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幕間 「友情の強度は、走行距離(マイレージ)で決まる」という話

1メロスどのくらいなんだろう

放課後。

寮の談話室。


暖炉の火が静かに揺れる中、拓海はまだ手紙を眺めていた。

写真の中では、菜摘がいつものように笑っている。


「……菜摘」


自然と口元が緩んだ。


「……タクミ」


嫌な予感しかしない。

振り返る。

やっぱりいた。


エドワードが、いつの間にか背後に立っている。


「お前、足音って概念ないのか」


「ある」


「嘘つけ」


エドワードの視線は写真へ向いたままだった。


「……その人物」


「うん」


「昨日の『オサナナジミ』だな」


「そうだけど」


少しだけ沈黙が流れる。


「……解せん」


「まだ言うか」


エドワードは腕に抱えていた一冊の本を机へ置いた。


『走れメロス』


拓海は表紙を見た瞬間、顔をしかめる。


「また日本文学か」


「分析した」


「嫌な予感しかしねぇ」


エドワードは本を開く。


「この男は」


指で一行をなぞる。


「友のために走った」


「まあ、そういう話だ」


「途中で諦めなかった」


「うん」


「命も懸けた」


「そうだな」


エドワードは静かに頷く。


ノートを開く。

さらさらと文字を書き始めた。


『友情』



『努力量』



『走行距離』



『信頼』


拓海が嫌な顔をする。


「……待て」


まだ止まらない。


『走れば友情は深まる』


「違ぇ!!」


談話室に声が響いた。

エドワードは顔を上げる。


「違うのか」


「違う!」


「だが走っていたぞ」


「そこじゃねぇ!」


「友情とは走ることではないのか」


「メロスだけだ!」


エドワードは腕を組む。

本気で考えている。


数秒後。


「なるほど」


「嫌な予感」


「実証実験が必要だ」


「やめろ」


「タクミ」


「なんだ」


「お前は人質になれ」


「なんでだよ!」


「私は走る」


「だからやめろって!」


エドワードは本を閉じる。

立ち上がる。


「これより」


一拍。


「百メロスを開始する」


「動詞にすんな!」


そのまま談話室を飛び出した。


「おい!」


拓海も立ち上がる。


「待て!」


廊下へ出た頃には、もう姿はない。


「……速ぇ」


しばらく立ち尽くし、


深いため息をつく。


「……バカだろ、あいつ」


暖炉だけが静かに燃えていた。


**********


深夜。


ドンドンドン。


寮の扉が激しく叩かれる。


「……タクミ」


聞き覚えのある声だった。


嫌な予感しかしない。


扉を開ける。


「…………」


いた。


エドワードだった。


制服は泥だらけ。

髪は乱れ、

息も上がっている。


「お前」


拓海が絶句する。


「何してきた」


エドワードは胸を張った。


「百メロスだ」


「やると思ったよ!」


「完走した」


「するな!」


エドワードは満足そうだった。


「これで」


一拍。


「友情は以前より深まったはずだ」


拓海は額を押さえた。


「……お前さ」


「なんでそこまでやるんだよ」


エドワードは少しだけ考える。


珍しく、答えがすぐに出なかった。

暖炉の火だけが静かに揺れている。


やがて。


「……分からん」


ぽつりと呟く。


「だが」


拓海を見る。

真っすぐに。


「お前が、そこにいる」


「だから」


「走るべきだと思った」


談話室が静まり返る。

拓海はしばらく何も言えなかった。


「……お前」


ようやく口を開く。


「そういうの」


ため息を一つ。


「重いんだってば」


「そうか」


「そうだよ」


拓海は苦笑しながら立ち上がる。


「ほら」


「入れ」


「風邪ひくぞ」


エドワードは素直に部屋へ入る。

拓海はタオルを放り投げた。


「まず着替えろ」


「命令か」


「勅命だ」


その一言に、

エドワードはほんの少しだけ笑った。


暖炉の火が、小さく爆ぜる。


外は冷たい夜だった。

けれど談話室だけは、不思議と暖かかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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