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第十八話 「聖域の住人と、無自覚な闖入者」の話

プリンセス・エドワード回

放課後の談話室。

西日が差し込む一番良い席に、エドワードは座っていた。


絵画のように整ったその姿を、

周囲の生徒たちは遠巻きに見ている。


ここは、彼の聖域だった。

そう、その扉が、雑に蹴開けられるまでは。


「おーいエド! 探したぞ、お前こんなとこに居たのか!」


拓海が、遠慮なく踏み込んでくる。

制服は着崩れ、カバンを床に放り出す。


ざわ…ざわ…と、周囲がざわつく。


(……あいつ、入ったぞ)


(プリンセス・ハミルトン様の……)


エドワードは、静かに本を閉じた。


「……タクミか。騒がしいぞ」


「わりぃわりぃ!でな、これ、お前にやるよ」


差し出されたのは、くしゃくしゃの袋。

中から現れたのは、やけにピンク色の紙パック。


「……何だ、この液体は」


「毒じゃねーよ。イチゴオレだ。甘くて美味いぞ!」


拓海は隣に座り、スッとストローを刺して差し出す。


一瞬、空気が止まる。


(……えっ、飲ませる気か?)


エドワードはわずかに躊躇い、

それでも受け取り、口に含んだ。


「……甘い。甘すぎる。……だが」


少しだけ、目を細める。


「……悪くない」


「だろ?」


拓海はクスっと笑い、背中を軽く叩いた。


「……む。不敬だぞ」


「はいはい、姫様。襟、曲がってんぞ」


拓海は手を伸ばし、当然のように襟を直す。

エドワードは、何も言わない。


周囲が息を呑む。


(……近すぎるだろ)


(なんで許されてるんだ……)


拓海は気にしない。


「……タクミ」


「ん?」


「……明日も、それを持ってくるか」


「あ? いいけど。気に入ったのか?」


「……勘違いするな。勅命だ」


少しだけ顔を背ける。


「はいはい、勅命ね」


拓海は立ち上がる。


「じゃ、クラブ行ってくるわ。またな」


「……ああ」


足音が遠ざかる。


静寂。


エドワードは、残ったイチゴオレに口をつける。

窓の外を見たまま、もう一口。

誰も近づかない。


その席には、相変わらず誰も入れない。

ただ一人を除いて。


そして、その本人だけが、気づいていない。


「……ヤバイな、サエキ」


「……ああ、万能だな」


夕暮れの談話室に、誰かの敗北宣言のような呟きが静かに溶けていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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