表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/374

第六十七話 「侵入不可領域は、合理性を拒絶する」という話

「」→日本語

『』→英語 

→すみませんが脳内変換してください!

夏休み長すぎないか?!

始まりは、リビングのテーブルに置かれた一枚のハガキだった。


白地に、少しだけ丸い文字。

見慣れた癖のある筆跡。


中学時代のクラスメイトたちが集まる、小さな同窓会の通知だった。


**********************


たっくん、今度の土曜日、駅前のファミレスね!


みんな、たっくんに会いたがってるよ!


***********************


弾んだ声が、部屋に広がる気がした。

その音は軽く、何の緊張も含まない。

ただの“日常”の音だった。


その瞬間。


同窓会の件を聞いたエドワードの指が、止まった。

キーボードの上で、わずかに浮いたまま動かない。


『タクミ。確認だ』


静かな声。


『私も同行する』


一拍。


『お前の中学時代の社会構造を解析する必要がある』


『ダメに決まってんだろ』


即答だった。

拓海は、ハガキをひらひらと振りながら言う。


『同窓会だぞ?お前みたいなのが来たら、みんな引くだけだ』


「タクミ。ボクハイクセ」


「ハミルトン、有名。ミナ、ヨロコブ」


「合理的ハン断」


エドワードは、当然のように言い切る。


そこに迷いはない。

イギリスにいた頃。

拓海の隣は、常に自分の指定席だった。


誰と話すか。

どう笑うか。

どの距離に誰を配置するか。


そのすべてを、自分が最適化してきた。


その自負がある。

だから。

“同行しない”という選択肢は、存在しなかった。


だが。


『……ダメだ』


拓海は、引かなかった。


一歩も。


『これは俺の友達との集まりだ』


一拍。


『お前には関係ない』


その言葉は。


驚くほどあっさりと、

しかし、決定的に線を引いた。

部屋の空気が、わずかに沈む。


『……いいか、ジョージ』


低い声。


『絶対についてこさせるなよ。これは命令だ』


『……イエス・サー』


ジョージが、静かに頭を下げる。


『サエキ。貴方の“過去ログ”への不可侵権を尊重します』


その言葉は、妙に正確で。

だからこそ、残酷だった。


「…………」


エドワードは、何も言わない。


言えない。


“拒絶”。


その非論理的な単語が、

胸の奥に、冷たいまま沈んでいく。


土曜日、夕刻。

駅前のファミレスは、いつも通りの光を灯していた。


明るすぎる照明。

規則的に並ぶテーブル。

絶えず開閉する自動ドア。


どこにでもある、ありふれた場所。


その外。

植え込みの影に、ひとつの小さな人影があった。


『……ハミルトン様』


ジョージの声は、いつもより抑えられている。


『やはり、戻りましょう』


一拍。


『あそこは、我々のアーカイブには存在しない領域です』


カメラは、持っていない。

観測者であるはずの彼が、記録を、していない。

それが、この場所の性質を物語っていた。


エドワードは、答えない。


ただ、ガラス越しに、店内を見た。

笑っている。


自然に。

何の違和感もなく。

数人に囲まれて。


その中心にいる、大きな背中。

肩の力が抜けている。

声の高さも。

距離の取り方も。


”すべてが、知らないもの”だった。


(……違う)


これは、自分が知っているタクミではない。


(……ここが)


一拍。


(……タクミの過去か)


踏み出そうとして。

足が、止まる。

理由はない。


ただ、入れない。

そこには、扉がない。

許可もない。

理屈も通らない。


ただ、透明な壁だけがある。


エドワードは、その前に立ち尽くした。


侵入も。

解析も。

更新もできない。


ただ。


“存在している”だけの領域。

その事実を、初めて理解する。


エドワードは。


初めて。


“合理性が通用しない世界”の外側に立っていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ