことがあった気がする。あ。そういえば、猫くんがベランダで寝てたっけ。


猫くんは、午後の天気のよい日は、大抵ベランダで寝ていた。


「どうせ寝ちゃうし、サボった方がいいかな〜って。代わりに、天気が悪い日は寝ないで受けてるし」


「お前、そんなんで大学行けるのか?」


「大丈夫。普通以上の成績になるように調節してるから。」


男子と話している猫くんの声を思い出した。


どうせ寝てるんだろうな、と思いつつも少しの期待。


窓を開けて、ベランダを覗く。


予想とは違い猫くんは起きていて、校庭を眺めていた。風が吹き、桜の花びらが舞い散った。

私が、その景色に目を奪われていると、猫くんが振り返った。

不思議と鼓動が速まった気がした。


林野りんのすずちゃん?」


「……うん、何?」


私は彼に声をかけられる様なことをしただろうか?

微笑んでいる彼に対し、私は少し怯えながら返事をした。


「今日、放課後忙しい?」


「……部活はあるけど、多少遅れても平気」


私は美術部に所属しているけれど、課題は殆ど終わり、雑談をするくらいだったのでいっそのことサボってしまおうかなあ、とか考えていたぐらいだった。


「じゃあ、少しだけ残っていて貰えるかな?」


「……今じゃダメなの?」


焦らして欲しくはなかったのだが、猫くんは譲る気配がなかった。


「だって、もう直ぐみんな帰って来ると思うよ?それに…」


「それに……?」


「今は眠いから」


そう告げた猫くんは、ベランダに寝っ転がった。


「掃除終わったら起こして……」


「掃除もサボるの?」


「眠いから……」


私が呆れて猫くんを見ていると、クラスメート達が続々と入ってきた。


「もう、鈴ちゃんってば、マイペース過ぎるよ。置いて行かなくてもいいじゃん」


「ごめんね、サヤカちゃん。戻ろうかとも思ったけど面倒くさくて」


でも、猫くんの方が、私よりもずっとマイペースだと思うな。

ベランダで寝てて、集会に出てこなかった時もあったっけ。

さっきの会話も可成りなものだったけど。


声に出すのは止めにして、心の中でそっと呟いた。

何だか、自分と猫くんだけの秘密みたいで、なんだか嬉しかった。




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