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三章 部族対立

 三章 部族対立


 どれくらい時間が経ったか、感覚がわからなかった。

 ホディから離れて首を振った。

「ルー、大丈夫か?」

「うん・・・・・」

 数歩進み、街を見下ろした。

 既に息絶えた人の姿が見える。

「しかし・・・・・この燃やされた街の人や、・・・ゾォラ達の体をこのままって訳にもいかないが・・・・・俺らだけで埋葬してたら、どれだけ期間が掛かるかわかったものじゃないな・・・・・」

 裂け焦げた街の人々の死体が見える。

 苦しんで死に絶えた人の歪んだ表情が胸に刺さる。

 こんな事・・・・キーが出来るわけ・・・・ない。

「一旦街に戻って、この埋葬を手伝える人材を連れてくるのが良さそうな所か・・・・このままってのはさすがに気が引ける・・・・」

 ホディから離れてもそこにぺたんと座りこんでしまった。

「ルー・・・・お前は疲れてるかも知れないな。これから夜まで歩いて街まで帰るか、それとも、十字路を此処から見れば真っすぐ・・・・俺たちが来たルートの方角から言えば左側・・・此方側の反対に向かって行けば、ソグドの街が有る。素知らぬふりをすれば泊まって寝るくらいは出来るだろうけど・・・・・どうする?」

 何か問われている。

 私は良くわからないまま、後ろを振り返った。

 強張った表情でがくがく震えているのがわかる。

「・・・・・そんなお前じゃ、置いて行くわけにはいかないが、休ませないとお前も参っちまいそうだな・・・」

 溜息をついて、荷物を持つように片腕でホディは私を持ち上げた。

「よっこいせっと」

 肩に乗せて歩き出した。

「えっ・・・・ホディ、私っ、荷物じゃないんだからね!」

 小さくて軽いかも知れないけど、私はもう大人の女性なのに!

 鎧だって小型の一番軽量軽装用しか着れないけど、もう成長は終わってるもん。

「お姫様抱っこくらいしてよぉっ!抱え上げて持ち上げるとか、私は薪じゃないのよっ」

 じたばたと暴れると、ホディは大きく頷いた。

「そう、暴れるくらい元気だせよ。キーはきっと正気じゃないんだ」

 そう言われて、暴れるのをぴたりと止めた。

「お前は、そのキーを正気に戻してやれ。ルーとキーの力が有れば、天界塔に本当に登れると思う。死んだ人をあのままにする訳も行かないが、天界塔にも向かわなければならない。キーも天界塔に登ると言っていた・・・・今の調子だとするなら・・・・鉢合わせたら、どうなるか・・・・わからないって言うのも引っかかるが・・・・」

 首を傾げて、ホディの話を黙って聞き続けた。

「しかし、キーは・・・・お前まで焼き殺すつもりだったのか・・・・・それとも」

「・・・・・それとも?」

「お前だけは・・・・殺す気がなかったのか・・・・わからないな。強力な火炙りじゃ、魔法耐性がなかったら即死だが・・・・恐らく、ルーの側に居なかったら俺も転がる死体さんになってただろうな。ルーは、魔法を無効化する力もある事を、キーも勿論知っていた。それもわかっていての事だとするなら・・・・・」

 それを聞くと、私はホディの右肩で暴れた。

「おい、落ちるぞ」

「下ろして、歩ける」

 ホディが私を下ろすとすたすたと前方に走り出した。

「おい!ルー!何処行くんだ!」

 ホディが走って追ってくる。

「だって、キーは・・・・キーは私を殺す気がなかったかも知れない!早く見つければキーは・・・元に戻るかもしれない!あの黒い印が・・・きっと何か影響してるんだ!時間がないみたいな事を言っていたのだから、キーが正気じゃなくなるまでの時間かもしれないじゃない!」

 そう言って真っすぐ走った。

「おい!それは良いとして!何処に行くんだ!キーが何処に行ったかなんてわからないだろう?」

「だから探すんだよ!たった今、ホディが言ったんだよ!キーを正気に戻せって!」

 そう言って私は真っすぐ走った。

 どれくらい走っただろう。さすがに息が切れてきた。

 十字路が見えてきた。

 真っすぐでソグドの街が有ると言う。

 私は迷わず真っすぐ走って行った。

「おい!だから、体力尽きるだろう!そんなに走らなくても」

 ホディが追い掛けてきて一旦止まってぜいぜいと息をついていた。

 私は迷わずに走って行った。

「おい!おい!待てってばよ」

 ホディも必死に追い掛けてきた。

 見通しの良い平原が広がっていた。

 もし、この世界が化物や神厄病に襲われていなければ、この道は散歩ルートだったかもしれない。

 大地が見える。遠くの山が映えて、とても綺麗だ。

 神が下したのは人間の消滅なのだろうか。

 キーが目指しているものは何だったのだろう。

 私の事をキーは殺す気がなかった・・・・・まだきっと間に合う。

 走っていると森が両側に見えてきた。

 深くて暗い森の真ん中を分断するように道が続いている。

 その両側から、大量な化物の姿が見えた。

 さすがに、足を止めた。

 酷い数だ・・・・。

 右の森に30くらい、左の森に20くらい・・・・。

 さすがに後ずさり、元来た道を走って戻った。

 後ろを振り返る。追っては来ないようだった。

 ほっと、息を撫で下ろすと必死な顔で追い掛けてきたホディが居た。

「ぜぇえっはぁぜぇ・・・おい、ルー!まったく、どれだけ走って行くつもりだよ」

 疲れて二人で立ち止まって、はぁはぁと息を吐いていた。

「だ・・・・・だって・・・・急げば・・・・キーが居るっ・・・かも・・・・とか」

 肩で息をしながら、地面に座った。

 一息ついた時だった。

「お、おい」

 ホディが信じられないものを見るような目で正面を見ていた。

 私は後ろを振り返った。

 大量の化物が列を作って、追ってきていた。

「・・・・・ええええええ!」

 立ち上がって、逃げるか戦うか・・・・・。

 どれだけ連なってついてきたんだ?全部?一部?数がわからない。

 まさか、道を歩いて付いてきているなんて。

 逃げる・・・・でも何処に?街にこんなのを連れて帰る訳に行かない。

 隠れる?何処に?

 ・・・・戦うしかないか!

 私は剣を鞘から抜いた。

 全部切り倒す前に・・・・体力が尽きない事を・・・・祈るしか・・・ないか。

「ホディ・・・・ごめんっ!私がっ・・・・」

 ホディが斧を構えて投げた。

「謝罪は置いておいて、どうにかするしかないぞ。ルー」

 私は、まず一体目の化物に向かって剣を振った。

 剣の術で一体目は倒れた。

「ルー!・・・・・剣の術を使う体力、気をつけろよ。一体何体連れてきたか知らないが、場合によっては、体力尽きてしまうぞ」

 ホディが鎖に繋がれた斧を引き戻す。

 2体目にホディが斧を投げて足を折った。それに私は飛びついて切り付けた。

 次は、3体並んで同時に襲い掛かってきた。

 ホディが素早くかわす。

 私は高く飛んで化物の頭の上に乗って切り付けてまず一体。

 そこから隣に飛び移ってもう一体。

挿絵(By みてみん)

 ホディがもう一体の足元の地面を破壊し、足を埋めている間に、地面に降りてもう一体の体を切り付けた。

 その時、後ろから声がした。

「何だ?何だか騒がしいと思ったら・・・・凄く無駄な事してるんだね」

 思わず振り返った。

 若い男だ。何だか化物がうろつく中を歩くにしては軽装だ。

 年齢は・・・・キーと同じくらいだろうか?

「おい、ルー!よそ見するな」

 ホディの言葉に振り返ると、化物が襲いかかってきた。

 慌てて避けた。

 その化物の手に後ろの若い男が、水の力を放った。

 その水の力が化物の全体に広がって化物は倒れた。

「こう言うのを一つずつなんて、無駄に消耗して馬鹿らしいじゃん」

 そう言うと、後ろの男は、手を下に向けて力を放った。

 大きな音がした。

「地震?」

 地面が揺れている。

 大きな轟音が響いた。

 地面がばきばきと音を立てている。

「な・・・・何?」

 地面が揺れて、砕けた。

 轟音は去った。

 ふと前を見ると、その後の化物たちは地面が陥没した中に落ちて身動きとれなくなっていた。

 倒した訳ではないが、化物たちは落ちた地面の下で登ってくる事も出来ないようだった。

「な、なるほど・・・・これは確かに・・・・効率いいね・・・・」

 男を振り返った。

「ありがとう・・・・助かった」

 そう笑顔で言った。

「いや、可愛い娘の為なら、僕なんかで良ければ幾らでも飛んできちゃうよ?」

 にっこりと笑顔で返されて、やや引き攣った。

 き、気持ち悪い・・・・・・・。

 思わず、握手しようと差し出した手を引っ込めた。

 それを見ていたホディが礼をした。

「え、あ、ごめんね、おじさん。僕おじさんに興味なくてさ。この子だけで良いんだ。んじゃ、先の街でこの子と一杯飲んで来るから、おじさん此処で寝てて?」

 そう言うと、私をひょいと抱えて飛んだ。

 転移。

 本当に一瞬で、街に着いた。

 転移術は、使える者と使えない者がいる。術を使う者でも必ず使えるとは言えない。

 既に見知っている場所を思い浮かべて術を使うと使える者には扱う事が出来ると聞いた事が有る。

 ただしそれほど遠方には移動できず、決まった距離以内にしか移動できないとも聞く。

 使えるようであまり使えないという事も聞いた事が有るが、使う者の適性を問うから使っている人を見た事がない。

「此処・・・・何処?」

「此処?ああさっきの所からすぐだよ?真っすぐ歩いた所にあるササラって言う街なんだ」

 楽しそうににっこりと微笑んだ。

 ササラ・・・・って名前は良くわからないけど、ソグド族の街・・・・よね。

 行こうとした街って事・・・・かしら。

 辺りを見ると賑わってはいる。見た感じの外見は、私が居た街・・・・ノラと変わらない。

 人の往来もあるし、店や街灯も見える。

 此処を見知っていると言う事は・・・・このソグドの街の住人なのだろうか?

 何故、私達を助けたのだろう。

 何故、私を連れて来たのだろう。

「何者なの?私をどうする気?」

 暴れて腕を外して下に降りた。

「ん?いや、しばらく街に帰って来ない間に、こんな可愛い子が道を歩くようになったんだなって。君とお酒が飲みたいと思っただけだよ?ダメかな?僕の名前はシグマス」

 にこっと微笑んだ。

 シグマスという男について酒場に入った。

 カウンター席が六つ、丸いテーブルが置かれた席が二十くらい、店内はがやがやと賑わっていて空席はカウンターが二つ、テーブル席が一つの様だった。

 男が開いたテーブルに向かう。後について行き、男と同じ丸いテーブルを囲って椅子に座った。

「やっぱりさ、お酒飲むなら、可愛い子と一緒じゃなきゃ美味しくないよね。運よく拾えて僕ってラッキー」

 歌いながら男は煙草に火をつけて、酒をオーダーしていた。

「ねぇ、君なんて名前?ルーって呼ばれてたけど、ルーちゃん?」

 にこにこと笑う顔は何を企んでいるのかは掴み取れなかった。

「・・・・・・・」

 本名を言って良いのだろうか。それとも言わない方が良いのだろうか。

 此処はソグド族の街だ。

 目の前の男がどういう魂胆かはわからないが、リラ族の<預言された者>として狙われたりしないだろうか。

 バラムという男はお姉ちゃんの妹と言う事で預言された者とわかったようだったが、わかるのは名前なのか立場なのか、わからない。

「言いたくないのかな?じゃ、ルーちゃんで良いけど?」

 この場合、ルーちゃんももしかしたら危険かも知れない。

「ルリアって言います。先程は助けて戴いてありがとうございました」

 様子を覗いながら、そう名乗った。

「ふーん、ルリアちゃんね。かわいいねぇ。でも御挨拶、良く出来るんだね、良い子良い子」

 にこにこと微笑んで私を見詰めてくる。

 何なのだろう。

 そして良い子良い子って・・・・。

 ひょっとして、子供だと思われているのだろうか。

 こいつは・・・・幼女好き変態とかっていう分類?

 ますます吐きそうになる気持ちを何とか抑えて深呼吸した。

「えーっと、シグマスさんはどうしてさっきの場所にいらしたんでしょうか」

 精一杯笑顔を作って無邪気に質問した。

「あ、僕?嬉しいな、僕の事興味持ってくれたんだね!いやー嬉しいねぇ!」

 にたにたと笑う顔も気持ちが悪い。

 こいつの言動はいちいち気持ちが悪い。

「んーちょっと散歩、なんてね!いやさ、久しぶりにね、生まれた街に帰って来てみようかなって思っただけなんだ。僕さ、別に生まれ故郷とか部族とか神とか何の興味もないわけ。可愛い娘と毎日デートできればそれ以上ないのに、何だか預言だとか、天使だとか、神だとか悪魔だとか、何だか煩い世の中になったなって。だから僕は一族とかどうでもよくなって~この辺りとは離れて暮らしてるんだ。でも僕みたいなのって、珍しいみたいで全然後を追って俺もだーってやつがいない事に驚くね」

 にこにこと男が告げる。

 <預言>、<天使>、<神>に<悪魔>・・・・だって?

 <預言>という事を知っていると言う事は、本名を名乗らなかったのは正解だったのだろう。

 天使と言う話もどっかで聞いたな・・・・何処だっけ?そうだ、聖堂だ。

 聖堂で、ホディが、天使を祀った場所だと言っていた。

 でも<悪魔>っていう事を・・・・今まで聞いただろうか?

「そうなんだぁ、よくわかんないね。天使とか悪魔って何だろう?」

 笑顔が引き攣ってないか心配になりながら、出来るだけ無邪気に質問を重ねた。

「ルリアちゃんって、天使とか悪魔ってお話しが好きなの?」

 長髪をさらりとかきあげ、にこっと笑って、問い掛けてくる。

 いちいち気持ちが悪い。

 イライラする気持ちをぐっと抑えて笑顔で「うん!」と大きく頷いた。

「そっかー!あのね、じゃぁ教えてあげるね。僕ね僕ね、族長の甥なんだよね。でもさ、わけわからない事に取りつかれた叔父さんがねっ・・・・僕の母さんを殺したんだよ!僕はすっかり怒っちゃってね・・・こんな酷い話あると思う?ねぇ妹を殺したんだよ!僕の母さんを!僕、目の前で見たんだよ!あの時は本当にショックだった!なんかさー天使だとか悪魔だとか、神だとか言ってね!信じられる?」

 な、に・・・・・・。

 この口も手も頭も軽そうな男は・・・・何を・・・言った?

「俺それから、もう一族とか何とか嫌になって、脱走してたんだけどねっ!・・・・同情してくれるかな?ね、僕って可哀そうな男でしょ!」

 そう言うと抱きついてきた。

「ぎゃぁああっ」

 思わず声を上げた。

 辺りに響いて、周りから注目を浴びた。

 じろじろ見られている。

『なんか見掛けない二人だな?』

『なんか可愛い顔した女の子だけど今まで見たことないわ』

『男の方もなんか見たことない気がするよ』

 ざわざわと声が聞こえてくる。

「あ、っと・・・・・」

 注目を浴びている。何事もなかったように席に居るのが良いのか、逃げるべきなのか。

 逃げたら、怪しまれはしないか・・・・・。

 不味い事をしたなぁと、落ち込むと、それを見ていた男はにっこりと笑った。

「そんな顔しなくていいよ。ちょっと声上げたからって、僕、怒んない。女の子には優しい男だから」

 注目を浴びている事ではなく、自分を怒らせたから困った顔をしていると誤解した男はそういうフォローを入れてにこにこと笑っていた。

 呼吸を整えてにっこりと微笑んだ。

「そうかぁ、良かったぁで、その天使と悪魔のお話し聞きたいなぁ~」

 精一杯頑張って笑顔を作ったつもりでいた。

「うーん、それ以上詳しい話ってもなぁ、ルシファーを崇めるお祈りみたいな事をソグド族全員で始めたとかは聞いたよ~そのお祈りが、ルシファーを崇めるものだって知ったのはその習慣が根付いてかららしいけどさ~なんかもうおかしいよね~僕はそんなことやりたくないから~もう街なんかに戻りたくはないねぇ~後さ、この先にある集落に行くと面白いものが見れちゃうよ~僕は自業自得だと思うけどねぇ~ねぇねぇ」

 ずいっと顔を寄せてくる。

「お酒、何?飲む?何でも僕おごっちゃうよ?酔いつぶれて良いから。僕がベットまで運んじゃう。取りあえず、甘そうなお酒、はい」

 にこにこと微笑んでお酒のグラスを手渡してきた。

 甘いお酒の匂いが漂ってきた。それだけで眠りそうになってきた。そうだ。昨日は寝ていない。

 異常な睡魔が襲ってきた。

 此処で寝るなんで出来ないし・・・・あああ、しかも凄く目の前の奴が気持ち悪いし。

 だ、ダメ・・・・・げ、限界!

 気持ち悪い!ひっぱたきたい!剣を振り回したい。

 そう思って剣に手を伸ばした時だった。

「おい!居たか!」

 見るとホディが横に立っていた。

 私の手を掴んで、私を立たせた。

 息を切らせている。急いで走って来てくれたのだろう。

「マジで酒場に居たんだな・・・・・焦っちまったよ」

「筋肉おじさん~あの距離を走ってきたの?見掛けより足早いね~」

 にっこりと微笑んでシグマスは楽しそうに言う。

「ああ・・・・・どうも妹がお世話になりました。お騒がせしました。これで失礼しますね」

 そう言うとホディが私の手を引いて酒場を出た。

「ホディ・・・・・良かった・・・・けど、良くないような・・・・・・・良いタイミングだった・・・・確かに私も限界だったのっ・・・・・でもでも・・・・・まだ聞きたい事も有ったんだけど・・・・」

「聞きたい事・・・・・?」

「うん・・・・さっきの男・・・・嘘か本当かわからないけど・・・・・ソグドの族長の甥だって名乗った・・・・」

「なん・・・だって?」

 ホディが振り返った。

 聞き返された時、足がふらついた。

「あれれ」

「おいおい、まさか薬でも盛られてないだろうな」

 ホディが私を支えてくれた。

「そ、それは大丈夫・・・・・眠たい・・・・」

 ホディが取りあえず、街の宿を取った。

 部屋に入った。特に部屋や調度品もリラ族の街と変わりがないようだった。

 ベットに入った。

 眠かったので本当に嬉しかった。

「念のため、交代で眠る事にしようか。先に寝ていい。何か有れば抱えて逃げてやる。心配するな」

 ホディのその声に安心するようにすぐに寝付いた。



      *



 酒場の扉を開けた。

 こういう場所は本当に久しぶりかも知れない。

 扉を開けて、カウンターまで行くと、何やら楽しげに笑った男が近づいてきた。

挿絵(By みてみん)

「・・・・・・・今日は珍しいものばっかりみるなぁ、よぉ兄ちゃん」

 肩を叩いて話しかけてきた。

「誰だ?」

 ぼそりと呟くように問い掛けた。

「あれー?そっか、そっちは知らないんだね。今日たまたま、ふらっと酒飲みに着てみて良かったよ。珍しいモノが見れて」

 にこにこと笑ってくる男、馴れ馴れしい。

「・・・・・血の匂いがする・・・いや、命を吸いつくした匂い、かな・・・・・」

 その言葉に顔を上げた。

「今日のデートの子に逃げられたばっかりでね。お兄さんくらい美人だったら、男でもまぁいいかな。いやー本当は、可愛いプリンセスとお酒を飲みたかったんだけどねっ」

 その言葉に興味も関心も視線さえ向けなかった。

 男の手を振り払って、頼んだ酒を飲んだ。

「僕もさ、一族とかくだらない事、何も興味なんかないけどね。バラムやあんたは懸命なのかい?ああ、心配しなくても、僕は本当に一族なんでどうでもいいし・・・・・あんたも一族なんかどうでも良いのかもしれないけどね。今日、面白いもの、見つけたんだよ・・・・・可愛い大きな目をした子なんだけどな。道の途中で落ちてたから、拾って来たんだけど、筋肉もっきもきした兄貴だかに持ってかれちゃってさ。いや、元は俺が持って来たんだけどね」

 その言葉に男をちろりと見た。

 楽しそうに男はにたりと笑った。してやったり、という顔だった。

「この話題だとやはり釣れるね。・・・あれ、やっぱり、<預言された者>か・・・・ずっと誤魔化すように笑ってたけど、漲る気迫と鎧を着た可愛い少女が道端に落ちてるなんて、そうそうないもんな。あんたにとっちゃ、獲物姫?人生って意外と退屈しないもんだね。楽しそうだ・・・・・・あ、僕は力や命の方は興味ないよ。体の方が欲しい。なんちゃって・・・・まぁそれはそれとして、あの子の命を吸い取れば終わる事を・・・・あんたは沢山の命で埋めようとでもしてるのかい?その雑多な気配は、命吸い取ってきたんだろ」

 黙って酒を飲み干す。

「あの子の命取らない為に、幾つの街を潰してくる気だよ?西側にあるリラ族の街が、二つとも丸ごと壮大な炭になってたぜ・・・・・・無駄な事だと思うぜ、あのカワイコちゃん以外は、どれだけ吸い取っても、大した力が有るリラ族なんて居ないだろうさ」

「・・・・・・・」

「なんだよ、さっきから何も言わないじゃん。詰まらないね~。あーあ、無理矢理でも酒でも飲ませてベットに連れて行っちゃえば良かったかなぁ、そしたらあの筋肉兄貴やあんたも釣れたかも知れないのに・・・・・ま、あんたもどうせ死んでたかも知れない命で、助かってラッキーと思ってもっと楽しく生きようぜ、キーカス」

 




      *


 ぴちぴち鳥のさえずりが聞こえてくる。

「んーー?」

 目を擦って体を起した。

 朝日がカーテンの隙間から入ってくる。

 あれ?此処何処だ?

 私、何してたっけ?

 いつものベットではない。

 ベットから起きてカーテンを開けた。

 眩しい・・・。

 そうだ、昨日ホディに言われて眠くて寝てしまって・・・・・。

 ホディは・・・・?

 きょろきょろと見回すが辺りに姿がなかった。

 勢いよく、扉を開けた。

 廊下や階段などには姿はなかった。

 下に降りて宿の外を見回す。

 ホディの後ろ姿を見つけて、駆け寄った。

「ホディ!・・・・・一体何見てるの?」

 ホディは何かを見ていた。

 その視線の先を見ると、何やら集会の様に人だかりが出来ていた。

 中央に大きな黒い丸い点が6つ描かれている。

 その中央を囲って、数十人が円を作って、円に向かって手を合わせて拝んでいる。

 ホディの元に駆け寄って、服を引っ張った。

 ホディは私に気がつくと、「ああ、起きたのか」と頭を撫でた。

「取りあえず俺たちの事が問題になってるような事はなかったから、ちょっと街を調査していたんだ」

「そして、これがソグド族の礼拝らしい。時間は特に指定されていないが、一日一回は此処で神に向かって拝むんだとさ」

 真ん中には何やら尖った羽が生えている形の像が一つ。あれが神を祀るモノなのだろうか。

「ふーん・・・・ソグド族って、リラ族より全然、神を祀るっていう習慣が残ってる部族なんだね」

 ひっそりと、耳打ちする。

「そんな事より、あの形・・・どっかで見た事が・・・・・有ると思ったんだよ」

「?」

「・・・・・・あれは・・・キーの右腕に有った形・・・・そして十五年前の・・・いや、何でもない」

 ホディの呟きに、はっとした。

 そうだ・・・・・黒い、6つの円・・・・・・・・。

 キーの右腕に刻まれていた模様とよく似ている。

 キーがリラの街を滅ぼした時にはより強く浮かび上がっていたように見えた。

「そしてさ、お前が寝てる間に、少しだけ問題がない程度に、聞きまわった。酒場に戻っても軽そうなナンパ兄ちゃんは居なかったんだが・・・・酒に酔った奴らが、結構語ってくれてな」

 黙って頷いた。

 ホディが私を見ると、街の入口まで歩きだした。

 私も付いて入口に向かった。

「此処はソグド族では一番の繁華街らしくてな、さらに奥にもう一つソグド族の街が有るらしいんだが、集落みたいに小さな所らしいのだが、そっちに族長がいるらしい。そこで問題になっているのが、次期族長についてなんだそうだ」

 そう言えば・・・・昨日、族長の甥だと言う気持ち悪い男が集落に行けば面白いものが見れると言っていたような・・・。

 ホディに着いて行き、街の入口まで着いた。

「なんでも、次期族長には現族長の息子と、もう一人、前族長の一人息子が候補になっていて、前族長の息子には、<神の審判>を受ける者という預言が付いているんだそうだ」

「え・・・・・・?」

 何・・・・?<神の審判>?私と、同じ・・・・・?

 共に辿り着けると言うの・・・・?それとも・・・・?

「<天界塔を登り、我々一族を空に導く>最強の力を持つ者・・・・・・・まぁその話してた男にとっては、そんな伝説や預言なんてどうでもいいやと言っていたが・・・・・・」

「集団であの黒い模様を信仰する習慣が、二十年数年くらい前からソグドで生まれたんだそうだ。始めたのは前族長で、その前族長の息子が生まれる少し前の事・・・・だったんだそうだ」

「その頃から、ソグドの街の近くには大量に化物が出るようになり、ソグドの街のものは怖くて滅多に外を出歩く事がなくなったそうだ。一体や二体の騒ぎでなく、何十体も纏めて襲いかかってくる事も多いので、街を力の強い者が見張っているが、いつ街が潰されてもおかしくない程、周りには化物が増えてるんだそうだ」

 そう言えば、街の近くまで歩いて来た時、酷い数の化物が居た。

 あのちゃらい人が助けてくれたけど・・・・・ん?待てよ。

「でも・・・・昨日の人、街から離れて住んでるとか言ってたし、外、歩いてたよね」

「・・・・・街の外を散歩してる人間は族長一家の人間ばかりなんだそうだ。彼らは、神の力か何かわからないけど、一族の中でも強力な魔力を持つ者が多くて、ソグド族の者にとっては彼らこそが神のような状態らしい・・・・・つまりは、それ以外の一族の大半は、何の力も持ってない奴が多数って事らしい。リラ族と争って均衡を保ってきたのは、力を持つ者と持たない者で差が出過ぎる部族だったからのようだな・・・・昨日の奴も現族長の甥を名乗ったと言ってたろ」

 頷いて「でも、嘘か本当かはわからないけど」と付け加える。

「で、昨日酒場で、俺らが去って、再び俺が酒場に行くまでに、現族長の甥同士が暴れ回った事件が見れたらしいんだよ・・・・珍しいモノが見れたってそいつは語っていたが」

 甥同士・・・・?あのチャラ男の兄弟?ちゃらおバージョン2・・・?おえっ。

 想像すると気持ちが悪くなった。

 ん?でも一人息子?・・・・・だけど甥同士?血の関係はいまいちわからない。

 その前族長と現族長の繋がりもよくわからない。

「で、そこまで言われると、ある仮定が一つ・・・・・いや・・・・」

 そう言うと歯切れが悪そうにごにょごにょと言うと、首を振った。

「いや、変な事は言わないさ・・・・もう一つ、気になるのはソグド族が始めたと言う模様を崇めることで周囲に化物が出たと言う話・・・・リラの方だと、二十年も前じゃない、お前が3つの時だ。その頃までは俺も街から離れても化物に襲われる事がなかった。つまり、ソグド族の方が早いうちに化物の被害に遭ってるって言う事になる」

 言いたい事がわからず、きょとんとして首を傾げた。

「・・・・つまりソグド族の始めた事は・・・・・いや、まぁ俺らがそんな事推定しても仕方ないが、もしかしたら、ソグド族を滅ぼしてしまえば<神>の怒りやらは少しは和らぐのかなとも。逆にこれはその<天界塔>に登って<神>とやらに聞いてみないとわからんがね・・・・・」

「十五年前に起きたあの事件・・・・問い詰めてみたが、そいつは何も知らないみたいだったな・・・・」

「十五年前の事件・・・・?」

 ホディは此方を見て頷いた。

「その事は・・・・リラでも誰も知らない。族長と俺と・・・母さんくらいだな・・・・あの日数人のソグド族が目の色を変えてリラ族に襲いかかってきた・・・・父さんの話だと・・・・とても正気が有るとは思えなかったそうだ。その時の怪我が元で・・・数日後に父さんが・・・死んだ・・・・詳しい事は俺もわからない。出来ればあの時何が起こっていたのか知りたかったが・・・・何も知らないみたいだった」

 ホディのお父さんが・・・・ソグドに殺された?

 初めて聞く事実に、目をぱちぱちさせた。

「さぁ、戻るぞ、ルー」

 そう言って、ホディは私の腕を引いた。

「ねぇ、・・・・一つ聞いていい、ホディ」

「何だ?」

「そこまで聞き出すのに・・・・・何したの?」

 そう言われてホディはぴたりと足を止めた。

「おかしいよ、ホディ。ただの旅人か言っても、斧や鎌を背負って、ソグドの習慣を知らない・・・・・対立が続くリラ一族の可能性が高い者にそんなぺらぺら酔っていてもしゃべるかな?・・・・・ソグドの大半は何の力もないって言ったよね?・・・・何かしてたらただの弱い者いじめだよ、ホディ」

「・・・・・・俺が気にして欲しかったのは、そんな事じゃなかったんだけどな」

 ホディが呆れたような表情で、振り返った。

「私は、リラがソグドを滅ぼせばいいとか、そんな事は思わない!どっちも人間だもの。塔に登るとか、神がなんたらもどうでも良い!私にとってはキーが何であれ、キーでしかない。天界塔に誰が登ろうが、神の審判に打ち勝とうが、そんな事もどうでもいいの。私はキーとお姉ちゃんと一緒に居たいだけなの!・・・・だから、同じ人間を、虐待していいとか思わないよ、ホディ」

 そう言うとじっとホディを睨みつけた。

「・・・・お前も、やっぱり前族長の娘なんだな・・・・」

「え?」

「その中途半端な正義感じゃ、生き抜けないよ・・・・いいか、ルー。やるかやられるか、なら、今すぐにでもこの街ごとぶっ飛ばして帰るべきだと思わないか?今の族長一家が何考えてるかまではわからないけど、<神>の怒りを加速させる一端になってるかも知れないし、いつソグドの奴がリラに襲い掛かってくるかもわからないんだ」

 そこまで言うと、ホディは悔しそうな表情をして左足で側に生えていた木の幹を蹴った。

 木が大きく揺れた。

「前族長だって・・・・あの事件後、さすがにソグドと協力し合えるなんて思わなかっただろうしな」

「あの事件・・・?って?」

「・・・・・早くリラの街に帰りたい所だが、何が何だかまだわからない事が多すぎる。俺は十五年前の・・・父さんの死の真相を知りたい。この先に、もう一つ、ソグド族の集落があると・・・・6つの円の実態がわかるかもしれない。見に行くか、ルー・・・・危険かもしれないし、周りには化物もうようよしてるかも知れない・・・・それでも行くか?」

 私は迷うことなく、頷いた。

「キーが・・・・居るかも知れない・・・それに・・・シグマスも何か言ってたし・・・・」

 走ってソグドの街を後にし、集落の方へ向かった。

 距離はすぐ近くだった。

 鬱蒼とした森林に囲まれて、数件の民家が見える。

 集落と言っても、まるで巨大な木の中に小さな民家を建てたようにさえ感じる。

 民家の様子を外から覗うと、人の気配は感じなかった。

「次期族長の座を争っている奴らどころか・・・・誰の気配もありゃしないな・・・・」

「な・・・・にこれ・・・・集落って言うより・・・・廃墟が3つ・・・・って感じよ・・・・」

 鴉が頭上をばさばさと通り過ぎる。

 一際大きな大木が集落の中央に生えていた。その根元を何気なく見た。

「!」

 誰か・・・人が・・・・?

 私の驚いた表情を見てホディも其方に目を向けて、二人でゆっくりと近寄った。

 人・・・・だ。

「な・・・・・に」

 人が、大きな木の幹に括りつけられている。

 十字の形に手首、足首、首を縛られ、木に釘で打ちつけられていた。

 そしてその人には、両手、両足、腹、首、額に6つの黒い円が描かれていた。

 服は肌着の様なものを着せられているだけで、顔には表情がなかった。

 髪が垂れて顔に掛かり、目と口が閉じられていた。

「し・・・・死んでる・・・の?」

 震えながら私はホディに尋ねるとホディはそれに向かって手を伸ばそうとした。

「誰だ!」

 はっと私達は振り返った。

「此処に近づいてはならぬと伝えている筈だ。何故、此処に近づいたのか」

 3人の兵の武装をした者達が右、左、そして私達の後方に居た。

「ルー!突っ切るぞ・・・・」

 頷いて、私とホディは走りだした。

 弓が飛んできた。

 弓をかわし、樹木に身を隠しながら、素早く移動して追手を振り切った。

 ソグドの街の建物が見えて来た時には、追手の姿はなかった。

 どうやら撒けたようだ。

 街の中に戻り、深呼吸をして息を整えた。

「ホディ・・・・あれ・・・・なんなの・・・」

 ホディは怒りに震えた表情で、ソグドの街の中央の黒い点を見つめていた。

「・・・・ルー・・・・やっぱり、これは尋常じゃない・・・・放っておけば・・・・十五年前と同じ事が起こるかも知れない・・・・」

「ホディのお父さんが・・・殺された時の事・・・?十五年前って・・・私の両親が天界塔に向かう・・・一年前よね・・・」

 ホディは黙って斧を構えた。

「ホディ・・・・?どうするの・・・・・まさか」

 ホディは斧に力を込めて、建物に向かって投げた。

 先に有った小さな建物に刺さった。

「食うか食われるか、なら先に食ってしまうのが利口だろう!」

 もう一つの斧を取り出して、街の中央に構えた。

 小さな人間が見える。子供?

「まさか・・・・殺す気?」

「ソグドが始めたって言う呪いの儀式を止める為にも、一人でも消して行く方がいいだろう」

「でも・・・・こんな、私に向かって敵意を向けてきたわけでもない・・・・何の力もないものをいきなり襲うなんて、正義じゃないよ!」

「馬鹿野郎、戦いなんて正義でも悪でもないんだよ。やられる前にやるしかない」

「そんなの勝手な理屈じゃないか!そんなのただの人殺しだ!・・・・そりゃ、お父さんがソグドに殺されたのは許せなかったのかも知れないけど」

 やりきれない思いで、叫んだ。

「違うんだよ、同じ事が繰り返される可能性があるって言うんだよ・・・・・今度はお前やエジルが犠牲になるかも知れない・・・・父さんが死んだ時、6つの黒い円が・・・浮かび上がった奴らが襲ってきたと言っていたんだ」

 そう言われて、言葉を失った。

 6つの黒い円が浮かび上がった奴らが・・・・襲ってきた・・・?

 私やお姉ちゃんも犠牲になるかも知れない・・・?

 6つの黒い円・・・・・まさかキーも・・・・それが影響して・・・・?

 そう言えば・・・・腕を傷だらけにして・・・・6つの黒い円を消そうとしていた・・・・。

 そして「時限爆弾」と確か言っていたような・・・・。

 ある時を持ってあの6つの黒い円が何かの効力を発生させると言うなら・・・・。

「で、でも・・・・・私はそんなの手伝えない・・・そんな理屈は・・・・」

「じゃぁ・・・・わかったよ。俺が悪人とやらになってやるさ」

 大地を破壊する力を宿らせホディが斧を構え、街の中心部に向けて、怪力を振るいブーメランのように投げた。

 何者も破壊する大きな大地の力を宿らせて。

 それは街の建物の壁に刺さると、建物を破壊した。

 宿った大地の力で壁や屋根が吹き飛び、その衝撃で建物全体が崩れる。

「っ・・・・・」

 これだけでも沢山の命が消え去る。

 街が・・・・壊れていく。

 聞こえてくる、沢山の悲鳴。

 大きな絶叫が響いてきた。

 ホディは次に鎌を構えた。

 あらゆるものを、消しさる力を秘めさせて。

 見ていられなかった。

「危ない!」

 その鎌をホディが幼い少女に向かい投げつけた。

「きゃぁっ!」

 少女の悲鳴が聞こえた。

 私は、鎌の前に飛び出して、体で受け止めた。

 鎌は魔法耐性があるこの身でさえも思いっきり切り刻み、止まった。

 身に付けていた鎧は割れて、鎌は受け止めた腹にざっくりと刺さった。

「こんなの間違ってる・・・・・」

 全身はその鎌に込められた大地の力で無数の傷を作った。

 正義とか、善とかそんな安っぽい気持ちを持ったわけでもない。偽善者になりたかったわけでもない。

 ただ目の前に繰り広げられた、ただの殺人に、ただ見ている事が出来なかった。

 身を守る事もなしに、腹にまともに手加減ない力を食らい、全身は夥しい出血をしていた。

 その場で崩れるように体の力が抜けていった。

「おいっ!ばかやろぉおおおおおお!」

 間違ってるよ・・・・・ホディも、キーも!

 私はこれ以上、誰かの命が消えて行くのを見ていたく、ない!

 ホディの絶叫が聞こえた途端、意識を失った。



      *


 眩しい光に目が覚めた。

 辺りが明るい。此処は何処?

 きょろきょろとあたりを見回した。

 誰も居ない?

 体を起こす。痛みはない。

 服を身に付けて居ない事に気が付いた。

 着替えと新しい鎧と持っていた剣が側に置いてあった。

「此処は・・・・・ホディとお姉ちゃんのお家・・・・」

 辺りをきょろきょろ見回すと、ホディが暮らす家だとわかる。

「ホディが此処まで・・・・運んで帰ってきたんだ・・・・」

 着替えを身に付ける。お姉ちゃんが洗濯してくれた匂いがする。

 優しい甘い匂い。お姉ちゃんが脱がせて綺麗に洗ってくれたんだ。

 体を動かして、動く事がわかると、鎧と剣を身に付けた。

 でも静かだ。

 お姉ちゃんは・・・・お姉ちゃんは何処だろう。

 全ての部屋をくまなく探したが、ホディの姿もお姉ちゃんの姿もなかった。

 ・・・・・おかしい。

 此処までホディが運んで来てお姉ちゃんが傷を癒してくれたとして、私の側についていないなんて。

 扉を開けて外に出た。

 広がってきた光景・・・・・それは。

 大量な煙と、火災。

 街の中心部から民家に火が向かって着ている。

 街中の人が、火から逃れようと走り回っている。

「まさか・・・・・・・・」

 まさか、キーが・・・・?

 街の中心部へ走った。

 火の勢いが強くなる。

 何人かが消化の為に水を掛けて回っている。

 水の術が使える者は術で抑えようとしている。

 そこにマニャ姉ちゃんとお姉ちゃんの姿を見つけた。

「お姉ちゃん!」

 私は側に駆け寄った。

「ルー!」

「お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんに抱きついた。

「ルー!良かった!目を覚ましたのね・・・・・でも此方に来ちゃダメ、早く民家の方に戻って、そこから街の外に逃げるの!」

 私は首を振った。

「これ、何時からなの?」

「少し前よ、突然警告音が鳴って・・・・私とホディは二人とも飛び出して・・・・家に置いてきて・・・・ごめんね」

 その言葉に首を振った。

「そんな事は、いいの」

「ルー!私もホディの鎌をまともに食らったって聞いて心配した!良かった!」

 マニャお姉ちゃんも抱きついて・・・・泣いて喜んでくれた。

「マニャ姉ちゃん・・・・」

 私は二人の抱擁が、嬉しくて抱きしめ返した。

「そして・・・この現状を何とかしないとね」

 マニャ姉ちゃんが私を離して術力を再び使いだした。

「これが起きたのは・・・・少し前・・・か・・・・」

「ええ、此処で水の力が使える者が、抑えては居るのだけど、この力を使う術者がわからないの・・・ホディは探しに行くって別な場所に・・・・」

 ホディは・・・・間違えなくキーを疑ってる・・・。

 さっきの考え方からしたら・・・キーにいきなり襲いかりそうだ。

 辺りを見回すが、ホディもキーも見当たらない。

「お姉ちゃん達、無茶はしないでね!私は、ホディを探す!」

 走って街の外れの山に登った。

 山からは街の全体が見える。

 街の方から火は上がっているけれど、燃やしている者の姿は見えない。

「・・・・・・・・・一体何処、なんだろう」

 辺りをきょろきょろと見回す。

 木の影から人影が見えた。

「誰?」

 短剣を投げるとその影から人が出てきた。

 右腕にある6つの黒い模様をむき出しにして。

「キー・・・・街に戻ってたんだ・・・・キー!」

 側に駆け寄る。

 嬉しかった。

 が、次の瞬間、腹に火の玉を食らった。

 用意なくまともに食らったので、魔法耐性がある身でも打撃になった。

「キー・・・・」

 腹を抱えて蹲る。

「そろそろ、その力を貰うとしようか」

「え?」

「お前のその力と、俺のこの力を合わせると、神と戦える。塔に登り、神に人間の力を思い知らす為には、個々の力ではどうしようもない。リラの街を纏めて滅ぼしても、大した力は得られなかった。そう、お前の力が必要なんだよ」

 そう言うと、キーは右腕の6つの模様を前に突き出してきた。

「俺は滅ぼして魂を封じ込めた相手の力を、吸収して自分のモノにする事が出来る」

 自分の・・・・・もの?

 相手の力を吸収・・・・?

「二つの未来、あの時言った事、ついでだから教えてやるよ。塔に登ると預言されているのは二人。どちらが登るか。それはリラ族としては、ルー、そしてソグド族は俺のこと。そしてどちらが上に辿り着くか、それは二つの未来が有るって事だよ」

 ゆっくりと顔を上げた。

 聞きたく・・・・・なかった。

 でも、私でも・・・・・予測は・・・・ついていた。

 前族長の・・・・一人息子・・・・と言う事・・・・よね。

 ホディの話を聞く前から、・・・・わかっていた。

 キーがソグド族の中心にいる存在であろうことは。

「上に登りつけば、神は自分と戦うだけの能力を認めた者に、天使と戦わせ、その能力を計る。認めた者に神の能力が与えられる。その能力は全ての生命体を支配する力。我々ソグド族が、この大陸・・・いや世界を治める為に生まれた事を証明する為にその力を手に入れて、神と戦う。神は人間をこの世界から抹消する未来を描いた。人間は、その消滅から逃れうるにはそれしかないんだよ」

「キー・・・・貴方はなんでそんな事を知っているの?伝説にそんな事・・・・語られてない・・・んだよね?」

 キーは答えなかった。

「でも、私は消滅とか、神とかどうでも良い。私はお姉ちゃんと・・・・そしてキーが一緒に居れればいいの。本当はキーもそうだよね?神とかソグド族とか・・・・・そんな事が本当の気持ちじゃないでしょう・・・・」

 キーは黙った。

「・・・・ソグド族が言っていた、黒い模様の礼拝に関係が有るの?・・・・その裏に居る者が、消滅とかを伝えているの?・・・・その印、ソグドの街で見たものとよく似ている・・・・」

「この印は生まれ持って有る。生まれる前に父より受けた呪い。この力を辿って現れたのが父だった。5歳のあの日父が現れて、俺の能力の事と、リラ族を滅ぼす運命を告げる。そして、母がリラ族で育てさせたのは、リラ族を滅ぼす未来を止める為だったと・・・・俺はリラ族と協力し合ったり、必要以上に絡む事をやめた。変に情をうつしたくなかったからだ。俺がどうせ殺す奴らだからな」

 街の方を見ながらそう告げる。

「可哀想・・・・ずっとそんな思いで・・・・ずっとキーは一人だったんだね・・・・・・・私は、ずっと、キーを一人にしないって約束する・・・・・だから、戻って来て」

 そう言って、手を差し伸べた。

 キーは一瞬、驚いた顔をした後、辛そうな顔で私を見た。

「・・・・・・・・どうして・・・・・・」

 震えた声だった。

「キー・・・・?どっか痛いの?」

 私は立ち上がってキーの側にゆっくり歩み寄ろうとした。

 その前にキーは手を振り上げて、風の波動を起こした。

 波動を喰らって、後ろに飛ばされた。

「さあ、俺を倒してみろ、ルー。いや・・・・リラ族の最強の戦士であり、<神の審判を受ける者>と預言されたルーファ!」

「キー!キー?操られているの?待って!キー!」

「操られてる?俺は至って正気だよ、操られてるなんてことはない」

挿絵(By みてみん)

「だってキーは私を守りたいって・・・・・そう言ったのに!」

 守りたいものは、ルー。お前だよ。俺が共に闘う限り、お前を死なしたりしない。

 そう言ったのに!・・・・・キー!

 嘘つき!嘘つき!嘘つき!

「・・・・・あの時本当に言いかけた言葉を教えてやるよ。お前の命を取るのは、俺であって、他の誰でもない。他の誰にもお前の命を渡さない。そう言いかけただけだよ」

 キーの右手のうちから次々と火の球が弾丸のように繰り出される。

 それを左手で払い、無効化しながら、必死に叫んだ。

「ま、待ってキー!貴方がなんでっ・・・・・なんでリラを・・・いいえ、なんで私を・・・・」

「私は!私は、キーを信じてるよ!」

 火の玉の弾丸と共に、逆の左手からは雷の力が宿り、キーの左手からは、雷の力が投げられた。

 それをまともに食らった。

「ぐぅっ!」

 雷の強い力の直撃に、その場で倒れこんだ。

 その場所に、キーはゆっくりと歩み寄ってきた。

「なんだ、倒れるのが早すぎだろう?・・・・・少しは反撃して見せたらどうだ?その剣で」

 あらゆるものを消しさる風の力がその全身に宿る。

 視線と指が向けられたのは、リラの街の方角。

「や・・・・やめっ・・・・・やめてぇっっ!」

 必死だった。

 お姉ちゃんが・・・・お姉ちゃんが!

 座ったままの体勢で、剣を抜き、キーに向かって振り回した。

 その剣の持つ波動の力と、私のあらゆる剣の力を生かす能力に寄り、剣は波動を作り、その波動がキーの体を傷つけた。

 衝撃で、その風の力がけし飛ぶ。

 キーの袖が捲れ上がる。

 右腕に有った傷は綺麗に癒えて何処にもない。左腕のケヴァンが槍を刺した傷もないようだった。

 模様は一層強く刻まれているように見えた。

「やっと戦う気になったか?ルーファ。・・・・・その気になった所で、俺には勝てない・・・・・絶望の中で、リラの命運と共に滅びて行くといい!」

 キーの手から再び、風の力が宿る。

 風の力は此方に向けて放たれた。

 素早くかわして、高く上空へ飛ぶと、下の元居た場所は爆発した。

 そう、私がここで倒れてしまえば、リラ族は滅びてしまう。

 キーが・・・・キーがリラを滅ぼしてしまう。

 私はキーを・・・・キーを止めなければ!

 キーはずっと思い悩んでいた。

 キーは・・・・今も苦しいのだ。

 私が止めなければ。

 キーも此方へ向かって来た。

 剣を構えて、キーのいる方角に振り回す。

 波動がキーに向かって飛んでいく。

 キーは綺麗にかわしながら、私に向かい、火の玉を飛ばしてくる。

 火の玉を左手で無効化しながら右手で剣を振るう。

 剣の波動がキーの体を裂く。だが致命傷にはならない。

 キーの懐に飛び込んで、キーの体をこの剣で斬り付けないと、キーは倒せない。

「この程度か。リラ族の力は!」

 キーが素早く、火の玉と雷をぶつけてくる。

 狂ったように繰り出される次々の攻撃は、全てを避けきる事も無効化する事も叶わず、数発まともに喰らってしまった。

「くぅ!」

 このままでは徐々に、体力を削られ続けて、命を落としてしまう。

 キーに向かって、剣を振る。

 波動がキーに命中した。

 キーは表情を変えずに地の力を操る。

 キーの周りの地面が振動する。地面が起伏して襲ってくる。

 走って誘導しつつかわす。

 魔法に耐性が備わったこの身でも、これ以上の魔法を受ける遠距離での長期戦は、此方の体力が持たない。

 剣を両手に持ちかえて、剣を振りながら、火の玉を剣の波動で無効化しつつ、キーの側に寄った。

 しかし、キーは私が寄ると身を翻して遠ざかり、その先で、火の球を作り、私に向かって連射してきた。

 左手で無効化する。キリがない。

 キーの側に寄って切りつけなければ、私に勝ち目はない。

 致命傷を与えるには、波動なんかじゃダメだ。

 強い。

 わかっていたけど・・・・やっぱり強い。

 キーの手に雷の力と火の力が宿る。

 私に向かって火の球が飛んでくる。

 キーが右手を上から下に振ると、雷が真っすぐ私に向かって飛んできた。

 上に飛んでかわす。

 火の玉が追ってくる。

 左手で火の玉を一つ一つ無効化している間にキーが風の力を向けてきた。

 風の力は竜巻となって、私を包んで締めあげた。

「うっ・・・・」

 風の力を喰らって勢いよく地面に落下した。

「いっ・・・・たぁ・・・・」

 落ちた場所の地面が振動していた。

 地面が割れてその瓦礫が襲ってくる。

 右手で剣を振り、瓦礫を一つずつ破壊する。

 地の力を左手で無効化した。

 素早く地面を走り、キーを飛び越えて、キーの後ろに回り込む。

「!」

 キーが此方を振り返った。

 その瞬間に側に寄った。

 キーは私が側に寄ると風の力を手に宿し、全体に結界を張り、その力を爆発させた。

 波動で吹き飛ばされて、地面に体を叩きつけられた。

 キー・・・・。

 私は、ホディや貴方の言う通り、倒されるか、倒すかしかないの?

 さっきキーが言った事、私は信じない・・・・貴方はソグド族の事とか神とかそんな事で私を狙ったりしない。

 本当の目的は・・・・別にあるでしょう?

 それを聞くには・・・・こんな事で倒れる訳にはいかない!

 体を起して立ちあがる。

 目の前にキーの姿が見える。

 口に血の味がする。

 口どころか、体中が切れている。

 剣を構え直す。

 キーが右手を上げて雷の力を向けてくる。

 高く飛んでかわし、襲ってきた火の玉を無効化する。

 キーに向かって短剣を投げる。

 キーはかわして、大きな風の力を操る。

 周囲の全てが突風に包まれていく。

 巻き込まれないように、周囲の風を左手で止める。

 完全に無効化は出来なかったが、自分の周りだけは何とか解除出来た。

 キーが両手を上げて、大きな劫火を操った。

 出現した大きな火の力は真っすぐ私に向かってきた。

 素早くかわして、キーに向かって剣を向けて降下する。

 キーは風の力を操って吹き飛ばした。

 まともに地面に叩きつけられて、背中を思い切り打ちつけた。

 打撲くらいはしているかもしれない。

 よろよろと立ち上がると、自分に向かいゆっくり歩いて来るキーの姿が見えた。

「これで・・・・終わりか。リラ族の宿命も・・・・・・お前の命も・・・・・・何とも呆気ない」

 その手には圧倒的な雷の力。

 これまでに自分へ向けられた事がなかった圧倒的な力。

 全ての生命を一撃で消しさるような強い力。

 ずっと私の隣で、私を守ってきてくれた力。

 手で崩れて落ちてきた瓦礫を払い、顔を拭った。

 圧倒的な力、全てを消滅させる事が出来るような力の発動を・・・・・させるわけにはいかない。

 剣を構えて、キーに向かって夢中で突進した。

 キーは、その宿していた雷の力を、私に向かって放つのを・・・・・やめた。

 私の剣はキーの体を貫いた。

 キーは、私に向かって微笑んだ・・・・・気がした。

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