第3話 亡者のメッセージ
キーンコーンカーンコーン
HRを終え放課後を迎える。
僕はどこの部活にも所属していないし、所属する気もないのでさっさと帰って寝ることにした。朝から面倒なやつに絡まれて気分も悪いし。
チラッと良々の方を見ると彼女は友達とカフェに行くだのなんだのと楽しそうに話している様子。
あいつはどこの部活に入るんだろうか? まぁ僕には関係ないし、どうでもいいや。
***
「ただいまー」
母さんが帰るまではしばらくかかるので、この時間は一人きりだ。そそくさと自分の部屋に行き、制服のままベッドに横たわる。
さて少し仮眠でもとりますか
今朝はあんまり、眠れ、なかった……し……
――ピコン!
唐突にスマホの通知が鳴る。
なんだ? 人が心地よく寝ようとしてたのに
ベッドに座り直しスマホの画面を見る。なにやら一通のメッセージが届いているようだ。
面倒だが一応まめなもんで、いつも確認するようにはしている。まぁ友達なんていないので、大抵迷惑でどうでもいい内容なのだが。ったく送るやつはどんな神経してんだか……。
えーっと、送り主は……っ!!
『父さん 1件』
…………は?
父さん? なんで? 生きてた? ……いやまさかそんなわけ!
この目でみたはずだ、父さんの最後を。それに葬儀だってした。
呼吸が荒ぶるまま、恐る恐るメッセージを開く。
『私は殺された』
脳に電流が走るとはまさにこのことか。刹那、手の平からスマホが滑り落ちる。
定まらない焦点に、溢れて止まらない冷や汗。
見間違い? いや間違いなく送り主は父さんからとなっている。イタズラか? 故人のアカウントを乗っ取って? いやいや単なるイタズラでできるもんか。
ならば本当に父さんが? そんわけがない!
まてよ、5年後に送信されるようにメッセージを送った? そんなことが可能なのか?
いやしかし一番の問題はメッセージの内容。父さんが……殺された……だって?
確かに父さんの死は自分でも納得いってない……できるわけがない。
あれだけ熱中していたチェスの大会、まして世界の頂点を決める大会の前に、仕事のストレスで自死なんて馬鹿げている。たとえ遺書があったとはいえ、どう考えてもおかしい。
ずっと引っかかっていたが根拠はなかった、ただの妄想でしかなかった。だけど、もしあの時、本当は父さんが殺されていたのだとしたら、その違和感の説明がつくかもしれない。しかし殺されただなんて考えたこともなかった。
あともう一つ肝心なのは、この送り主がなぜこれを僕に送ってきたかだ。
一体誰が? 何のために?
何かある、父さんの死には絶対に何かある。もしかしたら僕の想像を超える何かが。
僕の直感がそう訴える。
まさか、こいつは父さんの死の真相を確かめさせたいのか? この僕に……
……上等、乗ってやるよ
父さんが殺されたんだったら、犯人は今でものうのうと暮らしているかもしれないってことだ。なに不自由なく。
……それだけは許せない! 許せるはずがない!
僕と母さんから大好きな父さんを奪い、平然と生きていられるのならば、この僕が、この人生の全てをかけて復讐してやる。どんな理由があっても、僕の大切な人を傷つけた奴を許しはしない! なんならこの手で……。
ふー……とりあえず、まずはこの送り主が本当に父さんなのか特定しなければ
勇の目にはあの日の光景がありありと映っていた。
凍りついていた時が動き出す音がする。
***
——翌日 昼休み
しかし、どうしたものか。
手を組んで悶々《もんもん》と悩んでいる僕に、また良々が話しかけてきた。
「あら、珍しく真剣な顔をしてるじゃない」
「また君か、悪いけどちょっと今……」
いや待てよ
「何よ、話しなさいよ」
「……君、良々って顔広い?」
「そりゃそうよ、人望激アツなんだから」
「だったらさ、ITに詳しい人知らないか?」
「何? どういうこと?」
「詳しいことは……ちょっと言えない」
「はぁ? あなた、人に頼むくせに説明しないってのはどういう了見よ」
正論だ。思わず頷いてしまう。
そんな様子を察してか、良々がしょうがないとばかりにため息をつく。
「わかったわよ、クラスメイトの悩みは私の悩み。学級委員長として見捨てておけないわ」
学級委員はまだ決めてないとツッコもうとしたが、面倒なのでやめた。
「じゃあ、早速情報室に行くわよ!」
「ちょっ、ちょっ!」
良々は強引に俺の袖を引っ張って、教室から連れ出す。
うわー、周りの驚いたような視線が痛い。
これでも一応クラスの人気者らしいし、変な噂が立つのだけは避けたい。
こいつ人との距離が近いんだよ、まったく。
***
——東品川高校 情報室——
良々につれてこられた情報室は、思っていた割に意外と狭かった。
それでも備品が綺麗に整えられており、特にズラッとモニターが並んでいる様相は圧巻だ。そんな情報室の奥の方、とあるデスクに誰かが一人座っている。
「こんにちわーっす」
良々がその人影に向かって手を振る。
「やぁ、良々ちゃんじゃないカ」
こちらに気づき立ち上がった人影。
上級生らしきメガネをかけた男がそこにいた。
「紹介するわ、こちら2年生でパソコン部部長の……えっと部長よ」
名前覚えてないのかよ。
「ご紹介に預かっタ。このボクがパソコン部の部長! 名前は……」
「というわけで、私の友達が頼みたいことあるんだってー」
「うぅ……良々ちゃン(泣)」
なんだろう色々ツッコミたい。
しっかし入学してひと月も経ってないのに、こうもまぁいろんな人と仲良くなれるもんだと良々の行動力に感心する。
部長はズレたメガネを掛け直し、まるで品定めをするかのように、僕の顔をまじまじと見つめてくる。
「それで、君は良々ちゃんのなんなんだイ? まさか、彼……」
「違う! クラスメイトですよ、ただの」
「ただのは余計よ」
「それはよかった。じゃなきゃ良々ちゃんファンクラブ第一号のボクが君をボコボコにしなければならないところだったヨ。安心したまえ」
メガネをクイッと掛け直す。なんとも調子のいいやつだ。
「初めまして僕は王城勇です。ちょっと訳があって、ITに詳しい人を探しています」
そう聞くやいなや、部長は得意げに語り出す。
「ほうほうほう、まさにボクの十八番! 何を隠そう、このボクはあの高校全国プログラミング選手権で決勝まで進出した逸材なんダ。大抵のことは朝飯前だネ。パソコン部エースのこのボクこそが、まさに君の探し求めている答えと言えよう!」
「ちなみにパソコン部、3年生全員引退して、部長しかいないんだってね~」
「良々ちゃン……それは言わないでヨ(泣)」
それは部活として成り立っているのだろうか?
「しかしだネ、ボクに何か頼むのは結構だけど、引き受けるとは言っていないヨ」
「えー、部長ケチくさいよー」
「良々ちゃんにも悪いんだけど、今こいつの調整中でネ」
部長がモニターを指差すと、そこにはメイド服を着たピンク髪のキャラクターが映っていた。
「彼女はボクが制作したAI『ハナちゃん1号』次のプログラミング展示会で出展するつもりなんダ。ねーハナちゃん?」
「Yes ご主人様」
「うわ、部長の趣味丸出しじゃん」
「あぁ引かないで、良々ちゃン(泣)」
なるほど、無料では引き受けてくれなさそうだ。
しかし、こういう相手にはこの手が効く。
「……なら部長、勝負しませんか?」
俗に言う挑発だ。




