第二十四話 「漆の箱は、東洋の「誓約」」という話
エドワード君の正妻認定(笑)
『漆の箱は、東洋の「誓約」だという話』
クリスマス休暇前日。
校内の空気は、どこか落ち着かないまま浮き足立っていた。
談話室にも人はいるが、どこかそわそわしている。
とりあえず、テディベアは送った。
(いろいろあったが…ありすぎたが…)
とにかく、送った。
「……やっと終わった」
ソファに沈みながら、拓海は小さく息を吐いた。
菜摘の顔が浮かぶ。
あの顔文字。
菜摘の悲しい顔は見たくない。
「……まあ、機嫌は直るだろ」
そう思ったタイミングで、寮の係員が声をかけてきた。
「サエキ、小包だ」
差出人は、実家。
「……あ、来たか」
箱を受け取る。
思ったより軽い。
談話室のテーブルに置き、雑に包みを開ける。
中から出てきたのは、漆塗りの文箱だった。
光って、黒い。そして金の模様。
深い光沢が、光を吸い込むように沈んでいる。
その上に、和紙で折られた小さな人形。
お雛様と、お内裏様。
「……おい、エド」
近くにいるはずの男に声をかける。
「これ、おふくろから」
箱を軽く持ち上げる。
「本好きの友達に、だってさ」
「……私にか」
静かな声。
振り返ると、エドワードが立っていた。
いつもより少しだけ、距離が近い。
視線が、箱に吸い寄せられている。
周囲の空気が、じわりとざわつく。
「……見たか、あれ」
「漆だ……」
「オリガミが対になってる……」
おいやめろ。
「……番か」
やめろって。
「認められたのか……」
「外堀が……」
「埋まってねぇよ!!」
拓海のツッコミも虚しく、野郎どもの妄想は止まらない。
その中で、エドワードは静かに手を伸ばした。
箱を受け取る。
わずかに、指が震える。
「……タクミ」
「ん?」
「これは……強度が高いな」
「そうか?」
「ただの小物入れだぞ、それ」
エドワードは答えず、箱の表面をじっと見つめる。
「……この二つは」
人形を指す。
「王と王妃か」
「まあ、そんな感じだけど」
「気に入ったのか?」
沈黙。
エドワードは、ゆっくりと箱を抱き寄せた。
耳まで赤い。
「……合理的だ」
「何がだよ」
「すべてだ」
一拍。
「お前の母上は」
「私の正当性を証明した」
「してねぇよ」
即答。
「……もう」
エドワードは、箱から目を離さない。
「テディベアなど」
「どうでもいい」
「お前、昨日まで必死だったろ」
返事はない。
ただ、少しだけ、満足げに、笑う。
「……タクミ」
「なんだよ」
「休暇中」
一拍。
「この箱に」
「お前への手紙を、毎日残す」
「いや、やめろ」
即答。
「怖い重い気持ち悪い」
拓海が怯えた顔で言う
「頼むからやめろ」
「合理的だ」
「やめろって言ってんだろが!!」
周囲から、すすり泣きのような声。
「姫が……」
「ついに……」
「正妻が……」
「だから!違ぇよ!!」
拓海は頭を抱えた。
「……あー、もう」
「おふくろも余計なもん送るなよ……」
エドワードは、箱を大事そうに持っている。
触れ方が、少しだけ丁寧だった。
まるで。
壊れないものなのに、壊れ物みたいに。
「……行くぞ」
「どこにだよ」
「帰る準備だ」
立ち上がる。
談話室を出る。
廊下は、もう静かだった。
明日から、クリスマス休暇。
「……タクミ」
「ん?」
エドワードは、少しだけ間を置いて言った。
「遅れるな」
「何にだよ」
「帰ってくるのに」
一瞬、足が止まる。
「……うるせぇよ」
小さく笑って、また歩き出す。
外は、すっかり冬の色だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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