第二十一話 「クリスマス休暇の予定」の話
最近文章を以前と変えて書くようにしてるせいか前ほど書き溜めが進まなくて頑張っても1日5話が限度に。(´・ω・`)
十一月の終わり。
寮の空気は、少しずつ冬に変わり始めていた。
廊下では、帰省の予定を話す声が増えている。
「いつ帰る?」
「うちは来週だな」
そんなやり取りが、やけに耳に残る。
拓海は、窓際の席で手紙を開いた。
日本から届いた、母からだ。
『日本もそろそろ冬の気配です。拓海は元気にしていますか。』
いつも通りの書き出し。
少しだけ肩の力が抜ける。
『クリスマス休暇、どうするの? 年末年始もあるし、帰ってきてもいいけれど』
そこで、指が止まる。
『お兄ちゃんが今大変だから、無理に帰ってこなくてもいいわよ』
小さく息を吐く。
「……あー」
分かる。
言いたいことも、気を遣っていることも。
帰ってきてもいい。
でも、帰らなくてもいい。
どちらでもいい、というのが一番困る。
「……そうなるよな」
手紙を折る。
恨む理由はない。
むしろ、ちゃんと気を遣ってくれている。
ただ。
「……まあ、しょうがないか」
そういう話だ。
そのとき、ポケットの端末が震えた。
画面に表示された名前。
「……あー」
今度は、苦笑が漏れる。
『帰ってくるんでしょ?』
短い。
それだけ。
菜摘からだ。
「……雑だな、おい」
けれど。
当たり前みたいに書かれたその一文に、少しだけ肩の力が抜ける。
”帰る前提”
迷ってる余地なんて、最初からないみたいな言い方。
「……まあ、そっちはそうだよな」
指が止まる。
返す言葉が、思いつかない。
帰る。
帰らない。
どっちでもいいはずなのに、
どっちでもよくない気もする。
「……めんどくせぇな」
端末を伏せる。
そのまま、ぼんやりと窓の外を見る。
冬の色が、少しずつ濃くなっていた。
「タクミ」
声がして、振り返る。
エドワードが立っていた。
「帰るのか」
「んー……まだ決めてない」
正直に答える。
「そっちは」
「帰る」
迷いのない即答。
「だよな」
短く返して、少しだけ沈黙が落ちる。
エドワードは、その間を埋めるように、わずかに考えた。
そして。
「……なら、来るか」
「……は?」
間の抜けた声が出る。
「我が家だ」
説明は、それだけだった。
拓海は一瞬、言葉を失う。
「……いや」
「お前ん家って、だいぶ重くないか?」
「そうか」
エドワードは気にした様子もなく頷く。
「問題ない」
「お前は問題しかねぇだろ」
軽く笑う。
けれど。
さっきの手紙と、
短いメッセージが、頭の中で並ぶ。
帰ってもいい。
帰らなくてもいい。
帰る前提。
そのどれとも違う場所に、
ぽんと置かれた選択肢。
「……まあ」
少しだけ間を置く。
「考えとくわ」
「そうか」
エドワードは、それ以上何も言わない。
ただ、去り際にぽつりと一言だけ落とした。
「……遅れるな」
「何にだよ」
「決断に」
「……うるせぇよ」
思わず笑う。
端末をもう一度見る。
短い一文。
手紙の一文。
そして。
今、ここにある会話。
「……どうすっかな」
答えは、まだ出ない。
窓の外は、すっかり冬の色になっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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