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八章 意志のない巨大な力

 八章 意志のない巨大な力



 元の塔の屋上の世界が広がる。

 前を見ると、ルシファー、そしてその側に天使達が倒れていた。

「ふん、天使達も人間を庇うとは、珍しい行動をするものだな」

 そう、私は、闇色の力に襲われていた筈だ。

 天使達は・・・・私を庇った?

「小娘・・・・その剣は・・・・・・・」

 ルシファーが顔色を変えた。

 余裕が有る笑みが消えて、私を睨みつけてきた。

「天使達ももう人間ごときに望みを託すしかない程、切羽詰まって惨めなものだな」

 ルシファーは楽しげに笑いながら、転がっていた天使達の体を蹴飛ばした。

 蹴飛ばされたラファエルがぴくりと体を動かした。

 生きてはいるようだった。

 私は光輝く神剣を構えた。

 剣を振る。

 剣の波動が光の力を纏い、白い光輝く龍となる。さらに雷の力と火の力が龍を取り囲む。

 ルシファーがするりと攻撃をかわし、その掌から闇の蔦を出現させた。

 蔦は意志を持ったかごとく私の周囲に素早く襲いかかって来た。

 剣を振って波動を作る。

 剣の波動で、蔦は光と化して消えた。

 ルシファーが闇の力を操り、闇の力が黒い火となる。

 ルシファーが右手を振って、闇の火を私に向かって投げた。

 私は素早くかわした。

 さらにルシファーの周囲の気が砲弾に変化する。

 大気の全てが砲弾となったような夥しい数の砲弾が私に向かって飛んできた。

 黒い力は大きな鴉と変化し、鴉は大きな火を吹いてきた。

「同じ手になんてかからない!」

 左手を振って力を無効化する。

 光の力が私を慕うように包む。

 ルシファーの周囲の闇色の気が、闇色の短剣と化ける。

 短剣は一斉に私に向かってきた。

 さらにルシファーから闇色の光線が私に放たれる。

 上に飛んで、光線を避けて襲ってきた短剣に向かい、光の剣を振るう。

 剣の出す光のエネルギーが短剣を消滅させた。

「いっけぇええええぇぇぇえっ!」

 さらに光の剣を振るう。

 波動をルシファーに向けて放った。

 キーの火、風、地、雷の力が波動を取り囲んで強化する。

 防御したルシファーの闇の盾を破り、肩に傷を食らわせた。

 ルシファーのマントがはらりと落ちた。

 ルシファーが楽しそうに笑った。

「ふ、此処に転がっている白い奴らより楽しませてくれるではないか!」

 そう言うとルシファーはその両手から強い闇の光線を放ってきた。

 素早い動きに逃げる事が出来なかった。

 両手で反射的に防御したが、闇の光線の力を食らった。

「甘いわ、小娘がぁ!」

 さらにルシファーが闇の砲弾を繰り出す。

 はっと気が付くと、砲弾が私の周りを取り囲んでいた。

 串刺しにするように小さい砲弾が私の体を突き刺していく。

「うっ・・・・・」

 痛みで力が抜けて地面に落下する。

 さらにルシファーの闇の力が私に向かい放たれた事に気がついて、かわした。

 体中が痛い。

「ルー・・・・・」

 お姉ちゃんが私に向かって走って来た。

「来ちゃダメ!・・・・大丈夫だから」

 お姉ちゃんが足を止めた。

 ホディとシグマスがよろよろと立ち上がってお姉ちゃんの肩を叩いた。

「私が・・・・私のせいで・・・ルーが・・・・」

 ホディは泣き崩れたお姉ちゃんを、諫めていた。

「エジル、お前は泣いちゃいけないんだよ。涙で歪んだ視界じゃなくてしっかり見てなきゃいけない。そして死んでもいけない。それがお前の通さなくてはならない責任だ」

 お姉ちゃんがゆっくりとホディを見上げた。

 はっとルシファーを振り返ると、ルシファーが闇の力を放ってきた。

 私の周囲に闇の力が現れる。

 周囲の大気が闇色の刀に化けて私を切り刻む。

「くっ」

 剣を振りまわして光の力を発動させる。

 光の力は闇の刀とぶつかり、キンキンと音を出した。

 上に飛び、剣を振る。

 剣から放たれた力が闇の刀を光の白い刀と変える。

「光の刀になって、ルシファーに襲いかかれぇええっ」

 光の白い刀と変わった複数の刀達が、ルシファーに襲い掛かる。

 大半をかわしたものの、数本がルシファーの右足に直撃した。

「お前は、確かに天使達が最後の望みを託すだけのことはありそうだ」

 ルシファーが右手を振るってその手に闇色の長剣を召喚する。

 私が地面に着地するのを見計らい、ルシファーは私に向かって剣を振り下ろす。

 素早くかわすと、ルシファーは空に向かってに闇色の長剣を掲げる。

 ルシファーが闇色の長剣を振りまわすと周囲には凄まじい力が降臨した。

 辺りが闇に包まれる。

 暗い雲が囲み、光を遮断していく。

 周囲の大気が闇に支配されていく。

 ルシファーの中に取り込まれた光の力が僅かに輝きを見せる。

 視界が暗くなっていく。

 はっと気が付くと、ルシファーが真正面に居た。

 闇色の剣が私に振り下ろされる。

 光の剣で何とか止める。

 互いの剣がぶつかり合い高い音が響く。

 私が光の剣を振り上げると、ルシファーはさっと後ろに退いた。

「光の剣よ、闇を払拭し、光輝け!」

 剣を上に掲げる。

 剣が光を吸収して強く輝く。

 闇の力が弱まっていく。

 上に飛び、光の剣を振る。

 剣の波動を素早くルシファーはかわした。

 周囲の大気から闇の力が薄らいでいく。

 ルシファーが上空にいる私の前に闇色の剣を構えて突撃してくる。

 光の剣で止めた。

「輝く光の力よ・・・闇を打ち壊せ!」

 剣が光輝いて力を放ち、闇の力がさらに弱まっていく。

 辺りが明るさを取り戻して行く。

「させるか!」

 剣がぶつかりあう音が響く。

 ルシファーが闇の力を放ちながら私に向かって闇の剣を振り回す。

 私は光輝く剣をルシファーに突き立てた。

 ルシファーが闇の剣を私に突き立てた。

 お互いが見合ったまま、力を失い、共に床に落下した。

「ルー!」

 お姉ちゃん達の声が聞こえて来た。

 私は床から起き上がるとルシファーも起き上がるのが見えた。

「闇の力よ、大きな力に歯向かう愚かな人間を抹消してしまえ!」

「全ての光の力よ!ルシファーを打ち砕け!」

 互いの剣がお互いに刺さったまま、両手を前に向け、力を放った。

 大きな闇の力が私にぶつかる直前に、消え去った。

 ルシファーの中に取り込まれた光の力、そして私が放った光の力と剣の力が輝きを放ち、ルシファーを光の輝きと化させた。

 光の輝きの力を放ちながら轟音と共に、ルシファーの姿が消えた。

「か・・・・勝った・・・・?」

 体中からほっと力が抜けると同時に、激痛が襲ってくる。

 天使達が、よろよろと起き上がった。

 私はぺたりと座り込み、ルシファーが立っていた場所をぼんやりと見つめる。

 ルシファーがいた場所に闇の力が凝り、闇色の丸い形が浮かび上がり大きくなる。

 はっとその場所を見直すと、再びその場所にルシファーが現れた。

「こんな物で・・・・私は倒せぬわ!」

 そう言うと、ルシファーは胸に刺さった光の剣を引き抜いて、ゴミのように側に投げ捨てた。

 ルシファーが今までにない、鬼のような形相で闇の力を放ってきた。

 私は両手から全ての力を込めて放出する。

 力と力がぶつかりあい、共に力が消滅した。

「お前達も皆、この世界ごと、壊れてしまぇええええ!」

 ルシファーが叫ぶ。

 闇の力を爆発させようとするルシファーに、天使達がその側を囲った。

 ルシファーの中から光の力が乖離する。

 ルシファーが強い闇の力を放出する。

 強い闇の力が強い突風を起こした。

 闇の力が強い輝きを放っていた。

 天使達が光の力を放ち、闇の力を取り囲んだ。

 強い力がぶつかり合い、何も見えなくなる。

 光の力と闇の力が相殺されて、どちらの力も弱まっていった。

 全ての光が消えると、天使達が倒れていた。

 中央にルシファーが倒れて残されていた。

 その姿が変化し、バラムの姿に戻った。

「バラム・・・・・」

 お姉ちゃんがその姿に反応するが、ホディの顔を見て、足を止めた。

「行きたければ、行けばいい」

 その言葉にお姉ちゃんは首を振った。

 バラムがゆっくりと起き上がった。

 そしてその口から、大量に血を吐いた。

「ぐふっ・・・・・」

 バラムの全身あちこちの傷口から、大量に血液が溢れだした。

 私は胸に刺さった闇色の剣を引き抜くと、大量に出血した。

 出血と痛みで倒れかけると、包んでいた結界の力が消えて、体の傷が癒えた。

 抜いた闇色の剣が再び、強く黒く輝き出した。

 私は驚いて闇色の剣を投げ捨てた。

 天使達がゆっくりと顔を上げて起き上がった。

「ルシファー・・・・まだ・・・・暴れる気か・・・・・」

 バラムが呟いた。

 バラムの周囲に闇色の力が漂う。

「いつまでも私を虚仮に出来ると思うな・・・・・ルシファー!」

 バラムの両手から力が溢れだす。

「私は・・・・・私は、この力で・・・・神に・・・全てに報復してやりたかった・・・・しかし、もう、ルシファー、お前に用はない。私もこの禁断の力を使った後始末をしようじゃないか!」

 そう言うと、バラムは両手に闇色の力を宿して放った。

「お前は、この黒い力・・・お前自身の力で滅びるが良い!」

 バラムの周囲の闇色の力が強くなる。

挿絵(By みてみん)

 闇の力が辺りに広がっていく。

 私は数歩、後退した。

 闇の力は、爆発した。

 爆風が去ると、そこには、倒れたバラムの躯とルシファーから抜け出た光の力があった。

 倒れたバラムの体は全く動かなかった。バラムの気も消失していた。

 闇色の剣は消え、周囲の闇色の力も消えた。

 光の力がふわふわと浮遊していた。

 床には光の剣が残されていた。

「終わった・・・・の・・・・?」

 ぼんやりとしながら呟いた。

「バラム・・・・貴方は・・・・まさか始めから・・・・・・・」

 お姉ちゃんが何か言いかけて、俯いた。

 ひゅううと風が吹き抜ける。

 私はルシファーによって放たれた紫色の力ある方角を見た。

「・・・・・消えて・・・・ない?」

 紫色の力はなお大きくなり、辺りを飲み込んでいた。

 ルシファーから抜け出た光の力が、紫色の力の方角へふわふわと移動していった。

「あの光は・・・・」

 一体何なのだろう・・・・?あれが、神?

 光の力が、紫色の光の側に向かっていき、紫色の光を飲み込んだ。

 光の力が強くなり、目が開けられない程の光を生み出した。

 眩しくて手を翳し、目を細める。

 光が消えて、目を開くと、先ほどの数倍の大きさになった光が此方に向かってきた。

 白い球体が、さらに周囲の力を飲み込んで行った。

「どういう・・・・こと?」

 呆然と私がその光景を見ていた。

「そんな・・・・・・・・・」

「まさか・・・・・・・」

 ガブリエルとラファエルが呆然と呟く。

「・・・・そうですね・・・・・信じられない事です・・・・」

 ミカエルが、起き上がってその光景を見た。

「まさかとか、あれは一体何なんだ?」

 ホディが、ミカエルに食い掛かる。

「あれは・・・神の光の力とルシファーの力の凝った物・・・・もはや神の意志はありません・・・・・ただ、この世界を終わらせる破壊の力です・・・・・・」

 破壊の力・・・・?何・・・・それ。

 私もミカエルを振り返った。

「神はルシファーに取り込まれた時、既に実体も精神も無くしている・・・・しかし、神の力がまさか、この様な姿になるとは・・・・・」

 そう言うとミカエルはがっくりと肩を落として俯いた。

「・・・・・ルシファーの力を、取り込んだのは・・・・より強い力となる為でしょう・・・・力の塊が、力の塊として存在する為に・・・・・意志などではなく・・・・物体として存在をするための活動として・・・・」

「つまり、あれは意志がない・・・・・神でも悪魔でもない・・・・ただの破壊兵器って言う事かい?・・・・」

 シグマスが天使に問い掛けた。

 ミカエルはゆっくりと頷いた。

「あれは、ただの力の塊・・・・・あれを消さなければ、全てが無に消え去るでしょう・・・・・」

「・・・・私達の最期の仕事ですね・・・・・」

 そう言うとミカエルは、私に向かってゆっくりと寄ってきて手を伸ばしてきた。

 私の手を握った。

 何かわからない。不思議な感覚が体を駆け抜けた。

 体に何か得体の知れない感覚・・・・何かが・・・・満ちてくる?

 私に何らかの力を渡してきた?

「その手に剣は無くても、自身の力を信じれば、必ず力は示されるでしょう」

 ミカエルは私の手を離すと振り返り、ガブリエルとラファエルに視線を送った。

 それに気が付くと、天使達は白い羽を羽ばたかせ、空を飛んだ。

 光のある方に、天使達が飛んでいく。

「お、おい?」

 ホディが追って天使に手を伸ばしたが、一歩遅く天使達の服を掴めないまま、天使達が羽ばたいて行った。

「な、何をする気なんだ・・・・?」

 天使達が、光の力と共に爆発した。

 しかし、何事もなかったかのように光は残り、天使達の姿は消えた。

「・・・・・・・・あいつらの最期の仕事・・・・って」

 ホディが呆然と呟いた。

 光の力がその爆発の力をも吸収し、さらに巨大化して、此方に向かって猛スピードで飛んできた。

 光が、床に転がっていた光の剣を吸収する。

 光の剣はまるで光の中に光の輝きが伝わるような早さで光に取り込まれた。

 光が辺りにエネルギーを充満させ、塔の柵や床を飲み込んで行く。

「下がれ・・・・危険だ!」

 シグマスがホディとお姉ちゃんを指示し、後退させる。

 光が辺りの木々を取り込みながら、私に向かって、風の力を向けて来た。

 吸収されるすごい風圧に、幾ら左手を振っても無効化しきれなかった。

 全ての物を取り込んで行く。

 取り込まれそうになり、必死に左手を使って無効化する。

 周囲に別の風の力が囲う。

 風が吸い込まれる力に対抗する風の力が周囲に発生した。

 押し戻す風が吹き抜けた。

「うわぁっ」

 押し出されて、床に転げ落ちた。

 辺りの物を取り込んで無にしていく。

「こんな物と・・・・戦える・・・のか?」

 そもそもダメージとかあるのだろうか・・・。

 まるでこの世の全てを消す為に生まれたロボットの様だと思った。

 神とルシファーが世界を消滅させるために放った力の凝った物・・・・。

 けれど、このまま見ていても、あのエネルギーが全てを取り込んで消して行く。

「・・・・・」

 手を握った。

「ホディ、シグマスさん・・・・・・・お姉ちゃんを連れて・・・塔から逃げて・・・・・」

 手を握り締めて、深く目を閉じた。

「このままでは・・・・この場所も危険だから・・・・・」

「ルー?」

 お姉ちゃんが慌てて寄って来た。

 お姉ちゃんが首を振って、咳き込みながら叫んだ。

「ルー!逃げるなら、一緒に逃げましょう!・・・・・お願い」

 げほげほと苦しそうにお姉ちゃんが蹲った。

 その言葉に、震えた。

 怖くない訳ではない。すごく怖い。

 でも、逃げるなんて出来ない。

 急に光の吸収する力が強くなった。

「あっ」

 お姉ちゃんが光に引き込まれていく。

 私は手を伸ばして、お姉ちゃんを引き戻し、光と反対の位置へ向かうように背中を押した。

 光の力は私を引き込もうとしてくる。風の力を放ち、何とか引き込まれる力を防いだ。

「美人のお姉ちゃん、心配なのはわかるけど、残ったら逆に、お嬢ちゃんを苦戦させるんだぜ・・・・あの光は力を求めて全てを吸収して、全てを無に変えて行く・・・・この場所も何時まで残っているのかわからない」

 その言葉に、お姉ちゃんが俯いた後、光から遠ざかった。

「お嬢ちゃん、必ず無事で。僕は下に降りたら下から送れるだけ力を送るよ」

 シグマスが屋上の扉を開いて、ホディとお姉ちゃんを誘導した。

 ドアが閉まり、階段を下りる音がした。

 -ルー。

「キー・・・・・・」

 屋上に来た時に光輝いていた雲の道は、何処にも見えない。

 あれが<神の領域>への道だとすると、もう私には行きつけないのかも知れない。

 それとも、もう神という存在が消滅した時点で、<神の領域>は力が無いのだろうか。そう言えばミカエルがそんな事を言っていた気がする。

 私が・・・・早く上に着いていれば良かったのだろうか。

 お姉ちゃんの神厄病はこの力が消えれば・・・・終わる。

 光が力を飲み込んでいく。

 手を握り締める。

 両手が熱い。

 力が集中する。

 気が凝った剣が手の中に現れた。

 自分の力自体が凝った剣に火と風と土と雷の力が取り巻く。

「自分を信じる・・・・こう言う事・・・・ね」

 光の力が塔を飲み込んで行く。

 私は床を蹴って飛んだ。

 背に、白い翼が生えた。

「・・・・・この翼は・・・・」

 ミカエルが私の手を握った事を思い出した。

 光の力が私の力を求めて追ってくる。

 さらに上空へと飛んだ。

 光の力が追ってくる。

挿絵(By みてみん)

 手に現れた剣を握り、振り下ろした。

 剣の波動が光の力に襲い掛かる。

 光はその力を吸収する。

 剣を強く握りなおした。

「私達の力、食らえぇえええっ」

 キーの火の力が剣の波動を包み込み、光の力に襲い掛かる。

 光はその力を吸収し、さらに大きくなり、辺りの雲の水蒸気をも飲み込んでいく。

 辺りがフラッシュする。

 強い力が辺りに広がる。

 辺りに雲が現れて、雷が起こる。

「もっと、もっと力を込めて・・・・・」

 息を吸い込む。

 光が私を吸収しようと、私に向かってくる。

 塔がどんどん光の力に吸い込まれて行く。

 お姉ちゃん達は無事に逃げただろうか。

 両手に、自分自身の力、そしてキーの力が漲ってくる。

 光はどんどん大きくなっていく。

 光が私を、強い風の力で吸い込もうとする。

 吸い込まれそうになり、周りの力を無効化し、風の力で脱出する。

 さらに速度を上げて、上昇する。

 光が辺りを飲み込んで大きく膨れ上がっていく。

「負けない力よ!全ての生命体の生きる力よ!」

 体中に全ての命の生きたいと言う思いが集まってくる。

 -お嬢ちゃん、地上で僕らの力も全て送る。

 -ルーは負けない。私は信じているわ。

 お姉ちゃん、ホディ、シグマスの力も体に漲るのを感じた。

 -私の事も、忘れないでね。お姉ちゃん。

 -絶対、お前は、生き抜けよ!じゃないと格好悪いからな。

 -私の力をもってすれば、そんな光など一撃に過ぎぬ。

 -ルー・・・・貴方は絶対に打ち砕けるわ!エジルと共に貴方は生きて頂戴!

 両手で剣を握り締めて振り下ろす。

「みんなのちからぁああああっ!光より大きな力となれぇえっぇえぇっ!」

「いけぇええええぇぇえぇぇっ!」

 光の力に向かって、剣の波動が大きな力の塊となり飛んでいく。

 火、風、土、雷、水、氷の力が波動を包んでいく。

 光の力に力の塊が激突する。

 そして、爆発した。

 辺り一面が何も見えなくなる。

 光と爆風が辺りを覆う。

 突如、何かすうっと力が抜けるのを感じた。

 ずっしりとした疲労感が襲ってくる。

 そして背中の羽が消失した。

 飛翔する力を失い、私は地上へと勢いよく転落していった。

 -ルー!

 その時、何かの力が私を包んだ。

 不思議な力に包まれて、落ちる速度が和らぎ、ゆっくりと私は下降していく。

 -貴方が無事で・・・・本当に良かった!

 -ルーには何もしてあげられなかった。私は父親として何も出来なかった事は何時も心残りだった。

 -私達はやんちゃで暴れん坊で悪戯っ子な幼い貴方を置いて命を落としてしまった事は、ずっと辛かったの。

 不思議な声が頭に響いて来る。

 ゆりかごの中に居るような不思議な心地よさの中、ゆっくりと目を閉じた。

 -愛しているよ。エジル・・・・ルー。やんちゃで良いから・・・・ずっと生き抜くんだ。

 -必ず・・・・幸せにね。

 そう・・・・・ずっと、私を・・・・・・・いいえ、私達を、見守っていてくれたんですね・・・・・・・。

 ゆっくりと下降する中、沢山の気配を感じた。

 沢山の魂が、空へと飛んでいく。

 命尽きた魂達が、還っていく・・・・。

 ゆっくり落ちていくのがわかる。

 大きな音がする。

 塔が壊れていく。

 <神の領域>の光が一瞬、見えた気がした。

 キー・・・・あの光の中に・・・・向かって・・・。きっと・・・・。

 -ルー・・・・誰より、愛しているよ。

 -最後まで共に戦えて良かった。何も後悔しなくていい。俺も何も後悔していない。ありがとう、ルー。

 魂達が、私を包んで、離れていく。

 

     *


 目を開けた。

 お姉ちゃんが、半身を起した状態の私を抱き締めてくれていた。

 塔が崩れ去っていく轟音が辺りに響いている。

「ルー・・・・・良かった!ルー」

「お、お姉ちゃん・・・・私・・・・ね」

 私は、何故か泣いていて、涙が止まらなかった。

 塔から少し離れた森の中で、お姉ちゃんに抱きしめられていた。

 塔は力を失い、崩壊していく。

 ゆっくりと辺りを見回すと、ホディとシグマスも側に居た。

「お姉ちゃん・・・・・・・」

 私に語りかけてくれた声。

 私を包んでくれた力。

「貴方が・・・・ゆっくり落ちてきて・・・・でも意識がなかったから・・・・どうしようかと・・・思ったの」

「良かった・・・・本当に・・・・ルーが・・・・ルーが・・・・戻ってきてくれて・・・」

 お姉ちゃんが泣きながら、また私を抱きしめた。

「お姉ちゃぁああん・・・・!」

 私もお姉ちゃんに縋りつくように抱き付いた。

 ぎゅうっと抱きしめられる感覚に、さらに私は号泣した。

「ごめんね・・・・ごめんね、ルー・・・・・貴方には辛い思いばかりさせた・・・・」

 そう言って、私を強く抱きしめてくれた。

 首を振った。

 ゆっくり私を此処に連れてきてくれた力・・・・声は・・・・。

 光の力を倒す時、私に最後に呼び掛けてくれた声。

 あれは・・・・多分。

 遠い、遠い記憶の何処かで私を見て喜んでくれていた声。小さくてよろよろと歩く私を喜んで呼んでくれた声。

 ずっと・・・・私達を・・・・見守って・・・くれていた・・・・。

「ずっと・・・・わた・・・・守って・・・・・」

 涙で声にならなかった。

「凄い・・・・な・・・・」

 ホディが崩れていく塔を見つめながら呟く。

「神に本来、実体はない。お嬢ちゃんが倒した神の力の塊、ヤハウェウエポンは世界を象徴する力の集合体・・・・・・・・」

「再び、神の力が姿を現す時はこの世界がさらに荒廃した状態なのだろうか・・・・それとも」

 シグマスが静かに瞳を閉じて呟いた。

 そして、ふっと気がつく。

「キー・・・・?」

 私の中の何処にも、キーの力を感じない。

「キー・・・・?」

 私はお姉ちゃんから離れ、立ち上がった。

 何処にも、キーの気を感じない。

 感覚を研ぎ澄ませても、何処にも。

 いつも私と共に居てくれたキーが居ない。

 ずっと私を支えてくれたキーが居ない。

「キー?」

 辺りを見回しても何処にも居ない。

 キーはずっと私の中に居た。

 力も何も要らない・・・・これからも・・・・ずっと側に・・・・居たい。

 そう願って戦っていたのに。

 思い出すのは、光を倒した時に感じた力が抜ける感覚。直後のずっしりとした疲労感。

 嘘だ・・・・嘘だ・・・・。

 でも、はっきりとわかる。キーの魂が何処にもない事が。

 手が震えた。

 その手を額につけてもう一度、感覚を研ぎ澄ました。

 でも、何処にも、いない。

「私は・・・・」

「私は・・・・キーをもう一度、殺した・・・・・」

 涙が溢れてきた。

 口の中に、涙の塩辛い味が広がってくる。

「それは、違うんじゃないかな」

 シグマスが口笛を吹きながら続ける。

「あいつは、お嬢ちゃんに、救われた筈だぜ。黒い力から解放されて、命は浄化されただろう。浄化されたあいつの命は再び巡ってくる。・・・・・・・きっとまた、ひょっこり会う事が出来る筈だよ」

 空を見上げる。

「おー・・・・こんな空、本当、何年振りだろうな・・・」

 ホディが呟いた。

「僕は生まれて初めてかも知れないな・・・・・・・・・」

 強い日差しが差し込んで来る。

 見上げた空には青い空と輝く眩しい程の太陽が照っていた。

 魂達が輝きを放ち、空へ登っていく。

「ネヒア・・・・・・・・」

 シグマスが呟いた。

「血が繋がってなくても・・・・・僕にとってはたった一人の、大切な妹・・・・だから必ずまた・・・会えると信じているよ・・・・・」

「・・・父さん・・・・母さん・・・・・・・キーカス・・・・・」

「アンジェ、クレシェ、バラム・・・・・・・」

 そう言うと、シグマスは瞳を閉じた。

 青空の中、沢山の魂達が塔を囲うように空へ還っていく。その塔が崩れ去っていく。

「・・・・帰ろうか・・・・・・きっと、マニャも心配して待っているさ」

 ホディが私の肩を軽く叩いた。

 私は頷いた。

 そうよ、キーはきっと・・・・<神の領域>に辿り着いた。

 そして、私を待っている。



  *


 街に戻った私達を、マニャ姉ちゃんが飛びついて迎えた。

 街中の人が、私達を待っていた。

 族長夫妻が、お姉ちゃんに抱き付いてきた。

「良かった・・・・もう、心配掛けて・・・・変な事ばかり言って飛び出して行ったから・・・・私達は気が気でなかった・・・・」

「あ・・・・本当に・・・・ごめんなさい・・・・」

 <神厄病>で隔離されていた人たちも、病が消えて元気になっていたようだった。

「よ、良かったルー!エジルぅうう!」

 マニャ姉ちゃんが抱き付いてきた。

「ずっと、心配してたんだから、もうールー!・・・・こんなに心配させて!」

「マニャ姉ちゃん・・・・」

「エジルもぉ!いきなり街を飛び出して行ったとか、何でみんな私に黙ってっ!信じられない!私を除け者にするなんて・・・・・」

 私の首を揺すってマニャ姉ちゃんが必死に訴える。

「ちょ・・・・苦しいよぉっ・・・・」

「えいーっ!もっと締めちゃうぞぉ!」

「やめて、ぶぐうぅううっ」

「その辺にしておけ、マニャ。とりあえずルーを食わせて休ませてあげてくれ。当然、御馳走くらい作ってるんだろ?」

「勿論よ!族長夫妻と一緒に、たっくさん用意したから、族長夫妻の家でこれからパーティよ」

「化物達も消えたし、今度、みんなで塔があった所の山までハイキングとかしたいわ!一度私もみたいわ!」

「勘弁しろ、もうあんな山まで歩きたくないぜ~」

「此処からでも、塔が崩れて行くのが遠目に見えて・・・・私、絶対行きたいわー!いいわよ、次はホディが除け者ね!」

 ふと、集まって来た人達の中に、複雑な顔で少し離れた場所から見ている人たちを見付けた。

 タィトのお母さん、そしてケヴァンさんの・・・・。

「<神の領域>には辿りつけなかったの・・・・・?何であの子は・・・・此処に居ないの・・・・なぜ・・・戻って来ないの・・・・」

 タィトのお母さんが顔を伏せて泣き崩れた。夫がそんな妻に首を振って「やめないか」と制した。

 タィトのお父さんもやりきれない表情をしていた。

「・・・・・・どうして・・・・・・どうして・・・・・」

 私はそのタィトの両親の様子を見て、顔を伏せた。

「・・・・・・私達は先に行って、用意しているから、ルー達は着替えてから来てくれていいわ」

 マニャ姉ちゃんがそう言い、族長夫妻の家に向かって行った。

 その後を数人ついて行った。

 タィトの両親が泣き崩れた。

「ルー、行くぞ」

 私はホディに手を引かれた。

 私達はタィトの両親の横を過ぎて、族長夫妻の家に向かった。

 賑やかな宴会が開かれていた。

 既に酔い潰れている人まで居た。

「ルーは酒なんか飲んじゃダメだからな」

 ホディは御馳走が並ぶテーブルに乗せられた酒を取り上げた。

「飲むなんて言ってないじゃない!」

 私は、正面で微笑む族長夫妻が目に入った。

 今まで、私は気がついてなかったと思う。

 族長夫妻が、どれだけ私達を思ってきてくれていたのか言う事。

 そして、お姉ちゃんだけではなく、沢山の人に守られてきたのだと言う事を。

「今まで・・・・言えなかった。違う、気が付いていなかった。私は・・・・・私は愛されてたんだよね」

 そう言うと、マニャ姉ちゃんが抱き付いてきた。

「何をバカな事言ってるのよ!当たり前でしょぉ?」

「うん、だから・・・・・ありがとうって・・・・・」

 マニャ姉ちゃんにも、ホディにも、族長夫妻にも・・・・皆に。

「言わなくちゃいけないって・・・・」

 そして、天使達が言っていた言葉も、忘れてはいけないのだという事。

 彼らの主張は、私には正しいなんて、到底思えなかった。

 けれど、私達人間が人間同士で殺し合い、大地を破壊してきた事は、正しくなかったのだと思う。

 高く天に飛んだ時、聞こえてきた。

 全ての命の生きたいと言う気持ちが。

 力を感じた。

 その力が私を取り囲んだ。

 それを忘れてはいけないのだと、思った。


 


   *


 

 本当にお腹いっぱい詰め込まされた。

 私とお姉ちゃんがずっと暮らしていた家に、二人で戻った。

 二人で同じベットに横になった。

「ルーが小さい時は、いつも私はこうやってルーと二人で眠ったわ・・・・ルーはやんちゃなのに甘えっ子だったから・・・」

 私達が居ない間も、族長夫妻がちゃんと清掃しておいてくれた為、とても綺麗に整っていた。

 お姉ちゃんが、此処に居る。

 頭の中に色々な事が駆け巡った。

 お姉ちゃんと一緒に過ごしてきた事。そして、<神厄病>だと告げられてやり切れない思いになった事。

 お姉ちゃんの体温に安心して瞳を閉じた。

 小さい頃のように手を繋いで眠った。

挿絵(By みてみん)

 手の暖かさが嬉しくて。

 私は少し眠って、ふと目が覚めた。

 お姉ちゃんの寝息が聞こえてくる。

 そっとベットを出た。

 扉を開けて、家を出て、キーが居る筈の家に向かった。

 扉をノックする。返事がない。

 扉を開ける。

 暗い部屋内には人気がなかった。

 キーは・・・・何処。

 家中を、探した。

 でも、何処の部屋を探しても誰もいない。

 ベットの下から出てくるかと思って、覗いた。

挿絵(By みてみん)

「・・・・・・・」

 沈黙の時間が流れる。

「私は本当に・・・・正しかったの・・・?神の力を残しておけば・・・・神の領域は・・・・キーは・・・・」

 戻って来たんだろうか。

 どうすれば良かったんだろう・・・・。

 その時ふと、ゆりかごに包まれたようなぼんやりする意識の中で何も後悔しなくていいという声が聞こえて来た事を思い出した。

「キー・・・・・」

 私は涙を拭ってゆっくりと、家に戻った。

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