第五百六十四話 「返還(パケット)とは、海外照会ではない。拓海が初めて境界線を越えた瞬間、ロンドンの魔王・エドワードが世界中の公開情報を束ね、日本警察と同じ真実へ収束させる現象のことである」という話
それにしても刑事編ここまで長くなるとはw
【世田谷署・捜査本部】
~境界線を越えた成果~
翌朝。
世田谷署捜査本部には、徹夜明けの重い空気が漂っていた。
潰れた缶コーヒー。
散乱した資料。
書き換えられ続けるホワイトボード。
龍平は赤くなった目を擦りながら、新たに届いた海外捜査共助の資料へ目を落とす。
海外法人
送金記録
金融機関
どれも重要だ。
だが、決定打にはならない。
「……足りない。」
小さく漏らした、その時だった。
カツ…
聞き慣れた足音。
「おはよ。」
缶コーヒーを片手に、拓海が部屋へ入ってきた。
「……寝たんですか。」
「二時間。」
「そうですか。」
いつもの朝だった。
拓海は缶コーヒーを龍平の机へ置く。
「龍平。」
「はい。」
「海外から返ってきた。」
龍平の手が止まる。
「……もうですか?」
「公安でも、まだ回答途中のはずですが。」
拓海はポケットから一枚の資料を取り出した。
机へ滑らせる。
龍平は視線を落とした。
そこには、日本の捜査資料では見たこともない企業相関図が広がっていた。
【General Logistics】
関連法人
物流会社
送金経路。
幾重にも枝分かれした企業群。
龍平は思わず息を呑む。
「……これを、誰が。」
拓海は苦笑した。
「昔から世話になってる連中。」
「警察ではありませんね。」
「ああ。」
拓海は頷く。
「でも全部合法。」
「公開情報だけを繋いでる。」
龍平は資料をめくった。
法人登記。
株主構成。
役員変更。
解散済み法人。
消えた送金口座。
今まで無関係だった断片が、一枚の資料の上で一本の線になっていく。
「……ここだ。」
龍平は図面の一か所を指差した。
「代表者が交代した年と、母の失踪時期が一致しています。」
拓海は静かに頷く。
「俺もそこが引っ掛かった。」
龍平はさらにページをめくる。
「……こっちも。」
「全部、同じ資金の流れだ。」
「これだけの解析を、一晩で……。」
思わず息が漏れる。
拓海は缶コーヒーを一口飲み、遠くを見るように笑った。
「向こうも昨日は徹夜だったろ。」
「昔から仕事になると寝ねぇ面倒くさい連中なんだ。」
龍平は小さく頷いた。
「……また借りが増えましたね。」
「だな。」
その時。
捜査本部の扉が開く。
「佐伯! 松本!」
刑事課長だった。
「公安から追加回答が来た。」
一枚の公文書が机へ置かれる。
龍平は昨夜の資料と見比べた。
General Logistics
関連法人
物流網
資金移動
一つ
また一つ
同じ企業名へ赤丸が重なる。
龍平はページをめくる手を止めた。
「……一致しています。」
課長も資料を見比べ、小さく息を吐く。
「公安の回答と、全部同じだ。」
静寂
龍平がゆっくり顔を上げる。
「……裏が取れました。」
拓海は短く頷いた。
「使えるな。」
課長は資料を閉じる。
「よし。」
「General Logisticsを起点に、捜査本部の方針を全面的に組み直す。」
「全員、会議室へ!」
「「「はい!」」」
刑事たちが一斉に立ち上がる。
ホワイトボードが消される。
中央へ、大きく一つの名が書き込まれた。
General Logistics
事件は、一人の少女を救う捜査から、
世界へ繋がる巨大組織を追う捜査へと、その姿を変え始めていた。
ホワイトボードの前へ刑事たちが集まる。
課長が資料を机へ置いた。
「General Logistics。」
「ここを起点に洗う。」
「以上だ。」
会議が始まろうとした、その時だった。
「……待ってください。」
龍平だった。
課長が振り返る。
「どうした。」
龍平は答えない。
ホワイトボードへ歩くと、黒いマーカーを手に取った。
カツ
一本
二本
これまで書かれていた事件の流れへ、赤い線を書き加えていく。
美咲
薫
海外法人
港
送金
物流
General Logistics
一本だった線が、蜘蛛の巣のように広がっていく。
誰も口を挟まない。
龍平は黙々と線を引き続けた。
やがて
ペンが止まる。
「……違う。」
小さな声だった。
拓海だけが反応する。
「何が。」
龍平はホワイトボードを見つめたまま答えた。
「私たちは事件を追っていました。」
一拍。
「ですが、この組織は事件を起こしているわけではありません。」
課長が眉をひそめる。
「どういう意味だ。」
龍平は新しい円を書いた。
その中心へ
”General Logistics”
と記す。
「これは犯罪組織ではない。」
「物流網です。」
部屋が静まり返る。
「物流?」
「はい。」
龍平は頷く。
「会社そのものは合法。」
「関連会社も合法。」
「送金も、一つ一つを見れば合法です。」
マーカーが資料を叩く。
「ですが。」
「全部を繋げると。」
赤い線が最後の一点へ集まる。
「違法な"荷物"だけが、綺麗に運ばれている。」
誰かが息を呑んだ。
拓海は腕を組む。
「だから会社が潰れても困らねぇ。」
龍平は頷く。
「はい。」
「法人はいくらでも作り直せます。」
「物流網だけが残る。」
課長が低く呟く。
「だから二十年前から消えなかったのか……。」
龍平は資料を一枚抜き取る。
「そして。」
「美咲さん。」
「母。」
「他の被害者。」
「全員、この物流網のどこかを通っています。」
静寂……
龍平はゆっくり息を吐いた。
「今まで私たちは。」
「被害者を追っていました。」
「違います。」
ホワイトボードへ向き直る。
黒く書かれた
General Logistics
を見据えた。
「追うべきなのは。」
「人ではない。」
「この構造そのものです。」
部屋の空気が変わった。
課長は静かに頷く。
「……捜査方針を変更する。」
「事件単位では追わん。」
「General Logistics、その構造を潰す。」
「総力戦だ。」
「「「はい!」」」
刑事たちが一斉に動き始める。
その輪の少し外で、
拓海だけがホワイトボードを見つめたまま動かなかった。
「……。」
「佐伯さん?」
龍平が声を掛ける。
拓海は小さく首を横へ振った。
「いや。」
「まだ。」
「何か引っ掛かる。」
その一言だけを残し、再びホワイトボードへ視線を戻した。【世田谷署・捜査本部】
~境界線を越えた成果~
翌朝。
世田谷署捜査本部には、徹夜明けの重い空気が漂っていた。
潰れた缶コーヒー。
散乱した資料。
書き換えられ続けるホワイトボード。
龍平は赤くなった目を擦りながら、新たに届いた海外捜査共助の資料へ目を落とす。
海外法人
送金記録
金融機関
どれも重要だ。
だが、決定打にはならない。
「……足りない。」
小さく漏らした、その時だった。
カツ…
聞き慣れた足音。
「おはよ。」
缶コーヒーを片手に、拓海が部屋へ入ってきた。
「……寝たんですか。」
「二時間。」
「そうですか。」
いつもの朝だった。
拓海は缶コーヒーを龍平の机へ置く。
「龍平。」
「はい。」
「海外から返ってきた。」
龍平の手が止まる。
「……もうですか?」
「公安でも、まだ回答途中のはずですが。」
拓海はポケットから一枚の資料を取り出した。
机へ滑らせる。
龍平は視線を落とした。
そこには、日本の捜査資料では見たこともない企業相関図が広がっていた。
【General Logistics】
関連法人
物流会社
送金経路。
幾重にも枝分かれした企業群。
龍平は思わず息を呑む。
「……これを、誰が。」
拓海は苦笑した。
「昔から世話になってる連中。」
「警察ではありませんね。」
「ああ。」
拓海は頷く。
「でも全部合法。」
「公開情報だけを繋いでる。」
龍平は資料をめくった。
法人登記。
株主構成。
役員変更。
解散済み法人。
消えた送金口座。
今まで無関係だった断片が、一枚の資料の上で一本の線になっていく。
「……ここだ。」
龍平は図面の一か所を指差した。
「代表者が交代した年と、母の失踪時期が一致しています。」
拓海は静かに頷く。
「俺もそこが引っ掛かった。」
龍平はさらにページをめくる。
「……こっちも。」
「全部、同じ資金の流れだ。」
「これだけの解析を、一晩で……。」
思わず息が漏れる。
拓海は缶コーヒーを一口飲み、遠くを見るように笑った。
「向こうも昨日は徹夜だったろ。」
「昔から仕事になると寝ねぇ面倒くさい連中なんだ。」
龍平は小さく頷いた。
「……また借りが増えましたね。」
「だな。」
その時。
捜査本部の扉が開く。
「佐伯! 松本!」
刑事課長だった。
「公安から追加回答が来た。」
一枚の公文書が机へ置かれる。
龍平は昨夜の資料と見比べた。
General Logistics
関連法人
物流網
資金移動
一つ
また一つ
同じ企業名へ赤丸が重なる。
龍平はページをめくる手を止めた。
「……一致しています。」
課長も資料を見比べ、小さく息を吐く。
「公安の回答と、全部同じだ。」
静寂
龍平がゆっくり顔を上げる。
「……裏が取れました。」
拓海は短く頷いた。
「使えるな。」
課長は資料を閉じる。
「よし。」
「General Logisticsを起点に、捜査本部の方針を全面的に組み直す。」
「全員、会議室へ!」
「「「はい!」」」
刑事たちが一斉に立ち上がる。
ホワイトボードが消される。
中央へ、大きく一つの名が書き込まれた。
General Logistics
事件は、一人の少女を救う捜査から、
世界へ繋がる巨大組織を追う捜査へと、その姿を変え始めていた。
ホワイトボードの前へ刑事たちが集まる。
課長が資料を机へ置いた。
「General Logistics。」
「ここを起点に洗う。」
「以上だ。」
会議が始まろうとした、その時だった。
「……待ってください。」
龍平だった。
課長が振り返る。
「どうした。」
龍平は答えない。
ホワイトボードへ歩くと、黒いマーカーを手に取った。
カツ
一本
二本
これまで書かれていた事件の流れへ、赤い線を書き加えていく。
美咲
薫
海外法人
港
送金
物流
General Logistics
一本だった線が、蜘蛛の巣のように広がっていく。
誰も口を挟まない。
龍平は黙々と線を引き続けた。
やがて
ペンが止まる。
「……違う。」
小さな声だった。
拓海だけが反応する。
「何が。」
龍平はホワイトボードを見つめたまま答えた。
「私たちは事件を追っていました。」
一拍。
「ですが、この組織は事件を起こしているわけではありません。」
課長が眉をひそめる。
「どういう意味だ。」
龍平は新しい円を書いた。
その中心へ
”General Logistics”
と記す。
「これは犯罪組織ではない。」
「物流網です。」
部屋が静まり返る。
「物流?」
「はい。」
龍平は頷く。
「会社そのものは合法。」
「関連会社も合法。」
「送金も、一つ一つを見れば合法です。」
マーカーが資料を叩く。
「ですが。」
「全部を繋げると。」
赤い線が最後の一点へ集まる。
「違法な"荷物"だけが、綺麗に運ばれている。」
誰かが息を呑んだ。
拓海は腕を組む。
「だから会社が潰れても困らねぇ。」
龍平は頷く。
「はい。」
「法人はいくらでも作り直せます。」
「物流網だけが残る。」
課長が低く呟く。
「だから二十年前から消えなかったのか……。」
龍平は資料を一枚抜き取る。
「そして。」
「美咲さん。」
「母。」
「他の被害者。」
「全員、この物流網のどこかを通っています。」
静寂……
龍平はゆっくり息を吐いた。
「今まで私たちは。」
「被害者を追っていました。」
「違います。」
ホワイトボードへ向き直る。
黒く書かれた
General Logistics
を見据えた。
「追うべきなのは。」
「人ではない。」
「この構造そのものです。」
部屋の空気が変わった。
課長は静かに頷く。
「……捜査方針を変更する。」
「事件単位では追わん。」
「General Logistics、その構造を潰す。」
「総力戦だ。」
「「「はい!」」」
刑事たちが一斉に動き始める。
その輪の少し外で、
拓海だけがホワイトボードを見つめたまま動かなかった。
「……。」
「佐伯さん?」
龍平が声を掛ける。
拓海は小さく首を横へ振った。
「いや。」
「まだ。」
「何か引っ掛かる。」
その一言だけを残し、再びホワイトボードへ視線を戻した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




