七章 審判を終える者
七章 審判を終える者
目を開けた。
酷い崩壊状態だった。
柱や彫像、床、壁、あらゆるものに大きな亀裂が入り、今にも崩れそうな程だった。
「あ・・・・」
「目を・・・開けたか?」
ホディの顔が視界に入った。
ホディの顔からゆっくりと体に視線を移すと、ホディの右腕が焼け爛れて無くなっている事に気が付く。
一体、何が・・・・。
「確かに、凄い力を持ってるようだな・・・・・・・」
白い翼を持つ者達がゆっくりと側に寄って来た。
「おー、おっかないもんだな・・・・・・・活躍場所ないまま、悪魔さん達消えちゃったよ・・・・僕だって身を守る体制を取らなかったら、多分吹き飛んだよ・・・・」
口笛を吹いてシグマスが告げる。
私はゆっくりと半身を起した。
そして、私の隣に眠るように静かに置かれた傷だらけの体が視界に入った。
その表情は穏やかで、安らかな眠りだった。
「・・・・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・?」
揺すぶった。
その胸に顔を寄せ、胸の動悸と呼吸を感じてほっとした。
「・・・・・なんかさ、役に立たなそうな筋肉マンが美味しい所持ってくもんだよね~・・・・お嬢ちゃんが混乱して爆発する時、美人のお姉ちゃんを庇って腕が丸ごとぼろりしても盾になり続けるとか・・・・」
「妹の正気を取り戻そうと、自分の身を顧みず飛び込んでいった姉。その姉を庇う筋肉マン・・・か・・・」
お姉ちゃんは、助けを求めた私の側に寄って来た。
そう、そして・・・・お姉ちゃんは・・・・・・。
『大丈夫、ルー!貴方がそんなことで正気を失ったりしない。弱い心が有っても良いの!』
『どんな事が有っても、お姉ちゃんは今度こそルーを信じているわ!』
私を抱きしめて、耳元で・・・・・・・そう言った。
その後、お姉ちゃんを呼ぶ、誰かの声が聞こえて来た。多分、ホディの声。
そして、私は・・・・・何かに耐えきれなくなって・・・・力を放出した。
私は、意識を無くして・・・・。
「どうやら、瘴気は抜けたみたいだね・・・・・そして、おじさん、その腕はもう治してあげることは出来そうもないよ」
シグマスがそう言って、ホディの腕を治癒した。
腕が戻る事はなかったが、出血や焼け跡が消え、腕の先が初めからなかったように綺麗な皮膚が再生された。
「そうだな・・・・腕一本くらい安い対価だろう。俺はエジルを庇わなかったら一生後悔したからな」
シグマスはそれを聞くと鼻で笑い、お姉ちゃんの側に寄って癒しの力を使った。
「ん・・・・」
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんがゆっくりと目を開けた。
「あ・・・・」
「よ、良かった・・・・・・私・・・・・お姉ちゃん・・・・お姉ちゃん~・・・・」
お姉ちゃんに抱き付いた。
「私・・・・生きてるの・・・・?」
お姉ちゃんがぽつりと呟いた。
お姉ちゃんは半身を起し、私をゆっくりと押し戻すとホディの方に視線を移した。
「・・・・・ホディ・・・・・・・・」
「そんな目をするな、俺は何も後悔していない」
そうホディが言うとお姉ちゃんは涙を流し始めた。
「何故・・・・・私は・・・・初めから、<役目>を終えたら死ぬつもりだった・・・・妹を新しい世界へ導き、あの人が望む人間の最後の足掻きを叶えてあげる事・・・・たった一人の妹を助けて死ねるならと私は飛び込んで行った。自分の身を守らずに・・・・・・・・・」
「馬鹿言うなよ、勝手に死ぬなんて許さない。お前は俺の婚約者だろう」
その言葉にお姉ちゃんは顔を上げて首を振った。
「いえ・・・・・・私にはそんな資格はもう・・・・・・・私は・・・・私はあの人と・・・・」
「本当にお前が、あいつと何処までも行きたいって言うなら、仕方ないから離してやるけどな。俺はお前を離す気なんてないからな・・・・・・気が付いていたんだよ。お前があいつと会っていた事もな」
「ホディ・・・・」
「お前の苦しみも・・・・葛藤も俺は全て見ていた・・・・・自分の運命から逃れたい気持ちから・・・・あいつを求めた事も・・・」
その時、塔がぐらりと揺れた。
「な、何・・・・・?」
白い翼を持つ者達も揺れた事に動揺して顔を上げた。
「この気配は・・・・・まさか・・・・・神が・・・・」
「神が降臨された・・・・のか・・・・・・?」
「神が地上に降臨されたのなら、この世界は再び創世の時を迎えたと言う事だ。新しい時代がこれから巡るだけの事だろう」
「神は遂にそう決断されたのか・・・・・」
その声に、白い翼を持つ者を振り返った。
「・・・・・そう言えば聞き忘れてたよな。白っぽいあんた達はやっぱり人間を破滅させたかった<天使>なのかい?」
シグマスが白い翼の者達を振り返って問う。
「私の名はミカエル。天使の長。右がガブリエル、左がラファエル。・・・・・神の言葉として<預言者>に声を聞く能力を与えたのは私。そして、ガブリエルはその声の発信役だった。預言を通し、我々の言葉を聞く能力を持つ者を置き、人間を正しく導く為に、遠い場所からでも私達の声を聞く能力を人間に付与した」
ミカエルの名・・・・ルシファー達が言うもっと前に、何処かで聞いた気がする。
そうだ、<聖堂>だ。
ホディと共に、少しだけ中を覗いたミカエルを祀る聖堂。孔雀と剣が描かれ、天使の像が有った廃墟。
その中に此処に入る為の水晶玉が祀られていたと塔に入る直前にシグマスが言っていた。
塔に入る為の資格は、この天使達が認めた力があるかどうかという事だったのね。
どれだけ壊そうと思っても破壊できない入口は、シグマスが持ってきた水晶玉を配置し力を込めると開いた。
「人間にとって、破滅かも知れんが、我々にとっては神の新世界の創成は美しい大地を存続させる為の流れの一つに過ぎない。この地上は、神が作り上げた美しい理想郷の大地。神はこの大地を栄えさせる為に、<人間>を産み落とした」
「人間は神が理想とした最高の生命体で有った筈だった・・・・自らの力の一部を授け、大地を治める為の風や地を治める力などを与えた」
この天使達はどれだけの間、生きているのだろう。彼らには生死というものはないのだろうか。
それとも寿命が凄く長いのだろうか。
あの聖堂の現状も天使達はやはり知っているのだろうか。
「しかし、人間は、大地を食い荒らし、大気を壊し、美しい理想郷を食い荒らして行った。そして増え続けた。人間は<間引き>し、捕食される事がなくてはならない。増え続けた人間は、神が作りし大地も破壊する。神は生命の中で<捕食>するモノもまた必要だと神は考えた・・・・一定量を間引き出来れば、この大地を美しく保つことは可能だと神は悩んだ末に結論づけた・・・・」
その言葉に、私は、立ち上がって天使達の方を振り返った。
間引き・・・・って、神にとって人間とは・・・作られた作物の一つだと言うの?
その為にお姉ちゃんを簡単に・・・・いいえ、全ての人間を簡単に<間引き>という言葉で減らしてしまうと言うの?
「そんなの・・・・傲慢で身勝手だ!私達は作物なんかじゃない!」
私のその叫びに天使が此方に視線を向けた。
「・・・・・・・作られたモノ・・・しかし、それは此処に意志を持ち始めた。神が苦悩を続け、あらゆる力を込めて作った最高傑作。そうだな、最も質の悪い物を作ってしまったのかもしれない」
その言葉に私は、手を握り締めた。
私達の存在は、神や天使にとってはその程度のモノだったと言うのか。
『間引き』という言葉で、食われ、病にかかり死ねと言うのか。
「しかし、神が落とした聖なる神を代行する<神獣>を人間は倒し始めた。薬や医学などで神が定めた寿命に逆らい始めた人間。神はさらに悩み、人間が考えた薬剤などでは癒せぬ病を人間の中の一部に与えることにした」
<神獣>・・・・聖なる神を代行する物・・・・それがまさか、化物だと言うの・・・?
神はその<間引き>の為に化物を召喚した・・・と?
薬剤では癒せぬ病・・・それは・・・。
「それが・・・・<神厄病>だと・・・言うの?」
ミカエルに問い掛けた。
「それで、神は人間に対し、一定量の人間を調節した・・・・・」
「しかし、人間は争いにより、さらに大地を壊し始めた・・・・・」
「人間は、私達を敬う事を忘れ、大地を壊し、生物を壊し、生態系を壊し・・・・あらゆる生命を奪い、挙句には人間同士が争い始めた。その状態に神は嘆いた。そして決断された。この世界の崩壊と新しい世界の創造を」
敬う事・・・・・聖堂や塔に人が立ち入らない状態になって久しい状態ではあった。元々神や天使が祀られていたのなら、太古の人間達はそこで祈りを捧げていたのだろう。
そんな場所が確かにあれだけの廃墟となっていたのだから、現在の私達には神や天使を敬う習慣などもう残っていなかった。
領土争いや小競り合いなどで余裕を無くし、化物や神厄病によってさらに神に祈る余裕は消え失せたのだろう。
けれど、私達の命を奪うと言うのは納得できるものではない。
「千年前と今回は違う。神は全ての地上の生物を滅ぼして新しく作り直そうと考えられた。人間も含め、全ての地上の命は死に絶える。そして次に神がお造りになる世界こそが理想郷となるのだ」
「その神が新世界をお造りになる場所こそが<神の領域>。あらゆる生命体を蘇生させ、再び地上に戻す力を持っている。その魂の力、体の力が尽きていなければ、その生命体を元のままに戻す事が出来る。命を吹き返すべきと判断した者に再び生命を与える為に神がお造りになった場所」
「魂の力も尽きた生命は、神の領域の力を以て、天界へと還り、時が満ちて新しく命が再生される折に再び地上にその命を戻す事が出来る。その力こそがまさに神の力なのだ」
「<神の領域>に行きついた者には、神の代理人として神の力の一部を分け与えられ、世代が移り変わってもその力が絶えぬように大きな神の力は子供へ子供へと受け継がれるだろう」
その言葉に私は、手を握り締めた。
「勝手な事ばかりを・・・・・・・・!」
全ては神の定めた道のままに人間は歩いているだけだと言うのか。
神が定めた方向と違う方向を歩き始めた人間は滅びよと言うのか。
「じゃ、<神の審判>とは一体、何だったんだ?お前達は、私達の一体、何を試したかったんだ?」
「お前達が、今まで語られ続けて来たであろう神の審判。それは一体、何の事か教えてやろう」
「神はこの全土を作り、生命を与えし時、その美しさに感嘆した。その美しい大地は、私も共に見てきた。人と言う存在を誕生させた時、最初は彼らは協力し合い、美しく生きていた。神を敬う神殿や塔を建設し、穏やかに暮らしていた。しかし、次第に彼らは欲望や感情で命を簡単に屠り始めた」
「神を敬う心も忘れ、争いを繰り返し、簡単に命を屠る声が天界には聞こえ続けた。間引きなどだけでは足りない。人間を絶滅に追い込む為に、天候も操作し、神獣を増やし、病をさらに増やした」
「下らぬ価値観は身を滅ぼすだけだと魂に教え込んでから、新しく創成する大地に人間を蘇らせる為に・・・神が人間どもを絶滅させる為に行った事だ。ところが、彼らは伝染病、天候の悪化、大地の不作が続くと協力し始めた」
「神が人間の絶滅を望んだ時、彼らは美しい姿を取り戻し、無駄な命の刈り取り、争いを止めたのだ。千年前も私が地上に降りる事を命じられ、神に人間どもの絶滅を命じられた。しかし、彼らは束になり、私の腕を切断した。私は考えられぬ事に、動揺した」
「その時、神が私に命令を下した。『人の生きたいという願いと、本来あるべき姿を感じ取る事が出来た。お前はそこから撤退し、人間に下した絶滅命令を取りやめて帰ってくるように』・・・・と」
「私は、その命令に従って、天界に戻った。その先で神は言った。絶滅させるに惜しい輝きを人の中に見つけたと。人が神の信仰を忘れ、再び醜い争いを始めた時に、再び人に審判を下そうと。再びお前がその力と輝きを見定めてくるのだと。そして」
「私が、その試練を乗り越える輝きを見出した人間に、力を与えることを命じられた。美しい人間の心を持つものが人間の中で王となるべく力を持つようにと・・・・そう私達に命じられ、神は自らを封じ、眠られた・・・・神は自らが生み出した人間の末路を信じたいと思ったと同時に・・・・見る事を恐れた」
「人が神への信仰心を忘れ、争いを続ければ、神の精神力も落ち、神の力は落ちていく・・・・・神はもう眠る以上の決断はなかった。そして、この地が再び審判を必要とする程に荒廃した時には、その結末を我々に委ねて」
「貴方達の祖先に人間の王となるべく、神の力の一部を預かり人間にを与えたのが、この私」
「強い魔力、そしてその魔力を制御し、抑え得る魔法への耐性。魔力を持つ者達を統制して率いる程の気の力。ルーファ、貴方はその剣を通じて、気を使って術力を出してるに過ぎません」
「貴方に受け継がれた能力はそのような形で現れたのでしょう。そして憑依するキーカス、貴方の術力はまさに神が人に与えた最高峰の力。でも人は人の体を離れて魂だけ別の者に憑依する事など出来なかった筈です」
そう言うと、ミカエルは、まっすぐ私を指した。
「貴方がそれを出来たのはその娘への執着と、その娘が貴方に執着していた事、そして、サマエルの力がそこに加わっていたから、でしょう・・・・・」
「・・・・・・・神は、自ら目覚めぬ眠りに投じられた筈だった・・・・ルシファーの呼び掛けに答えたのか、それともルシファーさえ降臨させる人間という生物の抹消をご決断されたのか・・・・」
「神は本来の力はまだ取り戻せていない。私達も早く上に向かわねばならない」
ルシファーの呼び掛け・・・・・?お姉ちゃんが神の力を弱める為に呼んだ悪魔・・・か。
「ルシファーとは何者?悪魔って言うのは一体・・・・」
「ルシファーは我々天使の・・・・最も優れた男でした。彼は神にとって代わる事を決めて神に剣を向けました。そして私共が勝利し、この『光の剣』で彼の心臓を突いて勝利したのです・・・・」
ミカエルは光輝く剣を掲げた。
「ルシファーはその戦いに敗れ、闇の世界へと堕ちて行きました。彼は人に発展と欲望を与え、人に進歩を与えた。しかし、人は欲と進歩の中、争いを繰り返した。人の争う心を糧としてルシファーは力を蓄えていった。そして、悪魔を求める人間の手に因ってこの地上に降臨した。神と対なる存在となり、人間に争いの心を与えた」
「神は<天への道>を通って地上へ降臨される。天界へと繋がる道ですが、通れるのは我々天使と神、そして死者だけです。堕天したルシファーは通る事は出来ませんが、その手前で呼び掛ければ神には届いた事でしょう」
「人間は、人間の消滅を早める為に、悪魔を呼んだ・・・・・・神は悪魔を含めて全てを滅ぼし、再び世界を創成される為に降り立った・・・・・人間とは愚かな生き物・・・・・・」
そう言うと、ミカエルは瞳を閉じた。
私は勝手な事ばかりを並びたてる天使は、人間にとっては悪魔と何も変わりがないと思った。
「<神の領域>は何処に有る?」
「この塔の最上階から繋がっている<天への道>の入口に有ります。神が眠られた間は、神の領域に本来の力は成していなかったが、お目覚めになり、この地上へ降り立ったとすれば今、その力も蘇った事でしょう」
その力・・・その力が有ればキーを蘇らせる事が出来る?
お姉ちゃんの<神厄病>はどうなのだろう?
私は、上に向かう階段を見た。
登ろうとすると、天使達が前を塞いだ。
「神の領域に向かうつもりか・・・・お前にその資格が有るのか、見定めさせてもらおう・・・・どちらの体がこの塔に登ってこようが神が定めた未来は変わらないのだから・・・・そう、どちらの体が生きて登ってくるのかは我々はわからなかった。それぞれの一族の者達にどちらかが上がってくるだろうとそれぞれ神託を授けた」
どちらの体が登って来ようと・・・・・?
その言葉に、手が震えた。
「・・・・・・いい加減にしろっ・・・」
ブチギレそうだった。
「お前達が・・・・この化物達を作り、病を作り、キーや私やお姉ちゃんだけでなく・・・・一体どれだけの者達が苦しんできたと思っているんだ・・・・お前達にはただの足掻きにしか見えないのか?・・・・・その姿が美しい本来の姿だと・・・・?そして、何を偉そうに『見定める』だと・・・・」
両手を握りしめた。
握り締めた手がぶるぶると震えた。
「私達はお前達の物でも傀儡でもない・・・・作物でもない・・・・・」
「なのに・・・・『どちらの体が登って来ようが』・・・・とか・・・・よく・・・・お前達は・・・・・言うもんだよ」
腰の剣をするりと抜いた。
「お前達が言う、<作物>がどれだけの力を持っているか・・・・いや、どんな思いを持っているか・・・・どんなに悩んで此処に立っているのか・・・・まるでわかっていない。お前達に引導を渡してやる!」
剣に力を込めて、ミカエルに飛びかかった。
天使達は、ふわりと宙に浮いてかわした。
ミカエルが手に光を集めて放つ。
剣を握って、光の球を弾き返した。
「人間よ、今ある大地が醜いとは思わないのか?神の統べる理想郷を破壊していく事しかお前達には出来ないのか?」
「理想郷も何もない。私が見えるのは今、此処に有る大切な人の命だけだ」
両手に剣を持ちなおして思いっきり振り回す。
剣の波動がミカエルに向かう。
「お前達がどういう使命だか知らないけど、随分、勝手なことばっかりじゃないか!私達がどれだけ苦しんだり、悲しんだり、そして、笑ったり喜んだり、そんな世界の中で、繋がって行く命がどれだけ大切な物なのか、お前達は何にもわかってない!そんなお前達が、人間の命を消すとか作るとか・・・・そんな簡単に言う事が出来るなんて間違ってる!」
ミカエルが素早く避けた。
再び、剣を振る。
剣の波動が、雷の力に覆われミカエルに向かう。
避けようとミカエルが身を逸らすと、波動は反転してミカエルを追った。
ミカエルが両手を構え、白い光を波動に向かい放った。
白い光が、波動に飲まれて消えていく。
剣の波動がミカエルに直撃する。
他の二人の天使達が慌ててミカエルの側に寄った。
ミカエルは波動を食らい、その場に膝をついた。
「私はあんたたちの存在を認めない!」
ミカエルが、二人の天使達に頷いて、「大丈夫だ」と答えて立ち上がった。
「では人間よ、殺戮と争いに因って大地も荒れ果てて人も死していく世界こそが正しいと言うのか?」
そう言って、ミカエルが光の砲弾を連続で投げてきた。
左手で球を無効化し、右手で火の玉を放った。
「私はお姉ちゃんを殺して良いと思ってるお前達が正しいなんて思わない!」
剣を両手に構えて大きく振った。
大きな波動の力がミカエルに向かう。
火の力が波動を包み込み、雷の力が、ミカエルを麻痺させてその場に縫い留めた。
「まさか・・・・体が動かない・・・・」
その力の直撃を受けてミカエルは倒れた。
二人の天使達が支えると、ミカエルは半身を起した。
「それ程、望むのなら、行くがいい。神は既に世界の再創成へと着手されている頃だろう・・・・」
ミカエルはそう言うと、立ち上がった。
その時、また大きく塔が揺れた。
大きな振動が襲って来たかと思うと、一瞬で止んだ。
しかし、何か感じた。
何かわからない。
「ま、まさか・・・・・」
天使達が大きく動揺をし始めた。
私を相手にしていた時の余裕ある表情とは変わり、信じられないという顔で慌て出した。
「こ、こんな馬鹿な・・・・・」
そう言うと天使達が、階段に向かって行く。
慌てて天使達が駆け上って行った。
「・・・・・?」
何が何だがわからない。
何が起こったと言うのか。
よくわからないが、塔全体が放っていた高圧的な力を感じ取る事が出来なくなった。
「何が何だかわからんが・・・・追うか、ルー」
ホディが天使達を追って階段に向かった。
私も続いて、階段を駆け上がる。
後ろに、シグマス、お姉ちゃんが追って来た。
*
階段が長く続いた。
螺旋状に続く階段の上に、扉が有った。
ホディが重たいその扉を片腕で開く。
突風が吹きつけてくる。
光が目に入り、前が確認できない。
目が慣れてくると、塔の屋上らしき光景が広がっていた。
城内の一階の広さ分、そのままあろうかという広い屋上の周りには立派な柵が取り囲んでいる。柵は高さや白と灰色の色合いで天使の形が描かれていた。太古の人間達は天使達を敬ってきた事が感じ取れる。
雲が屋上の周囲に見える。
その雲の一つが光っている。先に雲が続いて道のようになっているのが見える。
あの先が<天への道>なのだろうか・・・・?<神の領域>とは・・・・?
光が差し込む塔の屋上の端に、天使達と、ルシファーとサマエルの姿を見つけた。
ルシファーの姿が何か変わった。
外見的特徴は何も変わっていない。整った顔立ちも。
しかし、全体を包む黒い力と共に放たれる、光の力が視覚に入ってくる。
黒い力と反する筈の光の輝きが確かに放たれているのを感じ取れた。
「まさか・・・・・まさか神が・・・・・そんな・・・・訳が・・・!」
先ほどの天使ミカエルがルシファーの姿を見つめて叫んでいた。
「お、お前が・・・・まさか・・・・神を取り込む・・・・とは・・・・!幾ら封印されて目覚められたばかりの弱られていた状態と言え、神が・・・・・」
「でも・・・降臨された筈の神の力が、この地上に感じられない・・・・そして微かに感じるのは・・・・ルシファーから・・・・」
「ふん、お前達はそこで指を咥えて主人の存在の消失を嘆いているが良い」
そう言うと、ルシファーは手を大きく広げて上に掲げた。
その手から大きな闇が生まれた。
闇の力が紫色に光り輝き、強い力を放ち出した。
「既にお前達の主人は私が取り込んだ・・・・神などもう存在しない」
「何を・・・・何をする気か?」
ガブリエルがルシファーに問い掛けた。
「神が行う筈だった新世界の創成。私が成し遂げてあげようと言うのだ・・・・・」
「な・・・・何を・・・そんな事・・・神以外の誰もがする権利などありません!」
ラファエルが、ルシファーに向けて光の矢を放った。
「お前らなどにやられる私でももはやない。お前達は新しく私が創成する世界で、神が居ないと嘆いて暮らしているといい。命は生かしてやっても・・・・構わないぞ?」
ラファエルが繰り出した光の矢を素手で掴み取り、砕いた。
「お前達が望むように、神が居なくても私がこの世界の人間を抹消し、再び私の為の世を作り上げようと言うのだ。感謝されこそすれ、お前達に恨み事を言われる筋はないと思うのだがな・・・・そう、新世界は私こそがまさに全てを治める神なのだ」
「ルシファー様・・・・ついに我々が支配する世界を作られるのですね・・・・神や天使に干渉される事がない私達の世界を・・・・」
側に付き添ってサマエルが頭を垂れる。
「黙れ」
ミカエルが光の剣を掲げて叫んだ。
「そう、その剣だ・・・・・四千年前に私の心臓を貫き、闇に落とした剣・・・・しかし、私はそんなお前達に恨み事を並べる事もせず、生かしておいても構わないと言っているのだ。・・・・・このまま、黙って身を引くが良い。新世界は直ぐに出来上がる・・・・」
紫色の光はルシファーの頭上でどんどん膨張していく。
「全てはこの塔も人間も何も無に還り・・・・・この私が作り直す新世界が出来上がる」
紫色の光が強い力を放ち続けて膨張していく。
ルシファーは両手を広げ、その紫色の光の球を山岳が続く地上に投げた。
紫色の空間が目に見えて広がって行く。
そしてその空間に触れると、次々と山が消失していった。
「・・・・・・・ルー・・・・あれは・・・・」
ホディが紫色の球が投げられた先を指す。
そこに目をやると、紫色の球が巨大化していく様子がはっきりわかった。
紫色の球が景色を飲み込んで行く。紫色の球に包まれた場所は何もない空間へと変化していく。
「アレに触れると・・・・きっと初めから存在しないものに・・・なるんだろうな。人間も、物体も」
シグマスが呟いた。
「バラム・・・・!貴方の望んでいたのは神の力を弱める事と、長く貴方の父が望んでいた神への報復とその悲願の達成であった筈・・・・貴方も神と同じように人間を滅ぼそうと言うの・・・・?」
お姉ちゃんが叫んだ。
「お姉ちゃん・・・・」
私は振り返り、お姉ちゃんに視線を移した。
お姉ちゃんはバラムを信じていたのだろうか。
バラムの意志はルシファーとは異なるのだろうか。
サマエルは、ルシファーが復活する事が出来たのは同じ心を持つからだと言った。その心が共鳴し、バラムの体にルシファーが宿れたのだと。強い意志で自分の家族を含めた一族達を犠牲にして悪魔を呼びだしたバラムが望んだ事であるからこそ、簡単に闇の力に飲まれて意識が飲まれたんだと。
では、現状を・・・あらゆるもの・・・自分をも犠牲にしてまでバラムは渇望していたと言うのだろうか。
それとも、ルシファーの強い力に押されてバラムの意志などもう何処にもないのだろうか。
お姉ちゃんの今の言葉はバラムには届いたのだろうか。
神の<神託>である<預言>の言葉は、ガブリエルが人間に伝えた言葉だとミカエルは言った。
天使達が描いた未来は、神が世界を創成し直す事だった。今はその天使達が描いた預言のシナリオから外れた未来が展開していると言う事なのだろう。
お姉ちゃんが見ていた<天使達が描いた未来>とは異なる事が今、起こっていると言う事なのだろうか。
お姉ちゃんが見ていた絶望の未来と・・・・今起こっている事、二人はどちらを望んでいたのだろう。
いや、そんな事を推測しても仕方がない。
今、此処で起こっている事こそが現実なのだから。
しかも、考える事は・・・・他にある。
<神の領域>とはあの先なのだろうか・・・・。
そしてキーは・・・。
私の中で能力を使い過ぎると、魂が砕け散る・・・・。
そうシグマスは言った。
キーの負担が少なくなるよう、剣を振り私の波動の力を使って戦う努力はしてきてはいる。
でも、自然にこの掌からキーの魔力の力が溢れ、使いこなせるように私に馴染んできている。
私が剣を振った時にキーの力が共に発動するのは意識していない。私に馴染んだせいなのか、キーが私を案じて発動しているのかわからない。
キーの負担に・・・・なっているのだろうか。
今も私は疲労感さえ感じていない。
<神の領域>に行きつけさえすれば、キーは蘇るのだろうか・・・・。
それまで・・・それまでキーの魂の力が持てば・・・・。
キーが・・・・キーの魂が砕け散る・・・・なんて事・・・・。
首を振って、視線を戻した。
前方でルシファーが投げた紫色の球が広がっていく。
紫色の球が包んで行く場所がどんどん無に還ってゆく。
光る雲が続く道が有った筈の場所の雲が消えて行く。
神の力がルシファーに取り込まれたせいなのだろうか。
あの向こうが<神の領域>ならば、行く事は難しそうだった。
また、向かった所で、天使達の話で神の目覚めで本来の力を成すと言っていたから、ルシファーが神を取り込んだ状態では何の力もないのかも知れない。
黒い暗雲が辺りを覆っていく。
「くっ!神に取って代わり世界を創成するなど、思い上がった真似、許しません!」
ミカエルが光の剣を取り、ルシファーに切りつけた。
「お前達などにやられる事はないと言った筈だ」
ルシファーが手に黒い力を宿す。
黒い力は、辺りから力が結集されるように大きくなり爆発した。
天使達を全て吹き飛ばす。
天使達が、強い力に倒された。
天使達は何とか起き上がった。
「ルシファー様、私が天使達を片づけましょうか?」
「サマエル、私の玩具を横取りするな」
楽しそうにルシファーが笑って答えた。
「申し訳ございません。ルシファー様の手を下すまでもないかと思われましたので」
サマエルが深々とルシファーに頭を下げた。
「・・・・あ・・・う・・・・・」
私の後ろから弱々しい声が後ろから聞こえてきた。
振り返るとお姉ちゃんが、手と膝をついて前屈みに倒れていた。
「お姉ちゃん?」
「エジル?」
ホディと共に駆け寄った。
此方側にはルシファーの力は向けられはしなかった。
お姉ちゃんが倒れたのは何故?
お姉ちゃんの側に駆け寄った。
「だ、大丈夫・・・・・」
小さな声でお姉ちゃんが呟いて、微笑んだ。全然、大丈夫には聞こえない。
お姉ちゃんから、感じる気の力・・・・魂の力が弱まっているのがはっきり感じられた。
<神厄病>のせいか・・・・・!
お姉ちゃんが・・・・・死んでしまう!
紫色の光はどんどん辺りを飲み込んで行くのが見える。
両手を握りしめて、天使達の側に寄って問い掛けた。
「あと一つだけ聞きたい。<神厄病>や散らばった化物達はどうやったら消える?お前達の言う神を宿したルシファーを倒せば終わるの?それともお前達をみんなふっ飛ばせばいいの?」
その問いに天使達は此方を振り返った。
彫像のような整った顔が三つ揃って、驚愕の表情を向けてくるのも気持ち悪さを覚えた。
「・・・・・黙ってないで答えてくれない?」
「・・・・・・貴方は神をも取り込んだルシファーを倒す・・・と?」
ラファエルが嘲るような乾いた笑いを含んで言う。
「私が質問してるんだ」
「・・・・・・私達の力は神の意志と力を借りて行使しているもの・・・・・神の力そのものが無くなれば・・・・私達も力を振るう事など出来ません」
ミカエルが光る剣を杖に立ちあがって告げた。
「だったら、私にとっては、倒すモノが一つになった。むしろ楽になったと思う事にするよ」
ルシファーが出現させた紫色の光が膨れ上がってどんどん世界を飲み込んで行く。あれを止めるにもルシファーを倒すしかないのだから。
そう言って剣を構えた。
笑い声が聞こえた。
「小娘、私を倒せる、とでも?」
笑いが止まらないというルシファーの側に控えていた、さらに楽しげに笑うサマエルがゆっくりと寄ってきた。
「ルシファー様を倒せるつもりの小娘の力。私が計ってやろうではないか」
そう言うと手を上に伸ばし闇の力を出現させた。
先ほどのような煙の力が私の周囲に現れた。
私の心を捕らえようとする力・・・・!
「ルー!」
お姉ちゃんの心配そうな声が聞こえた。
巻き付いてくる。
「くっ・・・・・」
頭の中の思考が乱される。
眩暈がする。
首を振って、気を静める。
両手を握りしめて、力を放出した。
「もう・・・・・こんなもの・・・・・効かない!」
そう叫んで左手を左から右へ振った。
闇の煙の力が消えていった。
「私にとって・・・・正しいもの・・・・それは、お姉ちゃんを助ける事だけなのだから!」
剣を構えてサマエルに飛びかかった。
サマエルが私の剣を自らの手の爪で止めた。
素早くサマエルが身を翻して後ろに飛ぶと掌を突き出し、その手から黒い力を吐き出す。
黒い力が私の周囲を囲い込むと、鉛の錘のようにずっしりと体が重くなるのを感じた。
私はその場で足が動かなくなった。
サマエルはその掌から火の砲弾を次々と繰り出した。
私は剣を持って火の砲弾を弾き返した。
体中が、火の砲弾を一度も食らっていないのに、熱くて重い。
サマエルが放った黒い力が、私の体と床を縫いつけた。
サマエルが短剣を翳して飛びかかって来た。
私は剣を構えてサマエルの短剣を止めた。
サマエルが更なる力を使う。
黒い力が周囲を再び囲む。
眩暈が再び襲ってくる。
左右、上下がわからなくなる程の。
「くっ・・・・」
何とか目の前を見るとサマエルの大きな爪が私の前に迫って来た。
その前に、鎌を片手で構えてホディが庇って立った。
鎌とサマエルの爪がぶつかり、ぎりぎり軋む音がする。
「邪魔だ!」
サマエルがホディを強い闇の力で吹き飛ばす。
ホディの大きな巨体がサマエルの力で宙を舞い、屋上を囲む柵に当たり、床に崩れるように倒れた。
「ホディ・・・・!」
お姉ちゃんがふらふらとした足取りで、ホディの側に向かった。
サマエルが再び飛びかかって来た。
私は剣を構えてサマエルの短剣を止めた。
「・・・・・っ・・・・」
腕も体も重い。
「イヤラシイチカラばっかり使うよね。僕より変態だわ~、気持ち悪い」
サマエルのさらに奥から声が聞こえて来た。
目を向けると、シグマスが地の力の波動をサマエルに投げていた。シグマスはサマエルの後ろに回り込んだようだった。
シグマスがさらに私に向かって何かの力をぶつけてきた。
何かを食らった。体が・・・・動く?
「お前も邪魔だ!」
サマエルが私から離れ、シグマスに向かって力を投げた。
シグマスは素早くかわそうと身を翻すが、サマエルが放った力はシグマスを追い掛けた。
シグマスは防御しようと構える。
サマエルの力がシグマスの防御する力を打ち砕く。
私は剣を構え直し、サマエルに向かって突進した。
剣は火と風の力を宿し、光輝いた。
私の剣はサマエルを突き刺した。
シグマスは、サマエルの放った闇の力を食らい、後ろに倒れた。
「くうう・・・・・お前達などに倒されるとは・・・・・ルシファー様の創造する新世界を・・・見られぬ・・・・とは・・・・でもこの程度の力のお前達に倒されるルシファー様では・・・・ない・・・・」
サマエルはその場に倒れた。
サマエルの気の力の消失を感じ、ほっと息をついた。
「ほう・・・・中々、やるじゃないか」
楽しそうにサマエルの戦いを眺めていたルシファーが声を出した。
ルシファーと戦っていた天使達がぼろぼろになり、床に手をついて倒れていた。
「少なくとも、そこの白い奴らよりは・・・・楽しませてくれそうだな」
ルシファーが放った力が有る方を見た。
どんどん紫色の光は巨大化して、飲み込んでいく。
山が消え、森が消えていく様子が見える。
倒れている天使達、ホディ、お姉ちゃん、シグマスの姿をゆっくりと見回した。
神を取り込んだというルシファー。
キー・・・・・私は・・・・勝てる?
自分の心臓が、どくどくと音をたてているのが聞こえる。
その私の中にキーの力と魂を確かに感じる。
そして、キーの魂を私は無事に、<神の領域>へ連れて行ける?
再び剣を強く握りしめた。
「私は・・・・・負けない!」
私はルシファーに斬りかかった。
ルシファーが楽しげに笑った。
剣をルシファーに突き立てたと思った。
しかし、ルシファーは次の瞬間、私の後ろに回り込んでいた。
ハッと後ろを振り返ると、私は、楽しげに笑うルシファーの手から繰り出された闇色の力を食らった。
体が吹き飛ばされて宙を舞う。
左手を振りまわし、闇の力を無効化して空中で体勢を整える。
着地点にルシファーが闇の力を構えて立っていた事に気が付く。
足に力を込めて再び空中から、上に飛び上がろうとした。
しかし、ルシファーの闇の力が網と変化し、私を捕らえて縛り上げた。
「くっ・・・う・・・・」
「ルー・・・・!」
お姉ちゃんが心配そうな声を上げる。
「負けるもんか・・・・」
お姉ちゃんを守るためにも・・・・。
網を剣を振りまわして解こうとする。しかし、解けない。
益々強く、網は私を縛った。
手の力が・・・・出ない。
-ルー!
キー・・・・・?
風の力が周囲を取り囲んで、縄が切れた。
ルシファーが闇の力を放ってくる。
手に火の力を集めて、闇の力を弾き返す。
ルシファーが指を鳴らすと周囲の空気が闇色の短剣となった。
闇色の短剣は一斉に私に向かい襲い掛かって来た。
私は剣を持ってルシファーが放った短剣を弾いた。
短剣は一旦、地面に向かい下降していったが何かの意志を持ったかのように反転して再び私に向けて襲い掛かって来た。
左手で闇の力を無効化させる力を放つ。
飛んできた短剣に向けて剣を振り回す。
剣が出した波動が、短剣を塵にした。
ルシファーを振り返ると、楽しそうに笑っていた。
ルシファーの闇の力が彼自身を取り囲んで全て砲弾と変化する。
大気の全てが砲弾となったような夥しい数の砲弾が私に向かって飛んできた。
左手に力を込めて砲弾を無効化しようとした。
しかし、黒い力は大きな鴉と変化し、鴉は大きな火を吹いてきた。
火を無効化しきれない。
火を食らい掛けた所で、私の周囲に守る力、結界の力が張られた。
結界の力が鴉の放った火の力を無効化して砕いていく。
キーの力を感じる。こうしているだけでもキーに負担を掛け続けているのだ。
手に力を込めて剣を振りまわす。
波動を雷の力が包み、辺りに召喚された鴉を一掃する。
ルシファーが私に向かい、闇色の光線を放って来た。
素早くかわして、床に着地した。
ルシファーの顔から楽しげな表情は消えない。
まだまだ余裕が有ると言う事か。
そうだ、私はルシファーに一撃も与えられていない。
ルシファーが手を広げて周囲に闇の力を召喚する。
闇の力が私に向かってくる。
キーの火の力が掌から放たれる。
ぶつかりあい、共に消滅した。
手に風の力を集め、ルシファーに向けて投げた。
ルシファーは笑いながら、風の力を右手を右から左に動かして無効化した。
その隙にルシファーの背後に回り込む。
私は、ルシファーの背中に剣を突き立てた。
ルシファーはその瞬間に私を闇色の力で弾き飛ばした。
ルシファーは笑いながら私を振り返った。
そして何事もなかったように、その剣を自らの体から引き抜いて、剣を砕いた。
柄も、刀身も綺麗に粉々に砕け散った。
ルシファーの体には傷一つなかった。
声が・・・・出なかった。
「もう、終わりか?小娘?まだまだこれでは私は物足りないぞ?」
そう言うと、闇色の光線を放ってきた。
動揺して反応が遅れて、防御も出来ぬまま食らった。
「ルー!」
お姉ちゃんの悲鳴のような声が聞こえた。
「お嬢ちゃん!」
「ルー!・・・・しっかりしろ!」
ホディとシグマスの声も聞こえた。
私は闇の光線の力で屋上の柵まで飛ばされて叩きつけられた。
キーの結界の力が闇の光線の力を防いだが全ては防ぎきれず、打撃を食らった。
「止めだ!」
ルシファーの声と共に、ルシファーの闇色の力が私に向かって飛んできた。
キーの結界の力を砕いて、ルシファーの力が襲って来た。
「ルシファー!」
天使達の叫びが聞こえた。
私の周囲が白い光に包まれた。
*
此処は・・・・何処?
辺りを見回す。
白い光が眩しい。白い雲が見える。
「此処は、私達が作った結界の中です・・・・結界を解けば元の空間に戻ります」
その声に振り返ると、天使達が立っていた。
「・・・・私を助けた・・・の?何故?お前達は人間を滅ぼそうとしていたのでしょ?」
ミカエルが私の側に寄って来た。
そして光る剣を私に差し出した。
「この剣を使いなさい・・・・・ルシファーを傷つける事が出来るのは、神が作りし、この剣の光の力のみです。その体に、確かに我々天界の・・・・いや、神の力を見届けた。それだけ神の力を受けているなら、この神剣を扱う事が出来るでしょう」
ミカエルが持っていた光輝く光の剣を差し出してきた。
「・・・・・何故、今更私の味方をする?人間を滅ぼそうとした事・・・私達に一体何を課して来たのかわかっているの?その上でそう言うなら、私を利用するつもり?お前達にとって、ルシファーの存在が都合が悪いから」
そう言って反対を向いた。
「この剣がなければ、ルシファーを傷つける事は出来ません。ルシファーは身の回りに強い結界を張っています。それを破れるのは神が造り、私が数千年前に、ルシファーを討伐する際に授かったこの剣だけです。利用する、されるという話を今してる場合ではありません」
さらりと答える天使達に苛立ちを覚えた。
「お前達が居なければ・・・・ルシファーの力を求める事はなかった。人間は愚かだと言いながら、全てを始めたのはお前達だ」
「そうでしょうか」
ラファエルが横やりを入れる。
「より強い力を求めた親子は最初、私達の存在など考えては居なかった筈です。ただ兄の存在に強い劣等感を感じ、一族を自分が治める為に求めた力が黒いルシファーの力だった。人間は、より強い力を求める事は、止める事が出来ぬ欲望なのではないか?大地を破壊し続け、無駄な争いを繰り返してきたのは、我々が干渉しなくても変わらなかった事だ」
そう言うラファエルを睨みつけた。
「そんな欲深い人間にそんな大事な剣を預けて良いの?」
そう言うと、ラファエルは黙った。
「わかりました、仕方がない事でしょう。残された手段は私達が全て自爆し、この剣を突き立て、ルシファーと共に滅びましょう。そしてこの世界全てを破壊し、抹消するくらいの力が溢れ出るでしょう・・・再び神の力がこの世界に蘇るまで全ての生命体は消え去るしかない」
ミカエルがラファエルを振り返ってそう告げる。
「私達が自爆しなくても、ルシファーは、神が創造した今の世界を抹消するつもりだ。神を救出する可能性に繋がるなら、私達はやらざるおえませんね・・・・神の作りし世界を破壊し、ルシファーが神に取って代わる事を黙認している訳にはいきません」
ガブリエルが俯きながら頷く。
私はちっと舌打ちして、ミカエルの持っていた剣を奪い取った。
「もう、お前達に乗せられてやる!・・・・早くこの結界を解け!」
そう言うと同時に、神剣の強い力を感じ取った。
光輝く剣の力で私自身も共に輝きを放ち出した。
神剣の強い力が私の中に馴染んでいく。
全身にゆっくりと沁みわたっていくのを感じると、その空間は消えた。




