第六十七話 「侵入不可領域は、合理性を拒絶する」という話
「」→日本語
『』→英語
→すみませんが脳内変換してください!
夏休み長すぎないか?!
始まりは、リビングのテーブルに置かれた一枚のハガキだった。
白地に、少しだけ丸い文字。
見慣れた癖のある筆跡。
中学時代のクラスメイトたちが集まる、小さな同窓会の通知だった。
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たっくん、今度の土曜日、駅前のファミレスね!
みんな、たっくんに会いたがってるよ!
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弾んだ声が、部屋に広がる気がした。
その音は軽く、何の緊張も含まない。
ただの“日常”の音だった。
その瞬間。
同窓会の件を聞いたエドワードの指が、止まった。
キーボードの上で、わずかに浮いたまま動かない。
『タクミ。確認だ』
静かな声。
『私も同行する』
一拍。
『お前の中学時代の社会構造を解析する必要がある』
『ダメに決まってんだろ』
即答だった。
拓海は、ハガキをひらひらと振りながら言う。
『同窓会だぞ?お前みたいなのが来たら、みんな引くだけだ』
「タクミ。ボクハイクセ」
「ハミルトン、有名。ミナ、ヨロコブ」
「合理的ハン断」
エドワードは、当然のように言い切る。
そこに迷いはない。
イギリスにいた頃。
拓海の隣は、常に自分の指定席だった。
誰と話すか。
どう笑うか。
どの距離に誰を配置するか。
そのすべてを、自分が最適化してきた。
その自負がある。
だから。
“同行しない”という選択肢は、存在しなかった。
だが。
『……ダメだ』
拓海は、引かなかった。
一歩も。
『これは俺の友達との集まりだ』
一拍。
『お前には関係ない』
その言葉は。
驚くほどあっさりと、
しかし、決定的に線を引いた。
部屋の空気が、わずかに沈む。
『……いいか、ジョージ』
低い声。
『絶対についてこさせるなよ。これは命令だ』
『……イエス・サー』
ジョージが、静かに頭を下げる。
『サエキ。貴方の“過去ログ”への不可侵権を尊重します』
その言葉は、妙に正確で。
だからこそ、残酷だった。
「…………」
エドワードは、何も言わない。
言えない。
“拒絶”。
その非論理的な単語が、
胸の奥に、冷たいまま沈んでいく。
土曜日、夕刻。
駅前のファミレスは、いつも通りの光を灯していた。
明るすぎる照明。
規則的に並ぶテーブル。
絶えず開閉する自動ドア。
どこにでもある、ありふれた場所。
その外。
植え込みの影に、ひとつの小さな人影があった。
『……ハミルトン様』
ジョージの声は、いつもより抑えられている。
『やはり、戻りましょう』
一拍。
『あそこは、我々のアーカイブには存在しない領域です』
カメラは、持っていない。
観測者であるはずの彼が、記録を、していない。
それが、この場所の性質を物語っていた。
エドワードは、答えない。
ただ、ガラス越しに、店内を見た。
笑っている。
自然に。
何の違和感もなく。
数人に囲まれて。
その中心にいる、大きな背中。
肩の力が抜けている。
声の高さも。
距離の取り方も。
”すべてが、知らないもの”だった。
(……違う)
これは、自分が知っているタクミではない。
(……ここが)
一拍。
(……タクミの過去か)
踏み出そうとして。
足が、止まる。
理由はない。
ただ、入れない。
そこには、扉がない。
許可もない。
理屈も通らない。
ただ、透明な壁だけがある。
エドワードは、その前に立ち尽くした。
侵入も。
解析も。
更新もできない。
ただ。
“存在している”だけの領域。
その事実を、初めて理解する。
エドワードは。
初めて。
“合理性が通用しない世界”の外側に立っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




