第14話 始動
————東品川高校 情報室————
「別荘っていったってどこ探せばいいのよー」
早朝の肌寒さにジャージを着た良々がデスクにうなだれる。
「千代田区にあるって言ってたよネ」
モニターに向きあい、いつものようにキーボードをカタカタ触る部長。
そんな二人を横目に見ながら、僕はため息をつく。無事アスマに勝利を収めることができたものの、また手詰まりの状態になってしまったのだ。
というのも……
***
————カーディナル————
「それで? 勇、知りてぇことはなんだ?」
敗北を認めたアスマは先ほどとは打って変わり、協力の姿勢を見せる。ときおり賭けに負けて文句を垂れる観衆を怒鳴りつけてはいるが。意外と律儀な性格なのだろう。
「とりあえず、父さんに関すること全てです。どんな些細なことでも構いません」
この3人に犯人の心当たりがないのであれば、とにかく情報を全て集めるしかないだろう。塵一つであっても貴重だ。
この過程で父さんのいろいろな一面を知れた。僕の知っていること、知らないこと。自分の親のことを他人から聞くのは、どこかむず痒いというか、恥ずかしいものだ。家で知っている無防備な姿とは違い、外行きの仮面を被っているだろうから。
「それでな……先生がな……」
「へぇー、そんなことが」
「あはは、何度きいても面白いわねー」
「ほれ、お前らも飲め飲め(ジュースな)」
「飲みます! くはー!」
「すごい飲みっぷりだね、良々ちゃン」
その後、思いのほか話が弾んでしまい、気づくと夜遅くになってしまった。そこでスミがアスマを自宅に送るついでに、僕たちを車で送ってくれることに。
その帰りの道中、となりに座っていたアスマが興味深いことを口にしたのだ。
「そういやー先生は別荘を持ってるって言ってたな……ちらっとだけど」
「え? あぁーそんなこと言ってたっけ。相変わらず記憶力いいわねー」
SUVを軽々と運転しながら答えるスミ。
別荘? 父さんが?
「その話詳しく聞いてもいいですか? 別荘があるなんて知らなくて……」
「なんだ勇、お前知らないのか? なんか千代田区のどっかにあるとか言ってたはずだぜ……。まぁ俺もよく知らんが」
「そうなんですね……」
僕たち3人は顔を見合わせる。
別荘か……一体なんのために?
スミの車は僕たちの高校の最寄り駅、品川駅で止まった。
降りる際、アスマが僕の首に手を回し、ガッチリとホールドする。
「勇、俺は先生が殺されたなんて信じちゃいねぇ、けど先生に向き合おうとする姿勢は買った。協力してやるよ先生の兄弟子としてな!」
「何言ってんのよアスマ。勇くんが先なんだから、あんたは弟弟子よ」
「げっ、確かに。けど年齢は俺のが上だから俺が兄貴だろ?」
「うぐぐ、それでいいっす」
首が締まるよこの酔っぱらいが!
「あとそこの小娘に聞いたぞ。お前、世界一を目指すんだってな? いいぜ、これからもカーディナルに来い! この俺がビシバシ鍛えてやるからよ!」
「負けたくせに偉そう」
「うるせぇ小娘!」
「あの! わたし小娘じゃないし!」
「あぁ悪ぃな、ガキんちょ」
「ムキー!!」
……兄弟子か……なんだか歳の離れた兄ができたみたいだ。
アスマに突っかかろうとする良々を部長が止めている。
その横でフッと笑みを浮かべながら、僕は車を降りた。
「ありがとうございました。とりあえずその別荘をあたってみます」
「そうか、わかった。じゃあまたな、お前ら」
「可愛い子ちゃんたち、早く寝なさいよー。じゃあねー!」
スミとアスマはそう言うと、エンジンを吹かせ颯爽と去っていったのであった。
***
そんなこんなで父さんの別荘を探すことになり、今にいたるわけだ。
しかし、広い千代田区で父さんの別荘を探すだなんて……。
「勇くんのお母さんは何か言ってた?」
「いや、母さんも知らないらしい」
「じゃあ無理じゃんー、本当にあるのかなー」
「もしあったとしても千代田区は家がたくさんあるからネ。アパートか一軒家か、マンションか、しらみ潰しじゃ何年かかるかわからないヨ」
クソッ、これ以上ない手がかりなのに辿り着くルートが見えない。
なにか、なにか絞れるヒントでもあれば……。
「あ! そうだ。勇くん、今日学校でなにがあるか知ってる?」
突然良々が何かを思い出す。
「え? あぁ、今週の校外学習の班決めだっけ?」
「ま、まぁそれもあるけど、そうじゃなくて……その前に、学級委員長決めでしょ。絶対私に投票すること! いい?」
「あ、はい……」
強烈な圧を放つ良々に拒否することはできそうにない。
「そうだった、入学して早々校外学習があるんだよネ。今年はどこにいくのかナ?」
「国会議事堂を見学するそうです」
「総理大臣とか見れるのかな~」
「あぁ、茶川総理だネ、総理大臣になって今年で7年目だっけ?」
部長が検索し、出てきた写真を見せてくれる。そこに映る茶川総理は、綺麗に刈り上げられた白髪混じりの短髪が似合う60代前半ほどの男性。優しそうな雰囲気を醸し出しているが、その目は鋭く、狙った獲物は決して逃さない力強さがある。
「そう、超がつくほどの長期政権のね。平和主義で有名な総理だそうよ」
「会えるといいな」
総理大臣ねぇ……もしかしたら父さんと面識があったり……いや、それはないか。総理大臣が6000人を超える外交官をいちいち記憶しているとは思えない。
「ま、とりあえず投票よろしく!」
「はいはい……」
そうしてクラスの学級委員長に立候補した良々だったが……見事に落選してしまった。その代わりに優しくてやかましくなくて、気遣いができるクラスのしっかり者、橋本さんが学級委員長になったのであった。
その後、一日中文句と愚痴でわめき散らす良々を慰めるのに苦労したことは言うまでもない。
クラスメイトによると、『良々ちゃんは可愛いけど、可愛いんだけれども……』だそうだ。あとが面倒なので本人には黙っておくことにした。やれやれ……。
***
ピピピピッ……
小さく電子音が鳴る。
スーツ姿の男が静かに棚を開け何かを取り出す。椅子に深く腰掛け、味わうようにコーヒーをゆっくりとすする。
さきほど彼が手に取ったのは小型の通信端末だろうか。スマートフォンとは違い、かなり古い機器のようだ。
そのディスプレイには今まさに受信した数列が映し出されており、男はそれをただ静観していた。
【123173 16581636103919】
「ふむ、動きだしたか……いささか遅いが、まあいい」
ポケベルを机に置いて立ち上がった男は、日差しの差し込む窓の前で外の景色を見ながらフッと不敵な笑みをこぼす。
「……王城の息子……か……」
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