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第百九十話 「共闘とは、背中を預けることではなく、相手が踏み出した泥濘を、自らの血で埋めてでも前へ進ませる」という話

エドワード君責めてきてますね

英国、九月の放課後。

雨上がりのラグビーグラウンドには、湿った土の匂いが濃く残っていた。


スパイクが地面に沈むたび、ぬかるみが音を立てる。


拓海はフォワードの列に入りながら、隣に立つ“違和感”を睨んだ。


「……おい」


低く声を落とす。


「正気かよ、エド」


隣には、見慣れたはずの男がいた。


だが、明らかに違う。


肩の厚み。

立ち方。

重心の置き方。


ただ鍛えたというより――

“ここに立つ前提で身体を作ってきた”ような形だった。


エドワードは視線を前に向けたまま、わずかに息を吐く。


「……問題ない」


それだけ。

説明もしない。


笛が鳴る。


一斉に前へ出る。


衝突。


鈍い音。

泥と体温がぶつかり合う。


拓海はラックに身体をねじ込み、押し返す圧力に歯を食いしばった。


「……くそっ」


相手の体重が乗る。

足が滑る。


バランスが崩れる。


―抜けるか?


そう思った瞬間。

背後から、強い衝撃が走った。


「……下がれ」


短い声。


視界の端に、エドワードの肩が割り込む。


ぶつかる。

正面から。


綺麗でも合理的でもない。

ただ、力任せの衝突。


「……っ!」


拓海は一瞬だけ息を呑んだ。


エドワードが、押している。


無駄の多いフォーム。

効率の悪い入り方。


それでも―


” 止まらない”


泥を蹴る。


滑る。


それでも踏み直す。


「……行け」


低い声が、背中越しに落ちる。


その一瞬、圧が緩んだ。


拓海は考えない。

そのまま前へ出る。


抜ける。


気づいた時には、前に出ていた。


数秒遅れて笛が鳴る。


止まる。


息が荒い。


泥が頬を伝う。


振り返る。


エドワードが、その場に立っていた。


肩で息をしている。

額に土がついている。

少しだけ、血が滲んでいる。


だが―


視線は逸れていない。


まっすぐ、こちらを見ている。


拓海は一瞬だけ、言葉を失った。


(……なんだよ、それ)


その背中は、知っているものじゃない。


完璧な天才でも、冷徹な観察者でもない。


”ただ、自分と同じ場所で踏ん張っている人間”


「……お前」


息を整えながら、吐き出す。


「タックル、下手すぎだろ」


エドワードがわずかに眉を寄せる。


「……最適解ではない」


一拍。


「だが、間に合った」


それだけ言って、視線を外す。

それ以上、語らない。


拓海は鼻で笑う。


「……バカが」


だが、その声は少しだけ軽い。


練習が終わる頃には、雨がまた細く降り始めていた。


二人はそのままグラウンドに倒れ込む。


泥と水の冷たさが、じわじわと身体に染みる。


距離は、ほとんどない。


「……エド」


ぼんやりと空を見ながら言う。


「なんで来た」


少し間があく。


エドワードは空を見たまま答える。


「……試した」


「何をだよ」


「……私が」


ほんの少しだけ声が低くなる。


「お前の隣に、立てるかどうか」


それだけだった。


拓海は目を閉じる。

小さく息を吐く。


「……で?」


エドワードは少しだけ顔を横に向ける。


「……まだ足りない」


即答。

拓海は笑う。


「だろうな」


雨音が少し強くなる。


その中で、二人は動かない。


離れる理由も、起き上がる理由も、特にない。


”そこにいることが、もう前提になっているから”


■ジョージ幕間(観測ログ:共闘初期同期編)


『サエキ事変ノート:背中ではなく前進の共有』


「……あーあ」


ジョージはカメラを拭きながら笑う。


「やっちゃったね、ハミルトン様」


シャッターを切る。


泥越しの一枚。


「理屈じゃなくて、身体で入った」


もう一枚。


「これ、一番効くやつだよ」


少しだけ目を細める。


「サエキ、逃げられないね(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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