第4話 チェスって?
「勝負? ボクとかい?」
「正確には部長とじゃなくてハナちゃんとです。勝負の内容は僕が決める。そしてもし僕が勝てば部長はお願いを聞く、逆に僕が負ければ大人しく諦めます。それどころか、良々とのデートもついてきます」
「まさに漢同士の勝負! これに乗らないなんてー……って! ちょっと勇くん! あなた何勝手に私を出汁に使ってんのよ!」
「あぁ悪い。間に合ってるか?」
「誰とも付き合ってないわよ! てそういう問題じゃない!」
ポカポカ背中を叩いてくる良々。
良々とデートできると聞いて、先ほどまでの怪訝な顔が途端に明るくなる部長。
「なるほど面白い。なら勝負の内容を言いたまえ、内容によっては考えてあげてもいい。ただ申し訳ないけど、まだハナちゃんのボディが作れていないのでネ。50m走とか言われてもできないヨ」
「問題ないですよ、内容はそう……チェス!」
正直気乗りはしない。それでもあの日から目を背け続けてきた僕が出せる唯一無二のカードだ。
僕の言葉に、一瞬沈黙が訪れた。
その後腹を抱えて笑い出す部長。
「あははは! 何を言い出すかと思えば、チェスって! 世界的なゲームなのは間違い無いけどネ、お互いの手が全てわかる完全情報ゲームだヨ? AIが最も得意とする分野さ! 面白い冗談だネ」
「冗談じゃないですよ部長。僕とハナちゃんでチェスの3番勝負を行い、もし1回でも対局に勝てたら勝利とするのはどうでしょう?」
「あはは、いいヨいいヨー。AI相手だからね、それぐらいのハンデをあげなきゃ不公平だもんね。ハナちゃんもそれでいいかナ?」
「Yes of course ご主人様」
「あぁ違いますよ部長、僕に1回でも勝てたらそちらの勝ちでいいと言ってるんです」
——!!
良々と部長が同時に驚いて固まった。
「何ふざけてんのよ! 私の純情が賭かってるのよ! このままじゃお嫁にいけなくなっちゃうじゃん!」
良々は僕の影に隠れながら部長を指さす。
「なんだかすごくディスられている気がするけど……君がそれでいいなら構わないサ。だけど後でやっぱ無しは駄目だからネ!」
狙い通り食いついた。
部長はAIであるハナちゃんがチェスで負けるとは微塵も思っていない。加えて良々に格好もつけられるときた。こんな好条件、勝負をおりる訳がない。
昔父さんに習った、交渉では相手を勝たせた気にさせろと。こんなところで活きるとはね。
「もちろんですよ、ありがとうございます。では準備期間として3日後に勝負でどうでしょうか?」
「勇くん、なにニヤニヤしてんのよ」
「いいヨ。じゃあまたネ……」
「って部長もニヤついてるし、まったく男ってやつは……」
————帰り道
「ねー、ほんとにあんな約束して大丈夫?チェスで勝負なんて」
「まぁ任せろ、昔かじってたんだよ、チェスは。でもブランクが長いからな……」
「ふーん、じゃあさ……手伝って上げてもいいわよ」
「え?なにが?」
「だから、人に教えると勉強になるって言うじゃない? だから私にチェスを教えてよ」
なんだか恥ずかしそうに赤面する良々。
その様子に思わず笑ってしまう。
「何よ! 人が親切にしてあげてるのに!」
「いや違うって、良々って意外にも結構優しいところあるんだなって」
「意外とはなによ! ふふっ、じゃあ教えて、チェスを」
————翌日の放課後
誰もいない教室の中、僕の机にはチェスボードと駒が並べられていた。良々は前の席に座り、その駒をまじまじと観察している。
「ていうかこのご時世にチェスのこと知らない人いたんだな。世界的なゲームなのに」
「うるさいわねー、ゲームはあんまりしないの。いいから早く教えて」
「はいよ」
改めて、僕はチェス盤に向き直す。
「まずチェスのルールについてだ。チェスは縦横8x8の合計64マスのボードに白黒の駒が配置されている。そして白番から順番に白、黒、白、黒……と、交互に駒を1つずつ動かしていくゲームだ。最終的に相手のキング(王)を取ったほうが勝ちになる」
「よくアニメとかで見るチェックメイト! ってやつよね?」
「そうそう、相手のキングを詰ませた時な。ちなみに詰んでないのにキングを攻撃した時はチェックと言うんだ」
「へー、自分のキングを守って、相手のキングを攻めればいいわけね」
「そう! じゃあ次にチェスの駒の種類を教えるぞ」
・チェスのピースの種類について(6種類)
♔ キング(K) : 王
最重要の駒。縦、横、斜めのいずれかに1マス動かすことができる。
(将棋でいう王と同じ動き)
♕ クイーン(Q):女王
最強の駒。クイーンは、縦、横、斜めに好きなだけ動かせる。
(将棋でいう、飛車と角を掛け合わせた動き)
♗ ビショップ(B):僧侶
斜めに好きなだけ動かせる。
(将棋でいう、角と同じ動き)
♘ ナイト(N):騎兵
駒を飛び越えて動ける駒。アルファベットのL字に動く。
(将棋でいう、桂馬を前後左右に動ける駒)
♖ ルーク(R):城壁
好きなだけ縦・横に進める。
(将棋でいう、飛車と同じ動き)
♙ ポーン:歩兵
基本は1マス前進、ただし初めの一歩だけは2マス進むことができる。斜め前に敵がいるときのみ駒を取ることができる。
・駒の配置について
初期配置は、手前から2列目にポーンが並び、1列目にそれ以外の駒が並ぶ。
ちなみにキング側の半分4列を「キングサイド」、クイーン側の半分4列を「クイーンサイド」と呼ぶんだ。
・マス目の番地と棋譜について
チェスの各マスにはそれぞれ「a~h」と「1~8」の番地が割り振られている。白側から見て一番左下は「a1」ということだね。
棋譜は動かした駒の文字」と「動かす先のマスの番地」を合わせて表記する。例えば、c3のマス目にナイト(N)を動かすと「Nc3」といった感じ。ただしポーンだけは何もつけずに「c3」と表記する。
***詳しくはあとがきをご覧ください
「へぇ~、チェスのルールもいろいろあるのね。一回じゃ覚えきれないかも」
「大丈夫、意外とシンプルだから。ゆっくりと覚えていけば意外と簡単さ」
「ね、じゃあ早速私と勝負しない?」
「いきなりだな……まぁ習うより慣れろか、いいよ。ジュースでも賭けるか?」
「よし! 絶対勝つわ!」
***ここまでお読みいただきありがとうございます!
「チェスのルールや駒の動きをサクッと知りたい!」という方は、日本チェス連盟の公式ページが図解付きで非常に分かりやすいのでオススメです。
・ 日本チェス連盟 公式「チェスのルール」
https://kakuyomu.jp/users/saibuna_yy/news/2912051602939056229
この物語ではたびたび駒の動きを表記することがあります。その際、駒の動かし方の表記方法を知っておくとより楽しめると思います。
そこで、チェス入門というwebページが非常にわかりやすいのでオススメです。
・ チェス入門 チェスの棋譜の読み方
https://kakuyomu.jp/users/saibuna_yy/news/2912051602941023905




