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おまけ話10

古賀こが篤行あつゆきのある一日〉



 放課後、頼まれていた旅行のしおりのホチキス止めが一段落いちだんらくついたので、俺たちは休憩することにした。


 


「そういえば、今年のエイプリールフールのよそおいは、なかなか良かったよな?」


 折角なので、四月初めの初代理事長の胸像について話題を振ってみる。



 四月一日、春休みの中、イベント委員会は朝早く学園に登校し、初代理事長の像をおめかしして帰宅したのだ。なお、次の日には衣装は回収され、普通の像になっていた。一日限りのお祭りである。


 俺としては愛すべき行動と見なしているのだが、二人にとっては愚行に写るのだろう。


 ユウは、顔を横に軽く振り、


「はっ、一体何の用があるのかといぶかしむ私は間抜けでしたね。彼らは、ただの暇人なんでしょう」


 そう言って、ペットボトルの紅茶をぐいと飲む。



「ユウは少し遊び心が足りないな。青春を満喫するには必要だぞ」


 人指し指でトントンと、リズミカルに机をたたきながら、俺は指摘する。



 ちなみにエイプリールフールの当日、初代理事長の胸像の装いは怪盗風衣装である。シルクハットにマント、目元には厚紙で出来たチープな仮面を装着していた。そして、銅像の手は怪盗の予告状が無理矢理握らせられていたのだ。

 これの面白いことは、予告状の盗む対象が初代理事長の像であることだ。盗まれる予定の物が怪盗の格好をしているなんて、なかなかユーモラスがある。



「そうですね、今年の万愚祭程度の装いなら、まだわたくしの我慢できる範疇はんちゅうです。去年の高等部説明会のなんて――ああ、思い出したくもありません。下品で下劣で不愉快でしたね」


 実結の眉間みけんしわが寄る。


 去年の校内見学込みの高等部説明会は、確かに目立っていたな。

 初代理事長の像自体は何もいじっていなかったのだが、何故か小便小僧の像が数多く周りに並べてあった。

 しかも、離れて配置されている一体だけは、どこから水を調達したのか、何も植えてない花壇にちょろちょろと水をあげていた。大変シュールな姿である。



 俺にとっては笑い話で終わるのだが、女子にとってはそれだけでは済まないようだ。

 実結は、去年のことを思い出したせいか、苛立ちながら扇子でてのひらをパシパシと威圧的に叩いている。大変ご立腹だ。



「反省文だけで済むなんて甘いです。退学、または停学にするべきでしたね」

「実結……それは厳しすぎるだろう。集めた像は盗品ではないし、反省もしているのだから。問題はないだろ、なぁ?」

「そうですね、反省文以外にもごみ拾いや落ち葉拾いなどの清掃活動に自主的に参加しているようですし、私も重い処罰は必要ないと思います」


 必要以上の罰はトラブルを招くし、してや、私情が挟まれているのならば、ただの私刑だ。学園のイメージに多少悪影響があったようだが、これくらいなら問題ない。反省文くらいの罰則で十分である。


 だいたい俺らは学園に通っている学生であって先生ではない。しかも、もう処罰は済んでいる。

 それに、まだくだんの生徒は在籍しているだから、あまり蒸し返すのもよくない。甘い考えかもしれないが、短い学園生活なんだから楽しんで終わって欲しいしな。




「まぁ、そうですか、お二人ならそう判断すると思いましたよ。ええ、ですから、わたくしの同士をイベント委員会に滑り込ませることにしました。わたくしたちの目の黒い内には、不埒ふらちな装い・言動は決して許しません!」

「そんな理由で委員会に入れたのか!? 俺はてっきり冒険者精神で入ったのかと思ったんだが……」

「実結さんのお友達がそんな愉快な人物な訳がないでしょう。やれやれ、全くどこを見ているのやら……」


 はー、みずから監視者の一人として名乗り出るなんて、相変わらず真面目な女だ。いや、暇な女たちか。




「ところで、ずっと気になっていたのですが、この旅のしおりはなんでしょうか? わたくしの記憶が確かなら、修学旅行や懇親会こんしんかい等の行事に当てはまらないと思いますが……」

「あぁ、それ私も気になってたんですよ。日程はゴールデンウィークのようですが、部活・同好会またはグループ活動の短期合宿とかでしょうか?」

「いや、俺の一族の子ども会の旅行のしおり。兄貴に頼まれてたの忘れててなぁ。暇ならお前らも参加するか?」


 教室が静けさに包まれる。

 実結はゴホンとわざとらしい咳払せきばらいをした後、冷めた声色で、


「……急ぎの用だと聞いて、手伝って損しました。今度から学園の行事に関係のない仕事は、お一人でおこなってくださいね」


 雑用を手伝わせたことを不満げに責める。

 ユウの方は俺の顔を見て、あからさまな溜め息をつき、


「五月の連休は残念ながらスケジュールが予定で埋まっていますので、お断りします。あなたのような(面倒なお子様)一族たちだけで旅行を楽しんでいきなさいな」


 と言いながらチャームポイントの眼鏡を拭いている。



 二人の反応が冷たい。

 一族の子ども会の費用は最小限に抑えているし、イベントも盛りだくさんだ。

 特に今年は生き残りをかけたサバイバル枕投げや心霊(嘘情報)屋敷お泊まり会のように、面白くて充実した内容だ。

 普通の感覚なら参加したがると思うのだが――


 はぁ、是非とも参加してもらいたかったが、予定が空いてないのでは仕方ない。

 それなら適当に理由をつけて、無理矢理予定を空けさせることにするか。

 ……悪く思うなよ、引率者の人数が足りてないのでなぁ。


 


 


〈ある日の臥龍岡ながおか友愛ともなる




 今日はなんだが学園内が騒がしいような気がする。目立った行事や来客の訪問といった要因があればうなずけるのであるが、そういった予定は本日全くない。



「どうして何もないのに、今日はこんなに騒々しいのでしょうか? 少し気になるので、外辺りを中心に見回りして来ます」

「それなら、わたくしは校舎内を調べてみます」


 実結さんと二手に別れて調査することになった。

 私か彼女――どちらかが手掛かりを掴めればいいのだが……


 過恋学園の防犯設備は、しっかりしているので不審者の侵入は考えられない。

 ならば、不審物か? いや緊急性のある雰囲気ではなかった。どちらかといえば、猫や狸のような動物が校内に入り込んだ時のような――




 ブギュュュュッ




「!! なんだ! 何か、踏んだ……?」


 考え事をしながら歩いていたら、ガムのような粘着性のある柔らかいものを踏んでしまったようだ。

 全くガムを噛むなら、きちんと銀紙等に包んでゴミ箱に捨てるのがマナーだと言うのに、大変苛つく行為をしてくれる。


 イライラして足下を見ると、私はガムではないものを踏んでいた。




「!? こ、これは、生き物、なのか?」


 靴底に貼り付いていたのは、透明感のあるゼリーのような色合いの黄色いぷよぷよした謎の生物だった。ほんのりと林檎の甘い香りがする。


 私はよくわからないものを踏みつけていたので、急いで足を退かして、皮靴の状態を確認する。



 ――靴が溶けていたり・汚れていたり・色が変わっていたり・剥がれたりといった変化はみられない。



 ほっとして改めて謎の生き物を観察すると、私が踏みつけたせいなのか、それとも元からなのか、動きがにぶく弱々しい。

 私が体(?)を伸ばして引っ張ったり、指でつついてへこましても、されるがままだ。抵抗は一切ない。


 なんというか危機感がない……いや、単に大人しいだけか。攻撃的でもないし、野良のらではなくペットとして飼われていそうだな。



 ぷにぷにとした気持ちの良い手触りを楽しんでいると、かしましい女子生徒の話し声が近付いて来る。




「どこ? どこにいるの? あたしの愛しの金一封ゴールドマネーちゃん♡」

「あーん、一瞬でもいいから出ておいで。スライム君、お姉さん怖い人じゃないよ。食べたりはしないからさ〜」

「ウフフフフフ、ツチノコよりレアっぽいじゃん、お金の気配がするじゃん。現物が無理なら写真だけでも撮らせてぇ、スライムちゃーん。私たちぃ、何も酷いことしないからぁ、ねっ☆」


 女子生徒たちの猫なで声を聞いたとたん、小刻みに振動し始める謎の生物。


 ふむ、恐怖といった感情を持っているのか。見た目で愚鈍な生き物と判断していたが、もしかして知的生命体かもしれないな。

 それにしても、彼女たちに見付かると厄介なことになりそうだ。何か隠れそうなものは――





「あっ! 臥龍岡先輩だっ! 相変わらずイケメンでイケ様、目の保養だわ♡」

「キャーン、カッコいいし、ステキです。センパイ、ここらへんにグニョグニョとした黄色いスライム君を見ませんでしたか〜? 私たちずっと探しているのですが、全然見付からなくて〜」

「憧れのせんぱぁいとお喋りできるなんて超感激じゃん。見付けたら幸せのラッキースライム(黄色)をキャッチコピーして売り飛ばそうっ☆」


 あの生き物はスライムというのか、彼女たちはなかなか博識だ。



「その、よくわからないスライムという生き物は見掛けませんでしたよ。ところで君たち、危険性がある生き物かもしれませんから、探すのは諦めて帰りなさい」


 放課後のざわめきの原因は判明したし、お祭り騒ぎをしている生徒たちに下校をうながす。




「えーっ、どうしようかな。なんてね、イケ♡メンメンな先輩の言うことなら素直に聞いちゃう。あたしってチョロい女♡」

「やーん、センパイに叱られちゃいました。でも、後輩想いでステキ。私、古賀センパイのファンを辞めます! 今日から臥龍岡センパイ派になります〜」

「虫取網に虫籠なんてポイポイじゃん。私たちぃ、ホントはこんな危険極まりない行為をしたくなかったんですぅ。でもぉ、掲示板にスライムちゃんの捕獲書が貼ってあったんですぅ。か弱い女の子に求めるお仕事じゃないのでやめますねぇ〜」


 会話に大変気になる話題があったが、速やかに彼女たちを帰らせたかったので、あえて触れないことにする。



「それでは皆さん、お気を付けて。さようなら」

「先輩バイバイ♡」

「私、絶対に一桁ナンバーになってみせます! さようなら、センパイ」

「せんぱぁい、さようならぁ~」


 彼女たちに手を振る。

 話が分かる生徒たちで良かった。

 彼女たちの姿が完全に見えなくなったので、園芸部が忘れていった如雨露じょうろを覗く。中には、のろのろと動くスライムが入っている。近くに隠せるものがあって良かった。



「私は昇降口の近くにある掲示板を見に行くけど、君は大人しく隠れていて……」


 私がそう言うと、返事をするかのように、うぞうぞと如雨露の中をゆっくりと動き回る。

 私の喋っている内容が分かるとは、やはり知性がある生物なのだろう。







 掲示板を見ると、『スライム捕獲の依頼書』と手書きで書かれた紙が貼られていた。



「ちっ、生意気にも生徒会の承諾印が押されている。全く依頼者は誰だ! すぐに放送で呼び出してくれる」


 私は目を凝らして、依頼書を読み込む。





 スライム捕獲の依頼書

 難易度:☆彡キ☆彡ラ☆彡リ(流れ星三つ)

 依頼:学園に突然現れた黄色いスライムを探して捕まえよう!

 報酬:金 〇〇〇〇円/王者の椅子(一週間のレンタル品です)




「ふふふ、ふざけすぎだろう。何が難易度だ。何がスライムを捕まえようだ。馬鹿馬鹿しいし、くだらない」


 苛立ちで思わず掲示板から依頼書を剥がし、それを手で握り潰してしまった。

 まだ依頼者を見ていないのだから、破損はいけないな。

 落ち着いて冷静にならないと。

 まずは、原因を作った人物の名前を知ってから、これからの行動が決まる。

 そう、愉快犯を知らないと。


 深呼吸して、依頼人の名前を探す。






 依頼人:古賀篤行

 捕まえたら生徒会室に届けてくれ!




「………………」


 この迷惑極まりない企画書を作ったのは、あの馬鹿トクかっ!!

 本当にあいつはろくなことしないな!!!

 誰が生徒会室に届けるか!!! 手に入らなくて、がっかりして、しょんぼりしてろっ!!! 


 …………はっ! しまった、依頼書が更にぐしゃぐしゃになってしまった。

 








「はあぁぁーー、どうしてあんなに阿保なんだろう。どう思う? アップルちゃん」

「…………(ジュルジュルジュル)」


 再び校舎に戻って来たので、ついでに購買と自販機でスライムが口にできそうな飲食物を買って来た。


 アップルジュースに、林檎のアイスバー。それとアップルパイ。


 スライムから林檎の香りが匂うので試しに買ってみたのだが、正解だったな。迷わず体に吸収している。

 如雨露の中は林檎の芳醇ほうじゅんな香りで満たされている。スライム自体も食事前より濃い匂いがする。



「なんだが動きが活発というか、元気になったのか……?」


 スライムの動きが機敏になったような……お腹がすいていたから、元気がなかったのだろうか。


 じっと観察していると、如雨露の中から這い出た。まだスライム狙いの生徒が彷徨うろついているのだから、隠れて欲しいのだが。



「危ないから、戻ってアップルちゃん」


 私が小声で注意すると、スライムはグニョグニョと体を上下に動かす。

 意思疎通はイマイチ分からないのだが、心配するなと言うことか?

 再びアップルちゃんを観察していると、だんだんと体の上部分から透明になっていく。


 消えかかっている訳ではなさそうだ、これは一体……



「そうか、お腹がいっぱいなったから、家(?)に帰るのか……」


 アップルちゃんはスライムだけど、スーッと幽霊のように消え去っていった。


 またどこかで出会えるといいのだが――





 生徒会室に向かう途中、理事長の胸像に蜂蜜を塗っているという通報が生徒から寄せられた。


 小学生の夏休みの昆虫採集か!

 スライムはカブトムシとクワガタか!! 


 まったくスライムは去ったのだから、捕獲要請はキャンセルだ。

 急いで放送室に行かねば!  


 



 


~男子トイレに置いてあったある不審物~


倉持「おーい、誰だ、一階の男子トイレに小便小僧を置いたの。場所に溶け込んでいて、おれじゃなかったら見付けられなかったぞ。まったく、とんでもない悪戯いたずらだ。該当者は後で名乗りなさい……」

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